DTMに必要なパソコンスペック

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMを始めようとしてスペック表を開くと、CPU、メモリ、SSDと数字ばかりが並び、どれが曲作りに効くのか分からなくなります。
高いパソコンなら安心という記事も多いですが、必要なのはそこではありません。
DTM用のパソコン選びは、一番高い構成を探す話ではなく、今の制作規模で止まらない余裕をどこに持つかを決める話です。
迷ったら、CPUは少し余裕を持たせ、メモリは16GBを目安にし、ストレージはSSDを選ぶ。そして買う前に、今のパソコンで数トラック鳴らして確かめる。
この順番で考えると、買いすぎも買い直しも減ります。
先に見ること
スペックは「性能の高さ」ではなく「制作が止まらないか」で見ます。
- CPU:再生が途切れないための余裕。優先度はいちばん高い
- メモリ:音源を増やしても詰まらないため。目安は16GB
- SSD:起動と読み込みの待ち時間を減らすため。HDDより優先
- 買う前に、今のパソコンで3トラック鳴らして確認する
DTM用パソコンは最初の曲の規模から考える
必要なスペックは、作る曲の大きさで決まります。
スペック解説が分かりにくいのは、初心者の最初の1曲と、何十トラックも重ねる大規模な制作が、同じ「DTM」として語られるからです。
ピアノとドラムとベースで短い曲を作る段階と、オーケストラ音源を何本も立ち上げる段階では、求める力がまったく違います。
制作の現場で使われる判断はシンプルです。機材を増やす前に、音が鳴る、録音できる、再生できる、保存できる状態を作る。
パソコンも同じで、高性能を自慢するためではなく、この4つが止まらないために選びます。
だから最初に決めるのは予算でも機種でもなく、「自分の最初の曲はどれくらいの規模か」です。
打ち込み中心で10トラック前後なら、要求はそれほど高くありません。歌やギターの録音を重ねたい、生楽器系の大きな音源を使いたいとなって初めて、CPUやメモリの余裕が効いてきます。
優先順位を先に言うと、CPUの余裕、メモリの量、SSDであること、の順です。
画面の解像度やデザインは制作が止まる原因になりにくいので後回しで構いません。
CPUはリアルタイム再生の余裕を見る
CPUが足りないと、再生中の音が途切れます。
CPUはパソコンの計算役です。DTMでは、再生ボタンを押した瞬間から、全トラックの音源とエフェクトを同時に、しかも遅れずに計算し続けます。
動画の書き出しのように「待てば終わる」作業と違い、音楽の再生は一瞬でも計算が追いつかないと、プチプチというノイズや音切れになって耳に届きます。
つまりCPU選びで見るのは最高速度ではなく、リアルタイム処理の余裕です。
トラックが増え、エフェクトが増えるほど負荷は積み上がるので、今の作業でメーターが半分を超えるようだと、曲が育つ途中で頭打ちになります。
幸い、細かい型番の比較で悩む必要はあまりありません。ここ数年の標準クラス以上のCPUなら、最初の1曲で困る場面は少ないからです。
それより、使う予定のDAWの公式ページで動作環境を確認することと、後述する方法で今のパソコンの余裕を実測することのほうが大事です。
なおDAW側にも、バッファサイズという負荷をやわらげる設定があります。ただし録音時の反応が遅くなることと引き換えになるため、この関係は録音の章で説明します。
メモリは音源を増やす前提で決める
初心者が最初にぶつかる壁は、CPUよりメモリのことが多いです。
メモリは、音源のデータを一時的に広げておく作業机です。ソフト音源の多くは、ピアノなら鍵盤ごと、ドラムなら太鼓ごとに録音されたサンプルを読み込んで鳴らします。
リアルなピアノ音源や生ドラム音源ほどサンプルが大きく、机の広さ、つまりメモリを食います。
DAWを入れた直後は8GBでも動きます。問題はその後です。
付属音源からもう一歩リアルな音が欲しくなり、音源を追加した途端にメモリが詰まる。
この「始めてから3か月後の壁」が、初心者の買い直しでいちばん多いパターンです。
だから、これからDTM用に買うなら16GBを目安にしてください。最低要件ではなく、音源を増やしても止まらないための余裕としての16GBです。
映画音楽のようにオーケストラ音源を大量に使う計画があるなら32GBも視野に入りますが、最初の段階でそこまで先回りする必要はありません。
購入時には、メモリを後から増設できる機種かどうかも見てください。
増設できない機種は買った時点の量が上限になるため、その場合はなおさら16GBに寄せておくのが安全です。
SSDは起動と音源読み込みの待ち時間を減らす
SSDは速さの部品というより、やる気を守る部品です。
