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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

曲が平坦に聞こえる時の直し方

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

最後まで聞いても景色が変わらない。イントロもAメロもサビも、なんとなく同じ景色が続く。

この「曲が平坦に聞こえる」症状は、個々のパートの出来が悪いのではなく、セクションとセクションの間に変化が足りないことがほとんどです。

変化と言っても、感覚で探す必要はありません。音数、音域、音量。

この3軸でセクションごとの状態を書き出した「変化表」を作ると、どこが同じでどこを変えるべきかが一目で分かります。作り方から順に説明します。

先に見ること

平坦さは耳で悩むより、3軸の表にして目で見つけます。

  • 平坦の正体は、隣り合うセクション間の変化不足
  • 変化は音数・音域・音量の3軸に分けて数える
  • 直し方の基本は足すことではなく、抜く場所を作ること
  • 隣同士で1軸以上の差があれば展開として機能する

なぜ同じ景色に聞こえるのか

耳は「差」にしか反応しません。

人の耳は、続いている状態にすぐ慣れます。電車の走行音が数分で気にならなくなるのと同じで、どんなに良い伴奏でも、同じ密度のまま2分続けば背景になります。

曲が平坦に聞こえるのは、各セクションの質が低いからではなく、切り替わりの瞬間に耳へ届く「差」がないからです。

打ち込みで曲を作ると、この症状が起きやすい理由があります。コピーが簡単だからです。

Aメロで作った8小節をコピーしてBメロに貼り、コードだけ変える。作業としては速いのですが、音数も音域も音量もそのまま複製されるので、名前だけ違う同じセクションが並びます。

もう1つの起きやすい原因がドラムです。レッスンで判断基準にしている考え方ですが、コードや音色より、リズムが変わることで曲の印象は大きく変わります

逆に言うと、ドラムを適当に置いたまま全セクションで同じパターンを鳴らすと、曲全体が平坦に聞こえやすいのです。

つまり平坦さは、才能やセンスの問題ではなく、複製で作った構造の問題です。構造の問題は、構造を書き出せば直せます。

逆に、構造をそのままにして音色やエフェクトだけを差し替えても、平坦さはすぐ戻ってきます。まず並びを紙に出すのが、遠回りに見えて一番早い順路です。

変化を測る3つの軸

感覚語を、数えられる言葉に置き換えます。

1軸目は音数です。そのセクションで同時に鳴っているトラックの本数と、1小節あたりの音の細かさ。ドラムが8分で刻むのか4分で置くのか、ピアノが和音を刻むのか白玉で伸ばすのかも、音数の一部として数えます。

2軸目は音域です。一番低い音と一番高い音の幅。

ベースだけが低く、上物が高くまで届いているセクションは幅が広い。全部の楽器が真ん中に集まっているセクションは幅が狭い。幅が広がる瞬間、聞き手は「開けた」と感じます。

3軸目は音量です。ただしフェーダーの数字だけではなく、演奏の強さも含みます。

同じピアノでも、強く叩いた打ち込みと弱く弾いた打ち込みでは迫力が違います。ベロシティ(打鍵の強さの値)を含めた体感の音量として捉えてください。

「盛り上がらない」「のっぺりする」という感覚語のままでは手が動きません。3軸に翻訳すれば、「Bメロとサビで音数が同じ」「全セクションで音域が同じ」のように、直す場所が具体的な作業に変わります

変化表の作り方

紙とペンで5分あれば作れます。

やり方は簡単です。縦にイントロ、Aメロ、Bメロ、サビとセクションを並べ、横に音数、音域、音量の3列を作ります。

あとは曲を再生しながら、各マスを大・中・小の3段階で埋めていくだけです。DAWの画面は見ずに、耳で聞いた印象で書いてください。

埋め終わったら、縦に眺めます。平坦な曲の表は、見事に同じ文字が縦に並びます。

全部「大」なら鳴らしすぎ、全部「中」なら変化の設計がない状態です。隣り合うセクションのマスが3列とも同じなら、そこが平坦さの発生地点です。

次に、理想の並びを別の色で書き込みます。基本形は、イントロ小、Aメロ中、Bメロ中(ただし後半で小へ)、サビ大です。

細かい正解を狙う必要はありません。隣同士で最低1列は文字が変わる、それだけを条件にします。

この表が優れているのは、直す作業が「マスを埋める作業」に変わることです。Bメロの音数を中から小にする、と決まれば、やることはトラックのミュートかドラムの間引きです。

