ドラムンベースの作り方|高速ブレイクビーツをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ドラムンベースはBPM170前後という速さが看板ですが、速い音符を敷き詰めるジャンルではありません。ゆっくりした骨組みの上で細かい刻みが回り、その下を長い低音がうねる。速いものと遅いものの同居が疾走感の正体です。
ここでは、170という数字との付き合い方、ブレイクビーツの刻みの組み方、サブとミッドを重ねるレイヤーベース、疾走感を保つ構成、低域のミックスまで、名前はドラムンベースでも作業は一つずつ普通、という形に分解します。
制作の軸
ドラムンベースは、速い刻みと遅い骨組みの二層で組み立てます。
- BPM170前後でもスネアは2拍目と4拍目
- 刻みは強弱の差で速く聞かせる
- 低音はサブとミッドの2本に分けて重ねる
- 疾走感はドラムを止める区間が守る
170前後という速さの正体
半分の速さで数えると、急に作れるようになります。
テンポの目安はBPM170前後、最初は172に固定して構いません。
数字だけ見ると尻込みしますが、スネアが入るのは2拍目と4拍目です。つまり骨組みだけ取り出すと、BPM85相当のゆったりしたビートと同じ形をしています。
その骨組みの間を、16分音符のハイハットや小さな打点が高速で流れていく。下では低音が2小節単位でゆっくりうねる。
速い層と遅い層が同時に鳴っているから、聞き手は「速いのに溺れない」感覚になります。
だから作る時も、速いほうから手を付けません。遅い骨組みを先に置き、速い刻みを後から流し込む。
この順番さえ守れば、170は怖い数字ではなくなります。
近いジャンルとの違い
速い側のジャンルは、骨組みを半分の速さで数えると見分けがつきます。
| ジャンル | BPMの目安 | 見分けるところ |
|---|---|---|
| この記事(ドラムンベース) | 170前後 | 速い層(16分のハイハット)と遅い層(うねる低音)が同時に鳴る |
| UKガラージ | 130〜138 | 速さは半分以下。キックを間引いて跳ねさせる |
| ダブステップ | 140前後(体感は70) | 半分の速さ。スネアは3拍目に1回で、重さで押す |
| トラップ | 130〜160 | さらに遅い。808とハイハットのロールが主役 |
BPMはどれも目安で、実際には前後にかなり幅があります。 数字が重なっているジャンルは、数字では区別できません。 右の列に書いた「何が主役か」のほうを手がかりにしてください。
ブレイクビーツの刻みを組む
口で言える形を先に決めて、それから細かくします。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や、実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
ドラムンベースは「速い8ビート」ではありません。 BPM174で同じ速さのまま、キックとスネアの置き方だけを変えました。
速いだけで、忙しく聞こえます。走っている感じはあっても、跳ねません。
同じBPMなのに、余白ができて前へ出ます。速さではなく配置が疾走感を作っているのが分かります。
条件:BPM 174/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
まずこの4つの点(キック2つ・スネア2つ)だけを置いてください。 細かい刻みやゴーストは、この骨格ができてから足すものです。
ブレイクビーツとは、もともと古いレコードのドラム独奏部分を切り取って再利用したビートのことです。今は、生ドラム風の素材を細かく刻んで並べ替えたループ全般をそう呼びます。
機械的な4つ打ちとの一番の違いは、打点ごとの強弱のばらつきです。
レッスンでは、ドラムは名前や譜面から入るより、口で言えるリズムから置くほうが止まりにくい、という判断基準を伝えています。
ドラムンベースの骨組みなら「ドン・タッ・ドド・タッ」。キックが1拍目、スネアが2拍目と4拍目、3拍目の頭に短いキック2連。まずこれを口で言えてから打ち込みます。
骨組みが鳴ったら、隙間を16分音符で埋めます。ここで全部を同じ強さにしないことが決定的に重要です。
2拍目と4拍目のスネアだけ強く、間を埋める打点は音量を思い切って下げます。この弱い打点はゴーストノートと呼ばれ、刻みが転がるように聞こえる理由そのものです。
仕上げに、2小節目の最後の半拍だけ並びを変えます。スネアを一つ手前にずらす、キックを1発足す。
その程度の乱れが、ループを機械ではなく演奏に見せます。
うねる低音はレイヤーで作る
支える低音と、動く低音。仕事を2本に分けます。
ドラムンベースの低音がうねって聞こえるのは、1本のベースが器用に動いているからではありません。役割の違う2本を重ねるレイヤーが基本形です。
