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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

テクノの作り方|反復と変化をDTMで組む手順

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

テクノは、少ない材料を長時間聞かせる音楽です。硬いキックが淡々と進み、その上でひとつのフレーズが少しずつ姿を変えていく。

歌もサビもないのに引き込まれるのは、反復そのものが主役だからです。

だからテクノの制作は「たくさん作る」より「絞って動かす」に頭を切り替える必要があります。

使う音は5トラック前後。その代わり、フィルターと音量を時間をかけて動かします。この記事で、その組み方を順番に説明します。

テクノの骨格

テクノは「硬いキック×少ない要素×時間をかけた微変化」で作ります。

  • BPMは125〜135、迷ったら130
  • トラックは5本前後に絞る
  • 展開は音の交代ではなく変形で作る
  • 16〜32小節単位の長い波で考える

BPMと速さの感覚

125〜135。行進のように正確に進む速さです。

テクノのBPMはおおよそ125〜135です。最初は130に合わせると扱いやすいです。ハウスより少し速く、体を揺らすというより、まっすぐ前に進み続ける感覚の速さです。

テクノで速さを確認する時は、キックを鳴らしながら机を指で叩いてみてください。機械のように正確に、疲れずに叩き続けられるならちょうどよい速さです。

急いで聞こえるなら下げます。テクノの推進力はテンポの数字ではなく、この「止まらない感じ」から生まれます。

近いジャンルとの違い

同じ4つ打ちでも、体の動く向きが違います。

ジャンルBPMの目安見分けるところ
この記事(テクノ)125〜135まっすぐ前に進む。音数を絞り、要素の出し入れで長く持たせる
ハウス120〜128横に揺れる。裏拍のオープンハットとコードが前に出る
テックハウス122〜128中間。ハウスの揺れにテクノの音数の少なさを足した形
トランス136〜142溜めと解放が主役。ブレイクダウンが16小節以上になる
ミニマルテクノ125〜135BPMはテクノとほぼ同じ。要素をこの記事よりさらに絞り、展開らしい展開を作らず、数小節単位のごくわずかな変化だけで聞かせる

BPMはどれも目安で、実際には前後にかなり幅があります。 数字が重なっているジャンルは、数字では区別できません。 右の列に書いた「何が主役か」のほうを手がかりにしてください。

硬質なキックとドラムの配置

キックが曲の背骨です。他は飾りとして薄く添えます。

テクノのキックは全拍に置く4つ打ちですが、ハウスのそれより硬く、短く、重い音を選びます。「ドン」より「ドッ」。

アタック(音の頭の立ち上がり)がはっきりしていて、余韻が短い音です。この1音が曲全体の背骨になるので、ドラムの中でキックだけは最初に時間をかけて選ぶ価値があります。

キックの次はクローズハットです。16分で細かく刻むか、裏拍に置くかのどちらかで、機械的に等間隔で並べます。テクノでは、この均質さが味になります。

あえて人間らしく揺らさず、そろえたまま音量だけを段ごとに少し変えると、無機質なのに生きているパターンになります。

クラップやスネアは必須ではありません。入れるなら2拍目と4拍目に薄く。

むしろ金属質なパーカッションやノイズの短い音を、1小節に1〜2か所だけ置くほうがテクノらしい隙間が残ります。ドラムの音数を絞るほど、キックの重さが際立ちます。

うねるベースの作り方

音程は動かさず、同じ音を刻んで揺らします。

テクノのベースは、メロディのように動きません。基本は1音です。

キーの主音(例えばAの曲ならAの音)を、8分か16分で淡々と刻みます。音程の変化で聞かせるのではなく、同じ音の連打が作る「うねり」で聞かせます。

うねりの作り方は2つあります。

1つ目は、キックの位置を避けて刻むこと。キックが鳴る拍の頭を空け、その間だけベースを鳴らすと、低音がドッ・ウ・ドッ・ウと交互に脈打ちます。

2つ目は、フィルター(音の明るさを変えるツマミ)をゆっくり開け閉めすること。同じ連打でも、音がこもったり開いたりするだけで前に進んで聞こえます。

低く長いベースを白玉で敷きたくなりますが、テクノではキックの居場所を奪う原因になります。短く刻む、が原則です。

テクノのコード進行は「進ませない」

和音を並べるより、1つの響きを長く置いて音色で変えます。

テクノで「コード進行をどう組むか」を考え始めると、たいてい手が止まります。歌ものの発想で4小節に4つのコードを置くと、反復が主役のこの音楽では展開が忙しくなりすぎるからです。

