サビの作り方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
サビは、曲を聞き終えたあとに口ずさんでいる場所です。多くの曲で、いちばん高く、いちばん覚えやすく作られています。サビの作り方で迷うのは、どう盛り上げるかではなく、どこを曲の頂点にするかが決まっていない時です。
頂点を先に決めると、ほかの場所は自然と低く、静かになります。ここから、サビを曲の最高到達点として立てる考え方、音域の上げ方、いちばん言いたい言葉の置き場所、繰り返しで耳に残す作り方、そして弱いと感じた時の直し方までを順に見ていきます。
先に見ること
サビは曲の頂点。まわりを低くするほど、サビは高く聞こえます。
- 曲でいちばん高い音域を、サビのためにとっておく
- いちばん言いたい言葉やフレーズを、サビの頭に置く
- 同じ短い節を繰り返し、下のコードだけ変えて耳に残す
- 盛り上がらない時は、サビを足すよりAメロを削る
サビは曲の最高到達点
まず決めるのは、細かい音より頂点の位置です。
サビは、曲の中でいちばん聞かせたい区間です。歌のタイトルになっている言葉がここに置かれる曲が多いのも、サビが「この曲といえばこれ」を背負う場所だからです。
最初に決めたいのは、細かい音より、ここを曲の頂点にするという方針です。
頂点は、そこだけを大きくして作るものではありません。まわりとの差で決まります。
サビの手前が静かで低いほど、サビに入った瞬間の開ける感じは強くなります。サビを高くするのと同じくらい、その手前を低くしておくことが効きます。
制作の現場でも、盛り上がらないという相談の多くは、サビが弱いのではなく、手前がすでに満杯なことが原因です。
全部の場所を気持ちよく作ると、頂点が平らになります。どこかを我慢して低くしておくと、サビが立ち上がります。
だから最初にやることは、音を足すことではありません。
曲の中でここがいちばん高い、と決める場所を一つ選ぶことです。決まれば、ほかの場所をどこまで抑えるかも見えてきます。
音域を上げて開ける
曲でいちばん高い音は、サビまでしまっておきます。
サビが開けて聞こえるいちばん分かりやすい理由は、音域です。音域とは、メロディで使う音の高さの範囲のことです。
Aメロを低め、Bメロで少しずつ上げ、サビで曲の最高音に届く。この階段のような設計が、サビを頂点に見せます。
気をつけたいのは、サビの最高音を手前で使ってしまわないことです。
Aメロですでに高い音を出していると、サビで上げる先がなくなります。曲でいちばん高い音は、サビのためにとっておきます。
高さは、歌えるかどうかで決めます。
自分がぎりぎり気持ちよく出せる高さをサビの山にすると、無理なく熱を出せます。
出ない高さまで上げると、力むだけで開けた感じは出ません。楽器だけの曲でも、主役の音がここでいちばん高くなるように置きます。
音域を上げにくい時は、メロディ全体を少し下へ移してから作り直します。
Aメロを低い側へずらすと、同じサビでも相対的に高く聞こえます。上げるより、まわりを下げるほうが早いこともあります。
音域を決めたら、Aメロからサビまでを続けて口ずさんでみてください。Aメロで低く、サビで自然に声が上がるなら、階段はうまく組めています。
途中で息が苦しくなったり、逆にどこも同じ高さで平らに感じたりするなら、山の位置がぼやけているサインです。声で確かめると、画面を見るより早く判断できます。
言いたい言葉を頭に置く
サビは、入った最初の数拍で印象が決まります。
サビは、頭の数拍で勝負が決まります。
聞き手がいちばん耳を澄ますのは、サビに入った最初の瞬間だからです。ここに、いちばん言いたい言葉や、いちばん覚えてほしいフレーズを置きます。
言葉を後ろに温存して、サビの前半を助走に使ってしまうと、山が後ろへずれてもたつきます。
結論を先に出すつもりで、キメの言葉をサビの頭へ持ってきます。歌のない曲なら、いちばん印象的な音の動きを頭に置きます。
サビだけは、小節の頭より少し手前から食い気味に入ると、勢いがついて開けやすくなります。
Aメロを1拍目から素直に始めておくと、この入りの差でサビがさらに際立ちます。入る場所を一拍ずらすだけでも、同じメロディの印象は変わります。
言葉を選ぶ時は、意味だけでなく音の響きも聞きます。
