ジャズの打ち込み方|スウィングとウォーキングベースをDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ジャズを打ち込みたいが、機械的になってしまい人が弾いた感じにならない人へ向けて、ジャンル名の説明ではなく、DAW上で8小節を組む順番に落とします。BPM、ドラム、ベース、コード、メロディ、音色を分けて、書き出して聞ける状態まで進めます。
読み終わったら、まず音を出す、再生する、保存する、短く書き出す、次に確認する一点を決めるところまで進めます。完成度を採点する前に、同じ手順をもう一度再現できるかを見ます。制作中に迷ったら、画面の中で悩み続けず、8小節を書き出して普通の再生環境で聞きます。
制作の軸
ジャズの打ち込み方は、音色探しより先に8小節の役割を決めます。
- BPMと体感を分けて決める
- キック、ベース、コード、メロディの順に置く
- ジャンルらしい装飾は骨格の後に足す
- 同じ音量で書き出して判断する
この記事が扱う範囲
- 扱うもの
- ミディアムスウィングの打ち込み。ライドの3連、ウォーキングベース、ii-V-I
- 扱わないもの
- 生演奏の録音、アドリブの取り方、ビバップ以降の理論
- 所要時間の目安
- ライドが揺れるところまで約30分
- まず鳴らす1音
- ライドシンバルだけを2小節。1・2・2の3連裏・3・4・4の3連裏
DAWはCubaseを想定していますが、手順はどのDAWでも同じです。 記事内のMIDIとデモ音源も、DAWを問わず使えます。
今日やること
8小節だけ作り、保存して、書き出して、次に直す一点を決めます。
- 仮音色でドラム、ベース、コード、メロディを置く
- 4小節目と8小節目に小さな変化を入れる
- 変更前と変更後を別名保存する
- スマホや小さい音量で再生して、次の修正点を一つだけ書く
最初に決めること
ジャンル名ではなく、曲の速度、主役、8小節の到達点を先に決めます。
ジャズの打ち込み方で最初に見るのは、音色の名前ではありません。ジャズを打ち込みたいが、機械的になってしまい人が弾いた感じにならない人にとって必要なのは、今日のDAW画面で何を置けば前に進むかです。
テンポは、ミディアムスウィングなら120〜160 BPM。まずは140付近で試す。この範囲は絶対値ではなく、最初に手を動かすための目安です。曲の狙い、歌の言葉数、ドラムの細かさによって、同じジャンルでもかなり変わります。
最初の8小節では、完成形を狙いすぎません。ドラム、ベース、コード、メロディの4段だけを置き、曲の方向が聞こえるかを確認します。音色探しはその後で十分です。
作曲や編曲の現場でも、すべての音を一度に正解へ持っていくわけではありません。まず骨格を外に出し、聞き返しながら必要な音だけを残します。
BPMと体感を分ける
数値を決めたら、速さの印象がどこから出ているかを分けます。
ミディアムスウィングなら120〜160 BPM。まずは140付近で試す。ただし、BPMの数字だけでジャンルらしさは決まりません。速く聞こえる理由は、ドラムの刻み、ベースの長さ、メロディの音数、コードの切り替わり方に分かれます。
テンポを上げても揺れは出ません。スウィングは速さではなく、裏の音をどこへ置くかで決まります。140のまま、ライドの裏を3連の位置へ寄せてみてください。同じ速さのまま揺れ始めます。
テンポを変える前に、ライドだけを鳴らして体が揺れるか確かめてください。揺れないなら、テンポではなく打点とベロシティの問題です。ライドが揺れていない状態でベースやピアノを足しても、後から直せません。
ピアノの音色を選ぶ前に、ライドとベースを決めてください。ジャズの手触りはリズムセクションで9割決まります。音色を先に決めても、ライドが均一なままなら打ち込みに聞こえます。
ドラムの骨格
派手なフィルより、キックとスネアの位置を先に固定します。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
ジャズの打ち込みが機械的になる原因は、ほぼライドの刻み方です。 BPM140で、叩いている場所と強さだけを変えました。
正確ですが、行進のように聞こえます。バスドラを4分で踏み続けているのも重さの原因です。
同じBPMなのに揺れます。裏の音を3連の位置(1拍の3分の2=320tick)へ置き、強弱を付け、バスドラを抜いただけです。
条件:BPM 140/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
まずライドだけを打ち込んで、それだけで体が揺れるかを確かめてください。 揺れないうちにベースやピアノを足しても、ジャズにはなりません。
ドラムは、軸はライドの3連パターン。バスドラは常時鳴らさず、たまに軽く置く程度にする。最初の段階では、細かいフィルや装飾よりも、どこで体が前に進むかを決めます。
