ジャズヒップホップの作り方|コードとビートをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ジャズヒップホップの気持ちよさは、整った演奏からは生まれません。少しヨレたビートと、白黒つかない曇ったコードの響き。
この2つが合わさると、同じ4小節が回っているだけなのに、なぜか聞き飽きないループになります。
用意するのはDAWと付属音源だけで足ります。BPMを決め、セブンス系のコードを2つ置き、ドラムを正確に打ってからわざと崩し、ベースで底を支える。
最後に音を少し古びさせて、8小節のループとして完成させます。その手順を順番に説明します。
先に見ること
ジャズヒップホップは「曇ったコード×ヨレたビート」のループ音楽です。
- BPMは80〜95が目安。まず90で
- コードはm7とmaj7の2つから始める
- ドラムはクオンタイズを緩めてヨレを残す
- 仕上げに高域を削り、質感を古びさせる
ループで聞かせる音楽
場面転換ではなく、繰り返しの心地よさで聞かせます。
ポップスは、Aメロからサビへ向かって場面が変わっていく音楽です。ジャズヒップホップは発想が逆で、同じ4小節が回り続けること自体が快感になります。
だから最初に作るのは曲の展開ではなく、何周聞いても飽きない短いループです。
飽きないループには条件が2つあります。
1つは、コードに適度な濁りがあること。すっきり解決しない響きは、繰り返しに耐えます。
もう1つは、ビートが機械のように揃いすぎていないこと。毎周わずかに違って聞こえる揺れが、ループを生き物にします。
この2つを、コードの選び方とドラムの崩し方という具体的な作業に置き換えて、順番に組んでいきます。
よく似たジャンルにLo-Fi HipHopがありますが、軸足が違います。Lo-Fiは古びた質感と聞き流せる心地よさが主役なのに対し、ジャズヒップホップはジャズ由来のコードワークと、生演奏のようなニュアンスの反復が主役です。
だからこの記事では、質感の加工は仕上げの一工程にとどめ、コードの響きと演奏の呼吸を中心に組み立てます。
BPMの目安
頭が自然に揺れる速さを探します。
ジャズヒップホップは、80〜95あたりのBPMで作られることが多いジャンルです。迷ったら90に設定してください。
この速さには理由があります。テンポが速いと、この後で作るドラムの細かいずれが詰まって聞き取れなくなります。逆に遅すぎると、同じずれがだらしなく聞こえます。
80〜95は、わずかな揺れが「ノリ」として耳に届く範囲です。
4小節できたら、頭を軽く振りながら再生してみてください。
首の動きが無理なく追いつく速さが、その曲にとっての正解です。数字を守ることより、体で確かめることを優先します。
セブンス系コードの響き
3つの音でなく4つの音で鳴らすと、一気にジャズの色になります。
CやAmのような3和音は、明るい、暗いがはっきりした響きです。ジャズヒップホップで使うのは、そこに音を1つ足した4和音、いわゆるセブンス系のコードです。
Cmaj7ならド・ミ・ソ・シ。Dm7ならレ・ファ・ラ・ド。足された1音が、白黒つけない少し曇った響きを作ります。
この曇りこそがループ向きの性質です。明るいとも暗いとも言い切らない響きは、答えを保留したまま次の周回へ進めるので、何度繰り返しても聞き手を退屈させません。
進行はコード2つで十分です。たとえばDm7とCmaj7を2小節ずつ。
エレクトリックピアノ系の音色で、1小節に1〜2回、短めに置きます。鳴らしっぱなしにせず、コードとコードの間に空白を残すのがコツです。
置く高さは鍵盤の中央付近に集めます。低すぎるとベースと濁り、高すぎると響きが痩せます。
生っぽいドラムのヨレ
正確に打ってから、わざと崩します。
打ち込みのドラムは、そのままだと定規で引いた線のように正確です。このジャンルでは、その正確さを少しだけ壊します。
人が叩いたときの揺れ、いわゆるヨレを再現するためです。
パターン自体は単純で構いません。キックを「ドッ・ド」、スネアを2拍目と4拍目に「タン」。ハイハットは8分か16分で刻みます。
まずはクオンタイズ(音の位置を拍にぴったり揃える機能)をかけた正確な状態で4小節作ります。
そこから崩し方は3つです。①クオンタイズを100%かけず、手弾きのずれを少し残す。
②スネアだけ、拍のジャストからほんの少し後ろへずらす。もたって聞こえる寸前が狙い目です。
③ハイハットのベロシティ(音の強さ)を1音ずつばらけさせる。
崩しすぎの見分け方は簡単です。ずらしたことがはっきり分かるなら、ずらしすぎです。
