R&B風楽曲の作り方|コードと隙間をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
R&B風の曲づくりで最初に身につけたいのは、音を置く技術ではなく、置かない勇気です。
ビートは隙間だらけでいい。コードは少し宙に浮いたくらいがいい。
そうやって空けた場所に歌が入ると、オケ全体が歌のために鳴っているように聞こえます。
使うのはDAWと付属音源だけです。BPMを決め、音数の少ないビートを組み、テンションを1音足したコードを置き、歌の通り道を空けて配置する。
仮歌は鼻歌の録音で構いません。8小節でその形を作るまでを説明します。
先に見ること
R&B風は「隙間の多いビート×少し緊張したコード×主役の歌」で決まります。
- BPMは70〜95が目安。まず80で
- ドラムは1小節6発前後から。鳴らない拍を作る
- コードは3和音に9thを1音足す
- 歌の帯域と時間を、オケが空けて待つ
隙間を活かすビートとは
鳴っている音より、鳴っていない時間で聞かせます。
打ち込みを始めたばかりの人が作るR&B風のオケは、たいてい音が多すぎます。
ハイハットが16分を全部埋め、キックが休みなく鳴り、コードが伸ばしっぱなし。これでは歌の入る場所が残っていません。
このジャンルのビートは、スネアが「タン」と鳴ったあと、次の音までの一瞬の静けさで聞かせます。その静けさの中に、歌の語尾や息づかいが浮かび上がる。
オケと歌がこの関係になったとき、初めてR&Bらしく聞こえます。
だから作り方も変えます。「埋めてから削る」ではなく、「空の状態に最小限だけ足す」。
この後のドラムもベースもコードも、すべてこの方針で進めます。
BPMの目安
基準はドラムではなく、歌の歌いやすさです。
R&B風の曲では、70〜95あたりのBPMがよく使われます。まず80に設定してください。
調整の基準は歌です。この上に歌が乗ると考えたとき、言葉を詰め込まずに歌える速さかどうか。
BPMが速すぎるとせっかくの隙間が勝手に埋まってしまい、遅すぎると隙間が長すぎて曲が止まって聞こえます。
仮歌を4小節に乗せてみて、語尾を伸ばす余裕があるかを聞きます。仮歌は鼻歌をスマホで録ったもので十分です。
ドラムの組み方
1小節を6発前後で組み、音数の少なさを音の質で補います。
スネアかクラップ(手を打ち合わせたような音)を2拍目と4拍目に置きます。ここは動かしません。
キックは1拍目と、3拍目の前後どこか1カ所。まずこの合計6発だけで1小節を作ります。
ハイハットは16分で埋めず、部分的に置きます。たとえば各拍の頭を空けて、拍の後半にだけ「チチッ」と入れる。
鳴る場所が偏っているほど、ビートに表情が生まれます。
物足りなく感じたら、音を足す前にスネアの音色を選び直してください。
隙間の多いビートでは、1発の音の質が音数の代わりを務めます。胴の鳴りが残る太いスネアに変えるだけで、6発のパターンが埋まって聞こえることはよくあります。
コードの緊張感
テンションは、歌を待てる響きを作るために使います。
コードはエレクトリックピアノ系の音色で、3和音から始めます。そこにテンションと呼ばれる音を1つ足します。
テンションとは、コードの基本の3音の外側にある、響きに緊張感を加える音のことです。
入門は9thだけで十分です。9thは、ルート(コードの土台の音)の1オクターブ上のさらにすぐ隣の音です。
Cコードならド・ミ・ソに、高いレを1音足す。たったこれだけで、響きが解決しきらない大人びた色に変わります。
なぜ緊張感が要るのか。歌を待てる響きだからです。
明るいと言い切る3和音はそれだけで完結して聞こえますが、少し宙に浮いたテンション入りの響きは、歌が入って初めて落ち着きます。オケが歌を求めている状態を、コードが先に作っておくわけです。
進行は2〜4個のコードのループで構いません。すべてのコードに9thを足す必要はなく、4小節のうち1〜2カ所にあれば効きます。
ベースと上モノ
底は静かに支え続け、飾りは1つに絞ります。
ベースはルート音を長めに置きます。ドラムが隙間だらけな分、ベースが底を静かに支え続けると、音数が少なくても聞き手は不安になりません。
動かすのは歌が休む場所、フレーズの切れ目だけ。短い上下の動きを1回入れて、また戻ります。