ストレージには、昔ながらのHDDと、動く部品のないSSDがあります。DTMでの差は保存容量ではなく待ち時間です。
DAWの起動、プロジェクトを開く、音源を読み込む。この積み重ねがHDDだと数分単位になり、「開くのが面倒だから今日はやめよう」という一番もったいない止まり方につながります。
現行のパソコンはほとんどSSDですが、安価なモデルや古いパソコンにはHDDが残っています。中古や手持ちのパソコンで始める場合は、ここだけは確認してください。
SSDへの換装や外付けSSDの追加は、体感がいちばん変わる投資です。
容量は、DAW本体と付属音源だけなら256GBでも始められます。ただし追加音源は1つで数十GB使うものもあり、思ったより早く埋まります。
これから買うなら512GBを目安にし、足りなくなったら音源ライブラリだけを外付けSSDへ移す。この逃がし方を知っておくと、本体容量で悩みすぎずに済みます。
用途別のスペック目安
高い方ではなく、自分の制作規模の行を見てください。
| 制作規模 | CPU | メモリ | ストレージ |
|---|---|---|---|
| 打ち込み中心で最初の1曲(10トラック前後) | ここ数年の標準クラスで足りる | 8GBでも試せるが、買うなら16GB | SSD 256GB〜。空きを数十GB残す |
| 歌・ギターの録音も重ねる | 標準クラス+余裕。録音中の音切れは致命傷 | 16GBを目安に | SSD 512GB目安。録音データも増える |
| 生楽器系の大型音源を多用する | 上位クラスを検討 | 16〜32GB | SSD 512GB〜+外付けSSDで音源を分ける |
数字はあくまで目安で、使うDAWの公式が示す動作環境が前提になります。
表の行が上がるのは「上手くなったら」ではなく「音源とトラックが増えたら」です。最初から一番下の行に合わせて買う必要はありません。
ノートとデスクトップの選び方
性能の差より、弱点を補えるかで選びます。
ノートの強みは場所を選ばないことです。機材が少ない初心者ほどこの身軽さは効きます。
弱点は、画面が狭い、端子が少ない、同価格ならデスクトップより性能が抑えめの3点ですが、画面は外付けモニター、端子はUSBハブで補えます。
デスクトップの強みは、同じ予算での性能と、メモリやストレージを後から増設しやすいことです。長く育てる前提なら有利です。
弱点は置き場所が固定されること。机に向かわないと制作が始まらないので、生活の中で机に座る習慣があるかどうかが意外と効きます。
録音をするなら、もうひとつの判断材料がファンの音です。負荷が上がるとファンが回り、その風切り音がマイクに入ります。
ノートはファンがマイクの近くに来やすいため、静かな曲の録音では気になることがあります。
結論としては、どちらでも曲は完成します。
すでに持っている方から始めて構いません。新しく買うなら、持ち歩くかどうかで決めると後悔が少ないです。
MacとWindowsで確認すること
優劣ではなく、音の通り道の仕組みが違います。
MacとWindowsの論争に決着をつける必要はありません。どちらでも商業レベルの曲は作られています。
ただし音の遅延に関わる仕組みが違うので、そこだけ押さえます。
Macには、Core Audioという音の仕組みがOSに標準で入っています。
外部機器を足さなくても遅延が比較的扱いやすく、GarageBandという無料DAWが最初から使えるのも入口として親切です。
Windowsは、OS標準の音の経路だと遅延が大きくなりがちで、ASIOという低遅延用のドライバーを使うのが定番です。
ASIOは多くの場合オーディオインターフェイスに付属してくるため、録音までやるWindowsユーザーは、パソコンと合わせてオーディオインターフェイスを計画に入れておくとつまずきません。詳しくはオーディオインターフェイスは必要かの記事で整理しています。
もうひとつの確認点は対応OSです。使いたいDAWの公式ページで対応OSとバージョンを先に見てください。
動作環境は更新されるため、古い記事の転載より公式の現行情報が確実です。
MacのApple Silicon対応は、DAW本体だけでなくプラグイン側も見ておくと安心です。
録音するなら遅延とドライバーも見る
録音の快適さは、スペック表の数字だけでは決まりません。
歌やギターを録音すると、自分の出した音がヘッドホンから返ってくるまでにわずかな遅れが生じます。これがレイテンシー、つまり遅延です。
遅延が大きいと、歌いながら自分の声が遅れて聞こえて、演奏そのものが崩れます。
遅延を左右するのは、CPUの余裕、ドライバー、そしてバッファサイズの設定です。バッファサイズを小さくすると遅延は減りますがCPU負荷が上がり、大きくすると安定しますが遅延が増える。