聞いてぎりぎり気づかないくらいの量が、心地よいヨレとして働きます。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
崩しすぎの見分け方を、音で置いておきます。3本ともBPM90・同じパターンで、ずらす量だけが違います。
定規で引いた線のような正確さです。ここが出発点になります。
言われないと気づかない程度です。この音源ではこれを「わずかに後ろへ寄った例」としています。適量は音色や曲で変わるので、数値そのものを覚えないでください。
ずらしたことがはっきり分かります。こうなると、ヨレではなく演奏が転んでいるように聞こえます。
条件:BPM 90/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。3本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
②と③を続けて聞いてから①に戻ると、自分の狙いがどのあたりか決めやすくなります。迷ったら②より少なめから始めてください。
ベースは短く丸く
ヨレる上ものの下で、土台だけは揺らしません。
ベースはウッドベースのような丸く太い音色を選びます。
動きは控えめで構いません。各小節の1拍目にコードのルート音(Dm7ならレ)を置き、長さは1拍前後で切ります。
動かすのはコードが変わる直前だけです。次のルート音へ向かう音を1〜2個はさむと、ループのつなぎ目が滑らかになります。
ドラムをヨレさせている分、ベースまで揺らすと曲全体の足元が崩れるので、ベースは比較的正確な位置に置いたままにしておくのが安全です。
サンプルっぽい質感
新品の音を、少しだけ古びさせます。
ここまでの音は、打ち込んだままだとデジタルで新品の音です。ジャズヒップホップらしくするには、古いレコードから切り出してきたような質感、つまりサンプルっぽさを足します。
DAW付属のエフェクトだけでできます。①EQ(音質を整えるエフェクト)でコードとドラムの高い成分を削る。
②ピッチをごく浅く揺らすエフェクトがあれば、コードにうっすらかける。③ビニールノイズ風の素材や小さなヒスノイズを、聞こえるか聞こえないかの音量で敷く。
大事なのは、全部を同じだけ古びさせないことです。とくにスネアの輪郭まで削ると、ビート全体がぼやけて眠くなります。
質感処理はコードには深く、ドラムには浅く。この差のつけ方が、ぼやけたループと味のあるループの分かれ目です。
最初の8小節の手順
置く順番と、それぞれの目安です。
| 順番 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | BPMを設定 | まず90。頭の揺れで微調整 |
| 2 | コードを2つ置く | Dm7とCmaj7を2小節ずつ |
| 3 | ドラムを4小節 | 正確に打ってから3手順で崩す |
| 4 | ベースで支える | ルート音を1拍目に短く |
| 5 | 質感を古びさせる | 高域を削り、ノイズを薄く |
| 6 | 8小節へ広げる | 戻る小節と変える小節を決める |
| 7 | 書き出して確認 | 3周聞いて飽きないかで判定 |
6番で8小節へ広げる時の考え方として、レッスンで使っている判断メモに、1小節のパターンをそのまま繰り返すと機械的に聞こえやすい、A・B・A・C・A・B・A・Dのように戻る場所と変える場所を作ると8小節の流れになる、というものがあります。
Aを基本の小節にして、BやCではハイハットを1カ所抜く、コードを弾く位置を半拍ずらす、程度の小さな差で十分です。
同じものが回り続けるループ音楽だからこそ、この「ほぼ同じだけど毎周少し違う」という設計が一番効きます。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | ヨレたドラムとコードだけ。ずらす量をここで決めてしまう |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | ハイハットを8分と16分で行き来させる。ずらす量は変えない |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | ウワモノを1つ足す。ドラムのヨレに合わせて、こちらも少しだけ後ろへ |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | 3〜4分。ソロを入れるなら1コーラスだけ、伴奏は薄いまま |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目でライド代わりのハットが強くなり、13〜14小節目でキック以外が消えます。ヨレの量は最後まで変えていません。変えたのは音量と抜き差しだけです。
