テックハウスの作り方|低音グルーヴをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
テックハウスは、ハウスの体にテクノの服を着せたようなジャンルです。骨組みは4つ打ちで踊らせるハウス。
ただし音は乾いてタイトで、コードの温かさは控えめ。その代わりに、ベースラインが曲の顔になります。
つまり作る順番が他のジャンルと違います。ハウスならコード、テクノならキックに一番時間をかけますが、テックハウスで一番時間をかけるのはベースです。
低音のフレーズが決まれば曲の8割が決まる。その前提で手順を組み立てていきます。
テックハウスの骨格
テックハウスは「タイトな4つ打ち+主役のベースライン+少ない上モノ」で組みます。
- BPMは122〜128、迷ったら126
- ドラムは乾いた音で正確に
- 一番時間をかけるのはベースのフレーズ
- 上モノは声ネタと単音で最小限
ハウスとテクノの中間とは
何を借りて、何を捨てているかを先に知ります。
テックハウスのBPMは122〜128あたりで、これはハウスとほぼ同じ帯です。迷ったら126で始めます。キックが全拍に入る4つ打ちの骨組みも、ハウスから借りています。
一方で、音の質感はテクノから借りています。残響の長い温かい音を避け、乾いた短い音を正確に並べる。コードでしっとり聞かせる場面はほとんどなく、要素の数もテクノのように絞ります。
そして両者のどちらでもない、このジャンル固有の中心がベースラインです。
ハウスではコードが、テクノでは反復するキックが担っていた「曲の芯」を、テックハウスでは動くベースが担います。
中間ジャンルというより、低音が主役になるように両者を配合したジャンル、と捉えると制作の優先順位を間違えません。
タイトなドラムの組み方
乾いた音を、隙間を残して正確に置きます。
ドラムの配置はハウスと同じ形から始めます。キックを1・2・3・4拍の頭に。
2拍目と4拍目にはクラップ、またはリムショット(スティックで枠を叩いたような「カッ」という短い音)を重ねます。テックハウスではこのリムの乾いた質感がよく合います。
ハットは裏拍に短いクローズハットを置きます。ハウスのように「チーッ」と伸びるオープンハットを大きく鳴らすのではなく、「チッ」と短く切るのがタイトさの正体です。
16分のハットを足す場合も、音量を小さく、機械のような等間隔を保ちます。
そこにパーカッションを1種類か2種類だけ足します。コンガやシェイカーのような打楽器を、1小節に数か所、少しだけタイミングを揺らして置くと、固いビートの中に人間くさい横揺れが生まれます。
全部の楽器を揺らすのではなく、正確なドラムの上に、揺れる打楽器を1つだけ乗せる。この対比がテックハウスのノリを作ります。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
タイトさは、裏拍のハイハットを短く切るところから出ています。2本ともBPM124で、裏拍の主アクセントは同じ位置です。
ハウス寄りの鳴りです。横に揺れますが、少しふくらんで聞こえます。
裏拍の位置は①と同じです。オープンを短いクローズへ替え、さらに弱い16分を足しています。この3つで輪郭が締まります。
条件:BPM 124/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
足した16分が裏拍より前に出ないところまで音量を下げてください。大きくすると、せっかくの隙間が埋まります。
主役になるベースラインの作り方
歌の代わりに、口ずさめる低音フレーズを作ります。
いよいよ主役です。テックハウスのベースラインに求められるのは、聞いた人が思わず口ずさんでしまうことです。
「ブン・ブ・ブン・ベ」のように口で言える1〜2小節のフレーズを作り、それを曲の間じゅう繰り返します。歌もののサビに相当する仕事を、ベースがします。
作り方の手順です。まずキーの主音を、キックの合間の裏拍に短く置きます。ここまではハウスのベースと同じです。
次が分かれ道で、そのうち1〜2個の音を、5度上や1オクターブ上、半音下などに動かします。音程の動きは2〜3種類で十分です。
動かす場所を毎小節同じにすると、フレーズとして耳に残り始めます。
音の長さも揃えず、1か所だけ少し長い音を混ぜると、フレーズに「言葉」のような抑揚が付きます。
できたらドラムと2つだけで鳴らして、自分の口がフレーズを追いかけるか確かめてください。追いかけないなら、まだ主役の強度が足りません。音色をいじる前に、音程と長さの並びを組み替えます。
3ジャンルの配合の違い
隣のジャンルと比べると、置くべき比重が見えます。
| 比べる場所 | ハウス | テックハウス | テクノ |
|---|---|---|---|
| 曲の主役 | コードと歌 | ベースライン | 反復するビート |
| 音の質感 | 温かく丸い | 乾いてタイト | 硬く無機質 |
| コードの量 | 多い | ほぼ無し〜一瞬 | ワンコード程度 |
| 時間をかける工程 | コードと上モノ | ベースのフレーズ | キックと微変化 |
上モノは声ネタと単音で
主役のベースを隠さない、軽い飾りに徹します。
ベースが主役と決めた以上、上モノの仕事は場の空気づくりだけです。定番は声ネタです。
一言のかけ声やフレーズの断片を、小節の決まった位置で短く鳴らします。意味が聞き取れる長い歌詞より、「Hey」「Come on」程度の断片のほうが、グルーヴを邪魔しません。
