オーケストラBGMの作り方|編成と役割をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
オーケストラBGMがそれらしく聞こえない原因の多くは、音源の性能ではなく、楽器の分担が決まっていないことにあります。
弦・木管・金管・打楽器という四つのグループには、それぞれ得意な音域と仕事があります。ここが分かると、たくさんのトラックを前にしても迷いにくくなります。
全楽器を最初から並べる必要はありません。
四つのグループの音域と役割、打ち込みを生らしくするベロシティと奏法の考え方、少ない声部から積み上げる編曲手順。この順で、8小節の形になるところまで整理します。
制作の軸
オーケストラBGMは「全員を鳴らさない」ことから始まります。
- 弦・木管・金管・打楽器の分担を先に決める
- 音域のすみ分けが濁りを防ぐ
- 生らしさはベロシティと奏法で作る
- 編曲は2声から積み上げる
四つの楽器グループと音域
編成は、まず4色の絵の具として捉えます。
オーケストラの編成は、細かく見れば数十の楽器ですが、入門の段階では弦・木管・金管・打楽器の四つのグループで十分です。それぞれ受け持つ音域と性格が違うので、四色の絵の具として使い分けます。
弦(ストリングス)は、低いコントラバスから高いバイオリンまで、四つの中で一番広い音域をカバーします。長く伸ばしても細かく刻んでも成立するため、BGMの土台はほぼ弦が支えます。
木管は中高域の細い線で、メロディの彩りや合いの手が得意です。
金管は中低域から中高域にかけての太い力で、鳴らすと一気に場面が大きくなります。打楽器は、音程のあるティンパニと、音程のないシンバルや太鼓に分かれ、節目の合図と迫力を担当します。
グループ分けと同時に覚えておきたいのが、実在の楽器には出せる音域の限界があることです。
ピアノロールではどの高さにも音を置けますが、コントラバスに高すぎる旋律、フルートに低すぎる持続音を任せると、音源は鳴っても嘘っぽく響きます。
迷ったら、その楽器が実際に活躍する高さの真ん中あたりを使います。
音域と役割の早見表
どの高さで誰が働くかを、先に決めておきます。
| グループ | 主な音域 | 得意な仕事 |
|---|---|---|
| 弦(ストリングス) | 低域から高域まで広い | 土台の持続、刻みの推進力 |
| 木管 | 中域から高域 | メロディの彩り、静かな場面の主役 |
| 金管 | 中低域から中高域 | 頂点の厚み、場面の格上げ |
| 打楽器 | 低域中心と金属系 | 節目の合図、迫力の底上げ |
役割は「主役・和音・低音・彩り」で割り振る
楽器名からではなく、仕事から考えます。
打ち込みを始める前に、いま作る8小節の中で、主役のメロディ、和音の持続、低音の支え、彩りの動き、という四つの仕事を誰に任せるかを決めます。
楽器から考えるより、仕事から考えるほうが速く決まります。
たとえば静かな場面なら、主役は木管、和音は弦の中域、低音はチェロとコントラバス、彩りはハープ風の分散音。
大きな場面なら、主役を金管に渡して弦は刻みに回す。同じ四つの仕事でも、配役を替えるだけで場面の温度が変わります。
注意したいのは、同じ音域に同じ仕事を重ねないことです。
弦の和音と金管の和音を同じ高さで同時に鳴らすと、豪華になるより先に団子になります。重ねる時は音域を上下にずらすか、片方を短い音にします。
和音の並べ方にも癖が出ます。ピアノの感覚で全部の音を中域に密集させると、オーケストラでは濁りやすくなります。
低い側の音同士は1オクターブほど離し、高い側は近づけて置く。同じコードでも、この並びにするだけで澄んで響きます。
打ち込みで生らしくする基本
機械っぽさの正体は、強さと奏法が一定なことです。
打ち込みのオーケストラが機械っぽく聞こえる一番の原因は、全部の音が同じ強さで鳴っていることです。
MIDIにはベロシティ(1音ごとの強さの値)があり、生の演奏では音ごとに必ずばらつきます。
フレーズの頂点に向かって少しずつ強く、区切りで弱く。この山を1本描くだけで、聞こえ方が変わります。
