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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

フォンクの作り方|カウベルのリフと歪んだ808をDTMで組む手順

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。担当作品と外部での確認先

フォンクとは、1990年代のメンフィスのラップを下敷きに、カウベルの短いリフと歪ませた808ベースを主役にした音楽です。

メロディを弾くのは鍵盤ではなくカウベル。低音は808を歪ませて長く伸ばし、スネアは1小節に1回だけ落とします。

音を増やすほど遠ざかります。必要なのは、カウベルの1小節のリフと、808の2音、硬いドラムが数発です。

BPMを決め、リフを置き、808を歪ませ、ドラムを置き、質感を荒らす。8小節までの手順を順番に説明します。

先に見ること

先に決めるのは、音色の数ではなく、カウベルのリフ1小節をどの高さで回すかです。

  • BPMは130〜160が目安。まず140で
  • スネアは9番(3拍目)だけ。1小節に1回
  • 808はキックと同じマスで鳴らし、歪ませて長く伸ばす
  • カウベルは単音。和音にしない

フォンクとは何か

古い録音の荒さを、わざと残したビートです。

フォンク(phonk)は、1990年代のメンフィスで作られていたラップの、くぐもった質感を下敷きにした音楽です。当時の録音はカセットで流通し、低音がにじみ、声がこもっていました。その荒さを欠点ではなく味として扱うところから始まっています。

2010年代に入ると、インターネット上でその質感を真似たビートが広まりました。近年は、カウベルの単音リフを前に出し、速いテンポで押していく「ドリフトフォンク」が動画サイトを通じて広く聴かれるようになっています。車の動画と一緒に流れている、あのカウベルの音です。

打ち込みで作る時に大事なのは、主役が2つしかない点です。カウベルのリフと、歪ませた808ベース。この2つが鳴っていれば、ほかは少なくて構いません。

ドラムの骨格はトラップと同じ半分のノリです。違いは、ハイハットの細かい刻みより、カウベルと808の歪みが前に出ること。そして、きれいに整えるほど遠ざかることです。

ここで扱うのは、カウベルのリフ、808、ドラム、質感の4つを8小節まで組む手順です。声のサンプルを切って入れる方法は、質感の節と権利の節で触れます。

BPMの目安

数字は速いが、体感は半分です。

130〜160が目安です。まず140に設定してください。

スネアが3拍目にしか来ないので、140でも体感は70です。頭を振る速さはゆっくりで、その上をカウベルとハイハットが倍の速さで走ります。この「遅い土台と速い上もの」の組み合わせがフォンクの手触りです。

ドリフト寄りに作るなら、150〜160まで上げます。カウベルのリフが前へ押す感じが強くなります。速くするほど、リフの音数は減らします。160で8分を全部埋めると、リフが聞き取れなくなります。

130を下回ると、808の長い音が間延びして、トラップの遅い側に近づきます。テンポを変えるのは、カウベルのリフ1小節ができてからにしてください。

近いジャンルとの違い

トラップと骨格は同じ。主役が何かで見分けます。

ジャンルBPMの目安見分けるところ
この記事(フォンク)130〜160カウベルのリフが主役。808を歪ませ、質感を荒らす
トラップ130〜160ハイハットの3連ロールが主役。808は歪ませすぎない
ドリル140〜145808が滑る。ハイハットを3連で割る
ヒップホップビート85〜95遅く、スネアが2拍目と4拍目。ラップが乗る前提
Lo-Fi HipHop70〜90同じ荒い質感を、遅く柔らかく使う
ダブステップ140前後(体感は70)同じ半分のノリ。ベースがうねる

数字の範囲はトラップとほぼ重なります。迷った時はメロディを誰が弾いているかで判断してください。カウベルが弾いていればこの記事の側です。

カウベルのリフを主役にする

単音で1小節。鍵盤に貼って、高さを変えて弾きます。

カウベルの音を1つ、サンプラーか鍵盤楽器の音源に貼ります。ドラム音源のカウベルをそのまま使っても構いません。大事なのは、叩く音ではなく、高さを変えて弾く音として扱うことです。

1小節を16分音符で16マスに分け、番号で呼びます。1拍目の頭が1番、2拍目が5番、3拍目が9番、4拍目が13番です。リフは8分音符を基本にして、奇数のマスから6つを選びます。

マス13591113
音の高さルートルート短3度5度短3度ルート

マイナーの3音だけで足ります。7番と15番を空けているのは、リフが息をする場所を残すためです。全部のマスを埋めると、リフではなく刻みになります。

高さは、カウベルの元の音より1オクターブ上あたりから試してください。低いと808と重なって埋もれ、高すぎると金属音だけが残ります。808の上に、はっきり別の層として浮く高さを探します。

和音にはしません。2音重ねた瞬間に、カウベルは鐘の音になります。重ねたくなったら、同じリフを1オクターブ下で小さく鳴らす程度に留めます。

1小節のリフができたら、2小節目も同じリフをくり返します。変えるのは4小節に1回、13番の音をルートから5度へ動かす程度です。リフは変化で聴かせるものではなく、くり返しで覚えさせるものです。

