ヒップホップビートの作り方|808とラップの余白をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ラップを乗せるビートを作りたいが、音を詰めすぎて声の居場所が無くなる人へ向けて、ジャンル名の説明ではなく、DAW上で8小節を組む順番に落とします。BPM、ドラム、ベース、コード、メロディ、音色を分けて、書き出して聞ける状態まで進めます。
読み終わったら、まず音を出す、再生する、保存する、短く書き出す、次に確認する一点を決めるところまで進めます。完成度を採点する前に、同じ手順をもう一度再現できるかを見ます。制作中に迷ったら、画面の中で悩み続けず、8小節を書き出して普通の再生環境で聞きます。
制作の軸
ヒップホップビートは、音色探しより先に8小節の役割を決めます。
- BPMと体感を分けて決める
- キック、ベース、コード、メロディの順に置く
- ジャンルらしい装飾は骨格の後に足す
- 同じ音量で書き出して判断する
この記事が扱う範囲
- 扱うもの
- ラップを乗せる前提のビート。ブーンバップ(85〜95BPM)とトラップ寄り(140前後)の両方
- 扱わないもの
- ラップの書き方、サンプリングの権利処理、ミックスの追い込み
- 所要時間の目安
- ループが1周するまで約40分
- まず鳴らす1音
- キックとスネアだけを4小節。スネアは2拍目と4拍目
DAWはCubaseを想定していますが、手順はどのDAWでも同じです。 記事内のMIDIとデモ音源も、DAWを問わず使えます。
今日やること
8小節だけ作り、保存して、書き出して、次に直す一点を決めます。
- 仮音色でドラム、ベース、コード、メロディを置く
- 4小節目と8小節目に小さな変化を入れる
- 変更前と変更後を別名保存する
- スマホや小さい音量で再生して、次の修正点を一つだけ書く
最初に決めること
ジャンル名ではなく、曲の速度、主役、8小節の到達点を先に決めます。
ヒップホップビートの作り方で最初に見るのは、音色の名前ではありません。ラップを乗せるビートを作りたいが、音を詰めすぎて声の居場所が無くなる人にとって必要なのは、今日のDAW画面で何を置けば前に進むかです。
テンポは、ブーンバップ寄りなら85〜95 BPM、トラップ寄りなら140前後(体感は70)。この範囲は絶対値ではなく、最初に手を動かすための目安です。曲の狙い、歌の言葉数、ドラムの細かさによって、同じジャンルでもかなり変わります。
最初の8小節では、完成形を狙いすぎません。ドラム、ベース、コード、メロディの4段だけを置き、曲の方向が聞こえるかを確認します。音色探しはその後で十分です。
作曲や編曲の現場でも、すべての音を一度に正解へ持っていくわけではありません。まず骨格を外に出し、聞き返しながら必要な音だけを残します。
BPMと体感を分ける
数値を決めたら、速さの印象がどこから出ているかを分けます。
ブーンバップ寄りなら85〜95 BPM、トラップ寄りなら140前後(体感は70)。ただし、BPMの数字だけでジャンルらしさは決まりません。速く聞こえる理由は、ドラムの刻み、ベースの長さ、メロディの音数、コードの切り替わり方に分かれます。
BPMを上げても勢いは出ません。ヒップホップの重心は速さではなく、スネアをどれだけ後ろへ置けるかで決まります。90のまま、スネアを25tick(約35ミリ秒)遅らせてみてください。
テンポを変える前に、クオンタイズを外してみてください。同じテンポのまま硬さが取れることがあります。それでも合わないときに初めて、85〜95の範囲でテンポを動かします。
サンプルやプラグインを探す前に、キックとスネアの位置を決めてください。ヒップホップは音数が少ないぶん、位置のずれがそのまま聞こえます。音色は後から差し替えても成立します。
近いジャンルとの違い
ひとくちにヒップホップと言っても、作り方が枝分かれしています。
| ジャンル | BPMの目安 | 見分けるところ |
|---|---|---|
| この記事(ヒップホップ) | 85〜95 | スネアを少し後ろへ置く。ラップが乗る中音域を空ける |
| トラップ | 130〜160 | 数字は倍。体感は同じくらいで、808とロールが主役 |
| ドリル | 140〜145 | トラップと同じ数字。808が音程を動く |
| Lo-Fi HipHop | 70〜90 | ノリより質感。針音やこもった帯域で落ち着きを作る |
