トラップビートの作り方|808とハイハットをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
トラップビートの中心は、808と呼ばれる長い低音です。キックの役割とベースの役割を、この一つの音が兼ねます。そのため、他のジャンルと同じ感覚でベースを別に作ると、低音がぶつかったり、逆にスカスカになったりします。
組む順番は、テンポ、ドラム、808、上物です。細かく刻むハイハットと、疎らに置くキックとスネアで骨組みを作り、808で床を張り、最後に短いフレーズを乗せます。8小節が回れば、あとは同じ考え方で伸ばせます。
先に見ること
トラップは「密なハット×疎らなキックとスネア×808」の組み合わせで決まります。
- BPMは140前後、ノリは半分で数える
- スネアは各小節の3拍目に1発
- ハイハットは8分を土台に一部だけ連符
- 808はキックと兼ねる長い低音
BPMは140前後、ノリは半分で数える
数字は速いのに、聞こえ方はゆったりです。
トラップのBPMは130〜160くらいで作られることが多く、迷ったら140前後から始めます。ただし再生してみると、数字ほど速く感じません。スネアが2拍目と4拍目ではなく、3拍目に1回だけ入るからです。
この感じ方をハーフタイムと呼びます。体は1小節を大きな2拍のように感じるので、BPM140でも体感は70くらいのゆったりした揺れになります。
「数字は速い、体感は遅い」。これがトラップのテンポ感の正体です。
DAWのテンポを140にして、まずメトロノームだけを4小節鳴らしてください。「イチ、ニ、サン、シ」と細かく数えるより、「ゆーっくり2拍」で首を振れる感覚をつかんでおくと、この後のドラムがずっと置きやすくなります。
近いジャンルとの違い
数字が同じジャンルが並ぶので、ハイハットと808の動きで分かれます。
| ジャンル | BPMの目安 | 見分けるところ |
|---|---|---|
| この記事(トラップ) | 130〜160 | ハイハットは16分と3連ロール。808は同じ音程で伸ばすことが多い |
| ドリル | 140〜145 | 数字はほぼ同じ。808が音程を動き、ハイハットの割り方が違う |
| ヒップホップ | 85〜95 | 数字が半分。スネアは2拍目と4拍目に戻る |
| ダブステップ | 140前後(体感は70) | 同じハーフタイムでも、主役はワブルする低音 |
BPMはどれも目安で、実際には前後にかなり幅があります。 数字が重なっているジャンルは、数字では区別できません。 右の列に書いた「何が主役か」のほうを手がかりにしてください。
疎らなスネアと細かいハイハット
少ないキック、1発のスネア、密なハット。この密度差が骨格です。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や、実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
トラップのハイハットは「細かい」だけでは足りません。 BPM140で、ハイハットの刻み方だけを変えました。
骨格は合っているのに、トラップに聞こえません。間延びして感じます。
同じ曲が急にトラップになります。効いているのは常時16分ではなく、たまに入るロールのほうです。
条件:BPM 140/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
ロールは1小節に1回か、2小節に1回で十分です。 入れ続けると耳が慣れて効果が消えます。入れる場所は、次の小節へ渡す直前がいちばん効きます。
キックは4つ打ちにしません。1拍目に1発、そのあとは小節の途中に不規則に1〜2発だけ。
口で言うなら「ドン、(休み)、ドド、(休み)」のような、跳ねた置き方です。休みの多さがトラップらしさになります。
スネアかクラップは、各小節の3拍目に1発だけ置きます。ここは動かしません。まわりが疎らなぶん、この1発が小節の柱として強く聞こえます。
ハイハットは逆に細かく、8分音符で敷き詰めます。そして、ところどころを16分音符や3連符の細かい連発(ロール)に差し替えます。
口で言うと「ツ、ツ、ツ、ツ」の一部だけが「ツクツク」や「タラララ」に化けるイメージです。この刻みの変化が、ゆったりした土台の上に速度感を作ります。
ロールをどこに入れるか迷ったら、先に口で歌ってみてください。レッスンでも「歌えるものは打てる」という判断基準を使います。
口で気持ちよく言えたリズムはそのままピアノロールに置き換えられますし、口がもつれるほど詰め込んだ連符は、曲の中でもたいてい騒がしく聞こえます。
