ボカロ風ハイテンポ曲をDTMで組む手順|テンポ・言葉数・伴奏の設計

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ボカロ調の曲は、速いテンポで音を並べれば出来上がる、というものではありません。
ボカロらしさの正体は、人の歌では苦しい量の言葉を、機械の声だからこそ詰め込めるところにあります。速さは、そのための入れ物にすぎません。
ここでは、そのジャンルらしさを音色の名前ではなく、歌のメロディに落とし込みます。
言葉の詰め方、語尾の処理、サビ頭の跳躍、そして調声。人の呼吸から自由になったメロディを、どう組むかを見ていきます。
ボカロらしさの正体
ボカロ調は、速さより「言葉の詰め方」で決まります。
- 細かい音符に言葉を乗せ、人の呼吸より多く詰め込む
- 語尾を短く切るか、母音を伸ばすかで印象を分ける
- サビの頭で、高い音へ大きく飛ばす
- ブレスの空白を残し、詰めすぎで潰さない
速いテンポに言葉を詰める
1拍に何文字乗せるかを、先に決めます。
ボカロ調のメロディで最初に決めるのは、音符の細かさです。速いテンポ、目安として160から190くらいの範囲で、16分音符を主役に使います。
この細かい音符ひとつひとつに、歌詞の一文字を割り当てていくのが、あの畳みかける歌い回しの正体です。人が歌うと息が続かない密度を、機械の声は平気でこなします。
ただ、全部を16分で埋め尽くすと、言葉が団子になって何を歌っているか分からなくなります。目安として、1拍のなかで詰める文字は4つまで。
ここぞという畳みかけの2拍だけ16分でびっしり並べ、あとの拍は8分に落として言葉を聞かせる。この濃淡が、速さの中に聞き取りやすさを残すコツです。
メロディは、どの拍から言葉を入れ始めるかでも印象が変わります。1拍目の頭からまっすぐ入るのか、少し食って手前から入るのか。
ボカロ調では、拍の頭より少し前から言葉を滑り込ませると、前のめりな勢いが出ます。同じ音符の並びでも、入り口をずらすだけで転がり方が変わるので、まずここを試してください。
語尾を切るか、伸ばすか
フレーズの終わり方が、曲の表情を決めます。
言葉を詰めたあと、フレーズの最後の音をどう処理するか。ここがボカロ調の分かれ目です。
選択肢は大きく二つ、短く切るか、母音を長く伸ばすかです。畳みかける歌詞の直後に語尾をスパッと16分で切ると、次のフレーズへの間が生まれ、機械的で鋭い印象になります。
反対に、サビの終わりや聞かせどころでは、母音を全音符くらいまで長く伸ばします。「あー」「えー」と伸びる母音は、感情がこもって聞こえる場所です。
詰めて切る細かい部分と、伸ばして聞かせる部分を交互に置くと、忙しさと歌の情感が両立します。ずっと切りっぱなしでは息苦しく、ずっと伸ばすとボカロらしい疾走感が消えます。
伸ばす音では、母音がどこで切り替わるかにも気を配ります。たとえば「ない」を伸ばすなら、「な」で伸ばすのか、「い」まで動いてから伸ばすのか。
ボカロの声は、この母音の移り変わりをはっきり出せるので、伸ばしの終わり際で母音を変えると、歌が生きた表情に近づきます。
サビ頭を高い音へ飛ばす
Aメロとサビの落差が、盛り上がりを作ります。
ボカロ調のサビは、多くの場合いきなり高い音から始まります。Aメロを中くらいの音域で抑えめに置いておき、サビの頭でそこから大きく跳ね上げる。この落差が、盛り上がりの正体です。
人の声だと裏返る高さや、届かない跳躍も、ボカロなら安定して出せるので、思い切って飛ばせます。
跳躍の幅は、5度から1オクターブが扱いやすい範囲です。Aメロの最後の音から、サビの1音目まで、鍵盤で数えて8つ以上ジャンプさせると、はっきりした落差になります。
ここで大事なのは、跳んだ先の高い音を、サビのいちばん耳に残るフックにすることです。飛んだ勢いを、そのまま一番言いたい言葉に乗せます。
ただし、跳躍を曲中で何度も使うと、驚きが薄れます。跳ね上げるのはサビ頭など決め所だけにして、Aメロやフレーズの途中はなだらかに動かす。
跳ぶ場所を絞るほど、跳んだ時の効果が強くなります。落差は、抑えた場所があってはじめて生まれるものです。
速さに耐える土台を作る
歌が主役なので、伴奏は隙間を残します。
言葉を詰めたボーカルが主役になる以上、伴奏は歌の邪魔をしない作りにします。ドラムは、キックとスネアで前へ進む形を作りつつ、ハイハットは16分で細かく刻んで疾走感を足します。
歌が16分で畳みかける裏で、ドラムも細かく動くと、曲全体が同じ速さでまとまります。
ベースは、コードの根っこの音を8分で刻むのが基本です。ここで気をつけるのは、低い音を長く伸ばしすぎないことです。
速い曲で低音がだらだら鳴り続けると、キックの輪郭がぼやけ、詰め込んだ歌詞の隙間も埋まって、全体がもたつきます。音の終わりを短く切り、次の音との間に少し空白を作ると、速さが軽く前へ転がります。
コードは、複雑にするより切り替わる速さで勢いを出せます。1小節に1つではなく、半小節ごとや1拍ごとにコードが動くと、忙しい歌によく合います。
難しいテンションを積むより、シンプルなコードを速く動かすほうが、ボカロ調の推進力に向いています。まずは歌が埋もれないよう、伴奏の中域を空けておくことを優先します。
