アイドルポップの作り方|明るいサビをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
アイドルポップの中心はサビです。一度聞いたら口ずさめて、聞いているだけで振り付けが目に浮かぶ。
曲のほかの部分は、そのサビへお客さんを連れていくための道と考えると、作る順番がはっきりします。
明るさはキラキラした音色だけでは作れません。歌の重ね方、全員で揃えるキメ、最後にキーごと持ち上げる転調。
仕組みは一つずつ打ち込みで再現できます。サビの8小節から作る前提で、順番に見ていきます。
制作の軸
アイドルポップは、サビの明るさから逆算して組みます。
- サビ8小節を最初に作る
- ユニゾンとコーラスで歌を太くする
- キメで踊りの見える瞬間を作る
- 飾りの音は同時に2つまでに絞る
テンポとリズムの土台
踊れる速さと、弾むリズムを先に決めます。
テンポはBPM128〜168が目安です。歌えるだけでなく踊れる速さかどうかで選びます。
手拍子しながら足踏みできる速さなら合格です。迷ったら132から試します。
リズムの軸は2つあります。1つ目はキックを1拍ごとに置く4つ打ち。ダンス寄りの弾み方になります。
2つ目は普通の8ビートに、2拍目と4拍目のクラップ(手拍子の音)を重ねる形。手拍子を思わせるバックビートになります(ライブで客席が叩く場所と重なることも多い形です)。
どちらの場合も、ハイハットを少し跳ねさせると柔らかい揺れが出ます。ストレートのままでも構いません。DAWのスウィング機能で1〜2割だけ跳ねを足して、真っ直ぐな刻みと聞き比べてみてください。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
記事で書いたリズムの軸2つを、そのまま並べました。2本ともBPM132です。
床を踏み続けるので、体が縦に動きます。ダンスを前提にするならこちら。
2拍目と4拍目にクラップ系の音を置くと、手拍子を思わせるバックビートになります。ここでは同じ音を4.7ミリ秒ずらして重ねていますが、音源によっては位相の色づきやフラム感が出るので、重ねたら必ず聞いて確かめてください。
条件:BPM 132/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
この2本はどちらも真っ直ぐな8分です。柔らかい揺れが欲しければ、8分の裏をわずかに遅らせる手もありますが、ストレートのままでも十分に一般的です。
構成はサビからの逆算
各セクションの仕事を、サビ基準で決めます。
| セクション | 歌の形 | サビのためにやること |
|---|---|---|
| イントロ | なしか掛け声 | サビのメロディを楽器で先に聞かせる |
| Aメロ | 1人ずつ交代 | 音数を減らして声の表情を見せる |
| Bメロ | 少人数 | 音域を上げながらサビへの期待を作る |
| サビ | 全員 | ユニゾンとコーラスで一番太くする |
| ラスサビ | 全員 | キーを半音〜全音上げて締める |
グループの歌を想定すると、歌う人数の増減がそのまま曲の展開になります。
Aメロは1人、Bメロは2〜3人、サビは全員。打ち込みのデモでも、歌のトラック数でこの人数差を作れます。
明るいサビの3点セット
ユニゾン、コーラス、キメの3つで太くします。
1つ目はユニゾンです。全員が同じメロディを歌う状態のことで、声が1本の太い線になります。
デモでは同じメロディを2〜3トラック重ねるだけで再現できます。サビの前半はまずユニゾンで押すのが基本形です。
2つ目はコーラスです。主メロディの3度上、つまりドに対するミの位置に別の声を重ねます。
サビの後半だけコーラスを足すと、前半との差で後半がさらに開いて聞こえます。
3つ目がキメです。詳しくは次のセクションで扱いますが、サビの終わりに全員でリズムを揃える1〜2拍を置くと、サビ全体が締まります。
メロディそのものは、短いフレーズの繰り返しを恐れないことが大切です。レッスンでは、同じメロディでも下のコードが変わると聞こえ方が変わる、という判断軸を伝えています。
サビの前半4小節と後半4小節でメロディを使い回し、コードだけ変える。反復で覚えやすく、変化で飽きない形が同時に作れます。
キメで振り付けを見せる
音が止まる場所が、体の動きが見える場所です。
キメとは、全部の楽器と歌が同じリズムを演奏して、一緒に止まる瞬間のことです。
曲の流れが一瞬止まるので、聞き手はそこでポーズや決め顔を想像します。振り付けを想像させたいなら、音を足すよりキメを置く方が効きます。
作り方は単純です。サビ直前の1拍、全トラックのノートを消して無音にします。
そこにクラップ1発だけ置いてもかまいません。「せーの」と息を合わせる瞬間が生まれて、サビ頭で全員が同じポーズを取る画が浮かびます。
もう1か所はサビの最後です。最後の2拍を「タン・タタ・タン」のような口で言えるリズムにして、全楽器を同じ位置に揃えます。
口で言えないリズムはキメに向きません。先に声に出して、言えた形を打ち込みます。
