DTMテンポの決め方|BPMで迷った時の考え方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DAWで新規プロジェクトを開くと、テンポの欄にはたいてい120という数字が入っています。
この数字を変えるべきなのか、そもそも何を意味しているのか分からず、最初の一歩で手が止まる人は少なくありません。
安心してほしいのは、テンポに全曲共通の正解はなく、しかも打ち込みの段階なら後からいくらでも変えられることです。
このページでは、BPMという数字の意味、ジャンル別の目安、鼻歌や手拍子から自分の曲に合う速さを探す方法、そして「いつまでに確定すべきか」まで順番に説明します。
先に見ること
テンポは「目安から仮置き→鳴らして調整→録音前に確定」で決めます。
- BPM=1分間に鳴る拍の数。BPM60なら時計の秒針と同じ速さ
- 迷ったらジャンルの目安から。バラード60〜80、ポップス90〜120、ダンス系120〜130
- 鼻歌や手拍子に合わせてタップすれば、体の中の速さを数字にできる
- 打ち込み中は自由に変更OK。歌や楽器の録音前だけ確定させる
BPMとは:1分間に何回打つかの数字
難しい単位ではなく、心拍数と同じ数え方です。
BPMはBeats Per Minuteの略で、1分間に拍(ビート)が何回鳴るかを表す数字です。
曲に合わせて自然に手拍子した時、その手拍子が1分間に何回打たれるか。それがその曲のBPMです。
テンポとBPMは、日常会話ではほぼ同じ意味で使われます。
基準として覚えやすいのがBPM60です。1分間に60回、つまり1秒に1回。時計の秒針とぴったり同じ速さです。
BPM120ならその倍で、1秒に2回。DAWの初期値が120になっていることが多いのは、速すぎず遅すぎず、多くのジャンルで扱いやすい真ん中あたりの速さだからです。
数字が大きいほど速い曲、小さいほど遅い曲。仕組みはこれだけです。
DAW上ではテンポの数字を打ち替えるだけで、メトロノームやドラムの刻みがその速さに変わります。
まずは自分のDAWでテンポ欄を見つけて、100と140を打ち替えてメトロノームを聞き比べてみてください。数字と体感がつながります。
ジャンル別のBPM目安レンジ
ゼロから悩まず、作りたい曲の仲間がいる範囲から仮置きします。
テンポで迷う最大の原因は、20から300まで選べる数字を白紙から選ぼうとすることです。
実際には、ジャンルごとにだいたいの相場があります。作りたい曲に近い行から仮の数字を1つ選べば、悩む範囲は一気に狭まります。
| 曲のタイプ | BPMの目安 | 体感のイメージ |
|---|---|---|
| バラード | 60〜80 | ゆっくり歩く速さ。1音1音を聞かせる |
| ミディアムテンポの歌もの | 85〜105 | 落ち着いた大人の歩幅。R&B系にも多い |
| ポップス | 90〜120 | 軽快な散歩〜早歩き。迷ったらこの辺り |
| ダンス系(ハウスなど四つ打ち) | 120〜130 | 体が勝手に揺れる速さ |
| アップテンポなロック・アニソン系 | 150〜180 | 駆け出したくなる。疾走感重視 |
この表は法律ではなく、あくまで出発点の目安です。BPM82のポップスも、135のロックも普通に存在します。
大切なのは、たとえば切ないバラードを作りたいのに初期値の120のまま打ち込み始めない、ということです。入口の数字が近ければ、その後の微調整は5や10の単位で済みます。
使い方の例を挙げると、「歌詞をじっくり聞かせたいから、まずBPM72で置いてみる」「四つ打ちで踊らせたいから125から始める」という程度で十分です。
仮置きした数字は、この後の手順でいくらでも動かします。
鼻歌と手拍子から自分のテンポを探す
頭の中のメロディには、もう速さが付いています。それを数字にします。
作りたいメロディや雰囲気がすでに頭の中にあるなら、テンポは表から選ぶより「測る」ほうが正確です。
頭の中で鳴っている鼻歌には、本人も気づかないうちに一定の速さが付いているからです。
いちばん簡単なのは、DAWのタップテンポ機能を使う方法です。多くのDAWには、キーやボタンを一定のリズムで叩くと、その間隔からBPMを算出してくれる機能があります。
鼻歌を歌いながら、拍に合わせて机やキーを叩くだけで、頭の中の速さが数字になって出てきます。
機能の場所が分からなければ、時計だけでも測れます。鼻歌に合わせて手拍子しながら15秒数え、打った回数を4倍してください。