808はキックを兼ねる長い低音
ベースというより「音程のある床」だと考えます。
808は、短いアタックの後ろに低音が長く伸びる音です。専用の音源がなくても、DAW付属のシンセでサイン波(一番シンプルな丸い波形)を選び、音の切れ際(リリース)を長めにすれば代用できます。
置く場所はキックと同じ位置が基本です。キックの「ドッ」で輪郭を出し、808の伸びで低音を支える。二つで一つの楽器と考えると、配置に迷いません。
音程は、コードのルート音(和音の一番下の音)をなぞります。1〜2小節に1音で十分です。
動きを足したくなったら、コードが変わる直前に経過音を1音だけ。それ以上動かすと、床が揺れて他のパートの居場所がなくなります。
いちばん大事なのは音の長さです。次のキックが来る前に切るのか、つなげてうねらせるのか。
伸ばしっぱなしにすると低域が飽和して、どの音程を弾いているのか分からなくなります。長さを決めることが、808の打ち込みの半分を占めます。
コードは暗く、少なく
2つのコードの往復で成立します。
トラップのコードは、マイナー系の暗い響きが中心です。AmとFの往復、AmとGの往復のように、2つのコードを行き来するだけでもジャンルの空気になります。進行を凝るより、暗さを保つことを優先します。
音数も絞ります。伸ばした和音を高めの音域にうっすら置くくらいで十分です。低い音域は808の仕事なので、コードでは低音を重ねません。
明るいコードで組むと、同じドラムでもポップス寄りに聞こえてきます。まず暗い2コードで8小節を作り、物足りなければ3つ目を足す。この順番が安全です。
音色はDAW付属で足りる
ベル、プラック、暗いパッドの3種類を探します。
トラップの上物でよく聞こえるのは、オルゴールのような澄んだベル、短く減衰するプラック、うっすら敷く暗いパッドです。どれも追加購入は不要で、DAW付属シンセのプリセットを「Bell」「Pluck」「Pad」で検索すれば近い音が見つかります。
上物は1〜2音色に絞ります。ベルで2小節の短いフレーズを作り、それを繰り返すだけで主役が立ちます。
フレーズは長く作らず、一度聞いて口ずさめる長さに収めてください。覚えられる短さが、繰り返しに耐える強さになります。
トラップの骨格チェック
打ち込んだ後、この表で置き方を見直します。
| パート | 基本の置き方 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| キック | 1拍目+途中に不規則な1〜2発 | 4つ打ちにしてしまい別ジャンルの縦ノリになる |
| スネア | 3拍目に1発だけ固定 | 2・4拍目に置いてポップスのノリになる |
| ハイハット | 8分の土台+部分的に連符 | 全部を連符にして耳が疲れる |
| 808 | キックと同じ位置でルート音 | 伸ばしっぱなしで低域が濁る |
| 上物 | 2小節の短いフレーズを反復 | 長いメロディで主役が渋滞する |
構成は8小節ループの抜き差し
足すより、止める場所を決めます。
トラップの1曲は、8小節のループを土台に、パートの抜き差しで場面を変えるのが基本形です。
イントロは上物とパッドだけ。Aの部分でハイハットと808が入り、サビにあたる部分で全部が鳴る。素材は同じでも、鳴っている数で場面が変わります。
効果が大きいのは、盛り上げの直前に1拍から1小節だけ全部を止める「空白」です。
静けさの後に808が戻った瞬間の落差が、いちばんの盛り上がりを作ります。新しい音を足すより、止める場所を1か所決めるほうが効きます。
808とキックのかぶりに注意
低域の主役を1つに決めます。
トラップ特有のミックスの落とし穴は、キックと808が同じ低い音域で重なって、低音全体が濁ることです。両方の音量を上げても迫力は出ません。モワモワとした膨らみが増えるだけです。
対策は役割分担です。キックは出だしの「点」、808は伸びる「面」と決めて、どちらかの低域を控えめにします。二つが同時に鳴る瞬間だけ808を少し下げる、という整理の仕方も定番の考え方です。
仕上がりの確認は、スマホの小さいスピーカーでも行います。小さい環境でも808の音程がまだ聞き取れるなら、低域の整理はおおむね成立しています。
最初の8小節を作る手順
上から順に置けば、今日中に形になります。
- DAWのテンポを140にする。
- スネア(またはクラップ)を、8小節すべての3拍目に置く。
- キックを各小節の1拍目に置き、途中に1〜2発、口で「ドン、ドド」と歌ってから足す。
- ハイハットを8分音符で敷き、4小節に1か所だけ16分や3連符の連符に差し替える。
