90年代J-POP風楽曲の作り方|懐かしい歌ものをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
90年代のJ-POPには、今の曲とは少し違う「歌が真ん中にある堂々とした作り」があります。
誰もが知っているコード進行を隠さずに使う。Bメロでしっかりためる。最後のサビで転調して、もう一段だけ高く持ち上げる。
あの懐かしさの正体は、古い機材ではなく、こうした曲の骨組みにあります。
だからDTMで再現するときは、音色を古びさせることより、構成とアレンジの選び方を当時に寄せるほうがよく効きます。
ここでは90年代らしさを作る要素を四つに分けて、BPMと8ビートの感じ方、イントロにサビメロを置く構成、懐かしさを出すアレンジの選択まで、DAW上の作業に落として整理します。
先に見ること
90年代J-POPらしさは、音色より先に四つの骨組みで決まります。
- 王道コード進行を隠さず堂々と使う
- 最後のサビで半音〜全音上げる転調
- 生バンドの編成にシンセを重ねる折衷
- Bメロをしっかり作り込んでサビまでためる
90年代らしさを作る四つの要素
音色を探す前に、時代感がどこから来るのかを分解します。
90年代風の曲を作ろうとして、まず古そうなシンセの音を探し始める人は多いです。ただ、音色だけ当時風にしても、曲の作りが今風のままだと、なぜか懐かしく聞こえません。
逆に、骨組みが90年代なら、手持ちの音源のままでもそれらしく響きます。
時代感を支えている骨組みは、大きく四つに分けられます。一つ目は、コード進行の使い方です。よく知られた王道の進行を、照れずに正面から鳴らします。
二つ目は、サビ転調。曲の最後でキーごと持ち上げる、あの高揚感です。
三つ目は、生バンドとシンセの折衷。ドラム、ベース、ギターというバンドの形の上に、シンセやストリングスを重ねます。
四つ目は、Bメロの充実です。AメロとサビをつなぐBメロが、今の曲より長く、丁寧に作られていました。
この四つは、どれもDAWの上で再現できる「作業」です。特別な機材も、当時のスタジオも要りません。順番に見ていきます。
四つの要素をDAWの作業に変換する
要素ごとに、何を置いて何を聞くかを一覧にします。
| 要素 | DAWでやること | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 王道コード進行 | キーCならF-G-Em-Amなどを4小節に置く | ひねらず、進行そのものを主役級に鳴らせているか |
| サビ転調 | 最後のサビの直前で全トラックを半音〜全音上げる | 歌の最高音がまだ出せる高さに収まっているか |
| 生バンド+シンセ | ドラム・ベース・ギターの上にストリングスやパッドを重ねる | バンドだけで曲が成立した上で足せているか |
| Bメロの充実 | Aメロと違うコードから始めて8小節かけて持ち上げる | サビ直前が一番「ためた」状態になっているか |
| イントロ | サビのメロディを楽器に演奏させて冒頭に置く | 歌が始まる前にサビの顔が一度見えているか |
王道進行は堂々と使う
ひねりを入れるより、正面から鳴らすほうが当時らしくなります。
90年代の歌ものらしさの中心は、コード進行の「堂々とした使い方」です。王道進行と呼ばれるIV-V-iii-vi、キーCならF-G-Em-Amという流れは、当時のヒット曲の型として広く使われました。
ほかにも、C-G-Am-Em-F-C-F-Gと下っていくカノン進行系や、Am始まりで切なさを出す形が定番です。
大事なのは、これを「ベタだから」と崩さないことです。今の曲は、王道進行を使うにしても、途中を差し替えたり、コードを省略して響きを軽くしたりする傾向があります。
90年代風にしたいなら逆です。4小節を丸ごと王道のまま、ピアノやギターでしっかり全部の音を鳴らします。
省略しない、照れない。この判断だけで、かなり時代の空気が変わります。