展開づくりが、感覚の勝負から手順の実行に変わります

変化表の記入例

4分の歌もの1コーラスを想定した見本です。

セクション音数音域音量
イントロ小(ピアノとパッドのみ)狭い(中音域中心)
Aメロ中(ドラムとベースが加わる)中(低域が加わる)
Bメロ中→小(後半でハイハットを抜く)中→小
サビ大(全トラックが鳴る)広い(上物が高域まで届く)
間奏中(主役をギターに交代)

抜く勇気が展開を作る

上げ幅は、下げた場所からしか生まれません。

表を直す時、初心者ほど「サビの行を大にする」方向、つまり足す方向で考えます。しかしすでに鳴らしすぎている曲では、足しても差は生まれません。

効くのは逆方向、静かなセクションを作ることです。イントロとAメロから抜けるものを探す方が、サビに足すより早く展開が生まれます。

抜く作業は消す作業ではありません。まずミュートで試せます。

Aメロのパッドをミュートして通しで聞き、Aメロが物足りなくなった代わりにサビが開けて聞こえたら、そのミュートは正解です。気に入らなければ解除するだけなので、失う物は何もありません。

ドラムの中でも抜き差しはできます。8小節を全部同じパターンで貼らず、A、B、A、C、A、B、A、Dのように、戻る場所と変える場所を作ると、それだけで機械的な繰り返しが8小節の流れに変わります。

パターン自体は1種類でも、4小節目と8小節目の最後だけ変える形から始められます。

それから、全部の変化を音で作る必要もありません。Bメロの最後に半小節の空白を置く。これも立派な「音数ゼロ」のセクションです。

静けさを恐れないことが、平坦から抜ける一番の近道です。聞き手は静かな一瞬があるからこそ、次に音が戻った瞬間を大きく感じます。

空白は手抜きではなく、次の展開を目立たせるための仕込みです。イントロやAメロで一度引いておけば、サビで特別な音を足さなくても、戻るだけで盛り上がって聞こえます。

直した後の聞き方

作った変化が、聞き手に届くかを確かめます。

直した曲は、まず早送りで確認します。10秒ごとに再生位置を飛ばしながら聞いて、飛んだ先の景色が毎回違えば、変化は表の上だけでなく音として存在しています。

どこに飛んでも同じ音がしたら、まだ複製が残っています。

次に、初めて聞く人のつもりで頭から通します。この時、歌詞やメロディではなく伴奏の密度だけを追いかけてください。

「今、楽器が増えた」「今、静かになった」と口に出しながら聞くと、変化が起きている場所を客観的に数えられます。

スピーカーではなくスマホの内蔵スピーカーで聞くのも有効です。小さくて狭い再生環境では、音量の差や音色の細部は潰れますが、音数と音域の差は残ります。

スマホで聞いても展開が分かる曲は、構造で変化が作れている曲です。

変化表は、直した後も捨てずに残してください。次の曲を作る時、白紙のプロジェクトを開く前に理想の表を先に書けば、平坦な曲はそもそも生まれにくくなります。

セクション設計の全体像は、制作工程マップの流れと合わせて確認すると迷いません。

よくある疑問

変化表は毎回作る必要がありますか

慣れるまでは毎回作るのがおすすめです。数曲続けると、表を書かなくても頭の中でセクションごとの音数と音域を追えるようになります。

音を抜くと寂しくなりそうで怖いです

静かなセクションは、次のセクションを大きく聞かせるための助走です。一度ミュートで試して、通しで聞いてから判断すれば元に戻せます。

全セクションを変えるべきですか

隣り合うセクションの間に1軸でも差があれば十分です。全部を変えると今度は落ち着きがなくなるので、変える場所と保つ場所を分けます。

ドラムだけで平坦さは直りますか

かなり変わります。ドラムを適当に置くと曲全体が平坦に聞こえやすいので、セクションごとにパターンや音数を変えるのは効果の大きい一手です。

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変化表で展開が作れたら、制作を止めやすい環境まわりも整えておきます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。

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