リフの下に置くマイナーの短い進行

フォンクの和音は、鍵盤で弾く和音としてはほとんど鳴っていません。カウベルのリフの3音と、808のルートで、マイナーの響きが決まっています。

コードを足すなら、1つで足ります。ルートのマイナーコードを、こもった音色で4小節に1回、1番に置きます。8小節の後半で変えたいなら、5小節目から短6度上のメジャーコードへ移り、7小節目でルートへ戻します。

進行を動かすと、808も合わせて動かすことになります。808が動くと、歪みの量が音の高さごとに変わります。低い音ほど歪みが強く聞こえるので、進行を足した後は808の歪みを聞き直してください。

マイナーの音の選び方はマイナーキーの曲の作り方にまとめています。ここでは「ルート、短3度、5度、短7度」の4音から出ない、とだけ決めておきます。

歪ませた808とキックの関係

同じマスで鳴らします。キックは短く、808は長く。

808とは、もともとドラムマシンのキックの音を、長く伸ばしてベースとして使う音のことです。ここでは1番と11番に置きます。1番は2拍分、11番は1拍半で、次の小節の頭にかぶらない長さにします。

キックも同じ1番と11番に置きます。キックと808を別の場所に置かないのがフォンクの流儀です。キックが輪郭、808が胴体。1つの低音として聞こえるように重ねます。

808にはサチュレーション(音をわずかに歪ませて倍音を足す処理)をかけます。歪ませると、低音だけでは聞こえない小さなスピーカーでも、808の音程が聞こえるようになります。フォンクの808は、この歪みを隠さず前に出します。

歪みの量は、808単体で聞いて「ざらつき」が分かる手前まで上げ、キックを重ねて輪郭が残っているかで決めます。輪郭が消えたら、歪みを戻すのではなく、キックの立ち上がりを短く硬い音に替えてください。

音の高さは、カウベルのリフと同じルートです。2小節目の11番だけ短7度へ下げると、リフが同じでも進んで聞こえます。ルートと短7度の2音で、8小節は持ちます。

キックと808が同じマスで濁る時の直し方はキックとベースがぶつかる時の直し方にまとめています。ここでは「同じ場所、長さは違う」だけ覚えてください。

ドラムは少なく硬く

スネアは9番だけ。ハイハットは8分で押します。

スネアは9番に1発だけ置きます。これがハーフタイム(スネアを1小節に1回にして、体感の速さを半分にする置き方)です。5番と13番には置きません。置いた瞬間に、140のまま倍速のビートになります。

スネアの音は短く硬いものを選びます。残響の長いスネアは、808の歪みと混ざって濁ります。クラップを同じ9番に重ねると、アタックが太くなります。

ハイハットは8分で、奇数のマス全部に置きます。トラップのような3連ロールは、まだ入れません。フォンクのハイハットは、転がすより押すものです。カウベルのリフと同じ8分で、並んで前へ進みます。

変化は2小節に1回で足ります。2小節目の15番と16番を16分の2発に割る。これだけで、2小節のまとまりが聞こえます。

楽器1小節目2小節目
キック+8081・111・11(11は短7度)
スネア(クラップ)99
ハイハット奇数のマス全部奇数のマス全部+15・16を16分に
カウベル1・3・5・9・11・13同じ

表を見ると分かるとおり、9番にはスネアとカウベルの5度が重なります。これで構いません。スネアの瞬間にリフの一番高い音が来るので、1小節の山が1か所に揃います。

ローファイの質感を作る

きれいに作ってから、わざと荒らします。

フォンクの荒さは、音色の選び方ではなく、あとから足す処理で作ります。打ち込みの段階ではきれいな音で組み、8小節が回ってから3つの処理を足します。

1つ目はローパス(高い音を削るフィルター)です。カウベルとドラムをまとめた先に挿し、高域を少し削ります。削りすぎるとこもるだけなので、ハイハットの輪郭が残る手前で止めます。808には挿しません。

2つ目はテープ風の揺れです。カセットやテープを真似るプラグインで、音程をわずかに揺らします。カウベルのリフだけに薄くかけると、古い録音から切ってきたように聞こえます。揺れが分かる量は、かけすぎです。消した時に物足りない程度が目安です。

3つ目は短く切った声です。1語か1音だけを切り、8小節目の13番から16番に置きます。長い言葉を入れると歌になります。何を言っているか分からない長さで、ピッチを下げて808の歪みに混ぜます。

3つとも、入れてから一度外して聞き比べてください。外して違いが分からないなら、足りていません。外してすっきりしたなら、かけすぎです。

8小節から16小節へ

カウベルを抜いて、戻します。

2小節ができたら、4回くり返して8小節にします。この時点で、カウベルのリフが頭に残るかを確かめます。残らないなら、リフの音数か高さを直します。質感の処理はまだ足しません。

16小節へ伸ばす時の変化は2つだけです。1つ、9小節目から12小節目まで、カウベルを抜く。808とドラムと短い声だけの4小節になります。2つ、13小節目でカウベルを戻す。

