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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

ミックスの音量バランスはドラムから決める|初心者向けの順番

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作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

曲を打ち込み終わって全部を再生すると、なぜか歌が聞こえない。ドラムだけうるさい。そこで気になるトラックを順番に上げていくと、今度は全体が飽和して、どこが悪いのか分からなくなります。音量バランスで迷子になる原因は、耳の良し悪しではなく「どのトラックから決めるか」を決めていないことにあります。

やり方はシンプルです。全部のフェーダーを一度下げ、ドラム、ベース、主役の順に積み上げて、残りは隙間に入れる。この順番さえ守れば、初心者でもバランスは大きく外れません。理由と手順を順に見ていきます。

先に見ること

音量バランスは、決める順番を固定すると迷わなくなります。

  • フェーダーを0dBのまま重ねない
  • ドラム→ベース→主役→残りの順で置く
  • 聞き返す時の再生音量を毎回そろえる
  • 分からなくなったら全部下げて積み直す

全フェーダー0dBのまま重ねない

最初の一手は、上げることではなく下げることです。

DAWで新しいトラックを作ると、フェーダーはたいてい0dBの位置にあります。0dBは「入ってきた音をそのままの大きさで通す」という意味です。

1トラックなら問題ありませんが、ドラム、ベース、コード、メロディと重ねていくと、音の合計はどんどん大きくなります。

合計が大きくなりすぎると、マスター(全トラックが最後に集まる場所)のメーターが赤くなり、音が歪みます。そして厄介なのは、赤くなる手前でも問題が起きることです。

天井いっぱいまで音が詰まった状態では、「このトラックをもう少し前に出したい」と思っても上げる余白がありません。仕方なく他を下げ始めると、基準がなくなって全体が迷子になります。

だから作り始めの段階で、各トラックのフェーダーを下げて余白を確保しておきます。余白のことをヘッドルームと呼びます。

部屋の天井が高ければ棚の配置を自由に変えられるのと同じで、余白があるほどバランスの調整は楽になります。

「何dB下げるのが正解ですか」とよく聞かれますが、決まった数値はありません。全部を重ねてもマスターに余裕が残る、という状態を作れていれば十分です。

数値より、次に説明する順番のほうがずっと重要です。

ドラムから決める理由

一番大きく鳴る音を、最初の基準にします。

音量を決める最初のトラックはドラムです。理由は2つあります。1つ目は、ポップスやロックでは多くの場合、曲の中で一番強く鳴っている音がドラムだからです。

一番大きい音を先に置けば、残りは「それより下」に並べるだけで済みます。逆に小さい音から決めると、後からドラムを入れた瞬間に全部が埋もれて、やり直しになります。

2つ目は、ドラムが曲の一番低い音域と一番高い音域の両方を持っているからです。キックは低く、ハイハットやシンバルは高い。

つまりドラムを置いた時点で、曲の音の「額縁」ができます。額縁が先にあると、中に入れる絵の大きさを判断しやすくなります。

ミックスの考え方として、低い音域のトラックから高い音域へ順に聞いていくと、バランスは取りやすくなります。ドラムとベースで下を固め、その上に鍵盤やギター、一番上に歌。

下から積む家の建て方と同じ順序です。ドラムを最初に決めるのは、この積み上げの土台にあたるからです。

ドラムの中にも順番があります。まずキックだけを鳴らして高さを決め、次にスネア、最後にハイハットやシンバルを足します。

シンバル類は華やかなので上げたくなりますが、キックとスネアより目立つと曲が軽くなります。

ベースを合わせ、主役を乗せる

低音を固めてから、一番聞かせたい音を置きます。

ドラムの次はベースです。ベースはキックと同じ低い音域を担当するので、この2つの釣り合いが曲の土台の安定感を決めます。

キックを鳴らしながらベースのフェーダーをゆっくり上げていき、キックの輪郭が消えない範囲で止めます。ベースが大きすぎると全体がこもり、小さすぎると曲が軽くなります。

土台ができたら、主役を乗せます。主役とは、歌もの(歌が入った曲のこと)ならボーカル、インストならメインのメロディです。

レッスンでミックスを見る時も、歌ものではドラムとボーカルの2つがはっきり聞こえる状態を最初に作ることを勧めています。この2つが立っていれば、曲は多少ラフでも成立するからです。

