ゲーム音楽をDTMで作る始め方|ループと場面を考える

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ゲーム音楽の入門で最初に知っておきたいのは、「良い曲」と「良いゲーム音楽」は少し違う、ということです。ゲームの曲は単体で聴かせるためではなく、タイトル画面や戦闘といった場面の体験を支えるために鳴ります。この視点を持つだけで、何を作ればいいかが具体的になります。
場面ごとに求められる役割、繰り返し流れるためのループの基本、メロディをどこまで主張させるかの調整、そして短い尺で作る練習の価値。ゲーム音楽全般の入口として、この四つを順番に整理し、最初の1曲を作る手順まで進めます。
制作の軸
ゲーム音楽は「場面の役割」から考えると迷いません。
- 場面が変われば曲の仕事も変わる
- 繰り返しに耐えるループが基本形
- メロディの主張は場面に合わせて薄める
- 30秒の曲は立派な練習台
ゲーム音楽と普通の曲の違い
主役は曲ではなく、遊んでいる時間です。
普通の曲は3〜5分で起承転結を作り、一度しっかり聴いてもらうことを目指します。
ゲーム音楽は逆で、同じ曲が何十分も、何十回も流れます。しかもプレイヤーの意識は画面と操作にあり、音楽は視界の端で鳴り続けます。
だから評価の基準が変わります。初めて聴いた時のインパクトより、長時間流れても邪魔にならないこと。曲単体の完成度より、場面の空気と合っていること。
この基準を先に知っておくと、作っている途中の判断がぶれません。
一方で、ゲーム音楽ならではの強みもあります。プレイヤーは同じ曲を繰り返し浴びるので、短い旋律でも記憶に深く残ります。
シンプルな数音が、そのゲームの顔になることさえあります。
この違いは、曲を聞く時の耳も変えます。好きなゲームの曲を、遊んでいる最中に流れていた状態で思い出してみてください。
単体で聴くと地味な曲が、場面の中では絶妙に働いていたことに気づくはずです。
場面ごとの役割を知る
タイトル・フィールド・戦闘・リザルトで、仕事が全部違います。
入門で押さえたい場面は四つです。
タイトル画面の曲は、ゲームの世界観の名刺です。これから始まる物語の温度、明るいのか不穏なのかを、最初の数秒で伝えます。
フィールドやステージの曲は、一番長く聞かれる曲です。移動や探索の間ずっと流れるので、主張しすぎず、それでいて世界の空気を保ち続ける、縁の下の仕事になります。
戦闘の曲は反対に、テンポを上げて緊張を作り、プレイヤーの集中を後押しします。
リザルトや勝利の場面は、短い達成感の演出です。数秒から十数秒のジングル(短い区切りの音楽)で「一区切りついた」ことを伝えます。
同じゲームの中でもこれだけ仕事が違うと分かると、1曲ごとの狙いが立てやすくなります。
実際のゲームには、洞窟、街、イベントなど、もっと多くの場面があります。ただ、どの場面も「どれくらい長く流れるか」「主役は画面か音楽か」という二つの問いで整理できます。
まずこの四つで考え方をつかめば、応用が利きます。
場面と音の方向の早見表
作る前に、どの行の曲なのかを決めます。
| 場面 | 曲の仕事 | 音の方向 |
|---|---|---|
| タイトル | 世界観を数秒で伝える | 印象的な旋律。ゆったりでもよい |
| フィールド | 長時間の探索を支える | 主張控えめ、心地よい反復 |
| 戦闘 | 緊張と集中を後押しする | 速いテンポ、刻むリズム |
| リザルト | 区切りと達成感を出す | 短いジングル、はっきりした終止 |
ループの基本
ゲーム音楽の基本形は、終わらずに回り続ける曲です。
場面がいつまで続くか分からないため、ゲームの曲の多くはループ、つまり一定の区間が繰り返し再生される形で作られます。
作り方の要点は一つで、曲の最後を「終わり」にせず、先頭に戻ってもつながる形にしておくことです。
練習としては、8小節をDAWでループ再生しっぱなしにして、つなぎ目で引っかかる場所を直していくのが近道です。最後のコードが締めくくりすぎていないか、リズムの流れが途切れていないかを、何周も回しながら確認します。
ループが単調に感じる時は、区間の長さを疑う前に、終わり方だけを見直します。多くの場合、問題は途中ではなく、締めくくりすぎた最後の1〜2小節にあります。