BPMはどれも目安で、実際には前後にかなり幅があります。 数字が重なっているジャンルは、数字では区別できません。 右の列に書いた「何が主役か」のほうを手がかりにしてください。
ドラムの骨格
派手なフィルより、キックとスネアの位置を先に固定します。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
ヒップホップの「よれた感じ」は、わざと作るものです。 BPM90で、スネアの位置を少し後ろへずらしただけの比較です。
正確ですが、硬く聞こえます。打ち込んだままの状態です。
同じ音・同じBPMなのに、重心が後ろに落ちます。ずらしているのは1000分の35秒です。
条件:BPM 90/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
やりすぎると、ただ遅れて聞こえます。まず20〜30tickから試して、 キックは動かさないでください。土台がぶれると曲全体が不安定になります。
ドラムは、キックとスネアの数を減らす。スネアは2拍目と4拍目に置いて背骨にする。最初の段階では、細かいフィルや装飾よりも、どこで体が前に進むかを決めます。
少し後ノリ。クオンタイズを100%で当てず、スネアを気持ち後ろへ置く。このグルーヴの方向を決めずにハットやパーカッションを増やすと、音は多いのに曲が進まない状態になります。
8小節なら、1〜4小節はループのまま、5〜8小節で上モノを一度消します。足すのではなく消すのが、このジャンルの変化のつけ方です。戻したときに効きます。
ハイハットの強弱は、はっきり付けてください。ヒップホップでは細かい粒の強弱が、そのままノリの深さになります。表を強く、裏を大きく落とす。中間の値は使いません。
ベースの置き方
低音は大きさではなく、長さと場所で整理します。
ベースは、808かウッドベース。キックと同じ場所で重ならないよう、長さを切って住み分ける。低音は曲の重さを作りますが、長く鳴らしすぎるとキックやコードの低域を隠します。
808を大きくすると、ラップが埋もれます。低音は大きさではなく長さで存在感を作ってください。音を短く切ると、同じ音量でも輪郭が立ち、声の場所が空きます。
ベースはキックと同じ位置に置いてから、長さだけを調整します。位置をずらすより、片方を短く切るほうが濁りません。808とキックが同時に鳴る場所を作らないのが基本です。
書き出したら、声を想定して中音域が空いているか確かめてください。上モノを1つ消して物足りなくならないなら、それは最初から要らなかった音です。
コードの組み方
難しいコードより、メロディが乗る場所を作ります。
コードは、短いループを4小節で1周させる。凝った進行より、繰り返して飽きない形を選ぶ。コード進行は知識を見せる場所ではなく、メロディと展開を支える場所です。
テンションコードや借用和音を使う場合も、名前を覚えることが目的ではありません。音の色が変わる場所を耳で確認し、必要な場所だけに置きます。
レッスンでは、理論を説明する前にコードの響きを鳴らして、明るい、暗い、浮く、戻る、という体感を確認することがあります。進行を丸暗記するより、耳で違いを聞けるほうが制作に使いやすいからです。
8小節では、同じ進行を2回繰り返しても構いません。2回目だけ上物を変えたり、最後のコードを少し変えたりすると、曲が次へ進む感じを作れます。
メロディとフック
覚えやすい形を先に作り、細かい装飾は後から足します。
メロディは、上モノは主役ではない。ラップが乗る中音域は意図的に空ける。ジャンルらしさを出そうとして音数を増やす前に、何度も出せる短い形を作ります。
サビや主題になる場所では、最初の1音が重要です。高い音にするのか、短い反復にするのか、長く伸ばすのかを決めると、伴奏の置き方も決まります。
メロディが弱い時は、音程を増やすよりリズムを見ます。同じ音でも、入る位置や伸ばす長さが変わるだけで、かなり印象が変わります。
歌ものの場合は、言葉が自然に入るかを必ず確認します。インストの場合も、リードが歌える形になっているかを口でなぞると判断しやすくなります。
音色の選び方
プリセット探しより、曲の役割で音を選びます。
音色は、808、スネアかリムショット、少しくすんだピアノかギター、レコード風のノイズを出発点にします。見るのは音色の数ではなく、前に出る音、支える音、空間を作る音を分けることです。
