DTM用マイクの選び方|歌録音で最初に見るポイント

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMで歌やギターを録りたくなった時、マイク選びで押さえる知識は実はふたつだけです。
コンデンサーとダイナミックという2種類の違い。そして、マイク単体では録音できず、オーディオインターフェースなど一緒に必要なものがあることです。
型番の比較から入ると候補が増えるばかりで決まりません。この順番を逆にして、自分の部屋と録りたい音から絞っていくと、選択肢は自然に少なくなります。
先に見ること
マイクは性能表ではなく、自分の部屋と録りたい音で決めます。
- 静かな部屋を確保できるならコンデンサー、生活音が消せないならダイナミック
- XLR端子のマイクにはオーディオインターフェースとケーブルが必要
- 歌ものの宅録は、スタンドとポップガードまでが1セット
- 今すぐ録音しないなら、まだ買わなくていい
マイクは2種類だけ覚える
コンデンサーとダイナミック。宅録の入口では、この区別だけで十分です。
マイクの製品ページには指向性や周波数特性など多くの数字が並びますが、初心者が最初に見るのは方式の欄だけで構いません。DTMで使うマイクは、大きく分けてコンデンサーマイクとダイナミックマイクのどちらかです。
コンデンサーマイクは、感度が高いマイクです。息づかいや子音の細かいニュアンスまで拾ってくれるので、歌やアコースティックギターを繊細に録りたい時に向いています。
レコーディングスタジオでボーカル録りに使われるのは、ほとんどがこのタイプです。
その代わり、動作にファンタム電源という電気の供給が必要で、振動や湿気にも気をつかいます。使わない時は乾燥した場所で保管する、という一手間がつきます。
ダイナミックマイクは、カラオケやライブハウスで見かける、あの手に持つマイクの多くが属するタイプです。感度は控えめで、マイクのすぐ近くの音を中心に拾います。
電源は不要で、構造が単純なぶん丈夫です。多少ラフに扱っても壊れにくく、机に置きっぱなしでも神経質にならずに済みます。
音の傾向をひとことで言うと、コンデンサーは「部屋で鳴っている音をまるごと細かく録る」、ダイナミックは「口元や楽器のそばの音だけを録る」です。この性質の違いが、次の章の「部屋で選ぶ」という話に直結します。
部屋の事情でどちらかが決まる
宅録のマイク選びは、性能の勝負ではなく環境との相性です。
感度が高いことは、良いことばかりではありません。コンデンサーマイクは、エアコンの送風、冷蔵庫のうなり、外の車、家族の生活音、そして部屋の壁に反射した自分の声まで、そこにある音を全部拾います。
防音されていない部屋では、この「余計な音まで録れてしまう」ことが最大の敵になります。
だから、静かな時間帯と場所を確保できる人はコンデンサー、確保が難しい人はダイナミック、というのが宅録での現実的な分かれ方です。
深夜しか録れない、隣の部屋にテレビの音がある、窓の外が交通量の多い道路。そういう条件なら、口元の音を狙って拾うダイナミックマイクのほうが、結果としてきれいに録れることが多いです。
反響も見落としやすいポイントです。家具の少ないフローリングの部屋は声がよく反射し、録った声に風呂場のような響きがうっすら乗ります。
この響きは後から取り除けません。カーテンや布団、クローゼットの服など、布の多い場所の近くで録るだけでもかなり変わります。
マイクを買う前に、部屋のどこで録るかを一度決めておくと、選ぶマイクも置き方も具体的になります。
逆に、静かな環境を作れるなら、コンデンサーの細やかさは歌の表現をそのまま残してくれます。
環境が良いほどコンデンサーが活き、環境が厳しいほどダイナミックが安全。この軸で考えると、どちらが上等かという比較には意味がないことが分かります。
マイクの前に必要なもの
マイク単体では録音は始まりません。セットで考えます。
初心者が一番つまずくのがここです。レコーディング用のマイクの多くはXLRという3ピンの端子でつなぐ設計で、パソコンには直接挿せません。
マイクの信号をパソコンが扱えるデータに変換する機材、オーディオインターフェースが間に必要です。コンデンサーマイクを使う場合は、ファンタム電源もこのオーディオインターフェースから供給します。
そろえるものを並べると、
- マイク本体
- オーディオインターフェース
- XLRケーブル
- マイクスタンド
- そして歌を録るならポップガードです。
ポップガードは、パ行やバ行の発音で出る強い息がマイクを直撃して「ボフッ」というノイズになるのを防ぐ網です。地味ですが、歌録りでは最初から用意しておきたい道具です。
スタンドは、卓上型でも床置き型でも、マイクを両手から解放してくれるだけで録音のしやすさが変わります。
「そんなに必要なのか」と感じたら、USB端子のマイクという選択肢もあります。
オーディオインターフェースの機能をマイク側に内蔵していて、パソコンに1本挿すだけで録音を始められます。後からマイクだけ交換するといった発展はしにくいのですが、まず録ってみたい段階の入口としては十分に機能します。
買うタイミングについては、レッスンでも一つの判断基準を伝えています。打ち込みだけで曲を作っている段階なら、マイクもオーディオインターフェースもまだ必須ではありません。
歌やギターを録る段階になって、初めて必要性が上がります。つまり「今すぐ録音するか」で買うかどうかを決める、ということです。