- サイン波のシンセを808代わりに、キックと同じ位置でルート音を置き、音の長さを整える。
- 暗い2コード(AmとFなど)を高めの音域にうっすら伸ばす。
- ベル系の音色で2小節のフレーズを作り、4回繰り返す。
- 書き出してスマホで聞き、次に直す場所を1つだけメモする。
この8小節は完成品でなくて構いません。ループが回っていれば、抜き差しで1曲へ広げる入口に立っています。ビートの先、曲全体をどう完成させるかは、制作工程マップで順番を確認してください。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | 808とハイハットだけ。スネアは3拍目に1つ |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | ロールを入れる位置を変える。毎小節ではなく2小節に1回 |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | フック8小節とバース16小節を作り分ける。バースは上モノを1つ減らす |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | イントロ→バース→フック→バース→フック。3分前後 |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目でロールが2小節に1回へ減り、13〜14小節目でキックが消えます。毎小節ロールを入れるより、抜いた小節があるほうがロールが目立ちます。
条件:BPM 140/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
買った素材で何ができるか
規約を読む場所は、だいたい決まっています。
このジャンルは購入したサンプルパックで組む人が多いので、買った素材で何ができて何ができないかを先に押さえておくと迷いません。一般的には、素材を曲に混ぜて発表することは認められています。認められていないのは、素材をそのまま、あるいはほとんど加工せずに配ったり売り直したりすることです。
つまずきやすいのがビートを売る場合です。完成したトラックとして売るのと、中に入っているループを取り出せる形で渡すのとでは、規約上の扱いが変わることがあります。買った時の販売ページとライセンス文書は、そのまま保存しておいてください。数か月後に探すと見つかりません。
ロイヤリティフリーという表記は「毎回の支払いが要らない」という意味で、権利が無いという意味ではありません。無料配布のワンショットも同じで、商用で使えるか、クレジットが要るかは配布元しだいです。
市販曲から808や上モノを抜くのは別の話になります。作詞作曲・演奏・録音の3つから許可が要り、短く切ったから平気ということはありません。
| 素材の出どころ | 公開できるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 購入したサンプルパック | 曲に混ぜての発表は原則できる | ビート販売時の扱いは規約を読む |
| 自分で作った808とドラム | 問題なく公開できる | 音色は後から差し替えられる |
| フリー配布のワンショット | 利用条件しだい | ロイヤリティフリー=権利無しではない |
| 市販曲からの切り出し | 許諾なしでは公開できない | 3つの窓口すべての許諾が要る |
ここに書いたのは制作の現場で使っている目安で、法律の判断ではありません。 配信やCD、ビートの販売などお金や公開が絡む段階では、権利元か詳しい人に確認してください。
よくある疑問
808の音源を持っていない場合はどうすればいいですか
DAW付属のシンセでサイン波を選び、リリースを長めにすれば代用できます。キックの位置に重ねて、コードのルート音を鳴らせば808の役割を果たします。
ハイハットの連符はどのくらい入れればいいですか
最初は4小節に1〜2か所で十分です。口で歌ってもつれない範囲に収めると、うるさくならずに速度感だけが出ます。
BPMは必ず140にするべきですか
130〜160の間で幅があります。大事なのは数字より、スネアが3拍目に来る半分ノリになっていることです。
キックと808が濁って聞こえる時はどうしますか
キックはアタック、808は伸びと役割を分け、どちらかの低域を軽くします。808の音の終わりを次のキックの前で切るだけでも濁りは減ります。
同じ8ビートを、3つの表情で比べる
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