楽器系の上モノを足すなら、単音のシンセを短く1〜2発。コードを厚く敷きたくなったら、テックハウスでは我慢のしどころです。
和音の広がりが出た瞬間、耳の注目が上に引っ張られ、ベースラインの主役感が薄れます。鳴らすとしても、1拍未満の短いスタブを たまに置く程度に留めます。
残った隙間は、効果音で埋めるのではなく、隙間のまま残します。要素が少ないほど、ベースの一挙一動が大きく聞こえます。
グルーヴを切らさない構成
大きな山より、途切れない波を優先します。
テックハウスの構成で守ることは1つ、グルーヴを長く切らさないことです。この音楽はDJが他の曲とつなぐ前提で聞かれるため、曲の頭と後ろにはドラム中心の区間を16〜32小節置き、真ん中では骨格が淡々と続きます。
展開は、ベースラインの出し入れで作ります。最初の16小節はドラムだけ。ベースが初めて入る瞬間が、この曲の最初の事件です。
その後は8〜16小節ごとに、声ネタが増える、ハットが増える、と小さく積み、中盤で一度ベースだけを抜いた区間を短く作ります。主役がいなくなる数小節があるから、戻った時にフロアが沸きます。
派手なブレイクや長い静寂は、このジャンルでは必須ではありません。山を高くするより、波を止めないこと。8小節ごとに何か1つだけ変わっていれば、それで曲は最後まで進みます。
低域の主導権を決めるミックス
下から積み、一番下をどちらに渡すか宣言します。
キックとベースの両方が強いジャンルなので、ミックスでは低域の主導権争いが必ず起きます。
レッスンでミックスを教える時は、ドラム、ベース、上モノの順に、低い音域から上へ積んで聞くように伝えています。テックハウスはまさにこの順で決めるべきジャンルで、下の2つが決まれば残りはほぼ終わりです。
具体的には、一番下の帯域をベースに渡す形が組みやすいです。ベースが主役だからです。
キックからは一番低い成分を少し削り、点で「タッ」と抜ける硬さを残します。キックの重さが恋しくなっても、下を二重にしないこと。
ベースを一瞬止めてキックを聞き、キックを止めてベースを聞き、両方鳴らして濁らないかを行き来して確認します。
音量の目安としては、ドラムとベースだけで曲として成立して聞こえる状態を作り、上モノはそこに薄く足すだけにします。
最初の8小節の手順
ベースに一番時間を使う配分で進めます。
作業手順です。目安として、全体の半分の時間をベースに使うつもりで進めます。
①BPMを126に設定する。②乾いたキックを全拍に置く。③リムショットかクラップを2拍目と4拍目に重ねる。④短いクローズハットを裏拍に置く。
⑤ベースをキックの合間に主音で置き、そのうち2音だけ音程を動かしてフレーズにする。⑥ドラムとベースだけで鳴らし、口ずさめるまで⑤を組み替える。
⑦声ネタを1小節に1か所だけ入れる。⑧シェイカー系を1つ、少し揺らして乗せ、書き出して聞く。
⑥で妥協しないことが、このジャンルの完成度を決めます。
ここを通過したベースラインは、そのまま曲のタイトルになれるくらいの顔を持っています。逆にここが弱いまま先へ進むと、どれだけ上モノを足しても「地味なハウス」で止まります。
8小節が立ったら、ドラムだけのイントロを前に足し、ベースの出し入れで長さを伸ばしていきます。1曲としてまとめる流れは、制作工程マップを横に置いて確認しながら進めてください。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | 4つ打ちと短いハットだけ。隙間が残っているかをここで確認する |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | 16分の薄いハットを出し入れする。足すのではなく、消す小節を作る |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | パーカッションを1種類だけ足す。ドラムは正確なまま、これだけ揺らす |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | イントロとアウトロを長めに取って5〜6分。DJが繋ぐための余白を残す |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目で裏拍にオープンハットが混ざり、13〜14小節目でキックが消えます。4つ打ちを抜いた2小節があるから、戻ったときに前へ出ます。
条件:BPM 124/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
よくある疑問
ハウスやテクノと何が違いますか
骨組みはハウスの4つ打ちですが、音色はテクノ寄りに乾いてタイトです。そして主役がコードやメロディではなくベースラインである点が一番の違いです。
ベースが主役とはどういうことですか
聞き手が口ずさむのがベースのフレーズだということです。跳ねるリズムを持った短いベースラインを、フックとして繰り返します。
上モノには何を置けばいいですか
一言の声ネタ、短いシンセの単音、効果音程度で十分です。コードを厚く敷くとベースの主役感が薄れます。
キックとベースはどちらを目立たせますか
一番下の帯域はベースに渡し、キックは硬さと点の正確さで存在感を出す形が組みやすいです。両方に低域を持たせないことが大事です。
記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
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