まず置くのは1つだけです。マイナーの和音を1つ選び、それを8小節から16小節、そのまま鳴らし続けます。この間に変えるのは、和音ではなくフィルターの開き具合や音量です。進行で聞かせず、同じ和音の表情の変化で聞かせるのがテクノの作り方です。

2つ目を足すのは、曲の折り返しに1回で足ります。最初の和音から、2度下か3度上へ移すだけ。たとえばAmで始めたならGmかCへ。移したら、また同じだけ長く置きます。これで「進行がある」と感じられる最低限になります。

和音の鳴らし方も歌ものとは違います。3音を重ねて厚く鳴らすより、ルートとその5度だけ、あるいはルートのオクターブだけを短く刻むほうが、キックの居場所を潰しません。上モノが薄いほど、キックとベースの反復が前に出ます。

ベースラインを16分で動かしている場合、その音の並びがすでに和音の役割を果たしています。上に和音を重ねると、同じ情報が二重になって濁ります。ベースが動いている区間は上モノを休ませ、ベースが止まる区間で和音を出す。この入れ替えが、テクノの「展開」の正体です。

進行を凝りたくなったら、コードを増やす前に、同じ和音のまま音色を1つ入れ替えてみてください。パッドをプラックに変えるだけで、和音が変わったのと同じくらい景色が変わります。

テクノの要素と動かし方

「何を置くか」と「どう動かすか」をセットで決めます。

要素基本の形時間経過での動かし方
キック硬く短い音を全拍に原則動かさない。抜く時だけ大きく抜く
ハット16分か裏拍で等間隔音量の段差、開き具合を少しずつ変える
ベース1音を8分・16分で刻むフィルターの開け閉めでうねらせる
上モノ短いスタブかワンコード出す小節と休む小節を作る
ノイズ系薄く長い持続音盛り上げ前に音量を上げて合図にする

要素を増やさない上モノ

ワンコードの刻みか、1〜2音の短いフレーズで足ります。

※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や、実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。

テクノで「キックが軽い」と感じるとき、原因はキックの音色ではなく周りの音数のことが多いです。 同じキック・同じBPM132で、鳴らしている要素の数だけを変えました。

① 要素を盛った版スネア+16分ハット+裏のオープン

にぎやかですが、キックが他の音に埋もれます。手数を増やしたのに前に出てこない状態です。

② 絞った版裏拍のハイハットだけ。オープンは2小節に1回

音数を減らしただけで、同じキックが重く聞こえます。テクノは足すジャンルではなく、置き場所を空けるジャンルです。

条件:BPM 132/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。

テクノの絞ったパターンのピアノロール。キックが4つ打ちで、ハイハットは裏拍だけに置かれている
②のピアノロールです。ハイハットが裏拍にしか無く、キックの周りが空いていることが見えます。

上モノを増やしたくなったら、先に1つ消してから足す。 2小節に1回だけ変化を入れる(②のオープンハット)くらいが、反復を殺さずに飽きさせない量です。

テクノの上モノは、曲を彩る主役ではなく、反復に色を付ける薬味です。定番は「スタブ」と呼ばれる、コードを一瞬だけ鳴らす短い音。

暗めのマイナーコード1つを、小節の決まった位置で「ジャッ」と鳴らすだけで成立します。コード進行を組む必要はありません。ワンコードのまま最後まで行けます。

フレーズを入れる場合も、1〜2音の短い形を選びます。長いメロディを乗せると、聞き手の意識がメロディの行き先に向いてしまい、反復が作る没入感が薄れます。

テクノの上モノは「覚えるもの」ではなく「気づいたら鳴っているもの」くらいの存在感がちょうどよいです。

音色は、金属的、無機質、少しざらついた質感が合います。温かい生楽器系を選ぶと、同じ配置でもハウス寄りに聞こえます。ここがジャンルの分かれ目のひとつです。

反復と微変化で展開を作る

16〜32小節の長い波で、変形させながら進めます。

テクノの展開は、ポップスの「Aメロ→サビ」のような場面転換ではありません。同じループが16小節、32小節という長い単位で、少しずつ変形していきます。

ハットの音量が上がる。ベースのフィルターが開く。ノイズが近づいてくる。

1つ1つは小さな変化ですが、積み重なると大きなうねりになります。

レッスンで打ち込みの展開を教える時は、1小節のループをそのまま並べず、A・B・A・C・A・B・A・Dのように「戻る場所」と「変える場所」を決めるように伝えています。

テクノはこの考え方を長い時間軸に引き伸ばしたジャンルです。基本のAに何度も戻るからこそ、たまに来るCやDの小さな違いが事件として聞こえます。

大きな変化は1曲に数回で十分です。

代表はキックを丸ごと抜く区間で、8〜16小節キックを消し、ノイズの持続音を徐々に大きくして、限界まで引っ張ってからキックを戻します。戻った瞬間の快感は、抜いていた長さに比例します。

