アニソン風楽曲の作り方|歌ものロックをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
アニソン風と呼ばれる曲の多くは、歌が主役のロックです。速いドラム、走り続けるベース、壁のように鳴るギター。その隙間をシンセやストリングスが埋めて、画面が明るくなるような厚みを作ります。
ただし、疾走感は速さだけでは出ません。Bメロで一度スピードを落として、サビの頭で全部を解放する。この落差が「走っている」と感じる正体です。落差を8小節の中で作る手順から整理していきます。
制作の軸
アニソン風は、速さより落差で疾走感を作ります。
- BPMは160〜185を目安に試す
- 編成はバンド4点にシンセを薄く足す
- Bメロで溜めてサビ頭で解放する
- ドラムと歌が聞こえる音量を守る
速さと疾走感は別もの
BPMの目安と、走って聞こえる仕組みを分けて見ます。
テンポの目安はBPM160〜185です。BPMは1分間に刻む拍の数のことで、DAWの上部に出ている数字がそれです。
迷ったら175から始めて、10ずつ上下に動かして聞き比べます。
数字を上げるほど疾走感が出るとは限りません。走って聞こえるのは、ドラムの刻みが細かく前へ進み、静かな場面とうるさい場面の差が大きい時です。
BPM170でも平坦な曲はありますし、BPM150でも走って聞こえる曲は作れます。
もう一つの上限は歌です。アニソン風のメロディは言葉数が多いので、速すぎると歌えなくなります。
仮のメロディを口ずさんでみて、息が続く速さかどうかを最後の判断にします。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
疾走感は、テンポの数字とは別のところから出ています。2本ともBPM175で、変えたのは刻みの細かさだけです。
同じ175なのに、あまり走って聞こえません。速さの数字は上げていないのに、です。
BPMもキックもスネアも1つも変えていません。ハイハットの分割を8分から16分にしただけで、前へ進む感じが出ます。
条件:BPM 175/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
速く聞こえないときに、まずBPMを上げたくなります。ただ歌詞やメロディによっては、数字を上げると歌いにくくなります。先に刻みで試すほうが手戻りが少なくて済みます。
バンド編成にシンセを足す
基本は4点セット。シンセは隙間を埋める係です。
編成の基本は、ドラム、ベース、ギター2本、ピアノかシンセの4種類です。ギターの1本目は低い音域の刻み役です。
パワーコードという、ルートと5度の2音だけを重ねた形をザクザクと打ち込みます。2本目は高い音域で、単音フレーズや短い和音を担当させます。
シンセの足し方には順番があります。
バンドの音を全部置いた後で、足りない場所を探して埋める。この順番です。
高い音域に薄く伸ばすパッド(持続音の和音)か、細かく動くアルペジオ(和音を1音ずつ順番に鳴らす形)のどちらかを、小さめの音量で入れます。
ここで音量を上げすぎると、バンドの勢いが消えてシンセ曲になってしまいます。シンセを一度ミュートして、消した時に少し寂しい、くらいの存在感が目安です。
サビだけストリングスを重ねる方法もよく使われます。高い音域で長い音を弾かせるだけで、サビの景色が一段広がります。
構成と各セクションの役割
Aメロ、Bメロ、サビで音数と音域を段差にします。
| 時間 | 場面 | 小節 | 作ること | 判断のしどころ |
|---|---|---|---|---|
| 0:00–0:08 | イントロ | 1–4 | 曲の顔を出す | 最初の2秒で世界観が決まる。ここだけは主役級の音を置く |
| 0:08–0:32 | Aメロ | 5–16 | 音数を抑えて言葉を通す | サビとの落差を作る場所。詰め込むとサビが上がらない |
| 0:32–0:48 | Bメロ | 17–24 | 密度を上げて持ち上げる | 溜める場所。ここで一度抜くとサビ頭が開く |
| 0:48–1:16 | サビ | 25–38 | 音域・音数・ドラムを広げる | 一番聞かせたい山。TVで流れるのは実質ここ |
| 1:16–1:30 | 終わり | 39–45 | 短く閉じる | フェードで逃げず、切って終わると次に繋がる |
テンポが違えば小節数は変わりますが、秒数の配分は動かさないのが作りやすいです。 BPM160なら1小節1.5秒なので、同じ90秒でも小節数は約1.3倍になります。 迷ったら、サビが全体の3分の1(約28秒)を占めているかだけ確認してください。
| セクション | 音数 | ここでやること |
|---|---|---|
| イントロ | 多め | サビと同じ素材を短く見せて掴む |
| Aメロ | 少なめ | 歌を聞かせる。ギターは軽い刻みに抑える |
| Bメロ | 中くらい | リズムを落として溜める。音域を少し上げる |
| サビ | 全部 | 頭の1拍目に全楽器を揃えて解放する |
表の肝は、サビを目立たせるためにAメロとBメロを設計するという見方です。全セクションを豪華にすると、段差が消えてサビが埋もれます。
コードとメロディの性格
明るさの中に切なさを混ぜると、それらしくなります。
コードは、明るいだけの並びより、切なさが混ざる並びが合います。マイナーコード(暗い響き)から始まってメジャーコード(明るい響き)へ抜ける流れを作ると、泣きながら走るようなあの雰囲気に近づきます。
4つのコードのループで十分です。