打ち込むときは、コード1つを1小節、白玉(小節いっぱい伸ばす音)で置くところから始めてください。サビだけはコードチェンジを2拍ごとに増やすと、密度の差でサビが立ちます。
まだメロディがなくても、進行を聞くだけで「サビになりそうな場所」が感じられたら成功です。
テンションを足すなら、Bメロやサビ終わりに少しだけにします。全部のコードを飾ると都会的になりすぎて、狙っている素直な懐かしさから離れていきます。
サビ転調の入れ方
最後のサビを半音か全音上げるだけで、あの高揚感が出ます。
90年代のJ-POPを象徴する仕掛けが、最後のサビでの転調です。曲の終盤、ラストのサビに入る瞬間にキー全体が半音か全音上がる。
同じメロディなのに、景色が一段明るくなったように聞こえます。当時の歌ものでは定番中の定番でした。
DAWでの作業は単純です。最後のサビのブロックを丸ごと複製し、全トラックのMIDIノートを半音(+1)か全音(+2)だけ上へ移動します。ドラムはそのままで構いません。
転調の直前に、ドラムのフィルや全楽器が一瞬止まるブレイクを入れると、切り替わりが自然になります。
注意点は歌の音域です。転調後はメロディの最高音も一緒に上がります。
歌を入れる予定があるなら、転調後の最高音が出せる高さかを先に確認してください。全音上げてきつい場合は、半音に抑えるだけでも効果は十分あります。
また、転調は1曲に1回で足ります。何度も上げると、ありがたみが消えて疲れる曲になります。
一番盛り上げたい最後のサビに取っておく。この我慢も含めて90年代の作法です。
生バンドとシンセの折衷、Bメロの充実
バンドの形を先に成立させ、その上にシンセを重ねます。
90年代のサウンドは、打ち込みだけでも生演奏だけでもありません。ドラム、ベース、エレキギターという生バンドの編成が土台にあり、その上にシンセのパッドやストリングス、ピアノが重なる折衷でした。
DTMで組むときも、この順番を守ります。まずバンドの3点だけで8小節が成立するか。成立してから、シンセを「風景」として薄く足します。
シンセを先に厚く敷いてしまうと、全体がのっぺりして、どの時代でもない音になります。
バンドが主役、シンセは背景。この主従がはっきりしているほど、当時の質感に近づきます。
もう一つ、構成面で当時らしさを支えていたのがBメロの充実です。今の曲はサビまで最短距離で行く傾向がありますが、90年代はAメロとサビの間に、しっかり8小節のBメロを置くのが普通でした。
Aメロとは違うコードから始めて、メロディの音域を少しずつ上げ、サビの直前で一番「ためた」状態を作ります。
Bメロで試してほしいのは、ベースの動きを変えることです。Aメロでルート音を淡々と弾いていたベースが、Bメロで歩くように動き出すと、それだけで曲が前のめりになります。
サビ直前の1〜2拍を全楽器で空ける「ため」も、当時の定番の呼吸です。
BPMと8ビートの感じ
速さの数字より、8ビートに歌が乗る感覚で決めます。
90年代の歌ものの多くは、8ビートを土台にしています。8ビートとは、ハイハットが1小節に8回、キックとスネアがドン・タン・ドド・タンのように交互に鳴る、最も基本的なロック系のリズムです。
細かく刻む今風の16ビートに比べると、歩幅が大きく、どっしり前に進む感じがします。
ドラムを置くときは、譜面から考えるより、口で言えるリズムから置くほうが止まりません。レッスンで使っている判断メモにも「ドン、タン、ツツツのように口で言える形を、キック、スネア、ハイハットへ置き換える」というものがあります。
8ビートはまさに口で歌える代表格です。ドン・タン・ドン・タンと言いながら、そのままピアノロールに置いてください。
BPMは、テンポの数字を先に決め打ちしないでください。8ビートを4小節ループさせ、その上でサビにしたいメロディを鼻歌で歌います。
言葉が気持ちよく収まり、伸ばす音がちゃんと伸びられる速さが、その曲のBPMです。迷ったら10ずつ上下に動かして聞き比べます。
速くすると勢いは出ますが、歌の伸びが苦しくなる境目があります。その手前で止めるのが、歌を主役にする90年代の感覚です。