プリセットを探し始めると、制作が止まりやすくなります。まず仮音色でコードとリズムを置き、曲の形が見えた後で差し替えます。
商業音楽の制作でも、最初から最終音色だけで進むとは限りません。仮のピアノ、仮のドラム、仮のベースで構成を見てから、必要な質感へ寄せていきます。
音色を変えたら、必ず音量も見直します。派手な音は大きく聞こえやすいため、良くなったのか大きくなっただけなのかを分けて判断します。
8小節の制作マップ
短い範囲で完成の入口を作り、次の展開へ渡します。
最初の8小節は、完成品ではなく制作の地図です。1小節目で土台を見せ、3小節目で少し変化し、7〜8小節目で次のセクションへ渡します。
A案として、1〜4小節は基本パターン、5〜8小節はドラムか上物を一つ増やします。B案として、1〜4小節は少なめ、5〜8小節でメロディを少し上げます。
この時点でミックスを作り込みすぎる必要はありません。音量バランスだけ整え、各パートの役割が聞こえるかを確認します。
制作で重視しているのは、頭の中のイメージを聞ける形に出すことです。8小節でよいので外に出すと、直す場所が具体的になります。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | キックとスネアと808だけ。ラップが乗る中音域は空けたまま |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | 上モノを抜き差しする。8小節目で一度消すと、戻したときに効く |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | フック8小節とバース16小節を作り分ける。フックは上モノを1つ足す |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | イントロ8→バース16→フック8→バース16→フック8。3分前後 |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目で16分の裏に小さなハイハットが増え、13〜14小節目でハイハットが丸ごと消えます。抜いた2小節があるだけで、同じループが最後まで飽きずに聞けます。
条件:BPM 90/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
崩れやすい場所
ジャンルらしさを足すほど、曲の芯が消えることがあります。
このジャンルで崩れやすいのは、上モノを詰めるとラップの居場所が無くなる。歌が入る前提で作ることです。ジャンル名に寄せるほど、音色や装飾に意識が行き、曲の骨格が弱くなることがあります。
対策は、ドラム、ベース、コード、メロディを一度ミュートしながら聞くことです。どれか一つを消した時に曲が急に弱くなるなら、そのパートが支えすぎています。
また、同じ場所を長時間触り続けると、判断が鈍ります。15分ごとに書き出して聞き、次に直す一点だけを決めると、作業が散らかりにくくなります。
生徒の制作でも、うまくいかない原因はセンスより工程の混線であることが多いです。いま直しているのがリズムなのか、音色なのか、構成なのかを分けるだけで進みます。
ミックス前の確認
音圧を上げる前に、役割が聞こえるかを確認します。
ミックスでは、最初から音圧を狙いません。まず音量、左右、低域のぶつかり、主役の聞こえ方を見ます。
声を想定して、真ん中の帯域が空いているか。この確認が終わる前にEQやコンプレッサーを深く触ると、原因が見えにくくなります。
EQはソロで決めきらず、全体再生中に動かします。特に中域はメロディ、コード、ギター、シンセが奪い合いやすいため、単体で良い音より全体で必要な音を優先します。
最後に、同じ音量で変更前と変更後を書き出して聞きます。大きい音は良く聞こえるため、音量差をそろえないと判断を間違えます。
完成へ進める基準
完璧さではなく、次の工程へ渡せるかで判断します。
8小節ができたら、完成度ではなく次へ渡せる状態かを見ます。ドラム、ベース、コード、メロディの役割が聞こえ、次のセクションへ進む理由があれば十分です。
次は16小節、32小節、ワンコーラスへ広げます。広げる時は新しい音を増やすだけでなく、音を抜く場所も作ります。抜く場所があるから、サビやクライマックスが強く聞こえます。