もう一つは奏法です。弦には、長く伸ばす、短く切る、弓を弾ませるなど複数の弾き方があり、多くの音源はこれを切り替えられます。全部を「長く伸ばす」だけで打ち込むと、のっぺりした壁になります。
動くフレーズは短い奏法、支える和音は長い奏法、という使い分けが基本です。
和音の発音をほんの少しずらすのも効きます。生の演奏では、数十人の奏者が完全に同時に音を出すことはありません。
打ち込みでも、和音の各音の開始位置をごくわずかに前後させると、機械的な硬さが和らぎます。やりすぎるともたって聞こえるので、聞いて分からない程度にとどめます。
細かいテクニックを覚える前に、ベロシティの山と奏法の使い分けの2つだけで一度8小節を作ってみてください。生らしさの大半はここで決まります。
少ない声部から始める編曲手順
2声から始めて、8小節を積み上げます。
いきなり全部のパートを書こうとすると、必ず手が止まります。声部(同時に動く独立した線)を2つに絞ったところから始めます。
積む順番にも指針があります。レッスンで使っている判断メモに「低い音域から高い音域へ順番に聞くとバランスを取りやすい」というものがあります。
編曲でも同じで、低音から上へ積むと、途中のどの段階でも響きが濁っていないかを確認しながら進められます。
- 低音の声部を置く。チェロとコントラバスで、コードの根音を8小節、長い音で支える。
- 主役の声部を置く。木管か弦の高域で、2〜4小節単位の短いメロディを乗せる。
- この2声だけで一度聞く。低音と主役がぶつかっていなければ、骨格は成立している。
- 弦の中域で和音を足す。長い奏法で、ベロシティは主役より下げる。
- 節目に打楽器を1〜2発。小節の頭やフレーズの切れ目だけに置く。
- 余裕があれば彩りを1つ。ハープ風の分散音や木管の合いの手を、隙間にだけ入れる。
金管はこの8小節に入れなくて構いません。曲が大きくなる場面まで取っておくと、登場した時の効果が大きくなります。
全員が最初から鳴っている編曲より、後から加わる余地を残した編曲のほうが、BGMとしては長持ちします。
ミックスで見る一点
音量差をつぶさないことが、オーケストラらしさを守ります。
このジャンルのミックスで最初に守るのは、強弱の幅です。
静かな場面と大きな場面の音量差こそがオーケストラの魅力なのに、コンプレッサー(音量差を自動でならす道具)を強くかけると、その差が消えて平らな音になります。
まずはフェーダーの上げ下げだけで、主役が一番手前に聞こえる状態を作ります。音量をそろえる処理は、曲の強弱を耳で確認した後に、必要な分だけかけるようにします。
もう一つ、リバーブはホールの空気を作る道具として1つだけ用意し、全パートを同じ空間へ送ると、別々の音源を混ぜていても同じ場所で鳴っている感じが出ます。
仕上げに迷ったら、制作工程マップでいまの工程を確認してから手を動かしてください。
よくある疑問
高価な音源がないと作れませんか
始める段階では、DAW付属のオーケストラ音色で十分です。役割分担とベロシティの考え方は、どの音源でも同じように効きます。音源のグレードは、作りたい方向が見えてから上げれば間に合います。
楽譜が読めなくても作れますか
作れます。ピアノロールでも、低音・和音・主役・彩りの4つの仕事は組めます。ただし各楽器が出せる音域の外に音を置くと不自然になるので、音域の目安だけは手元に置いてください。
何声部まで増やしていいですか
8小節の練習では4〜5声部までで十分です。増やすほど豪華になるわけではなく、管理できる範囲で音域を分けるほうが、結果として大きく聞こえます。
打ち込みが平坦に聞こえます
ベロシティが一定になっていないか確認してください。フレーズごとに強弱の山を1本描き、支えの和音は主役より弱くします。奏法が全部「長く伸ばす」だけになっていないかも合わせて見ます。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
声部の積み方が分かったら、低音とリズムの土台を鍛える記事へ進みます。