8分の裏を3連の裏へ寄せる。全部を同じ量だけ寄せないのが要点。このグルーヴの方向を決めずにハットやパーカッションを増やすと、音は多いのに曲が進まない状態になります。
8小節なら、1〜4小節はライドとベースだけ、5〜8小節でスネアの軽い点(ゴースト)を足します。派手なフィルは要りません。ジャズの変化は、音を足すことより強弱の差で作ります。
ライドは1打ずつ強さを変えてください。同じベロシティのライドは、どれだけ正しい位置に置いても打ち込みだと分かります。1拍目を強く、3連の裏を弱く、それだけで人の手に近づきます。
ベースの置き方
低音は大きさではなく、長さと場所で整理します。
ベースは、ウォーキングベース。1拍1音の4分で、コードトーンと経過音を交互に置いて次のコードへ歩く。低音は曲の重さを作りますが、長く鳴らしすぎるとキックやコードの低域を隠します。
ウッドベースを大きくすると、ライドが埋もれます。ジャズではベースは前に出る楽器ではなく、拍を刻んで支える楽器です。大きくする前に、音の長さを短くして輪郭を作ってください。
ベースは1拍1音で8小節作り、コードトーンだけを歩かせます。経過音を入れるのはその後です。最初から半音で埋めると、コードが何なのか自分でも分からなくなります。
書き出したら、ライドとベースだけをソロで聞き直してください。この2つだけで曲に聞こえるなら成功です。ピアノを足さないと成立しないなら、リズムセクションがまだ弱いということです。
コードの組み方
難しいコードより、メロディが乗る場所を作ります。
コードは、ii-V-I(Dm7-G7-Cmaj7)から。テンションは9thと13thの2つだけ覚えれば足りる。コード進行は知識を見せる場所ではなく、メロディと展開を支える場所です。
テンションコードや借用和音を使う場合も、名前を覚えることが目的ではありません。音の色が変わる場所を耳で確認し、必要な場所だけに置きます。
レッスンでは、理論を説明する前にコードの響きを鳴らして、明るい、暗い、浮く、戻る、という体感を確認することがあります。進行を丸暗記するより、耳で違いを聞けるほうが制作に使いやすいからです。
8小節では、同じ進行を2回繰り返しても構いません。2回目だけ上物を変えたり、最後のコードを少し変えたりすると、曲が次へ進む感じを作れます。
メロディとフック
覚えやすい形を先に作り、細かい装飾は後から足します。
メロディは、短いフレーズと沈黙を交互に。同じリズムを2回続けない。ジャンルらしさを出そうとして音数を増やす前に、何度も出せる短い形を作ります。
サビや主題になる場所では、最初の1音が重要です。高い音にするのか、短い反復にするのか、長く伸ばすのかを決めると、伴奏の置き方も決まります。
メロディが弱い時は、音程を増やすよりリズムを見ます。同じ音でも、入る位置や伸ばす長さが変わるだけで、かなり印象が変わります。
歌ものの場合は、言葉が自然に入るかを必ず確認します。インストの場合も、リードが歌える形になっているかを口でなぞると判断しやすくなります。
音色の選び方
プリセット探しより、曲の役割で音を選びます。
音色は、ライドシンバル、ブラシかスティック、ウッドベース、ピアノかエレピを出発点にします。見るのは音色の数ではなく、前に出る音、支える音、空間を作る音を分けることです。
プリセットを探し始めると、制作が止まりやすくなります。まず仮音色でコードとリズムを置き、曲の形が見えた後で差し替えます。
商業音楽の制作でも、最初から最終音色だけで進むとは限りません。仮のピアノ、仮のドラム、仮のベースで構成を見てから、必要な質感へ寄せていきます。
音色を変えたら、必ず音量も見直します。派手な音は大きく聞こえやすいため、良くなったのか大きくなっただけなのかを分けて判断します。
8小節の制作マップ
短い範囲で完成の入口を作り、次の展開へ渡します。
最初の8小節は、完成品ではなく制作の地図です。1小節目で土台を見せ、3小節目で少し変化し、7〜8小節目で次のセクションへ渡します。
A案として、1〜4小節は基本パターン、5〜8小節はドラムか上物を一つ増やします。B案として、1〜4小節は少なめ、5〜8小節でメロディを少し上げます。
この時点でミックスを作り込みすぎる必要はありません。音量バランスだけ整え、各パートの役割が聞こえるかを確認します。
制作で重視しているのは、頭の中のイメージを聞ける形に出すことです。8小節でよいので外に出すと、直す場所が具体的になります。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | ライドとウォーキングベースだけ。揺れているかをここで判断する |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | テーマ(主旋律)を8小節置く。ドラムはテーマに反応して強弱を変える |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | ソロを1コーラス(32小節)。伴奏は薄くし、ライドは変えない |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | テーマ→ソロ→テーマ。最後はテーマを繰り返して終わる |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目でライドが強くなり、13〜14小節目でキックとスネアが消えてライドだけになります。生のドラマーが音量で場面を作るのと同じことを、打ち込みでやっています。