抜いた4小節で、808の歪みがむき出しになります。ここで低音が薄く聞こえるなら、歪みが足りていません。カウベルが戻った時、同じリフなのに前に進んだように聞こえれば成功です。

16小節目の最後の1拍で、808をルートから1オクターブ下へ落とします。これが次の16小節への合図になります。ハイハットのロールで区切るより、フォンクらしい切り替わりです。

展開の考え方は8小節ループの次へ進む方法にもまとめています。この記事の範囲では「カウベルを抜いて戻す」だけで16小節が持ちます。

最初の8小節の手順

リフ、808、ドラム、質感の順です。質感は最後です。

順番やること目安
1BPMを設定まず140。リフができるまで触らない
2カウベルを鍵盤に貼る元の音より1オクターブ上あたり
3リフを1小節打ち込む1・3・5・9・11・13。ルート、短3度、5度の3音
4808を1番と11番に置く1番は2拍、11番は1拍半。ルート
5808にサチュレーションをかけるざらつきが分かる手前まで
6キックを808と同じマスに置く短く硬い音。輪郭が消えたらキックを替える
7スネアを9番に置く1小節に1回。5番と13番には置かない
8ハイハットを8分で置く奇数のマス全部。2小節目の15・16を16分に
94回くり返して8小節にリフが頭に残るか確かめる
10ローパスと揺れを足して書き出す外して違いが分かる量まで

10番を先にやらないでください。きれいな状態で8小節が回っていないと、荒らした時に何が荒れているのか分からなくなります。荒さは、整った土台があって、はじめて味になります。

書き出して確かめる

小さい音量と、スマートフォンのスピーカー。見るのは3つです。

8小節を書き出して、小さい音量で聞きます。できればスマートフォンのスピーカーでも聞いてください。

1つ目、カウベルのリフが口ずさめるか。小さい音量で消えるなら、高さが低すぎるか、808と同じ帯域に埋もれています。

2つ目、スマートフォンで808の音程が分かるか。分からないなら、歪みが足りていません。低音そのものは小さなスピーカーから出ませんが、歪みで足した倍音は出ます。

3つ目、体感が70で頭を振れるか。倍速に聞こえるなら、5番か13番にスネアか強いキックが入っています。

今日やることは1つに絞ります。140でカウベルのリフを1小節打ち込み、808を1番に置いて歪ませる。ドラムも質感も、まだ入れなくて構いません。この2つが重なった時点で、フォンクの骨格はできています。曲として仕上げる残りの流れは、制作工程マップで確認してください。

素材と権利

古い録音の質感は、誰かの録音の質感です。

カウベルと808を自分で打ち込む範囲なら、権利の問題は起きません。どこで公開しても問題ありません。

フォンクの質感の節で触れた「短く切った声」は、話が変わります。市販の曲や配信されている曲、古いラップの録音から声を切り出して公開すると、作詞作曲、演奏、録音の3つの権利に関わります。ピッチを下げて聞き取れなくしても、権利は消えません。

声が欲しいなら、購入したボーカル素材集か、利用条件が明記された無料素材を使います。自分で1語を録音して、ローパスとテープ風の揺れで荒らす方法もあります。質感の処理は自前の録音にも同じように効きます。

サンプルの扱いの考え方はヒップホップビートの記事の「サンプルと権利の扱い」に、買った素材で何ができるかはトラップの記事の「買った素材で何ができるか」にまとめています。ここに書いたのは制作の現場での目安で、法律の判断ではありません。配信や販売など、お金や公開が絡む段階では権利元か詳しい人に確認してください。

よくある疑問

カウベルの音源がありません

ドラム音源に入っているカウベルを、サンプラーに貼るか、音源側で鍵盤に割り当てて使えます。無ければ、短い金属音のサンプルで代用できます。大事なのは音色よりも、高さを変えて単音のリフとして弾くことです。

808を歪ませたら割れて汚くなりました

歪みの量が多いか、歪ませた後に音量が上がりすぎています。808単体でざらつきが分かる手前まで戻し、歪ませた後の音量を歪ませる前と同じに揃えてください。それでも汚いなら、歪みの種類をテープ風やチューブ風の柔らかいものに替えます。

トラップとの違いは何ですか

BPMとドラムの骨格は同じです。違いは主役で、トラップはハイハットの3連ロール、フォンクはカウベルのリフです。808の扱いも違い、トラップは歪みを控えめに、フォンクは歪みを前に出します。

ドリフトフォンクにするには何を変えますか

BPMを150〜160に上げ、カウベルのリフの音数を減らします。ハイハットは8分のまま、ロールは入れません。808は同じ歪みで、長さを少し短くして次の音にかぶらないようにします。

次に進む記事

骨格ができたら、同じ半分のノリの隣と、低音の処理へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。

記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ

UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。

読んだあとに

この1本から、90秒の曲を書き出すところまで

楽器が弾けなくても、Cubaseで90秒の歌ものを完成させる。このサイトは、音出し → コード → ドラム → 鼻歌 → 90秒 の順に進む制作ノートです。今読んだ記事がどの工程にあたるかは、トップページで確かめられます。

書いている人:古賀 稔宏(作曲・編曲家)/担当作品と外部での確認先

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