シティポップの作り方|コードとグルーヴをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
夜の街を走る車から聞こえてきそうな、都会的で少し切ないポップス。シティポップを作ってみると、「おしゃれなコードを調べて並べたのに、なぜか野暮ったい」という壁にぶつかります。コードだけ真似ても、あの空気にならないのです。
らしさの正体は、セブンス系コードの響きと、タイトなグルーヴの掛け算です。どちらか片方では成立しません。難しい理論の言葉を使わずにコードの響きを耳で覚える方法から、リズムの締め方、歌うベースライン、エレピとカッティングの役割分担、8小節を組む手順までまとめます。
先に見ること
シティポップは、響きとリズムの掛け算で組みます。
- らしさ=セブンスの響き×タイトなグルーヴ
- コードは名前より響きで覚える
- ベースは小節の後半だけ動かして歌わせる
- BPM95〜110、100前後が入口
らしさはコードとリズムの掛け算
片方だけ真似ると、必ず野暮ったくなります。
シティポップ風にならない曲には、はっきりした共通点があります。コードは洒落ているのにリズムがゆるい、またはリズムは締まっているのにコードが普通、のどちらかです。
夜景の写真にたとえると、コードは構図で、グルーヴは光です。どちらが欠けても、あの都会の空気は写りません。
これは逆に言えば、朗報でもあります。ビンテージ風の高い音源を集めなくても、コードの選び方とリズムの締め方という、お金のかからない2点を押さえれば、DAW付属の音色でもシティポップに聞こえるということです。
作る順番もこの2本柱に沿います。まずコードの響きを4つ覚え、次にリズムの隙間を締め、それからベースと上物に役割を配る。
音色選びは最後で間に合います。
セブンスコードを響きで覚える
名前は後回しで、まず4種類の表情を聞き分けます。
シティポップのコードの主役はセブンスです。仕組みは単純で、ドミソのような3音の和音に、もう1音足して4音にしたものです。
この1音が加わるだけで、響きに「切なさ」や「奥行き」の膜が1枚かかります。難しく考えず、表情の違う絵の具が増えると思ってください。
覚えるのは4種類の表情です。
Cmaj7(ドミソシ)は、明るいのにどこか切ない、夕方の空のような響き。
Am7やEm7のようなマイナーセブンスは、悲しみすぎない大人の暗さ。G7のようなセブンスは、次のコードへ進みたくてうずうずする響き。
そしてこれらをつなぐと、Fmaj7→G7→Em7→Am7のような、シティポップの定番の流れになります。
練習はピアノロールで十分です。CとCmaj7を交互に鳴らして、景色が変わる瞬間を耳で確認する。
知っている進行のコードを片っ端からセブンス化して聞き比べる。名前の暗記はその後で自然についてきます。
テンションはひとつまみ
にじみは、全部に足すとぼやけます。
セブンスに慣れたら、さらにもう1音足した響きも試せます。9th(ナインス)と呼ばれる音で、Cmaj7にレを足すような形です。
響きの印象は、ネオンの光が雨ににじむ感じ。セブンスより甘く、少しぼんやりした膜がかかります。
ただし、この種の音は料理の香辛料と同じで、全部のコードに足すと味がぼやけます。
使いどころは、イントロの1発目や、サビ直前の1〜2か所。ここぞという場面だけに置くから、にじみが効きます。
判断基準は名前ではなく耳です。足してみて、豊かになったと感じれば残す。
濁った、もやっとしたと感じれば抜く。理屈の上で正しい音でも、その曲で濁って聞こえるなら、その曲では不正解です。
タイトなグルーヴの作り方
音の終わりを揃えると、リズムが締まります。
コードの次はリズムです。制作のレッスンでは、コードや音色よりリズムが変わることで曲の印象が大きく変わる、ドラムを適当に置くと曲全体が平坦に聞こえやすい、という判断を軸にしています。
シティポップではこの差が特に残酷に出ます。
タイトとは、速いことではなく、音の始まりと終わりが揃っていて、音と音の隙間がくっきり見えることです。
打ち込みでまず効くのは、音の終わり側です。
キックとベースの音の長さを揃えて、伸びっぱなしの低音をなくす。ハイハットは短めの音を選び、リバーブのような残響をリズム隊に深くかけない。
隙間が見えるほど、グルーヴは締まります。
その上で、ハイハットに強弱の波を付けます。8分で均等に並べたら、表の拍を少し強く、裏を少し弱く。
機械のような均一さが取れて、体が揺れる側のリズムに変わります。16分のおかずを足すのは、この土台が締まってからです。
動くベースラインの入口
前半は支えて、後半だけ歌わせます。
シティポップのベースは、土台でありながら第二のメロディでもあります。