条件:BPM 140/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
崩れやすい場所
ジャンルらしさを足すほど、曲の芯が消えることがあります。
このジャンルで崩れやすいのは、全部のベロシティを同じにすると、どんなに音を並べても打ち込みだと分かることです。ジャンル名に寄せるほど、音色や装飾に意識が行き、曲の骨格が弱くなることがあります。
対策は、ドラム、ベース、コード、メロディを一度ミュートしながら聞くことです。どれか一つを消した時に曲が急に弱くなるなら、そのパートが支えすぎています。
また、同じ場所を長時間触り続けると、判断が鈍ります。15分ごとに書き出して聞き、次に直す一点だけを決めると、作業が散らかりにくくなります。
生徒の制作でも、うまくいかない原因はセンスより工程の混線であることが多いです。いま直しているのがリズムなのか、音色なのか、構成なのかを分けるだけで進みます。
ミックス前の確認
音圧を上げる前に、役割が聞こえるかを確認します。
ミックスでは、最初から音圧を狙いません。まず音量、左右、低域のぶつかり、主役の聞こえ方を見ます。
ライドだけを鳴らして、それだけで体が揺れるか。この確認が終わる前にEQやコンプレッサーを深く触ると、原因が見えにくくなります。
EQはソロで決めきらず、全体再生中に動かします。特に中域はメロディ、コード、ギター、シンセが奪い合いやすいため、単体で良い音より全体で必要な音を優先します。
最後に、同じ音量で変更前と変更後を書き出して聞きます。大きい音は良く聞こえるため、音量差をそろえないと判断を間違えます。
完成へ進める基準
完璧さではなく、次の工程へ渡せるかで判断します。
8小節ができたら、完成度ではなく次へ渡せる状態かを見ます。ドラム、ベース、コード、メロディの役割が聞こえ、次のセクションへ進む理由があれば十分です。
次は16小節、32小節、ワンコーラスへ広げます。広げる時は新しい音を増やすだけでなく、音を抜く場所も作ります。抜く場所があるから、サビやクライマックスが強く聞こえます。
制作ログには、今日のテンポ、使ったコード、残した音色、次に直す一点を書きます。長い反省より、再開できるメモのほうが役に立ちます。
検索に戻る場合も、ジャンル名だけではなく、キック、ベース、コード、メロディ、ミックスのどこで止まったのかを言葉にします。検索語が具体的になるほど、次に読む記事も選びやすくなります。
ジャズの打ち込み方の制作レシピ表
表は丸暗記ではなく、8小節を作る時の確認順として使います。
| 項目 | 最初に置くもの | 注意点 |
|---|---|---|
| BPM | ミディアムスウィングなら120〜160 BPM。まずは140付近で試す | 数字は固定ではなく、体感と音数で調整する |
| ドラム | 軸はライドの3連パターン。バスドラは常時鳴らさず、たまに軽く置く程度にする | フィルより骨格を先に置く |
| ベース | ウォーキングベース。1拍1音の4分で、コードトーンと経過音を交互に置いて次のコードへ歩く | 低音は長さと場所を決める |
| コード | ii-V-I(Dm7-G7-Cmaj7)から。テンションは9thと13thの2つだけ覚えれば足りる | 難しさよりメロディの居場所を優先する |
| メロディ | 短いフレーズと沈黙を交互に。同じリズムを2回続けない | 短いフックを作って反復できる形にする |
| 音色 | ライドシンバル、ブラシかスティック、ウッドベース、ピアノかエレピ | 前に出る音、支える音、空間の音を分ける |
よくある疑問
初心者はどこから作ればいいですか
音色探しではなく、BPM、ドラム、ベース、コード、メロディの順で8小節だけ作るのがおすすめです。
ジャンルらしさは何で決まりますか
BPMだけでは決まりません。ドラムの置き方、ベースの長さ、コードの色、メロディの音数、音色の役割が合わさって決まります。
ミックスはいつ始めますか
8小節の骨格が聞こえてから始めます。最初は音量と低域の整理だけで十分です。
記事通りに作れば同じジャンルになりますか
記事の数値は固定値ではなく出発点です。作りたい曲の速度、歌、音色に合わせて調整してください。
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記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。