バラードに寄せるなら遅め、応援歌のような突き抜けた曲なら速め。ただしどちらでも、リズムの土台は8ビートのまま保つと時代感が揺れません。
イントロにサビメロを使う構成
冒頭でサビの顔を先に見せるのが、当時の定番構成です。
90年代のJ-POPには、構成にもはっきりした特徴があります。イントロで、サビのメロディを楽器が先に演奏するのです。
ギターやシンセ、ストリングスがサビのメロディをワンフレーズ聞かせてから、Aメロの歌が始まる。テレビやラジオで冒頭の数秒しか流れなくても、曲の一番おいしい部分が耳に残る作りでした。
DAWでの手順は簡単です。先にサビを作ってしまい、そのメロディのMIDIをイントロ位置へコピーして、歌ではなく楽器の音色に差し替えます。丸ごとでなくても、サビの前半4小節か、一番印象的な2小節だけでも機能します。
コツは、イントロと本物のサビで厚みを変えることです。イントロは楽器数を絞って軽めに、本物のサビでは全楽器で厚く。
同じメロディが二度出てくるのに、後のほうが大きく聞こえるので、くどさではなく期待感になります。
この構成には、制作上の利点もあります。サビメロさえできればイントロが自動的に決まるので、「イントロが思いつかない」という停止が起きません。
作る順番は、サビ、Bメロ、Aメロ、イントロの逆順で構わないのです。
懐かしさを出すアレンジの選択
何を足すかは、当時の曲をリファレンスにして決めます。
骨組みができたら、仕上げのアレンジで懐かしさを重ねます。選択肢はカテゴリで覚えてください。
サビの後ろで長い音を弾くストリングス。Bメロやサビ裏で細かく動くピアノ。サビの繰り返しで歌に重なるコーラス(ハモリ)。
間奏で歌の代わりに主役を取るギターソロ。どれも90年代の歌ものを支えていた道具です。
全部を入れる必要はありません。ここで効くのが、レッスンでも使っている判断メモです。「リファレンスは真似るためだけではなく、どんな楽器を使うか、どこで密度が上がるか、どこで休むかを決める材料になる」。
90年代風に作りたいなら、当時の好きな曲を1曲だけ選び、コピーではなく観察をします。
サビで何の楽器が増えるか。2番のAメロで何が抜けるか。間奏は何小節か。それをメモして、自分の曲の設計図にするのです。
観察すると気づくはずですが、当時のアレンジは意外と隙間があります。Aメロはベースとドラムとギター1本くらいで、歌の言葉がはっきり聞こえます。サビで一気にストリングスとコーラスが入る。
この落差こそが懐かしい「盛り上がり方」の正体で、常に全部鳴らしてしまうと消えてしまいます。
最後にもう一度だけ整理すると、90年代らしさは、王道進行を堂々と、Bメロでためて、最後のサビで転調し、バンドの上にシンセを薄く重ねる、この骨組みで決まります。
まずは8小節、王道進行と8ビートだけで土台を作り、そこからサビ、Bメロ、イントロへと広げてください。1曲を通した工程の全体像は、制作工程マップで確認しながら進めると迷いません。
よくある疑問
当時の機材やシンセがなくても90年代らしくなりますか
なります。時代感の多くは音色より、王道コード進行の使い方、Bメロの充実、サビ転調といった曲の骨組みで決まります。手持ちの音源のまま、構成から寄せてください。
サビ転調はどこに入れるのが基本ですか
最後のサビの直前が定番です。キー全体を半音か全音上げると、同じメロディがもう一段高く輝いて聞こえます。まず一番最後のサビだけで試してください。
BPMはいくつにすればいいですか
決まった正解はありません。8ビートに乗せて鼻歌でサビを歌い、言葉が気持ちよく収まる速さを探します。10ずつ変えて聞き比べると、曲に合う速度が見つかります。
イントロはサビメロをそのまま使っていいですか
構いません。サビのメロディを楽器に置き換えてイントロで先に聞かせるのは、90年代によく使われた構成です。歌のサビとは音色と厚みを変えると、くどくなりません。
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