歌詞とメロディが合わない時の直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
歌詞を書いて、メロディも作った。ところが合わせて歌うと、言葉が変に聞こえる。「あめ」が雨なのか飴なのか分からない、言葉の途中で息が切れる、文字が余って詰め込みになる。こうしたずれは、歌詞の出来でもメロディの出来でもなく、2つの重ね方で起きています。
重ね方を直す観点は3つです。日本語の高低アクセントと音の上下、文節の切れ目と休符、1音に1文字を守るか崩すか。どれも作曲理論ではなく、日本語の話し方の話です。3つの観点で引っかかりを特定して、音符と言葉のどちらを動かすかを決めます。
先に見ること
歌詞とメロディのずれは、アクセント・切れ目・文字数の3点で見ます。
- 意味が変わる言葉だけ、話す時の高低とメロディの上下をそろえる
- 休符と長い伸ばしは、文節の切れ目に置く。文節の途中に置かない
- 1音1文字が基本。崩すなら助詞から、伸ばすなら語尾の母音で
- 直す時は、言葉の入る拍をずらす方法を先に試す
引っかかりを1つに絞る
声に出して、最初に引っかかった場所だけを見ます。
直す前に、どこがずれているかを特定します。方法は1つで、伴奏を鳴らしながら実際に歌うことです。黙読では見つかりません。歌って、最初に口が止まった場所、言い直したくなった場所を1つだけ覚えておきます。
その1箇所を、3つの観点で見ます。言葉の高低が音の上下と逆になっていないか。休符や伸ばしが言葉の途中に来ていないか。音の数と文字の数が合っていないか。たいてい、どれか1つに当てはまります。
2箇所以上見つかっても、一度に直すのは1箇所です。歌詞とメロディの両方を同時に動かすと、直したはずの場所が別の場所をずらします。1箇所直して、歌い直して、次に進みます。
スマホで歌を録って聞き返すと、歌っている最中には気づかない引っかかりが見つかります。歌っている時は、無意識に言葉を詰めたり伸ばしたりして通り抜けてしまうからです。録音は、その無意識のごまかしを見せてくれます。
高低アクセントと音の上下
合わせるのは全部ではなく、意味が変わる言葉だけです。
日本語の言葉には、話す時の高い低いの型があります。「あめ」は、雨なら「あ」が高く「め」が低い。飴なら「あ」が低く「め」が高い。同じ2文字でも、高低が逆になると別の言葉になります。ここでは東京式のアクセントで説明しています。地域によって型は変わります。
メロディの上下がこの型と逆になると、聞き手には別の言葉に聞こえます。雨のつもりで書いた歌詞が、メロディで「あ」が低く「め」が高くなっていると、飴に聞こえます。意味が変わる言葉でこれが起きると、歌詞の内容が伝わりません。
ただし、歌の中の全部の言葉を話す通りの高低にそろえる必要はありません。そろえると、メロディの動きが話し言葉の抑揚に縛られて、平らになります。合わせるのは、逆になると意味が変わる言葉と、サビの頭のような聞かせたい言葉だけです。それ以外は、メロディの流れを優先して構いません。
見つけ方は、歌詞を普通の速さで読み上げて、上がる所と下がる所を言葉の上に印で書くことです。次に、メロディの音の上下と見比べます。逆になっている所のうち、意味が変わる言葉だけに丸を付けます。
直し方は2つです。1つは、その2音の高さを入れ替えること。もう1つは、2音を同じ高さにすることです。同じ高さなら、逆にはなりません。メロディの形を変えたくない時は、後者のほうが影響が小さく済みます。
逆の方向から直すこともできます。言葉のほうを、同じ意味で高低の型が合う別の語に言い換える。メロディをどうしても残したい場所では、この手が効きます。
文節の切れ目と休符
息をつく場所と、言葉の切れ目をそろえます。
文節とは、意味が壊れない最小のまとまりです。「きみの/こえが/きこえる」のように区切ります。話す時、人は文節の途中では息を継ぎません。歌も同じで、休符は文節と文節の間に置きます。
文節の途中に休符が入ると、「きみ/のこえ/が」のように聞こえ、意味が取れなくなります。長い伸ばしも同じで、「こ」を伸ばして「こーえ」にすると、言葉が割れます。伸ばすなら、文節の最後の母音です。「こえー」なら割れません。
見つけ方は、メロディの休符と長い音符に印を付けて、その位置が歌詞のどこに当たるかを見ることです。文節の途中に当たっていたら、そこが引っかかりです。
直し方は、休符や伸ばしを文節の切れ目まで動かすことです。音符の数は変えず、位置だけをずらします。「き・み・の・(休)・こ・え・が」を「き・み・の・こ・え・が・(休)」にする、というように、休符の置き場所を後ろへ送るだけで直ることが多いです。
小さい「っ」と「ん」は、扱いが少し特別です。「っ」は音を持たないので、「きっと」は2音で足ります。「ん」は、1音持たせても、前の文字の音の後ろ半分に含めても、どちらでも歌えます。「ゃ・ゅ・ょ」の付く字は、「きゃ」で1文字として数えます。ここを普通の文字と同じに数えると、音数と文字数が合っているはずなのに詰まる、という状態になります。