上物のシンセやアルペジオを足す時も、歌と同じ細かさで動かすと、全体が一体になって疾走します。ただし、歌がいちばん詰まる場所では上物を少し減らし、聞かせたい言葉のための隙間を空けます。
にぎやかさと聞き取りやすさは、どちらを取るかではなく、場面ごとに配分する感覚で調整します。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
言葉を詰めた歌が主役になるので、伴奏には息継ぎの場所が要ります。2本ともBPM175・同じパターンで、止めるかどうかだけが違います。
勢いはありますが、ここに言葉を詰めた歌が乗ると、隙間がまったく残りません。
止めたのは1拍だけです。歌の切れ目にこの空白を合わせると、ブレスやフレーズの区切りがはっきりします。
条件:BPM 175/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
止める場所は歌詞とメロディを置いてから決めると合わせやすくなります。伴奏だけ止めても、歌が休んでいなければ息継ぎにはなりません。
調声で人らしさを足す
棒読みのベタ打ちから、一歩だけ動かします。
音符と歌詞を置いただけの状態は、いわゆるベタ打ちで、機械が棒読みしているように聞こえます。ここから歌に近づける作業が調声です。
全部を作り込む必要はなく、初心者はまず二か所だけ触ります。ピッチのつなぎ目と、音の入るタイミングです。
ピッチのつなぎ目とは、音から音へ移る瞬間のことです。ボカロの初期状態は、階段のようにカクッと音程が切り替わります。
ここに少しだけ滑らかな移り変わりを足すと、しゃくり上げるような人間らしい歌い方に近づきます。とくに跳躍のあとや、伸ばす音の入り口に入れると効果が分かりやすいです。
タイミングは、音の入りをほんの少し前後させます。全部が拍にきっちり合っていると、正確すぎて硬く聞こえます。
畳みかける部分をわずかに前へ、伸ばす部分を少し後ろへずらすと、歌が呼吸しているように動きます。
調声は、正解を一気に作るより、棒読みを一段だけ人へ寄せる、くらいの気持ちで十分です。細かなピッチの整え方はボカロの調声の記事も参考にしてください。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | 16分のドラムと歌の仮メロだけ。息継ぎの場所をここで決めてしまう |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | 止める場所を増やすか減らすかを試す。増やすほど言葉が聞き取りやすくなる |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | サビ頭でメロディを大きく跳ばす。伴奏はそのままでいい |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | 3〜4分。速いぶん短くまとめ、間奏は1か所にする |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目は毎小節ブレスを入れ、13〜14小節目は逆に止めずに畳みかけます。止める場所を増やすか減らすかで、歌の乗せやすさが変わります。
条件:BPM 175/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
組み立ての早見表
音色名ではなく、DAWで手を動かす順に並べます。
| 要素 | ボカロ調での具体 | やりすぎの注意 |
|---|---|---|
| 言葉数 | 16分に一文字ずつ、1拍4文字まで | 全拍を詰めると団子になって聞き取れない |
| 語尾 | 短く切る所と、母音を伸ばす所を交互に | 切りっぱなしは息苦しく、伸ばしすぎは失速 |
| サビ頭 | 5度〜1オクターブ上へ跳ばす | 跳躍を多用すると驚きが薄れる |
| 伴奏 | ベースは短く切り、コードは速く動かす | 低音を伸ばすと歌の隙間が埋まる |
| 調声 | ピッチのつなぎ目と入りのタイミング | 作り込みすぎる前に骨格を先に固める |
よくある疑問
ボカロらしさは何で出ますか
テンポの速さだけでは出ません。言葉数の多さ、語尾の切り方や伸ばし方、サビ頭の高い音への跳躍、息継ぎに縛られない細かい音符の積み重ねが合わさって、ボカロらしさになります。
速い曲で歌詞が聞き取れません
1拍に詰める文字を減らし、フレーズの切れ目に短い休みを置きます。全部を16分で埋めず、ブレスにあたる空白を作ると聞き取りやすくなります。
調声はどこから触ればいいですか
ピッチのつなぎ目と、音の入るタイミングから始めます。棒読みのベタ打ちでも、音の入りを少し前後させたり、語尾のピッチを整えるだけで歌に近づきます。
ミックスはいつ始めますか
8小節の骨格が聞こえてから始めます。最初は歌が埋もれない音量と、低音の整理だけで十分です。
記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
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