上モノは足しすぎないでください。コードの上に薄いパッド(持続音系の音色)を1枚、あるいは高い場所で鳴る短い飾りを1つ。
候補が2つ浮かんだら、どちらか片方だけを採用します。迷ったら入れない方を選びます。
ここまでで、ビートの隙間、コードの浮き、ベースの支えという3つの層ができました。
オケ単体ではまだ未完成に聞こえるはずですが、それで合っています。空いている場所は、次の工程で歌が埋めます。
歌を主役にする配置
音量の前に、高さと時間の場所取りを整理します。
歌を主役にする配置とは、音量の話だけではありません。歌と同じ場所で鳴るものを減らすことです。
場所には2種類あります。音の高さ(帯域)と、時間です。
高さの整理。歌のメロディが鳴る音域と、コードの一番目立つ音の音域を重ねないようにします。コードの積み方を1オクターブ下げる、または上げるだけで、歌の通り道が空きます。
時間の整理。歌が動いている間、オケは動きを止めます。
ベースの飾り、ハイハットの細かい刻み、上モノのフレーズは、歌の語尾が伸びている場所やフレーズとフレーズの間に置きます。歌いかけに合いの手で応える関係です。
レッスンで使っている判断メモに、歌ものではドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作る、コードやパッドを気持ちよく上げすぎると主役が奥に下がりやすい、というものがあります。
オケだけで聞いて満足できる状態は、実は危険信号です。歌が乗る前提なら、オケは少し物足りないくらいでちょうど釣り合います。
最初の8小節の手順
仮歌を早い段階で混ぜるのが、このジャンルの手順の特徴です。
| 順番 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | BPMを設定 | まず80。仮歌の語尾で調整 |
| 2 | スネアとキックを置く | 1小節を合計6発前後で |
| 3 | ハイハットを部分的に | 拍の頭を空けて偏らせる |
| 4 | コードを2〜4個 | 9thは1〜2カ所だけ |
| 5 | ベースでルートを支える | 動くのは歌の切れ目だけ |
| 6 | 仮歌を乗せる | 鼻歌の録音でよい |
| 7 | 8小節にして書き出し | 歌が一番前に聞こえるか |
6番を飛ばさないでください。歌抜きでオケを完成させてから歌を乗せると、たいてい歌の場所がもう残っていません。
仮歌はきれいでなくてよいので、4小節の時点からオケと一緒に鳴らしながら進めます。
構成とミックスの注意
オケの増減で歌の場面を作り、残響で隙間を埋めないようにします。
構成は歌の器として考えます。1番のAメロではドラムを半分に間引き、サビで全部入りに戻す。2番の頭では上モノを1枚抜く。
オケの増減が、そのまま歌の場面転換として働きます。
ミックスで注意したいのはリバーブ(残響)のかけすぎです。せっかく隙間を空けて作ったオケなのに、深い残響はその隙間を埋めてしまいます。
歌にもオケにも、まずは短めの残響を薄く。スネアが鳴ったあとの静けさがまだ聞こえるか、を確認の基準にしてください。
歌の居場所があるオケが8小節できたら、あとは1曲へ広げる段階です。広げる順番は制作工程マップにまとめてあります。
よくある疑問
R&BのBPMはいくつにすればいいですか
70〜95あたりが目安です。まず80に設定し、仮歌を乗せて語尾を伸ばす余裕があるかで微調整します。基準はドラムではなく歌の歌いやすさです。
テンションコードとは何ですか
基本の3和音の外側にある音を足して、響きに緊張感を加えたコードです。入門は9thだけで十分で、Cならド・ミ・ソに高いレを1音足すだけで解決しきらない大人びた色になります。
ビートの隙間はどうやって作りますか
埋めてから削るのではなく、空の状態に最小限だけ足します。スネアを2・4拍、キックを2〜3発の合計6発前後から始め、ハイハットも16分を全部は埋めずに部分的に置きます。
歌がオケに埋もれてしまいます
音量を上げる前に配置を見直します。コードの積みを1オクターブ動かして歌の帯域を空ける、歌が動いている間はオケの飾りを止める、の2つで大半は解決します。
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