コードを変える速さも性格を作ります。Aメロは1小節に1個でゆったり、サビは半小節で動かす。
変わる回数が増えるほど、曲は前のめりに聞こえます。
メロディは言葉数が多く、音域が広いのが特徴です。Aメロは低めの音域で細かく言葉を並べ、サビの頭は高くて長い1音をどんと置きます。
Aメロとサビの音域差が、そのまま盛り上がりの差になります。
高い音が続くと歌い手が苦しいので、サビの中に一度低く戻る場所を作ります。打ち込みでも、自分で口ずさめない形は聞き手にも苦しく聞こえます。
Bメロの溜めとサビ頭の解放
直前に落とすほど、サビの頭は強くなります。
溜めの作り方は具体的です。Bメロに入ったら、ドラムのスネアを2拍4拍から3拍目だけに減らします。
体感の速度が半分になります。ギターは刻みをやめて伸ばす音に変え、ベースも長めの音にします。
曲は止まらないのに、歩幅が大きくなったように聞こえます。
サビ直前の1〜2拍はさらに思い切ります。全部の楽器を止めて歌だけにするか、タムを低い音から高い音へ駆け上がるフィルを入れる。
どちらでも、一瞬の空白や助走が次の1拍目を大きく見せます。
サビ頭は、クラッシュシンバルと全楽器の音を1拍目に揃えます。メロディの最初の音も、その小節で一番目立つ高さに置きます。
ここが揃うだけで、作りかけの曲でもサビだと分かる形になります。
2回目のサビでは、ストリングスやコーラスを1つだけ足します。同じサビの繰り返しでも、新しい音が1つ入ると飽きずに聞けます。
ミックスで守ることは一つ
ギターの壁が歌を飲み込む問題だけ、先に防ぎます。
この編成で一番起きやすい事故は、ギターとシンセを重ねるほど歌が奥に引っ込むことです。刻みのギターと人の声は、鳴っている音域の中心が近いからです。
制作の現場では、歌ものはドラムとボーカルの2つが聞こえる状態を先に作る、という順番で整えます。レッスンでもこの順番を最初に伝えています。
コードやパッドを気持ちよく上げていくと、主役の歌が奥へ下がっていくためです。
手順にすると簡単です。フェーダーで歌とスネアがはっきり聞こえる音量関係を先に決めて、ギターとシンセはその2つを隠さない大きさまでしか上げない。
EQやコンプレッサーで細かく整えるのは、この関係ができた後で十分です。
最初の8小節を組む手順
Bメロからサビへ入る8小節を、この順で置きます。
いきなり1曲を組まず、Bメロ4小節とサビ4小節だけを作ります。この8小節に、このジャンルの要素が全部入るからです。
- BPMを175に設定する
- 5〜8小節目にサビのドラムを置く。キックとスネアの8ビート、ハイハットは8分で刻む
- 1〜4小節目に溜めのドラムを置く。スネアは3拍目だけにする
- ベースを入れる。前半は長い音、後半はルートを8分で刻む
- コードを4つ選んで置く。前半は伸ばし、後半は刻む
- ギターのパワーコードを後半だけ重ねる
- 4小節目の最後の1拍を全部止めて、5小節目の頭にクラッシュを置く
- 鼻歌でサビ頭のメロディを探して、高い1音から始める形で打ち込む
できたら書き出して、スマホの小さい音で聞きます。5小節目で景色が変わって聞こえたら成功です。
変わらなければ、前半の音をさらに減らします。足すより減らす方が、落差は簡単に作れます。
この8小節をイントロやAメロへ広げる流れは、1曲全体の工程を1枚にまとめた制作工程マップが目次代わりになります。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | BPMを決めてドラムだけ8小節。走って聞こえるかをここで判断する |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | 刻みの細かさをセクションで変える。Aメロは粗く、サビは細かく |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | ギター2本を重ねる。低い刻みと高いフレーズで役割を分ける |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | イントロ→A→B→サビで4〜5分。静かな場面との差を大きく取る |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目でオープンハットが増え、13〜14小節目でハイハットが消えます。BPMは最後まで175のままです。刻みの出し入れだけで景色が変わります。
条件:BPM 175/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
よくある疑問
アニソン風のBPMはいくつにすればいいですか
160〜185を目安に、まず175で試します。仮のメロディを口ずさんで、言葉が入りきる速さかどうかで決めます。
シンセはどうやって足せばいいですか
バンドの音を置いた後に、隙間を埋める役として足します。高い音域の薄いパッドかアルペジオを、歌やギターより小さく入れます。
サビが弱く聞こえるのはなぜですか
サビ自体より、直前の溜め不足が原因のことが多いです。Bメロのスネアを減らし、サビ直前に一度音を抜いてみてください。
ギターが弾けなくても作れますか
作れます。パワーコードをMIDIで打ち込めば刻みは形になります。低い刻みと高い単音の2トラックに分けると厚みが出ます。
記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。
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