ゲーム戦闘BGMの作り方|ループする高揚感をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
戦闘BGMは、コンサートで聴く曲とは作りの前提が違います。プレイヤーがいつ戦闘に入り、何分戦うか、作り手には分かりません。
だから曲は途中で切られても成立し、何周しても破綻しない「回り続ける仕組み」として設計します。かっこいいフレーズを思いつくことより先に、この機能を満たす器を作ります。
器の作り方は三つに分かれます。終わりが頭に戻るループの仕組み、速いテンポと刻みで緊張感を作る音使い、そして何十回聞いても疲れないための抜き差し。この順で整理し、最後に最初のループを組む手順まで進めます。
制作の軸
戦闘BGMは「機能を満たすループ」として設計します。
- 最終小節は頭に戻るための助走にする
- 緊張感は速さ・刻み・打撃の三点で作る
- 疲れさせない鍵は音の抜き差し
- 残響の尻尾が継ぎ目を壊していないか聞く
戦闘曲は機能から設計する
聴かせる曲ではなく、遊びながら鳴り続ける曲です。
戦闘BGMには、普通の曲にはない条件が三つあります。
いつ始まっていつ終わるか分からないこと。同じ人が何十回も聞くこと。そして、鳴っている間ずっとプレイヤーの操作の邪魔をしてはいけないことです。
この条件から逆算すると、作るべきものが見えます。
導入やアウトロに時間をかけた大作ではなく、30秒から1分ほどの区間が滑らかに回り続けるループです。始まった瞬間から戦闘の温度に達していて、どの周回でも同じ熱を保ちます。
曲単体で聞くと少し物足りないくらいが、ゲームの中ではちょうどよいことも多いです。画面の情報と操作の忙しさが加わる分、音楽は一歩引いた位置で支えるほうが機能します。
好きなゲームの曲を参考にする時も、かっこいいかどうかではなく、この三つの条件をどう処理しているかを聞きます。
戦闘が終わる瞬間に曲がどう切れるか、何周目で飽きが来るか。実際に遊びながらでないと分からない観点です。
終わりが頭に戻るループの作り
最終小節は「終わり」ではなく「頭へ渡す助走」です。
ループの要は、最終小節と1小節目のつなぎ目です。普通の曲のように最後を締めくくって終わらせると、頭に戻った瞬間に段差ができます。
最終小節は完結させず、コードもフレーズも「次に1小節目が来る前提」で書きます。ドラムのフィル(区切りのおかず)を最終小節に入れ、その着地点を1小節目のキックにすると、継ぎ目が助走として働きます。
コード進行も同じです。一周して「解決して終わる」形ではなく、最後のコードが1小節目のコードへ自然に流れる並びを選びます。
一周してもまだ続きがある形にしておくと、何周しても違和感が出ません。
メロディも継ぎ目をまたがせないほうが安全です。最終小節でフレーズを言い切り、次の周の頭から新しく始まる形にすると、境目で旋律が切れる事故を避けられます。
作ったら、DAWのループ再生でつなぎ目を最低10回は聞きます。1回では気づけない小さな段差が、周回で必ず浮いてきます。
緊張感を作る音使い
速さ・刻み・打撃の三点で、戦闘の温度を作ります。
緊張感の土台はテンポです。歩くより速い、心拍が上がった状態の速さに置くと、鳴った瞬間に「平時ではない」ことが伝わります。
ただし速いほどよいわけではなく、操作のリズムと合っているかを優先します。
次が刻みです。
ストリングスが同じ音を16分音符で刻み続ける音は、戦闘曲の定番の緊張装置です。音程が動かなくても、細かい刻みがあるだけで空気が張り詰めます。シンセの短い音の反復でも同じ働きをします。
三点目が打楽器です。低い太鼓の連打は追い立てる力になり、金属系の一撃は危険の合図になります。
さらにコードを短調中心にして、半音でぶつかる音を少し混ぜると、安心させない響きになります。
三点をすべて最大にする必要はありません。テンポが速い曲なら刻みは控えめでも緊張は保てますし、テンポを抑えた重い戦闘なら打楽器の連打が主役になります。
三点の配合を変えることが、そのまま曲の個性になります。
緊張の要素早見表
効かせる場所と、やりすぎのサインをセットで見ます。
| 要素 | 働き | やりすぎのサイン |