1本目はサブベース。サイン波のような澄んだ低音で、コードのルート音を2小節単位で長く伸ばします。動きません。体に当たる重さだけを担当します。
2本目はミッドベース。中域で鳴るざらついたベースで、フィルター(音の明るさを変えるつまみ)をゆっくり開け閉めしたり、短いフレーズを刻んだりして、うねりと表情を担当します。
この分担が分かると、調整の迷いが消えます。うねりを激しくしたければミッドベースの動きを増やす。重さが足りなければサブベースの音量を見る。
低域そのものは常に静かに保ったまま、派手さだけを足せるようになります。
2本の音程は基本的に同じ動きで構いません。まずサブを置き、それを複製してミッドの音色に差し替え、動きを付ける。
この順で作ると、低音の芯がずれずに重なります。
コード進行は2つで足ります
低音とブレイクが主役なので、和音は動かさず長く置きます。
ドラムンベースは170前後の速さで進みます。この速さで和音を4小節ごとに変えると、変化が多すぎて落ち着きません。和音は2つを長く往復させるのが基本です。
選ぶのはマイナー系の響きです。暗く沈んだ和音を1つ置き、8小節から16小節そのまま伸ばす。次に、そこから2度上か3度下の和音へ移り、また長く伸ばす。パッドやストリングスで薄く鳴らし、輪郭は出しません。
ここで気をつけるのが、サブベースとの関係です。低い持続音が鳴っている上で和音の一番低い音を動かすと、2つの低音がぶつかって濁ります。和音を変えるときは、いちばん低い音は動かさず、上の音だけを入れ替える。これで低域が一本に保たれます。
和音を鳴らす場所も限定します。ブレイクの刻みが細かく動いている区間で上モノを厚くすると、情報が渋滞してドラムの気持ちよさが消えます。和音はイントロやブレイクダウン(ドラムが抜ける区間)で前に出し、ドラムが戻ったら音量を下げるか、鳴らす音を減らします。
進行らしさが欲しい時は、和音を増やすのではなく、同じ2つの上でメロディの断片を動かします。短いフレーズを1つ作り、鳴らす位置を8小節ごとにずらすだけで、和音が変わったのと同じくらいの変化になります。
ドラムと低音の配置早見表
どの音がどの層にいるかを、置き方まで含めて整理します。
| パート | 置き方 | 担当する層 |
|---|---|---|
| キック | 1拍目+3拍目の頭に短く | 遅い骨組み |
| スネア | 2拍目と4拍目を強く | 遅い骨組み |
| ゴーストノート | 16分の隙間を弱く埋める | 速い刻み |
| サブベース | ルートを2小節単位で伸ばす | 重さ |
| ミッドベース | フィルターの開閉でうねらせる | 動きと表情 |
疾走感を保つ構成
走り続けると、走っている感覚は消えます。
構成は16小節単位で考えます。パッドや効果音だけの助走、ドラム投入、ベースが合流する本編、そしてドラムを抜いた静かな区間、また本編。
この波を2周させると1曲の骨格になります。
大事なのは、疾走感は連続させると麻痺するという事実です。170の刻みを3分間鳴らし続けると、聞き手の耳は速さに慣れてしまい、ただの背景になります。
ドラムが止まる区間があるから、戻ってきた瞬間に再び速く感じる。静かな区間は休憩ではなく、疾走感の充電です。
上物は最小限にします。パッド1枚と短い単音フレーズ程度で十分です。ドラムとベースの会話が主役のジャンルなので、中域を埋めるほど足が重くなります。
和音を使うなら、マイナー系の暗く澄んだ響きを2つだけ選び、4小節ごとに行き来させる形が扱いやすいです。
助走の区間には、本編で使うミッドベースのフレーズを、フィルターを閉じたこもった音で先に少しだけ聞かせておくと効果的です。聞き手は無意識に続きを予期するので、ベースが全開で合流した瞬間の解放感が大きくなります。
低域のミックスで見る一点
キックとサブがぶつかると、速さごと濁ります。
ミックスで一つだけ注意するなら、キックとサブベースの衝突です。このテンポではキックの間隔が短いため、サブが伸びっぱなしだと低域が一瞬も途切れず、全体がもたついた重さになります。
疾走感が出ない原因を上物に探す前に、まずここを疑ってください。
対処は単純です。キックが鳴る瞬間だけサブのノートを切るか、キックに合わせてサブの音量を短く沈ませます。
低域に隙間が生まれると、キックの輪郭が立ち、同じデータでも足が軽くなります。
確認はヘッドホンだけで済ませず、書き出してスマホでも聞きます。スマホでは低音がほぼ消えるので、そこでビートの骨組みがまだ格好良ければ、低域の設計は成功しています。
最初の8小節を組む手順
骨組み、刻み、低音2本の順で積み上げます。
手順は8つです。
- ①BPMを172に設定する。
- ②キックを1拍目、スネアを2拍目と4拍目に置く。
- ③「ドン・タッ・ドド・タッ」と口で言いながら再生し、骨組みが合っているか確かめる。
- ④16分のハイハットとゴーストノートを弱い音量で足す。
- ⑤サブベースでルート音を2小節ごとに伸ばす。
- ⑥ミッドベースにフィルターの開閉を付けて重ねる。
