曲のキーの決め方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
キーは12種類もあって、どれを選べばいいのか。作曲の解説を読むほど、選択肢の多さに手が止まりがちです。でも、初心者がキーを決める基準は、実はとても現実的で、理論の知識はほとんど要りません。
いちばん大事なのは、その曲を歌う人の音域です。声が気持ちよく出る高さに曲を合わせる。これがキー決めの中心になります。明るいか暗いかでの選び方、まずCで作る理由、カラオケのキー変更との共通点も、このページで順に見ていきます。
先に見ること
キーは、歌う人の声が出る高さに合わせて決めます。
- 最優先は歌う人の音域。サビの最高音が出せるキーを選ぶ
- 明るくしたいか切なくしたいかで、大まかな方向を決める
- 決められない時は、まずCで作って後から移調する
- カラオケでキーを上げ下げする、あの感覚と同じ
歌う人の音域で決める
キー決めの中心は、理論ではなく声です。
キー決めでいちばん大事なのは、理論ではなく声です。もっと正確にいえば、その曲を歌う人の音域、つまり無理なく出せる音の範囲です。
曲のいちばん高い音が歌い手の限界を超えていたら、そのキーはその人には高すぎます。
キーを半音動かすと、曲の中のすべての音が半音ずれます。サビが少し苦しいだけなら、キーを1つ下げれば楽に届くことがよくあります。
逆に、低すぎて迫力が出ない時は上げます。歌う人の音域の真ん中あたりにサビが来るように合わせるのが目安です。
自分で歌わず打ち込みだけの場合でも、考え方は同じです。ボーカロイドに歌わせるなら得意な高さがあり、他の人に渡すなら相手の声域があります。
誰の声で鳴るのかを先に決め、その音域にキーを合わせます。楽器だけのインスト曲なら、この制約はゆるくなります。
自分の音域を知るのは簡単です。ラクに出せるいちばん低い声と、無理なく出せるいちばん高い声を、鼻歌でいいので一度確かめておきます。
その幅の中にサビの最高音が収まっていれば、そのキーは歌える証拠です。はみ出していたら、はみ出した分だけキーを下げれば届くようになります。
明るい・暗いで方向を選ぶ
雰囲気は、大づかみに方向だけ決めれば十分です。
音域の次に効くのが、曲の雰囲気です。おおまかにいうと、メジャーキーは明るく、マイナーキーは切なく聞こえます。
元気なポップスならメジャー、しっとりしたバラードならマイナー、という大づかみの選び方で最初は十分です。
ただ、初心者のうちは、この明暗をキーそのもので作り込む必要はありません。同じCメジャーの中でも、始まりと終わりに明るいCを多く使えば明るく、切ないAmを中心に据えれば影のある雰囲気になります。
曲の色は、キー選びよりコードの選び方で動く部分が大きいのです。
具体例でいうと、卒業ソングのようにしんみりさせたいならマイナー寄り、応援ソングのように背中を押したいならメジャー寄り、という当たりの付け方で十分です。細かい選別は、曲を最後まで作ってから見直せば間に合います。
ですから、明るい暗いで悩んで手が止まるくらいなら、方向だけざっくり決めて先へ進みます。作ってみて違うと感じたら、あとから変えられます。
最初から正解を当てにいく必要はありません。
もう1つ知っておくと楽なのは、キーの高さ自体でも印象が少し動くことです。同じメジャーでも、高いキーは明るく張った感じ、低いキーは落ち着いた感じになりがちです。
ただ、この違いは歌いやすさを決めたあとの微調整で十分です。まずは音域を優先し、雰囲気は仕上げで整えます。
まずCで作って後から移調する
決められない時の答えは、いつでもCです。
音域も雰囲気もまだ決められない。そういう時は、Cで作り始めます。
Cを勧める理由ははっきりしています。
- 使う音がピアノの白鍵とそろっていて
- コードも白鍵だけで組め
- 参考になる資料もCを例にしたものが多いからです。
レッスンでも、最初はCキーのダイアトニックと王道進行から作り始めます。入口を1つに固定すると、キー選びで悩む時間がなくなり、その分を実際に鳴らす作業に回せます。
キーの善し悪しは、鳴らしてからでないと判断できないからです。
Cでメロディまで作り、歌ってみて高さが合わなければ、そこで移調します。DAWの移調(トランスポーズ)機能を使えば、曲全体をまとめて上下にずらせます。