ループの深い作り込み、たとえば戦闘曲での緊張の設計などは、それだけで一つのテーマになります。入門の段階では、どの場面の曲にも共通する「戻ってもつながる」感覚を、まず8小節でつかんでください。
メロディの主張を調整する
良いメロディが、場面によっては邪魔になります。
ゲーム音楽で意外とつまずくのが、メロディの音量ではなく存在感の調整です。
歌もののつもりで濃いメロディを書くと、タイトル曲では映えても、フィールド曲では数分で耳が疲れてしまいます。
主張を弱める方法はいくつかあります。
- 旋律の音数を減らして隙間を増やす。
- 音域を目立つ帯域から少し外す。
- 同じフレーズを繰り返して、変化を控えめにする。
メロディを消すのではなく、薄めるという感覚です。
ミックスでの注意も一つだけ挙げると、メロディを前に出したい時に音量だけで解決しないことです。BGMは小さな音量で再生されることが多く、音量差で作ったバランスはその状態で崩れやすくなります。
小さい音量で書き出しを聞き、それでも主役の輪郭が分かるかを確認してください。
短い尺で作る練習の価値
30秒の曲を数多く作ることが、一番の近道です。
ゲーム音楽の練習には、はっきりした利点があります。1曲が短くてよいことです。
タイトル30秒、ジングル10秒、フィールド1分のループ。どれも1曲としては小さいのに、場面の狙いを立てて音に翻訳する練習が丸ごと詰まっています。
短く作る時こそ、先にゴールを決めます。
レッスンで使っている判断メモに「今日の作業を始める前に、完成形の小さいゴールを決める。8小節なのか、90秒なのか、フルコーラスなのかが見えないまま細部を触ると、作業は増えても曲は進みにくい」というものがあります。
「今日はリザルトのジングルを10秒、最後まで」のように尺と場面を先に決めると、練習が完成の形で積み上がります。
架空のゲームを一本決めて、タイトル・フィールド・戦闘・リザルトの4曲セットを作るのもよい練習です。同じ世界観の中で場面ごとに音を変える経験は、そのままゲーム音楽の中心的なスキルになります。
最初の1曲を作る手順
フィールド曲の8小節ループが、最初の題材に向いています。
最初の1曲には、フィールドの曲をおすすめします。極端な速さも派手さも要らず、ループの基本とメロディの調整を両方練習できるからです。
テンポやコードに唯一の正解はありません。決めた情景に合っているかどうかだけを基準に選びます。
- 場面を1行で決める。「昼の草原を歩く」「夜の街を探索する」など、情景を言葉にする。
- その情景に合うテンポを選ぶ。歩く場面なら、歩く速さが目安になる。
- コードを2〜4個選び、8小節で一周して頭に戻れる並びにする。
- 控えめなリズムを置く。フィールド曲なら、強いキックより軽い刻みが合うことが多い。
- 薄めのメロディを乗せる。音数を絞り、同じフレーズの繰り返しを恐れない。
- ループ再生で10分流しっぱなしにして、疲れる場所と継ぎ目の段差を1つずつ直す。
1曲できたら、同じ世界観のまま別の場面へ進みます。作曲のどの工程でつまずいているかを見たい時は、制作工程マップで自分の位置を確認してください。
よくある疑問
楽器や理論の知識がなくても始められますか
始められます。コード2〜4個と簡単なリズムで、フィールド曲の8小節ループは作れます。場面を言葉で決めてから音にする、という順番のほうが知識より効きます。
どの場面の曲から作るのがいいですか
フィールド曲がおすすめです。極端な要素が少なく、ループとメロディ調整の両方を練習できます。次に短いジングル、慣れてから戦闘曲へ進むと段差が緩やかです。
30秒の曲ばかり作っていて上達しますか
します。短い曲でも、場面の狙いを決めて音に翻訳する工程は長い曲と同じです。完成の回数が増えるぶん、判断の練習量はむしろ多くなります。
自作ゲームがなくても練習になりますか
なります。架空のゲームを設定して、タイトル・フィールド・戦闘・リザルトの4曲セットを作ってみてください。場面ごとに音を変える経験自体が、ゲーム音楽の核になる練習です。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
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