ルートを白玉で伸ばすだけのベースでは、あの推進力は出ません。かといって最初から全編動かすと、曲の底が抜けます。
入口のルールはこれだけです。小節の前半はルートで支え、後半だけ動かす。動きの型は2つで足ります。
- 1つはオクターブ上へ跳ぶ動き。同じ音名なので外す心配がなく、跳ねた勢いだけが加わります。
- もう1つは、次のコードの音へ向かって1〜2音で歩く動き。コードの変わり目がなめらかにつながり、ベースが道案内をしているように聞こえます。
もう1点、キックとの関係を決めておきます。キックが鳴る場所ではベースも同じタイミングで鳴らし、長さも合わせる。
低音の2人が同じ足取りで歩くと、リズム全体が1本の芯にまとまります。
エレピとカッティングの役割
2人の仕事がかぶらないように配ります。
上物の主役は2人です。1人目はエレピ(エレクトリックピアノ。ベルのような丸い音の鍵盤)。
仕事はコードの響き担当で、セブンスの4音を白玉やゆったりした刻みで鳴らします。あの甘い膜のかかった和音の質感は、エレピの音色とセブンスの組み合わせから生まれます。
2人目はカッティングギター。「チャカ」という短く歯切れのいい音で、16分音符の隙間を刻むリズム担当です。
和音を聞かせるというより、パーカッションの仲間だと考えたほうが置き方を間違えません。
大事なのは、2人の仕事を分けることです。エレピが細かく刻み始めると、カッティングの入る隙間がなくなり、中域が団子になります。
エレピは長く、ギターは短く。響き係とリズム係を分業させると、音数が少なくても密度のある8小節になります。
楽器と役割の早見表
迷ったら、誰の仕事か分からない音を削ります。
| 楽器 | 役割 | 置き方の目安 |
|---|---|---|
| ドラム | タイトな土台 | 短めの音色で隙間を見せる。フィル控えめ |
| ベース | 土台+第二のメロディ | 前半ルート、後半だけ動く |
| エレピ | コードの響き係 | セブンスを白玉〜ゆったりの刻みで |
| カッティングギター | 16分のリズム係 | 短く歯切れよく、隙間を刻む |
| 歌 | 主役 | コードの音を中心に、余裕のあるメロディ |
BPMの目安
歩く速さのミドルテンポに収めます。
テンポはBPM95〜110を目安に、迷ったら100前後から始めます。
夜の街を歩くくらいの、急がないミドルテンポです。この速さだと、16分のカッティングが詰まらずに刻め、ベースの動きにも余裕が残ります。
110を超えると、せっかくの大人の余裕が慌ただしさに変わり始めます。逆に95を下回ると、気だるさが勝ってバラード寄りの温度になります。
どちらが悪いわけではありませんが、最初の1曲は真ん中の帯で作るほうが判断しやすくなります。
最終判断は数字ではなく歌です。仮の歌メロを乗せて、言葉が転がりすぎず、間延びもしない速さへ数BPMずつ寄せて決めてください。
最初の8小節の手順
今日そのまま打ち込める順番にしておきます。
- BPMを100に設定し、Fmaj7→G7→Em7→Am7を1小節ずつ2周、メモとして置く。
- エレピ系の音色で、セブンスの4音を白玉で置き、響きのつながりを確認する。
- ドラムを置く。キックとスネアの骨格を先に決め、ハイハットは短めの音で8分。表を強く裏を弱く。
- ベースを入れる。各小節の前半はルート、4小節目と8小節目の後半だけ、オクターブ跳びか次のコードへ歩く動きを入れる。
- 2周目からカッティングギターを足し、エレピは白玉のまま我慢する。
- 書き出してスマホで聞く。平坦に感じたら、音を足す前に、キックとベースの長さを揃えて隙間を締める方向から直す。
この8小節が回り始めたら、シティポップの2本柱は手の中にあります。あとはAメロからサビへの展開づくりですが、その足し引きの設計は曲全体の地図があると迷いません。
制作工程マップで自分の現在地を確かめながら進めてください。
よくある疑問
コード理論が分からなくても作れますか
作れます。セブンスは「三和音にもう1音足した4音の和音」とだけ理解して、CをCmaj7に差し替えて響きの違いを耳で覚えるところから始められます。
古い音色を使えばシティポップになりますか
なりません。土台はセブンス系のコードとタイトなグルーヴで、音色は仕上げの味付けです。今風の音色でも、この2つが揃えばらしく聞こえます。
ベースを動かすのが難しいです
小節の前半はルート、後半だけ動かすと決めてください。オクターブ跳びと、次のコードへ歩く動きの2つだけでベースが歌い始めます。
BPMはいくつにすればいいですか
95〜110が目安で、100前後が入口です。仮の歌メロを乗せて、言葉が転がりすぎない速さへ寄せて決めます。
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