1音1文字を守る時、崩す時
意味が聞き取れるかどうかで、守るか崩すかを決めます。
日本語の歌は、1つの音に1文字を乗せるのが基本です。「た・い・よ・う」なら4音です。音の数と文字の数がそろっていれば、言葉は詰まらず、余りません。
この基本を守るべき場所は、言葉を聞かせたい場所です。サビの頭、曲名になっている言葉、話の筋が変わる一行。ここで文字を詰め込むと、いちばん伝えたい言葉がいちばん聞き取りにくくなります。
崩してよい場所もあります。速い曲で、言葉より勢いを聞かせたい所です。1音に2文字を乗せる時は、助詞から崩します。「の」「が」「を」「に」は、短く乗せても、前後の言葉から意味が補えます。名詞や動詞の途中を2文字にすると、言葉そのものが聞き取れなくなります。
逆に、1文字を2音以上に伸ばして歌う場合は、語尾の母音だけにします。「そら」の「ら」を2音に伸ばすのは自然ですが、「そ」を2音にすると、言葉が途中で止まって聞こえます。
守るか崩すか迷った時の判断は1つです。初めて聞く人が、歌詞カードなしで言葉を書き取れるか。録音して、自分で歌詞を見ずに聞き返します。書き取れない所が、崩しすぎている所です。逆に、書き取れるなら、多少詰め込んでいても崩して構いません。
引っかかり別の直し方
歌って見つけた症状から、最初の一手を選びます。
| 引っかかり | 見つけ方 | 最初に試す直し方 | それでも駄目なら |
|---|---|---|---|
| 別の言葉に聞こえる | 読み上げた高低とメロディの上下が逆 | 2音を同じ高さにする、または入れ替える | 同じ意味で型の合う語に言い換える |
| 言葉が途中で切れる | 休符や長い音符が文節の途中に当たる | 休符や伸ばしを切れ目まで動かす | 入る拍を前後にずらす |
| 言葉が詰まる | 助詞以外の所で1音に2文字以上 | 詰め込む場所を助詞に移す | 短い語に言い換える |
| 言葉が途中で伸びる | 語尾以外の文字が2音以上 | 伸ばしを語尾の母音へ移す | 音符を減らして語尾で伸ばす |
言葉の入る拍をずらす
音を足す前に、入る位置だけを動かす方法があります。
3つの観点で引っかかりが見つかっても、音符を足したり言葉を削ったりする前に、試す方法があります。言葉の入る拍をずらすことです。
レッスンでは、メロディはどの拍から言葉や音が入るかで印象が変わる、という考え方を使います。1拍目から入るのか、少し待って入るのか、手前から入るのか。この3つを試します。
文節の頭を1拍目に置くと、言葉がはっきり立ちます。聞かせたい言葉は、ここに置きます。手前の拍から入ると、勢いが出て、言葉が前へ転がります。少し待って入ると、余裕が出て、言葉が落ち着いて聞こえます。
この方法の利点は、音数も文字数も変わらないことです。音符の並びをそのまま、開始位置だけを前後にずらします。文節の途中に来ていた休符が切れ目に来る、意味が変わる言葉が拍の頭に来て高低が立つ、といった直りが、音を1つも足さずに起きます。
ずらして歌い、まだ引っかかるなら、そこで初めて音符を足す、言葉を言い換える、の手を使います。順番は、入る拍をずらす、音符の高さを入れ替える、音符を足す・減らす、言葉を言い換える、です。後ろへ行くほど変える量が大きいので、前から試します。
どこまで直せば完了かは、耳が決めます。伴奏と一緒に歌って、口が止まらず、言葉が意味の通りに聞こえたら、その行は終わりです。全部の行が終わったら、伴奏と構成の工程へ進みます。工程の全体は、無料の制作工程マップで確認できます。
よくある疑問
歌詞の高低は全部メロディに合わせないと駄目ですか
全部合わせる必要はありません。合わせるのは、逆になると意味が変わる言葉と、サビの頭のように聞かせたい言葉だけです。それ以外はメロディの流れを優先して構いません。迷ったら、その2音を同じ高さにすると逆にはなりません。
1音に2文字を乗せるのは間違いですか
間違いではありません。速い曲では、勢いを出すために使います。崩すなら「の」「が」「を」などの助詞からで、名詞や動詞の途中を2文字にすると言葉が聞き取れなくなります。聞かせたい言葉は1音1文字を守ります。
小さい「っ」や「ん」は1音に数えますか
「っ」は音を持たないので数えません。「きっと」は2音です。「ん」は1音持たせても、前の文字の後ろ半分に含めてもどちらでも歌えます。「きゃ」のような字は1文字として数えます。
音符を足すのと言葉を変えるの、どちらを先にしますか
その前に、言葉の入る拍をずらす方法を試します。音数も文字数も変わらないので、影響が小さく済みます。それでも引っかかるなら、音符の高さの入れ替え、音符の増減、言葉の言い換え、の順に試します。
コードの「床」を、先に用意しておく
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言葉が意味の通りに聞こえるようになったら、その歌を伴奏と構成の工程へ運びます。