条件:BPM 90/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
構成とミックスの注意
曲に伸ばす時も、素材はループのまま抜き差しします。
1曲の長さに伸ばす時も、新しい展開を書き足す必要はありません。ループを回したまま、パートの出入りで場面を作ります。
最初の8小節はドラムとベースだけ。次の8小節でコードが入り、その次に短いピアノフレーズのような上モノが乗る。足し算と引き算の繰り返しが、そのまま構成になります。
ミックスで注意したいのは、コードの下側とベースのかぶりです。エレクトリックピアノ系の音色は、左手側の低い音が思った以上に太く、ベースの帯域まで届きます。
濁って聞こえたら、コードの一番下の音を1オクターブ上げるか、EQでコードの低域だけを軽くして、低い場所はベースに任せてください。
3周聞いても飽きないループができたら、この曲の心臓部は完成です。あとはどのジャンルとも共通の、並べて仕上げる工程に進みます。全体の流れは制作工程マップで確認できます。
フレーズをどこから持ってくるか
弾き直せば済む場面が、このジャンルでは特に多いです。
ジャズの手癖を借りたくなるジャンルです。ここで知っておくと得なのが、曲そのものの権利と、その演奏を録音したものの権利が別だということ。古いスタンダード曲の楽曲としての権利が切れていても、名盤の音源を切り出して使うことはできません。録音した側の権利が残っているからです。
逆に言えば、自分で弾けば止まる理由がありません。このジャンルで欲しいのはたいてい、テンションの乗ったコードと、少しよれた弾き方です。7thと9thを足して、右手を8分でなく少し後ろに置く。それだけで雰囲気は出ますし、音量もキーも後から自由に動かせます。
鍵盤が弾けないなら打ち込みで構いません。同じ和音を、1小節に1回・4回・8回と押し方を変えるだけで表情が変わります。うまさより、どこで音を止めるかのほうが効きます。
サンプルパックを買う場合は、購入した素材を曲に混ぜて発表するのは原則できますが、素材のまま配ったり売り直したりはできません。規約は素材ごとに違うので、買った時のページを保存しておきます。
| 素材の出どころ | 公開できるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 自分で弾く・打ち込む | 問題なく公開できる | うまさより止め方で決まる |
| 購入したサンプルパック | 曲に混ぜての発表は原則できる | 素材のままの再配布は不可 |
| フリー配布の楽器素材 | 利用条件しだい | 商用可否とクレジット表記 |
| 名盤の音源を切り出す | 許諾なしでは公開できない | 曲が古くても録音の権利は別 |
ここに書いたのは制作の現場で使っている目安で、法律の判断ではありません。 配信やCD、ビートの販売などお金や公開が絡む段階では、権利元か詳しい人に確認してください。
よくある疑問
ジャズヒップホップのBPMはいくつにすればいいですか
80〜95あたりが目安です。まず90で4小節を作り、頭を振りながら聞いて、首の動きが自然に追いつく速さへ微調整します。速すぎるとドラムのヨレが潰れ、遅すぎるとだらしなく聞こえます。
コードは何を覚えればいいですか
最初はm7とmaj7の2種類で十分です。たとえばDm7とCmaj7を2小節ずつ並べるだけで、ジャンルらしい曇った響きのループになります。
ドラムのヨレはどうやって作りますか
クオンタイズを100%かけずに手弾きのずれを残す、スネアを拍のジャストから少しだけ後ろへずらす、ハイハットのベロシティを1音ずつばらけさせる、の3つで作れます。ずらしたと分かるなら量が多すぎです。
サンプリングしないと作れないジャンルですか
打ち込みだけでも作れます。EQで高い成分を削り、コードに浅いピッチの揺れをかけ、ノイズを薄く敷くと、古い音源から切り出したような質感に近づきます。
記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。
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