あなたが12種類のキーの音名を暗記する必要はありません。キーの仕組みはどれも同じなので、Cで1曲作った経験が、そのまま他のキーでも通用します。
もう少し具体的にいうと、Cで作るあいだは音を外す心配がほぼありません。白鍵の中で音を選んでいる限り、大きく濁ることが少ないからです。
この外れにくさが、初心者が最初の1曲を完成させるうえで大きな支えになります。キー選びを突き詰める前に、まず完成の経験を積むわけです。
カラオケのキー変更と同じこと
作曲のキー決めは、日常でもう体験しています。
ここまでの話は、実はカラオケでおなじみの操作と同じです。原曲キーだと高くて歌えない曲を、リモコンでキーを2つ下げて歌う。
あの上げ下げが、作曲でいうキー決めそのものです。
カラオケでキーを変えても、曲は壊れません。メロディの形もコードの関係もそのまま、全体の高さだけが動きます。
作曲での移調もまったく同じで、Cで作った曲をAへ下げても、曲の性格は変わらず、歌いやすさだけが変わります。だから、最初にキーを間違えても取り返しがつきます。
リモコンのキー変更ボタンを何度か押して、いちばん歌いやすい数字を探した経験があれば、それがそのままキー決めの練習になっています。特別な知識ではなく、日常の感覚の延長だと考えてください。
この安心感が、初心者には大事です。キー決めは、入口で完璧に当てるものではなく、歌いながら微調整していくもの。
カラオケでちょうどいい高さを探すのと同じ気軽さで構いません。
1つだけ注意点があります。キーを下げすぎると、今度は低い音が出しにくくなります。
上げ下げは、サビの最高音だけでなく、いちばん低い音も声に収まっているかを両方見ながら決めます。上と下の両端が声に入る場所が、その曲のちょうどいいキーです。
キーを決める手順
上から順に見て、詰まったら1つ戻ります。
ここまでを、実際の手順として並べます。上から順に進み、詰まったら1つ上に戻ります。
決め手はいつも、机上の正解ではなく、実際に出した声と鳴らした音です。
| 順番 | やること | 決め手 |
|---|---|---|
| 1 | 歌う人を決める | 自分か、他の人か、ボーカロイドか |
| 2 | まずCで作る | 白鍵だけでメロディとコードを置く |
| 3 | 実際に歌ってみる | サビの最高音が苦しくないか |
| 4 | 移調で微調整する | 半音ずつ動かし、気持ちよく歌える所で止める |
| 5 | 雰囲気を確かめる | 明るさ・切なさが狙いと合っているか |
手順の中で、いちばん飛ばされがちなのが3番の「実際に歌ってみる」です。頭の中では歌えている気になっても、声に出すと届かない音は必ずあります。
面倒でも一度は口に出して、苦しい場所を見つけてから移調に進みます。ここを省くと、あとで歌えないキーのまま曲が仕上がってしまいます。
この順番なら、キーの理論を暗記していなくても、その曲に合ったキーへたどり着けます。声で選び、鳴らして確かめる。
この繰り返しが、いちばん外れの少ない決め方です。1曲を通してキーを決めきる流れは、無料の制作工程マップにまとめています。
よくある疑問
初心者はどのキーで作り始めるべきですか
迷ったらCがおすすめです。白鍵だけでメロディもコードも作れて、参考資料もCを例にしたものが多いからです。まずCで1曲作り、歌って合わなければ移調して調整します。
キーは音楽理論で決めるものですか
初心者のうちは理論より声が優先です。歌う人の音域にサビの最高音が収まるかどうかが、いちばん確実な決め手になります。理論的な選び方は、後から覚えても間に合います。
作った後でキーを変えても大丈夫ですか
大丈夫です。DAWの移調機能で曲全体をまとめて上下にずらせます。カラオケでキーを上げ下げするのと同じで、曲の性格は変わらず高さだけが動くので、後からいくらでも直せます。
明るい曲と暗い曲でキーは変わりますか
大きくはメジャーが明るく、マイナーが切なく聞こえます。ただ初心者のうちは、同じCの中でも使うコード次第で雰囲気が変わるので、キーより先にコードの選び方で調整するほうが簡単です。
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