メロディが平坦な時の直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
打ち込んだメロディを再生すると、間違ってはいないのに、なぜか棒読みのナレーションのように聞こえる。この平坦さの原因は、突き詰めるとほぼ3つしかありません。リズムが一定、音域が狭い、跳躍がない。このどれか、あるいは組み合わせです。
3つ全部を一気に直そうとすると、元のメロディの面影が消えて迷子になります。だからここでは、原因を1つずつ切り分けて、1つずつ試す順番で進めます。最後に、直ったかどうかを鼻歌で確かめる方法まで紹介します。
先に見ること
平坦なメロディの犯人は3人のうちの誰かです。
- 原因1: リズムが一定(全部の音が同じ長さ)
- 原因2: 音域が狭い(音の高低差が3度以内に収まっている)
- 原因3: 跳躍がない(隣の音への移動しかない)
- 直す時は1つだけ変えて、元の版と聞き比べる
ピアノロールで犯人を特定する
耳で悩む前に、目で診断できます。
平坦なメロディの便利なところは、ピアノロール(DAWの打ち込み画面)を見るだけで原因の見当がつくことです。まず自分のメロディを画面いっぱいに表示して、3つの質問に答えてください。
- 質問1、ノート(音の四角)の横の長さは全部同じですか。同じなら、リズムが一定です。
- 質問2、一番上のノートと一番下のノートの間は何段ありますか。3〜4段しかなければ、音域が狭い。
- 質問3、隣り合うノートは階段のように1段ずつ動いていますか。ずっと階段なら、跳躍がありません。
複数当てはまった場合も、直すのは1つずつです。3つ同時に変えると、良くなったのか別の曲になったのか判断できなくなります。
当てはまり方が一番ひどいものから着手してください。
着手する前に、元のメロディを別トラックに複製して残しておきます。
比較対象がないと、直したつもりの改悪に気づけません。この複製が、この後の全作業の保険になります。
戻れる版が手元にあると、思い切った変更も気軽に試せます。迷ったら複製に戻ってやり直せば済みます。
原因1: リズムが一定
音の高さを1つも変えずに直せる原因です。
8分音符がびっしり並んだメロディ、全部4分音符のメロディ。音の長さが揃っていると、言葉で言えば句読点のない文章になります。
どこで息を吸えばいいか分からないまま、音が等間隔に流れ続けるのです。
処方箋は3つあります。
- まず、フレーズの終わりの音を2倍以上に伸ばす。
- 次に、フレーズとフレーズの間に休符を入れる。歌う人が息を吸う場所だと考えると、置き場所に迷いません。
- 最後に、1カ所だけ音を細かく割る。8分音符の並びの中に16分の駆け上がりが1回あるだけで、平坦さは大きく崩れます。
試すときは音の高さを一切変えないでください。同じ音の並びのまま長さと休符だけを変えて元の版と聞き比べると、リズムがどれだけ印象を支配しているかがはっきり分かります。
もう一歩進めるなら、フレーズの入る拍をずらす手もあります。レッスンで判断基準にしている考え方ですが、メロディはどの拍から音が入るかで印象が変わります。
1拍目ちょうどに入るのか、半拍待ってから入るのか。ノートを半拍だけ右へずらして聞き比べる。それだけで試せます。
原因2: 音域が狭い
メロディに「山」がないと、地図のない散歩になります。
ドからミまでの間をうろうろするだけのメロディは、安全ですが起伏がありません。
聞き手はメロディの一番高い音を無意識に「山頂」として覚えます。山頂が低いと、覚える場所がないのです。
直し方は、フレーズごと持ち上げるのではなく、山頂だけを作ることです。
今のメロディの中で一番聞かせたい音を1つ選び、その音だけを1オクターブの中で3〜4段上へ移動します。周りの音は、山頂へ向かう坂として少しだけなだらかに整えます。
山頂の位置には定石があります。フレーズの後半、特に一番伝えたい歌詞が乗る場所です。
頭から高いメロディは疲れますし、山頂が2つも3つもあると、どれも山頂に見えなくなります。1フレーズに山は1つ。これだけ守れば崩れません。
直したら、実際に声に出して歌ってみてください。高すぎて声が裏返るなら上げすぎです。
自分が歌えないメロディは、聞き手も心の中で歌えません。気持ちよく張れる高さで止めるのが、ちょうどいい山頂です。