注意したいのは、コードやパッド(背景で伸びる音)を先に気持ちよく上げてしまうことです。背景の音は単体で聞くと豊かで心地よいので、つい大きくしがちです。

しかし背景が持ち上がるほど、主役は奥へ引っ込みます。主役の高さを先に決め、背景は「主役の邪魔をしない上限」までに留めます。

最後に残りのトラックを入れます。コード、アルペジオ、効果音などの飾りは、なくても曲が成立する音です。

まず小さめに置き、物足りなければ少しずつ上げる。この向きで調整すると、飾りが主役を食う事故を防げます。

音量を決める順番の一覧

迷ったら、この順番の上から確認し直します。

順番トラック高さの決め方
1ドラム曲で一番大きい基準。キック→スネア→シンバル類の順に決める
2ベースキックの輪郭が消えない範囲で上げる
3主役(歌・メロディ)ドラムに埋もれず、歌詞やフレーズが聞き取れる高さ
4コード・パッド主役の後ろに収まる上限まで。単体の心地よさで決めない
5飾り(アルペジオ・効果音)小さめに置き、物足りなければ少し上げる

聞く音量をそろえる

スピーカーやヘッドホンの音量が変わると、判断も変わります。

フェーダーの話ではありませんが、同じくらい大事なのが「自分が聞く音量」です。人間の耳は、再生音量が大きいほど低音や高音が豊かに聞こえるという性質を持っています。

夜に小さな音で「ベースが足りない」と感じて上げたのに、翌日大きめの音で聞いたら低音が出すぎていた。これは耳の性質による典型的な食い違いです。

対策は、作業中の再生音量を毎回そろえることです。スピーカーやヘッドホンのつまみの位置を決めておき、バランスを判断する時はいつもその位置で聞きます。

目安は、隣の人と普通に会話できるくらいの音量です。大音量のほうが気持ちよく聞こえますが、気持ちよさと判断のしやすさは別物です。

もう1つ、疲れた耳で決めないことも大切です。長時間聞き続けると、耳は大きい音に慣れて感度が下がります。

バランスの最終判断は、作業の最初か、休憩のあとの新しい耳で行うほうが正確です。

迷ったら一度全部下げる

直せない状態を直そうとせず、並べ直します。

調整を続けるうちに、どのフェーダーを動かしても良くならない瞬間が来ることがあります。歌を上げればオケがうるさく感じ、オケを上げれば歌が埋もれる。

こうなった時は、個別のトラックをいじるのをやめて、全部のフェーダーを一度ぐっと下げてください。

そして白紙の状態から、ドラム、ベース、主役、残りの順にもう一度積み上げます。遠回りに見えますが、上げ合いで膨らんだバランスを1本ずつ修正するより、並べ直すほうがたいてい速く終わります。

フェーダーは何度でも動かせるので、失うものはありません。

この時、下げる前の状態をDAWのミキサースナップショットや別名保存で残しておくと安心です。積み直した結果と前の状態を聞き比べれば、どちらが良いかを耳で確かめられます。

比較する相手がいると、判断は一気に楽になります。

崩れる典型パターン

後から足した音は、大きくなりやすいと知っておきます。

バランスが崩れていく典型は、制作の途中で新しく足したトラックです。新しい音を入れた直後は、耳がその音に注目しています。だから「もっと聞きたい」と感じて、つい大きめに置いてしまう。

翌日に通して聞くと、後から足した飾りだけが不自然に前へ出ている。この流れは本当によく起こります。

対策は2つです。1つ目は、新しいトラックを足したら、フェーダーを一度思い切って下げてから、曲全体の中で少しずつ上げ直すこと。

単体で聞いて決めず、必ず他の音と一緒に鳴らした状態で高さを決めます。

2つ目は、区切りごとに書き出して、DAWの外で聞くことです。スマホやイヤホンなど普段音楽を聞く環境で再生すると、作業中には気づかなかった出っ張りが見つかります。

画面のフェーダー位置は音量の正解を教えてくれません。最後に信じるのは、通して聞いた時の耳です。

音量バランスは、ミックスの一番最初にやる工程であると同時に、曲作り全体の聞こえ方を決める工程でもあります。1曲を通した制作の流れの中でどのタイミングにあたるのかは、制作工程マップで確認できます。

よくある疑問

フェーダーは何dBにすればいいですか

全トラック共通の正解値はありません。先に決めたドラムと比べて、キックが隠れない高さ、主役が埋もれない高さ、と相対的に決めます。マスターが赤く点灯しない範囲を守れば数値は目安で十分です。

ボーカルが埋もれる時は上げるべきですか

上げる前に、コードやパッドなど周りのトラックを下げます。主役を上げ続けると全体がまた大きくなり、同じ問題が繰り返されます。主役以外を下げるほうが全体は崩れません。

ヘッドホンとスピーカーのどちらで決めるべきですか

どちらでも構いませんが、作業中は毎回同じ機材、同じ再生音量で聞くことが大切です。仕上げの確認だけ、スマホなど別の環境でも聞いてみてください。

バランスが分からなくなったらどうしますか

一度全部のフェーダーを下げて、ドラムから順番に積み直します。上げ合いで大きくなった状態を1本ずつ直すより、並べ直すほうが早く整います。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。