作業のコツは、先に8小節のループを完成と呼べる状態にしてから、展開表を紙に書くことです。何小節目で何を動かすかを決めてから打ち込むと、長尺でも迷子になりません。

低域を一本にまとめるミックス

キックとベースの下の帯域を、二重に鳴らさないことです。

テクノ特有のミックスの注意は、低域の管理です。

キックの余韻とベースの刻みは、どちらも一番下の帯域を使いたがります。両方をそのまま鳴らすと、下の帯域が二重になり、ドシッと来るはずの4つ打ちがボワッとした塊になります。

やることは役割の宣言です。一番下の帯域をキックに渡すなら、ベースの低い成分を少し削って一段上に住まわせます。

逆にベースに渡すなら、キックは重さより硬さで勝負する音に替えます。どちらでも構いませんが、両取りだけは避けます。

判断は再生環境を替えて行います。小さいスピーカーで聞いてもキックの位置が点で見えるなら合格です。にじんで面で聞こえるなら、低域がまだ二重です。

最初の8小節の手順

絞った5トラックを、この順で置きます。

実際の作業手順です。音色選びに深入りせず、まず配置を完成させます。

①BPMを130に設定する。②硬く短いキックを全拍に置き、8小節ループさせる。③クローズハットを16分で敷き、2つごとに音量へ小さな段差を付ける。

④ベースはキーの主音1音を、キックの頭を避けて16分で刻む。⑤暗めのコードを1つ選び、各小節の同じ位置でスタブとして短く鳴らす。

⑥薄いノイズの持続音を最後の2小節だけ入れる。⑦8小節を2回繰り返し、2回目はベースのフィルターを少し開ける。⑧書き出して通しで聞く。

⑦が一番大事な工程です。

まったく同じ8小節を並べるのではなく、2回目に1か所だけ変化を仕込む。この1か所が退屈と没入の分かれ目で、テクノ制作の練習は実質ここの練習だと言えます。

ループが立ったら、あとは展開表を書いて長さを伸ばす段階です。曲全体をどう完成まで運ぶかは、制作工程マップの流れに乗せて進めてください。

8小節から先へ広げる目安
段階長さやることこのジャンルでの具体
1周目8小節骨格だけを置くキックと裏拍のハイハットだけ。ここで重さが出ていないと後で足しても直らない
2周目16小節抜き差しで変化を作るハイハットの開閉を変える。オープンを入れる位置を2小節ごとにずらす
展開32小節場面を足すフィルターを32小節かけて開いていく。1か所だけ、長く
フル尺64小節〜曲として通す要素の出し入れだけで6〜8分。新しい音を足すより、消して戻すほうが効く

長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。

上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。

① そのままくり返した版同じ2小節を16小節ぶん

8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。

② 9小節目から抜き差しした版足すのではなく、消して戻す

9〜12小節目でハイハットが16分に増え、13〜14小節目でキックが消えます。戻ってきた15小節目のキックが、最初より重く聞こえるはずです。

条件:BPM 132/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。

テクノの16小節の構成図。9〜12小節目でハイハットの打点が増え、13〜14小節目でキックが無くなっている
②の構成図です。帯が高いところほど、その小節の打点が多いことを表しています。 新しい楽器を足したわけではなく、もとからある音を増やしたり消したりしているだけです。 鳴っているキック・スネア・ハイハットは、登録なしで配っています。

よくある疑問

テクノにコード進行は必要ですか

必須ではありません。マイナーの和音を1つ、8〜16小節そのまま置いて、フィルターや音量で表情を変えるだけで成立します。進行を足すなら、曲の折り返しで2度下か3度上へ1回動かす程度で十分です。

テクノのBPMはいくつが目安ですか

おおよそ125〜135です。130で始めて、キックが機械のように正確に進んで聞こえるかで調整します。

ループが単調ですぐ飽きられます

新しい音を足す前に、今ある音のフィルターや音量を少しずつ動かします。テクノの変化は交代ではなく変形です。

トラック数はいくつ必要ですか

キック、ハット、ベース、上モノ1つ、ノイズ系の5トラック前後で一度成立させます。足りないと感じたら、足す前に既存の音の動かし方を見直します。

メロディやコード進行は必要ですか

長いメロディは必須ではありません。1〜2音の短いフレーズやワンコードの刻みを反復させるほうがテクノらしくなります。

記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ

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次に進む記事

反復の骨組みができたら、音を磨く工程の記事へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。