サビの頭に来る言葉は、母音が開いた音だと遠くまで届きやすく、山の頂点に向いています。同じ意味でも、口を大きく開けて歌える言葉のほうが、サビは伸びやかに聞こえます。
頭の音は、短く切るより長めに伸ばすと、山の頂点らしくなります。
伸ばした音の上でまわりの楽器が鳴りそろうと、サビの一体感が出ます。
サビとまわりの設計早見表
迷ったら、サビの列に一つずつ寄せていきます。
| 要素 | Aメロ・Bメロ | サビ |
|---|---|---|
| 音域 | 低め〜中間にとどめる | 曲の最高音を出す |
| 言葉・フレーズ | 状況や情景を語る | キメの言葉を頭に置く |
| 繰り返し | 一度で流す | 同じ短い節を二度くり返す |
| 伴奏の厚み | 楽器を間引く | 全部を鳴らして厚くする |
| 聞き手の状態 | 様子をうかがう | 一緒に口ずさむ |
繰り返しで耳に残す
同じ節を二度、下のコードだけ変えます。
サビが覚えやすいのは、多くの場合くり返しがあるからです。
同じ短いフレーズを二度くり返すと、一度で流すより耳に残ります。サビの中に、二回聞こえる合言葉のような場所を一つ作ります。
レッスンで使っている判断メモに、同じメロディや同じ音をくり返しても、下のコードが変われば聞こえ方が変わる、というものがあります。
サビの一回目と二回目で、メロディはそのまま、下のコードだけ変えてみてください。くり返しの安心感と、変化の新しさを同時に出せて、耳に残るフックになります。
くり返す単位は短いほど強く残ります。
一小節の合言葉を二回、そのあとに少し長いフレーズで受ける。この「短く二回、長く一回」の形は、サビの骨格として作りやすいです。
くり返しは、言葉の面でも効きます。
サビのいちばん言いたいひと言を、頭とお尻の二か所に置く。挟むように同じ言葉が出てくると、聞き手はそこを合言葉として覚えます。
メロディのくり返しと言葉のくり返しがそろうと、サビはさらに残りやすくなります。
キメを作る時は、まわりを一瞬止めると際立ちます。
サビの頭で全部の楽器がそろって一発鳴らし、そのあと動き出す。止まる場所があるから、動き出しが強く聞こえます。
サビが弱いと感じたら
足す前に、手前を削って差を作ります。
サビが弱いと感じたら、サビに音を足す前に、手前を見直します。
多くの場合、原因はサビ側ではなく、Aメロやサビの直前がすでに厚いことです。まずAメロの伴奏を減らし、通して聞いて、サビとの差が生まれるか確かめます。
次に、サビの最高音を確認します。
手前のメロディが同じ高さまで登っているなら、手前を数音下げて、いちばん高い音をサビ専用にします。頂点が一つに絞られると、サビは自然に立ち上がります。
手前を削っても差が出ない時は、サビだけ楽器を一つ増やしてみます。
増やすのはサビ限定にして、Aメロやサビ前には足しません。増えた楽器がサビでだけ鳴ると、そこがいちばん厚い場所になり、頂点がはっきりします。
それでも平らなら、サビの直前に段差を付けます。
入る一小節前だけ全部の楽器を止める、ドラムでフィルを入れて合図する。こうした小さな仕掛けで、ここから変わるという予感を作れます。
直す時は、一度に一か所だけ変えて聞き比べます。音域、言葉の位置、くり返し、伴奏の厚み。
まとめて変えると、どれが効いたのか分からなくなります。
サビが立ったら、次はその前後をつないで一曲の流れにします。全体の並べ方は制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
サビから先に作ってもいいですか
構いません。いちばん聞かせたいサビを先に決め、そこから音域と音の厚みを引き算してAメロやBメロを作ると、頂点がぶれずに設計できます。
サビの音域はどこまで上げればいいですか
自分がぎりぎり気持ちよく歌える高さが目安です。出ない高さまで上げると力むだけなので、上げにくい時はメロディ全体を下げて、相対的にサビを高くします。
サビが盛り上がりません
サビに足すより、手前を削ります。Aメロの伴奏を減らし、最高音をサビ専用にして、直前に段差を付けると、同じサビでも開けて聞こえます。
繰り返しは何回がいいですか
同じ短いフレーズを二回繰り返すのが基本です。二回目は下のコードだけ変えると、しつこくならずに耳へ残せます。
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