|---|---|---|
| 速いテンポ | 平時ではない体感を作る | 操作のリズムと合わず忙しいだけになる |
| 弦・シンセの刻み | 張り詰めた空気を持続させる | 全小節で鳴り続けて抑揚が消える |
| 低い太鼓の連打 | 追い立てる推進力 | 低域が飽和して他の音が埋もれる |
| 半音のぶつかり | 安心させない響き | 濁りすぎて主題が聞き取れない |
何度聞いても疲れない工夫
ずっと全力の曲は、3周目から騒音になります。
戦闘のたびに流れる曲は、初見のインパクトより10周目の聞き心地のほうが大切です。全パートが最初から最後まで鳴り続けるループは、1周目は熱くても、繰り返すうちに耳が疲れて音量を下げられてしまいます。
対策は、ループの中に密度の波を作ることです。
レッスンで使っている判断メモに「1小節のパターンをそのまま繰り返すと機械的に聞こえやすい。A、B、A、C、A、B、A、Dのように、戻る場所と変える場所を作ると8小節の流れになる」というものがあります。
ループ全体でも同じで、刻みが抜ける小節や打楽器だけになる小節を計画的に入れると、戻ってくるたびに耳がリセットされます。
主題のメロディも、一周の中で出ずっぱりにしません。半分は主題、残り半分はリズムとコードだけ、くらいの配分にすると、主題が出るたびに新鮮さが戻ります。
ボス戦のような特別な戦闘では、逆に密度を上げ続ける判断もあります。
頻繁に流れる通常戦闘は疲れないこと優先、めったに流れない特別な戦闘は高揚優先。同じ戦闘曲でも、流れる頻度によって設計を変えます。
ミックスで見る一点
残響の尻尾が、継ぎ目に段差を作ります。
このジャンルのミックスでまず見るのは、リバーブやディレイの残響がループの境目をまたぐ問題です。
最終小節で鳴った音の余韻は、頭に戻った瞬間にぶつりと切れます。この小さな断絶が、周回のたびに違和感として積み重なります。
対策は、書き出し範囲を工夫して余韻ごとループに含めるか、境目付近の音の残響を短めにすることです。つなぎ目を10回聞く確認の時に、残響の切れ方も一緒に聞いてください。
最初のループを組む手順
1分ではなく、8小節が回る状態を先に作ります。
いきなり長いループは作りません。次の順で、小さく回る状態を先に作ります。
- テンポを決めて、キックとスネアを8小節置く。フィルは最終小節だけに入れる。
- ベースを8分か16分の刻みで置く。コードの根音を外さない。
- 短調のコードを2〜4個選び、一周して頭に戻れる並びにする。
- 弦かシンセの刻みを、8小節のうち6小節だけ入れる。抜いた2小節が呼吸になる。
- 主題を2小節だけ作り、前半に置く。後半はリズムとコードに任せる。
- ループ再生でつなぎ目を10回聞き、段差が消えるまで最終小節を直す。
8小節が滑らかに回ったら、それを複製して打楽器や上物を差し替えた別案を作り、交互につなげば30秒から1分のループに育ちます。
いま曲作りのどの工程にいるか迷ったら、制作工程マップと照らし合わせながら進めてください。
よくある疑問
ループの長さはどのくらいが目安ですか
30秒から1分ほどの区間が回る形が扱いやすいです。短すぎると繰り返しが目立ち、長すぎると作り切る前に手が止まります。まず8小節で継ぎ目を作れるようになってから伸ばします。
終わりが頭に戻ると、曲としての完成感がなくなりませんか
戦闘BGMではそれが正解です。解決して終わる形にすると、頭に戻った時に段差が出ます。完成感のある終わりは、勝利後のジングルなど別の曲に任せます。
緊張感を出すとうるさいと言われます
全部の小節で全部の音が鳴っていないか確認してください。刻みや打楽器を抜く小節を作るだけで、うるささはかなり減ります。緊張感は音量ではなく、速さと刻みで作ります。
実際のゲームでどう鳴るか確認できません
書き出した音源をループ再生し、別の作業をしながら10分流してみてください。ゲーム中の聞かれ方に近い状態で、疲れる場所が見つかります。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
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