キメは1曲に数回で十分です。増やしすぎると流れが途切れて、逆に踊りにくい曲になります。
転調的な持ち上げの入門
ラスサビでキーごと持ち上げる定番を、安全に試します。
転調とは、曲のキー、つまり床の高さを途中で変えることです。
最後のサビで床ごと半音か全音上がると、同じメロディなのに景色が一段明るくなります。アイドルポップの締めの定番です。
理論の勉強は後回しでかまいません。MIDIならやることは1つです。
ラスサビのノートを全部選んで、半音上げなら1、全音上げなら2、上へ動かします。
コードもメロディも一緒に動かすのがコツです。どれか1パートだけ動かすと濁ります。
入れる位置にも定番があります。上がる直前に一度静かな場所を作ると、持ち上がった瞬間の明るさが際立ちます。
Bメロをもう一度短く挟んでから上げる、キメの無音を挟んでから上げる、のどちらかを試してください。
注意は2つです。上げたら曲の最後まで戻らないこと。
そして歌い手の音域を半音分圧迫するので、元のサビの最高音に余裕を残しておくことです。
賑やかな音数の整理術
賑やかさは音の数ではなく、役割の数で管理します。
このジャンルはベル、シンセ、効果音と足したくなる音が多く、気づくと20トラックがサビで同時に鳴ります。それでも聞きやすい曲とうるさい曲の差は、役割の整理にあります。
ルールは3層です。
主役は常に歌1つ。支えはドラム、ベース、コード楽器。飾りは同時に2つまで。
新しいキラキラを足したくなったら、今鳴っている飾りのどれかを黙らせてから入れます。
置き場所も分けます。飾りの1つは高い音域、もう1つは左右のどちらかに寄せる。歌と同じ高さの真ん中には置きません。
ぶつかる場所さえ空けておけば、トラック数が多くても混みません。
迷った時は、サビを再生しながら飾りを1つずつミュートします。消しても寂しくならない音は、そのサビに要らない音です。
最初の8小節を組む手順
一番おいしいサビの8小節を、この順で作ります。
- BPMを132に設定する
- キックを4つ打ちで8小節置き、2拍目と4拍目にクラップを重ねる
- 明るいコードを4つ選び、1小節ずつ並べて2周させる
- ベースはコードのルート音を8分で刻む
- 鼻歌でサビのメロディを1〜4小節目に作り、5〜8小節目へそのまま使い回す
- 5〜8小節目はコードだけ別の並びに変えて、聞こえ方の変化を確認する
- メロディのトラックを複製してユニゾンにし、5小節目からは3度上のコーラスも足す
- 8小節目の最後の2拍に、全トラック同じリズムのキメを置く
書き出してスマホで聞き、鼻歌が消えずに残るかを確かめます。
ここまでできたら、この8小節を目立たせる方向でAメロとBメロを足していきます。全体の並べ方は、1曲完成までの流れをまとめた制作工程マップを横に置いて進めると迷いません。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | 軸をどちらか1つに決めて8小節。両方混ぜない |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | サビだけもう一方の軸に切り替える。4つ打ちと8ビートを行き来させる |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | 転調を1回入れる。半音か全音、サビの繰り返しの2回目で |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | 3分前後。決めどころ(キメ)を1〜2か所に絞って、あとは走らせる |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目だけ4つ打ちをやめて8ビートになり、13〜14小節目でキックが消えます。リズムの軸を曲の中で行き来させると、それだけで場面が変わります。
条件:BPM 132/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
よくある疑問
サビだけ先に作ってもいいですか
構いません。曲の中心がサビにあるジャンルなので、サビ8小節を先に固めて、AメロとBメロを後から逆算する方が作りやすいです。
転調は初心者には難しくないですか
ラスサビの半音上げだけなら試せます。MIDIノートを全部選んで1つ上へ動かすだけです。まず一度だけ入れて聞き比べてください。
音を重ねるとごちゃごちゃします
主役は歌1つ、飾りは同時に2つまでと決めます。濁る時は、高さが近いパートのどちらかを1オクターブ動かします。
キメはどこに入れればいいですか
サビ直前とサビの最後が定番です。全員が同じリズムで止まる場所が踊りの見える場所になります。1曲に数回で十分です。
記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。
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