キーとスケールの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
キーとスケール。作曲の解説には必ず出てくる2つの言葉なのに、「結局、何がどう違うの?」と聞かれると答えに詰まる。この2語の関係が曖昧なままだと、どの解説を読んでも同じ場所で引っかかり続けます。
整理は一度で済みます。スケールは「その曲で使う音のセット」、キーは「そのセットのどの音が中心か」。この関係さえ押さえれば、「キーがCの曲」という言葉の意味も、白鍵だけで曲が作れる理由も、キー選びと歌の音域の関係も、一本の線でつながります。
先に見ること
スケール=使う音のセット、キー=そのセットの中心。関係はこれだけです。
- 音は12個あるが、1曲では7音のセットに絞って使う。それがスケール
- 「キーがC」=ドを中心に、ドレミファソラシで回る曲という宣言
- Cメジャースケール=白鍵7音。だから白鍵だけで曲が作れる
- キー選びは理論ではなく、歌う人の音域で決める
キーとスケールの関係を一度で整理する
セットと、その中心。2語は別物ではなく1組です。
音楽で使える音は、1オクターブの中に12個あります。ピアノでいえば白鍵7つと黒鍵5つです。
12個を全部平等に使うと、まとまりのない音の羅列になってしまう。そこで1曲ごとに「今回はこの7音を主に使う」と決めます。この選ばれた音のセットがスケール(音階)です。
ただ、セットを決めただけでは曲の重心が定まりません。7音のうち、どの音に帰ると「終わった」と感じるのか。その中心の音を宣言するのがキーです。
使っていい音のリストがスケール、そのリストの中で帰ってくる場所を指すのがキー、と言い換えられます。
この2語は、実は名前の中でセットになっています。「Cメジャーキー」という言葉には、中心はC(ド)という情報と、使うセットはメジャースケールという情報の両方が入っています。
キーの名前を1つ言えば、スケールも同時に決まる。だから現場では「キーは?」の一言で会話が済むのです。
| 用語 | 一言でいうと | 例 | 制作で効く場面 |
|---|---|---|---|
| スケール | 曲で使う音のセット | Cメジャースケール=ドレミファソラシ | メロディの音をどこから選ぶか |
| キー | セットの中心がどの音か | キーがC=ドが中心 | 曲の始まり・終わり、全体の高さ |
| ダイアトニックコード | そのキーで使いやすいコード7つ | C・Dm・Em・F・G・Am・Bm(♭5) | 伴奏のコードをどこから選ぶか |
「キーがCの曲」とはどういう意味か
短い一言に、3つの情報が詰まっています。
「この曲、キーはCだよ」という一言を分解すると、3つの情報になります。
- 1つ、中心の音はド
- 2つ、メロディは主にドレミファソラシの7音から選ばれている
- 3つ、伴奏のコードもその7音の組み合わせ、つまりCやFやGといった白鍵のコードが中心
たった1語で、曲の設計図の大枠が伝わっているわけです。
実際の曲では、こんな形で表れます。最初のコードや最後のコードがCになっていることが多い。
メロディの締めくくりがドに向かうと、ふっと落ち着いて聞こえる。逆に、途中のフレーズがドに帰らずレやソで止まっていると「まだ続く」感じが出る。
中心があるからこそ、離れる・帰るという物語がメロディに生まれます。
カラオケの「キーを2つ上げて」も、この枠組みで説明できます。中心とセットの位置関係はそのまま、全体をまるごと2つ分高い場所へ移動する操作です。
曲の性格は変わらず、高さだけが変わる。キーとは、曲がどこに住んでいるかを表す住所のようなものだと考えると分かりやすいです。
逆に言うと、キーが分かっていない曲は、住所の分からない家のようなものです。コード譜を探す時も、他の楽器と合わせる時も、キーさえ伝われば話が通じます。
自分の曲に「キーはC」と一言メモしておくだけで、後の作業がすべて楽になります。
白鍵だけで曲が作れる理由
Cメジャースケールの7音が、白鍵7つと完全に一致するからです。
「初心者は白鍵だけで作ればいい」とよく言われますが、これは気休めの簡略化ではありません。Cメジャースケールの7音、ドレミファソラシは、ピアノロールの白鍵7つとぴったり一致します。
つまりキーがCである限り、白鍵だけを使うことは「正しいセットの中から選んでいる」ことと同じ意味なのです。
コードも同じ理屈で作れます。白鍵を1つ飛ばしに3つ積むと、ド・ミ・ソでC、レ・ファ・ラでDm、という具合に、そのキーで使いやすいコードが自動的にできあがります。
この7つがダイアトニックコードです。メロディも白鍵、コードも白鍵。キーがCの世界では、黒鍵に触れる必要がどこにもありません。
レッスンで使っている判断メモに「ダイアトニックコードは、難しい理論として覚えるより、最初に使うコードを絞る道具として使う。Cキーなら白鍵中心で始められる」というものがあります。スケールも同じで、暗記項目ではなく選択肢を絞る道具です。
「迷ったら白鍵」という1つのルールに、キー・スケール・コードの知識が全部圧縮されている。これが白鍵縛りの正体です。
キー選びは歌の音域で決める
理屈で選ぶ場面より、声で選ぶ場面のほうが多いです。
では12種類あるキーをどう選ぶのか。制作の現場での答えは意外と地味で、「歌う人がサビの最高音を出せるかどうか」です。キーは理論の優劣ではなく、声に合わせて決めるものです。
ここで最初の整理が効いてきます。キーを変えても、スケールという「セットの構造」は変わりません。中心とセットがまるごと平行移動するだけなので、後からキーを動かしても曲は壊れません。
この構造が分かっていれば、キー選びで身構える必要はなくなります。実際にどのキーで試し、どこで確定させるかの手順は曲のキーの決め方にまとめているので、実践はそちらへ進んでください。
迷ったらCから始める
キー選びは、入口で悩む場所ではありません。
ここまでの話を1つの方針にまとめると、「作り始めはC、調整は後から移調」になります。Cを選ぶ理由は明快で、スケールが白鍵7音と一致し、コードも白鍵だけで組めるからです。
キーの仕組みは12種類すべて共通なので、Cで「中心に帰ると落ち着く」「セットの中から選べば外れない」という感覚を体で覚えれば、他のキーはその平行移動にすぎません。1つのキーで曲を完成させた経験が、12キー分の理解の土台になります。
キーとスケールは、覚えるほど曲がよくなる知識ではなく、迷いを減らすための地図です。地図を眺め続けるより、白鍵だけの4小節を今日鳴らすほうが先です。
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よくある疑問
キーとスケールはどちらを先に覚えるべきですか
分けて覚える必要はありません。「ドレミファソラシ=Cメジャースケール、その中心のド=キーがC」と1つの文で覚えるのがいちばん早く、混乱もしません。
スケールは何種類覚える必要がありますか
最初はメジャースケール1種類で十分です。切ない曲に使うマイナーも、Aマイナーなら同じ白鍵7音で作れるため、新しい音を覚えずに試せます。
黒鍵は使ってはいけないのですか
禁止ではありません。キーがCのあいだは白鍵に絞ると音を外しにくい、という初心者向けの安全策です。慣れてくれば、あえてセットの外の音を混ぜる技法もあります。
スケールの外の音を使ったら間違いですか
間違いではありません。ただ、メロディがなぜか浮いて聞こえる時に「セットの外の音を踏んでいないか」を確認できるのが、スケールを知っている人の強みです。
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