制作ログには、今日のテンポ、使ったコード、残した音色、次に直す一点を書きます。長い反省より、再開できるメモのほうが役に立ちます。
検索に戻る場合も、ジャンル名だけではなく、キック、ベース、コード、メロディ、ミックスのどこで止まったのかを言葉にします。検索語が具体的になるほど、次に読む記事も選びやすくなります。
ヒップホップビートの制作レシピ表
表は丸暗記ではなく、8小節を作る時の確認順として使います。
| 項目 | 最初に置くもの | 注意点 |
|---|---|---|
| BPM | ブーンバップ寄りなら85〜95 BPM、トラップ寄りなら140前後(体感は70) | 数字は固定ではなく、体感と音数で調整する |
| ドラム | キックとスネアの数を減らす。スネアは2拍目と4拍目に置いて背骨にする | フィルより骨格を先に置く |
| ベース | 808かウッドベース。キックと同じ場所で重ならないよう、長さを切って住み分ける | 低音は長さと場所を決める |
| コード | 短いループを4小節で1周させる。凝った進行より、繰り返して飽きない形を選ぶ | 難しさよりメロディの居場所を優先する |
| メロディ | 上モノは主役ではない。ラップが乗る中音域は意図的に空ける | 短いフックを作って反復できる形にする |
| 音色 | 808、スネアかリムショット、少しくすんだピアノかギター、レコード風のノイズ | 前に出る音、支える音、空間の音を分ける |
サンプルと権利の扱い
レコードから2小節取る作り方は、公開するなら手順が変わります。
このジャンルはレコードから数小節を抜き出すところから始まった歴史があります。ただし、その手つきをそのまま日本で公開作品に持ち込むと話が別になります。市販の音源を切り出すと、作詞作曲の著作権、演奏した人の権利、録音した会社の原盤権という3つの窓口を通す必要があります。3つのうち1つでも欠けていると、許可を取ったことになりません。
「何秒までなら大丈夫」という線引きは日本の法律にありません。判断した裁判例も見当たらないので、1小節だから安全という理屈は立ちません。短く切ってピッチを変えても、元がどれか分かる限り同じ話です。
現場でよく使われる逃げ道がリプレイです。気に入ったフレーズを耳で取り、自分の音源で弾き直す。コード進行そのものには基本的に権利が及ばないので、進行を借りて音は自分で置く形にすれば、公開しても止まりません。ラップが乗る中音域を空ける設計とも相性がよく、自分で弾いたほうが音量も音域も後から動かせます。
この記事の聴き比べは、すべて打ち込みで作った2小節のドラムです。どこかの曲から取ってきた音は入っていません。
| 素材の出どころ | 公開できるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 自分で弾き直す(リプレイ) | 問題なく公開できる | 進行を借りて音は自分で置く |
| 購入したサンプルパック | 曲に混ぜての発表は原則できる | 素材のままの再配布と転売は不可 |
| フリー配布のドラム素材 | 利用条件しだい | 商用可否・クレジット表記・加工の可否 |
| 市販曲からの切り出し | 許諾なしでは公開できない | 3つの窓口すべての許諾が要る |
ここに書いたのは制作の現場で使っている目安で、法律の判断ではありません。 配信やCD、ビートの販売などお金や公開が絡む段階では、権利元か詳しい人に確認してください。
よくある疑問
初心者はどこから作ればいいですか
音色探しではなく、BPM、ドラム、ベース、コード、メロディの順で8小節だけ作るのがおすすめです。
ジャンルらしさは何で決まりますか
BPMだけでは決まりません。ドラムの置き方、ベースの長さ、コードの色、メロディの音数、音色の役割が合わさって決まります。
ミックスはいつ始めますか
8小節の骨格が聞こえてから始めます。最初は音量と低域の整理だけで十分です。
記事通りに作れば同じジャンルになりますか
記事の数値は固定値ではなく出発点です。作りたい曲の速度、歌、音色に合わせて調整してください。
次に進む記事
ジャンルの方向が見えたら、止まっている工程に近い記事へ進みます。
同じ8ビートを、3つの表情で比べる
ジャスト/後ノリ(スネア +22tick)/スウィングの8ビートMIDIを3つ、無料でお送りしています。音色は同じで、動かしたのはタイミングとベロシティだけ。実際の音の違いはこちらで聞き比べられます。