原因3: 跳躍がない
階段ばかりのメロディに、ジャンプを1回入れます。
跳躍とは、隣の音を飛び越えて、離れた音へ一気に移動することです。ドからレへ進むのが歩き、ドからソへ飛ぶのが跳躍。
階段状の動きは滑らかで歌いやすい反面、ずっと続くと予想通りの展開しか起きず、耳が先回りして飽きてしまいます。
入れ方はシンプルです。フレーズの中で感情が動く場所を1つ選び、その直前の音から4度以上(ドからファ以上)離れた音へ飛ばします。
上への跳躍は高揚感、下への跳躍は落ち着きや切なさが出やすい、というのが大まかな傾向です。
ただし跳躍は香辛料です。1フレーズに1回で十分で、飛んだ後は階段で近くの音へ戻ると自然に聞こえます。
飛びっぱなしで次も跳躍、その次も跳躍となると、メロディではなく音の乱高下になり、今度は歌えないという別の問題が生まれます。
跳躍を入れた版と元の版を聞き比べて、飛んだ瞬間に「おっ」と感じたら成功です。何も感じなければ、飛び先の音がコードに合っていない可能性があるので、そのとき鳴っているコードの構成音へ着地させてみてください。
着地の音をコードの1度や3度に変えるだけで、同じ跳躍でも急に収まりよく聞こえます。跳躍は飛ぶ幅だけでなく行き先の音で印象が決まる、と覚えておくと、直すときの試行回数が減ります。
3原因の見分け方と処方箋
自分の症状に近い行から試します。
| 原因 | ピアノロールでの見え方 | 最初に試す一手 |
|---|---|---|
| リズムが一定 | ノートの長さが全部同じ | フレーズ終わりの音を伸ばし、直後に休符を入れる |
| 音域が狭い | 上下3〜4段の帯に収まっている | 一番聞かせたい音1つだけを3〜4段上げて山頂にする |
| 跳躍がない | 階段状に1段ずつしか動かない | 感情が動く場所で4度以上のジャンプを1回入れる |
| 複合型 | 上の複数に当てはまる | リズムから着手し、1つ直すごとに聞き比べる |
鼻歌で歌い直して確かめる
最終判定は画面ではなく、自分の口です。
3つの処方箋を試しても手応えがない時、あるいは直した結果に確信が持てない時は、一度マウスから手を離して、そのメロディを鼻歌で歌ってみてください。
歌いにくい、覚えられない、途中で自分がどこにいるか分からなくなる。そう感じたら、打ち込み上は正しくても、人が歌うメロディとしてはまだ平坦です。
逆の使い方もできます。伴奏だけを流して、画面を見ずに自由に鼻歌を乗せて、それをスマホで録音するのです。
制作の入口として大切にしている考え方ですが、鼻歌は頭の中のイメージを外へ出すための素材になります。音程が完璧でなくても、上がる、下がる、伸ばす、止まるという形が残れば使えます。
録音した鼻歌を聞き返すと、打ち込みでは思いつかなかった伸ばしや溜めが自然に入っていることがよくあります。
人間の身体は息継ぎが必要なぶん、休符もフレーズの切れ目も勝手に作ってくれるからです。その形をピアノロールのメロディへ移植すれば、機械的な平坦さは残りません。
メロディが立ってきたら、次はそれを支えるコードやドラム、そして1曲全体の流れです。どの工程をどの順番で進めるかは、制作工程マップを手元に置いて確認しながら進めてください。
よくある疑問
3つの原因を全部直すべきですか
1つずつで十分です。リズム、音域、跳躍を同時に変えると原型が消えてしまいます。一番当てはまる原因から1つ試して、聞き比べてください。
音痴なので鼻歌で確認できません
音程の正確さは要りません。上がる、下がる、伸ばす、止まるという形が口に出せれば、歌いやすさと退屈さの判定はできます。
跳躍はどのくらい入れていいですか
1フレーズに1回、目立たせたい場所に入れるくらいから始めてください。跳躍だらけにすると歌えなくなり、1回だけなら耳に残ります。
ピアノロールで見て平坦かどうか分かりますか
分かります。ノートの長さが全部同じならリズムが一定、縦の幅が狭ければ音域不足、階段状に隣へ動くだけなら跳躍不足のサインです。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
メロディが立ってきたら、コードやドラムなど曲を支える他の材料を整えます。