録音の予定がないのに先回りして買うと、使わないまま置かれる機材になりがちです。
歌・ギター・ナレーションで見る場所を変える
何を録るかで、優先する性質が少しずつ違います。
歌を録る場合は、これまでの整理がそのまま当てはまります。静かな部屋を作れるならコンデンサーで細部まで、環境が厳しいならダイナミックで口元を狙って。
どちらの場合もポップガードは使い、マイクとの距離をこぶし1〜2個ぶんくらいで一定に保つと、テイクごとの音量がそろって編集が楽になります。
アコースティックギターを録る場合は、弦の細かい鳴りや胴の響きが主役なので、コンデンサーの得意分野です。狙う位置は、サウンドホールの正面ではなく、ネックの付け根あたりに向けると、低音がこもりにくくバランスよく録れます。
エレキギターは事情が別で、アンプの音をマイクで録る方法のほかに、オーディオインターフェースに直接つないでアンプシミュレーターというソフトで音を作る方法があり、宅録では後者が主流になりつつあります。この場合、マイクはまだ要りません。
ナレーションや配信、動画の声を録る場合は、聞き取りやすさが最優先です。
生活音が入り込みやすい環境なら、ダイナミックマイクに口を近づけて話すスタイルが安定します。声の細かい質感まで欲しい朗読やASMR寄りの用途なら、静かな環境とコンデンサーの組み合わせを検討します。
いずれの用途でも共通するのは、録りたい音が具体的になるほどマイク選びが簡単になることです。
「良いマイク」を探すのではなく、「この部屋でこの音を録るためのマイク」を探す。順番はこちらが先です。
環境と用途で選ぶ比較表
順位表ではなく、自分の行に丸をつけるための表です。
| あなたの状況 | 向いている方式 | 理由 | 一緒に必要なもの |
|---|---|---|---|
| 静かな部屋で歌を録れる | コンデンサー | 息づかいまで細かく残せる | オーディオインターフェース、XLRケーブル、スタンド、ポップガード |
| 生活音・反響が消せない | ダイナミック | 口元の音を中心に拾い、周りの音に強い | オーディオインターフェース、XLRケーブル、スタンド |
| アコギの生音を録りたい | コンデンサー | 弦と胴の細かい鳴りが得意 | スタンドで位置を固定できると安定 |
| エレキを宅録したい | マイク不要の場合あり | インターフェース直結+アンプシミュレーターが主流 | 楽器用ケーブル |
| とにかく早く録り始めたい | USBマイク | パソコンに1本挿すだけで完結 | なし(後の拡張はしにくい) |
| まだ打ち込みだけ | 買わない | 録音する段階で必要性が上がる | 今は制作を進める |
よくある失敗
先に知っておけば避けられるものばかりです。
いちばん多いのは、マイクだけ買って録音できないパターンです。XLR端子のマイクが届いてから、つなぐ相手がないことに気づく。
購入前に、手元の機材で接続が完結するかを一度図にしてみてください。
マイク、ケーブル、オーディオインターフェース、パソコン。線が一本でもつながらなければ、まだ買う段階ではありません。
次に多いのが、環境を考えずに感度の高いコンデンサーを選んでしまうことです。録った声の後ろにエアコンの音と部屋の響きが乗っていて、どう処理しても消えない。
マイクの性能が高いほど、部屋の粗も正直に録れます。
部屋が先、マイクが後。この順番を忘れないでください。
録音レベルの失敗も定番です。大きく録ろうとして入力を上げすぎると、音が割れて元に戻せなくなります。
逆に小さすぎるのは後から持ち上げられるので、迷ったら控えめが安全です。最初のテストでは、いちばん大きい声を出しても割れない位置に入力を合わせます。
最後は、比較を続けて録音が始まらないパターンです。レビューを読むほど候補が増え、決められないまま数週間たつ。
機材選びで大事なのは、買い物の正解を出すことより、制作が止まらない状態を作ることです。
この記事の基準で一本決めたら、あとは録って、聞いて、直す。マイクの良し悪しより、その回数が録り音を育てます。
よくある疑問
マイクだけ買えばパソコンで録音できますか
XLR端子のマイクは、パソコンに直接つなげません。信号を変換するオーディオインターフェースとXLRケーブルが必要です。USB端子のマイクなら単体でつなげます。
コンデンサーマイクは初心者には難しいですか
操作は難しくありません。ただ感度が高いぶん、生活音や部屋の反響まで録れてしまいます。静かな時間と場所を作れるかどうかが、扱えるかの分かれ目です。
防音していない部屋でも録音できますか
できます。エアコンや換気扇を止める、布の多い場所の近くで録るといった工夫でかなり改善します。周りの音が消せない環境なら、感度が控えめなダイナミックマイクを選ぶ方法もあります。
USBマイクとXLRマイクはどちらがいいですか
早く録り始めたいならUSBマイクが手軽です。録音を続けていく予定なら、オーディオインターフェースとXLRマイクの組み合わせのほうが、後からマイクだけ買い替えられて長く使えます。
スマホで録った歌ではだめですか
メロディや歌詞のメモとしては十分です。仮歌をスマホで録ってDAWに読み込むのは、制作を止めない現実的な方法です。音質を整えたくなった段階でマイク録音に切り替えます。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
マイクが決まったら、録った素材を曲にする工程へ進みます。