15秒で28回なら、およそBPM112です。ざっくりした測り方ですが、仮置きには十分な精度が出ます。
逆のアプローチも使えます。先にメトロノームをBPM100で鳴らし、それに合わせて鼻歌を歌ってみる。
窮屈ならテンポを下げ、間延びするなら上げる。5〜10ずつ動かして、いちばん気持ちよく歌える数字で止めます。
参考にしたい既存曲がある場合も同じで、その曲に合わせて手拍子を測れば、狙うべきテンポ帯がすぐ分かります。
テンポは後で変えられるのか
打ち込み中は自由、録音した後は不自由。境界線は録音です。
「今決めたBPMに縛られるのが怖い」という心配には、はっきり答えられます。MIDIの打ち込みだけで作っている間は、テンポはいつでも自由に変えられます。
打ち込みデータは「どの拍のどの位置に音を置くか」という設計図なので、BPMの数字を書き換えれば、コードもドラムもメロディも全部が新しい速さで鳴り直してくれます。
事情が変わるのは、歌やギターなどをマイクやラインで録音した後です。
録音された音声は「その速さで演奏された音」そのものなので、後からテンポを変えるには音声を伸び縮みさせる処理(タイムストレッチ)が必要になります。
小さな変更なら実用になりますが、大きく変えると声や楽器の質感が不自然になりやすく、結局録り直しになることも多いです。
ここから、実用的な決め方の流れが見えてきます。
①ジャンルの目安か鼻歌から仮置きする、②打ち込みを進めながら気になったら5〜10単位で動かして育てる、③歌や楽器を録音する直前に「この曲はこの速さ」と確定する。この3段階です。
最初の数字は仮でいい、ただし録音というレジを通る前には決める、と覚えてください。
言い換えると、打ち込み中心の初心者にとって、テンポ決めは失敗できない一発勝負ではありません。
迷って止まるくらいなら、目安から1つ選んで先へ進むほうが、曲は確実に前に進みます。
同じ4小節でテンポを変える実験のすすめ
数字の意味は、聞き比べた瞬間に体に入ります。
制作の現場で実感するのは、コードや音色を差し替えるよりも、リズムまわりが変わった時のほうが曲の印象が大きく動く、ということです。
テンポはそのリズムの土台なので、たった10の違いでも曲の性格を変えてしまいます。
これを一度体験しておくと、テンポを「なんとなくの数字」ではなく「表現の道具」として選べるようになります。
実験は簡単です。コード4つと簡単な8ビートのドラムを4小節だけ打ち込み、ループ再生しながらBPMだけを90→105→120→135と切り替えて聞き比べてください。
打ち込みデータは1音も変えません。それなのに、90では歌い上げるバラードに、105では落ち着いた歌ものに、120では前向きなポップスに、135では踊れる曲に聞こえるはずです。
聞き比べる時は、体の反応を観察するのがコツです。ゆったり聞いていられるか、首が縦に揺れ始めるか、駆け出したくなるか。
歌ものを作るなら、そのテンポで実際に鼻歌を乗せてみて、息が続くかどうかも大事な判断材料になります。速すぎる曲は歌詞が詰まり、遅すぎる曲は息が持ちません。
この実験で「自分の曲はこの速さだ」と決まったら、テンポ決めは完了です。
あとはその土台の上にドラムを整え、メロディを乗せ、1曲へ広げていくだけです。その先の全体の流れは、無料の制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
BPMはいくつにすればいいですか
全曲共通の正解はありません。作りたい曲に近いジャンルの目安(バラードなら60〜80、ポップスなら90〜120など)から仮置きし、ドラムを鳴らして体でしっくりくる数字に調整します。
テンポは後から変えられますか
打ち込みだけの段階なら、BPMの数字を書き換えるだけで曲全体が追従します。歌や楽器を録音した後は、音の質を保ったまま変えるのが難しくなるので、録音の前に確定させておきます。
参考にしたい曲のBPMを調べる方法はありますか
曲に合わせて手拍子し、15秒間の回数を4倍するとおおよそのBPMが分かります。DAWのタップテンポ機能でクリックして測る方法もあります。
曲の途中でテンポを変えてもいいですか
かまいませんが、最初の数曲は1曲を通して同じテンポで作るのがおすすめです。まず一定のテンポで最後まで作れるようになってから、曲中の変化に挑戦するほうが迷いが減ります。
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