だから、録音するときは反応の速さを優先して小さく、ミックスのときは安定を優先して大きく、と場面で切り替えるのが基本です。ひとつの設定で全部を解決しようとしないでください。
また、録音のトラブルはパソコンの性能不足より、入力レベル、ドライバー、接続のどれかが原因のことが多いです。
スペックを疑う前に、マイクの入力レベルは適正か、ASIOやCore Audioを選べているか、USBの接続は安定しているかを順に見ます。遅延が気になったときの具体的な直し方はレイテンシーの直し方の記事にまとめています。
今のパソコンで試す確認手順
買う前に、手元のパソコンで15分だけ実験します。
「今のパソコンで足りるのか」は、スペック表とにらめっこするより実測が早いです。初心者は購入の前後でも止まりやすいので、小さく試してから財布を開きます。
- 使う予定のDAWの公式ページで、対応OSと動作環境を確認する
- 無料DAWか体験版をインストールする(候補は無料DAW比較へ)
- ピアノ、ドラム、ベースの3トラックを立ち上げ、8小節をループ再生する
- 再生しながら、DAWのCPUメーターと音切れの有無を見る
- プロジェクトを保存し、WAVで書き出して、翌日また開いてみる
| チェック項目 | 見る場所 | 判断 |
|---|---|---|
| 再生が途切れないか | 3トラックのループ再生 | 途切れなければ、今のパソコンで始めてよい |
| CPUの余裕 | DAWのパフォーマンスメーター | 半分以下なら余裕あり。振り切るなら要検討 |
| メモリの余裕 | OSのタスクマネージャー等 | 音源読み込みで逼迫するなら16GB化を検討 |
| ストレージ | 空き容量とSSDかどうか | HDDなら換装・外付けSSDを優先候補に |
| 保存と書き出し | 保存→書き出し→翌日開き直す | ここまで通れば制作環境として合格 |
余裕があるなら、そのまま制作を始めてください。この実験自体がDTMの最初の一歩です。
買い替えるタイミング
買い替えは、止まった場所がはっきりしてからで遅くありません。
買い替えのサインは体感に出ます。
- バッファサイズを上げても音切れが消えない
- 書き出しや読み込みの待ち時間が制作の腰を折る
- メモリ不足の警告で音源を減らす羽目になる
- OSが使いたいDAWの対応から外れた
どれかに当てはまってからが検討時です。
そして、丸ごと買い替える前に部分交換を考えてください。メモリの増設、外付けSSDの追加は、本体の買い替えよりはるかに安く、詰まっている場所がメモリやストレージなら効果はそこに直撃します。
不足した要素だけ足す。この考え方なら、出費は止まった場所にだけ向かいます。
逆に、まだ何も作っていない段階での買い替えはおすすめしません。止まった経験がないうちは、どこに余裕が要るのか自分でも分からないからです。
まず今の環境で短い1曲を完成まで通す。パソコンの答え合わせはその後のほうが正確です。
環境が決まったら、次は音出しから1曲完成までの流れへ。下の制作工程マップがその道順になります。
よくある疑問
DTMにメモリ8GBは足りますか
軽い音源を数トラック鳴らす段階なら試せます。ただし音源を追加した途端に不足しやすいのがメモリです。これから買うなら16GBを目安にすると、買い直しになりにくいです。
ノートパソコンでもDTMはできますか
できます。画面の狭さは外付けモニター、端子の少なさはUSBハブで補えます。歌やギターを録音する場合だけ、ファンの音がマイクに入らないか確認してください。
MacとWindowsはどちらがDTM向きですか
どちらでも曲は完成します。MacはCore Audioが標準で遅延を扱いやすく、WindowsはASIO対応のオーディオインターフェイスを組み合わせるのが定番です。使いたいDAWの対応OSから逆算するのが確実です。
ゲーミングPCはDTMに使えますか
CPUとメモリに余裕がある機種が多く、使えます。ただし高負荷時のファンノイズが録音に入りやすい点は要注意です。DTMでは光る装飾より静音性に価値があります。
SSDの容量はどれくらい必要ですか
DAWと付属音源だけなら256GBでも始められますが、追加音源は1つで数十GB使うものもあります。これから買うなら512GBを目安にし、増えた音源ライブラリは外付けSSDへ移す運用が現実的です。
確認する公式情報
DAWの動作環境や対応OSは更新されます。購入前に必ず現行の公式ページで確認してください。
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