- ⑦2小節目と4小節目の最後だけ刻みの並びを変える。
- ⑧7〜8小節目でハイハットを半分に間引き、次の区間へ渡す合図にする。
書き出して聞き、体が前へ進む感じがするかを確認します。しなければ原因はほぼ足し算です。ゴーストノートを間引くか、ミッドベースの動きを半分にします。
速さは足すものではなく、隙間から生まれるものです。
この8小節が走り出したら、16小節単位の波に配置して1曲へ広げます。工程の順番に迷ったら、制作工程マップで全体の流れを確認しながら進めてください。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | 2ステップのドラムだけ。K1→S2→K3の裏→S4 の骨格を固める |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | ベースを差し替える。同じドラムのまま低音だけ変えると化ける |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | ドロップの前に4〜8小節のブレイクダウン(ドラムを抜く)を置く |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | イントロ→1回目のドロップ→ブレイク→2回目のドロップ。5分前後 |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目でスネアの合間に小さな打点が増え、13〜14小節目でキックとスネアが消えてハイハットだけになります。この2小節がブレイクで、戻ったところが一番速く聞こえます。
条件:BPM 174/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
ブレイクの出どころ
有名なブレイクも、権利が消えたわけではありません。
このジャンルは、あるドラムソロを刻んで速く回すところから広がりました。その録音はあまりに多くの曲で使われたので「もう自由に使える」と思われがちですが、広く使われたことと権利が消えたことは別です。誰も止めなかった、というだけの状態が続いてきただけとも言えます。
実務的な答えははっきりしていて、自分で組み直すのが一番早いです。このジャンルの気持ちよさは、元の録音の音色ではなく、キックとスネアの置き方から出ています。K1→S2→K3の裏→S4 の骨格を打ち込み、スネアをレイヤーして胴鳴りを足せば、狙っている質感には届きます。速く回した時に潰れないよう、アタックが立った素材を選ぶほうが効きます。
生ドラムのニュアンスが欲しければ、購入したドラム音源やループ集を使う手があります。曲に混ぜて発表するのは原則できますが、素材のままの再配布はできません。
市販の音源から切り出す場合は、作詞作曲・演奏・録音の3つそれぞれの許可が要ります。短く切ったから平気、という線引きは日本の法律にはありません。
| 素材の出どころ | 公開できるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 自分で組んだ2ステップ | 問題なく公開できる | 骨格の置き方で質感が決まる |
| 購入したドラム音源・ループ集 | 曲に混ぜての発表は原則できる | 素材のままの再配布は不可 |
| フリー配布のブレイク素材 | 利用条件しだい | 出どころと利用条件を確認する |
| 有名ブレイクの録音そのもの | 許諾なしでは公開できない | よく使われている=権利が無い、ではない |
ここに書いたのは制作の現場で使っている目安で、法律の判断ではありません。 配信やCD、ビートの販売などお金や公開が絡む段階では、権利元か詳しい人に確認してください。
よくある疑問
ドラムンベースのコード進行は何を使えばいいですか
マイナー系の和音を2つ、8〜16小節ずつ往復させれば足ります。和音を変える時はいちばん低い音を動かさず、上の音だけ入れ替えると、サブベースと濁りません。
BPMが速すぎて作れません
半分の速さで考えます。BPM170でもスネアは2拍目と4拍目なので、骨組みは85相当のゆっくりしたビートです。骨組みを先に置き、細かい刻みは後から足します。
ブレイクビーツとは何ですか
もともとは古いレコードのドラム独奏部分を切り取って再利用したビートの呼び名です。現在は、細かく刻んで並べ替えた生ドラム風のループ全般を指します。
ベースがうねって聞こえません
1本のベースに低域と動きの両方を任せているのが原因のことが多いです。低域を支えるサブと、動きを聞かせる中域のベースを分けて重ねます。
疾走感が出ないのはなぜですか
音数の入れすぎが定番の原因です。ドラムとベースの隙間が疾走感を作るので、上物を減らし、刻みの強弱をはっきり付けます。
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