サビが弱い時の直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
サビが盛り上がらない時、多くの人はサビのメロディを書き直したり、シンセやコーラスを足したりします。ところが実際に直る場所は、サビの中ではなく「サビの直前」であることが多いです。サビ単体では悪くないのに通しで聞くと弱い、という症状なら、足りないのは対比です。
ここではサビが弱く聞こえる仕組みを分解したうえで、Bメロで引く、サビで音域と音数を上げる、頭にキメを置く、という3つの手順で直していきます。サビを作り直す前に、まず前後の落差を疑ってください。
先に見ること
サビが弱いのは、サビの手前が「盛り上がりすぎ」だからかもしれません。
- サビだけ再生して悪くないなら、原因は直前との対比不足
- 直すのは足し算より先に、Bメロの引き算
- サビでは音域と音数を上げ、頭に合図となるキメを置く
- 判定はBメロ後半からサビ頭までの8小節ループで行う
症状の正体を見極める
サビ単体の出来と、流れの中での聞こえ方を分けます。
最初にやってほしいのは、サビの4小節か8小節だけをループ再生することです。単体で聞いてメロディも伴奏も悪くないのに、曲の頭から通すと盛り上がらない。
この場合、問題はサビの中身ではなく、サビに入るまでの流れにあります。
盛り上がりは、絶対的な音の大きさではなく落差で決まります。ジェットコースターが怖いのは速いからではなく、直前にゆっくり登るからです。
曲も同じで、サビの手前が静かであるほど、同じサビでも大きく聞こえます。
逆に、サビ単体で聞いても物足りない場合は、サビ自体のメロディや和音に手を入れる必要があります。ただ、レッスンで曲を聞かせてもらうと、書き直しが必要なケースより、手前との差が消えているケースの方がずっと多いです。
まず単体か流れかを切り分けてください。
切り分けができたら、以降の作業は「差を作ること」に集中します。サビに新しい音を足すのは最後の手段です。
原因は3パターンに分かれる
対比が消える場所は決まっています。
1つ目は、サビより前で音が出そろってしまうパターンです。Aメロからドラム、ベース、コード、上物が全部鳴っていると、サビで足せるものが残っていません。
天井に頭がついた状態で、それ以上は上がれない状態です。
2つ目は、サビでメロディの音域が上がっていないパターンです。Aメロとサビの最高音がほぼ同じだと、聞き手の耳には同じ場面の続きに聞こえます。
歌ってみて声の張りが変わらないなら、このパターンを疑ってください。
3つ目は、サビの入り口が曖昧なパターンです。Bメロからサビへ何の合図もなくつながると、「今からここが盛り上がりますよ」という宣言がないまま進んでしまい、聞き手が身構えられません。
自分の曲がどれに当てはまるかは、Bメロの最後の2小節とサビの最初の2小節を並べて聞くと分かります。音の数、メロディの高さ、入り口の合図。この3点を順に見てください。
複数当てはまることも普通にあります。その場合も、当てはまりの強いものから1つずつ直します。まとめて直すと、どの手が効いたのか分からなくなり、次の曲へ持ち越せる教訓が残りません。
3手順で対比を作る
引いてから、上げて、最後に合図を置きます。
手順1は、Bメロで引くことです。
- Bメロ後半のドラムからハイハットを抜く
- ベースを白玉(伸ばした長い音)にする
- 上物を1つミュートする
こうして音数と勢いを一段落とします。サビには一切手を触れていないのに、この時点でサビが強く聞こえ始めるはずです。
引く場所はサビ直前の2小節だけで十分です。Bメロ全体を薄くすると曲そのものがやせて聞こえるので、落とすのは入り口の手前にとどめ、Bメロの前半はふつうに鳴らしておきます。
手順2は、サビで音域と音数を上げることです。サビのメロディの最高音がAメロと同じなら、フレーズの山を3度から5度ほど高い位置へ持ち上げてみます。
伴奏側は、Bメロで抜いた楽器をサビ頭で一斉に戻すだけでも音数の壁ができます。
手順3は、サビ頭にキメを置くことです。キメとは、複数の楽器が同じリズムを一緒に叩く瞬間のこと。
サビ直前に全楽器で1回そろえる、あるいは半拍だけ全部止めてからサビに飛び込む。無音は最大の引き算なので、直後の音が一番大きく感じられます。
それでも足りない時は、コードの側から支える手があります。レッスンでも使う考え方ですが、同じメロディや音を繰り返しても、下のコードが変わると聞こえ方が変わります。反復と変化を同時に作れるので、サビの同じフレーズの2回目でコードだけ差し替えると、耳に残るフックになりやすいです。
あわせて、メロディがどの拍から入るかも試してください。1拍目ちょうどではなく、半拍手前から食い気味に入るだけで、前のめりな勢いが出ます。
Bメロとサビの対比チェック表
左右で差がついているかを1行ずつ見ます。
| 項目 | Bメロ後半(引く側) | サビ(上げる側) |
|---|---|---|
| 音数 | ドラムを間引く・上物を1つ休ませる | 抜いた楽器を頭で一斉に戻す |
| メロディの高さ | 中音域にとどめる | フレーズの山を一段高い音へ |
| ベース | 白玉で静かに支える | リズムを刻んで前へ出す |
| 入り口 | 最後に半拍の空白かキメを置く | 1拍目を全楽器でそろえる |
| コード | 同じ進行を保つ | 繰り返しの2回目で1つ差し替える |
直ったかを耳で確かめる
通し再生より、境目のループで判定します。
手を入れたら、Bメロ後半4小節とサビ頭4小節、合計8小節だけをループ再生します。曲の頭から通すと耳が慣れてしまい、差が分かりにくくなるからです。
境目だけを何度も聞くと、落差ができたかどうかが一番はっきり分かります。
次に、音量を思い切り下げて聞きます。小さい音量でもサビに入った瞬間が分かるなら、音量ではなく構造で対比が作れている証拠です。
音量差だけに頼った盛り上げは、小さく再生すると消えてしまいます。
1つ操作するたびに聞き直すのも大事です。Bメロの間引きとサビの音域上げとキメを一度に入れてしまうと、どれが効いたのか分からなくなります。
効いた手だけ残し、効かなかった手は戻す。この繰り返しで、自分の耳の判断基準が育ちます。
最後に、修正前のプロジェクトを別名で残したうえで、修正後を書き出して翌日にもう一度聞いてください。
当日の耳は作業に慣れています。1日置いた耳で落差が残っていれば合格です。
次の曲で繰り返さない設計
対比は後付けより、最初から設計する方が楽です。
今回の修正で効いた手を、一言メモにして残しておきます。「Bメロのハイハット抜きが効いた」「サビ頭の半拍ブレイクが効いた」。
この蓄積が、次の曲での最初の一手になります。
次の曲では、サビを先に作る順番を試してみてください。曲の一番高い場所を先に決めてしまえば、AメロとBメロは「そこより低く、静かに」という引き算で設計できます。
頭から順に作ると、サビに着く頃には積み上げすぎていることが多いのです。
また、好きな曲でBメロからサビへの境目だけを聞き比べる習慣も役立ちます。どの楽器が休んで、どこで戻って、頭に何の合図があるか。市販の曲は対比の見本帳です。
同じジャンルの曲を2、3曲そろえて境目だけを続けて聞くと、盛り上げの共通パターンが見えてきます。
サビの対比は、曲全体の設計の一部です。イントロからフルコーラスまでの流れの中でどこを引いてどこを上げるかは、制作工程マップで全体像を確認しながら決めていくと迷いません。
よくある疑問
サビのメロディを作り直すべきですか
作り直す前に、Bメロを引き算してサビとの落差を作ってみてください。メロディはそのままでも、直前が静かになるだけでサビが立つことはよくあります。
音を足してもサビが強くなりません
Aメロの時点で音が埋まっていると、サビで足しても差が出ません。足す前に、サビより前のセクションから音を抜けないかを見てください。
キメとは何ですか
複数の楽器が同じリズムを一緒に演奏する瞬間のことです。サビの直前に全体で1回そろえるだけでも、入り口の合図になります。
直ったかどうかはどう判断しますか
Bメロ後半からサビ頭までの8小節だけをループ再生して、落差が聞こえるかで判断します。通しで聞くより違いが分かりやすいです。
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サビの対比が作れたら、制作環境と1曲全体の流れも整えておきます。