CubaseでWAVやMP3を書き出す方法|初心者向け確認

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
Cubaseの中で曲が形になっても、そのままでは誰にも聞かせられません。プロジェクトファイルはCubaseの入ったパソコンでしか開けず、スマホでもLINEでも再生できないからです。曲を普通の音声ファイル、つまりWAVやMP3に変換する作業が書き出しです。
書き出しの操作そのものは数クリックで終わります。つまずくのはむしろ、範囲の指定と、書き出してみたら無音だった、音が小さかった、という書き出し後です。ここでは範囲指定から形式の選び方、失敗の典型原因までを順番に見ていきます。メニュー名はバージョンで多少変わるため、一般的な呼び方で書きます。
先に見ること
Cubaseの書き出しは、範囲、形式、聞き返しの3段階で考えます。
- ロケーターで曲の頭から余韻の終わりまでを囲む
- ファイルメニューの書き出しからオーディオミックスダウンを実行する
- 手元に残す用はWAV、人に送る用はMP3
- 書き出したファイルは必ずスマホなどCubaseの外で聞く
書き出しとは何をすることか
プロジェクトは設計図、書き出したファイルが完成品です。
Cubaseのプロジェクトには、置いたMIDIノート、録音した素材、音源やエフェクトの設定が全部入っています。いわば曲の設計図です。
書き出しは、この設計図から全トラックをひとつに混ぜた音声ファイルを作る工程で、Cubaseではオーディオミックスダウンと呼びます。
出来上がったWAVやMP3は、どのスマホでも、どの再生アプリでも鳴らせます。
制作の現場では、DAWを使えるようになったかどうかを、音が出せるか、保存できるか、そして書き出しまで通せるか、という基準で見ます。機能をいくつ知っているかではありません。
書き出しは最後のおまけではなく、曲を作ったと言える状態までの、通らないと終わらない出口です。
完成していない曲を書き出してもいい、という点も先に伝えておきます。
むしろ作りかけの4小節でも書き出して聞き返すことが、次にどこを直すかを決める材料になります。書き出しは完成の儀式ではなく、制作中に何度も回す作業です。
書き出し範囲はロケーターで決まる
書き出し失敗の半分以上は、範囲の指定ミスです。
Cubaseは、プロジェクトの端から端までを自動で書き出してくれるわけではありません。書き出す範囲は、画面上部のルーラーにある左右2つのロケーターで自分が囲んだ部分だけです。
ここを知らないまま実行すると、途中で切れた音や、まるごと無音のファイルができます。
設定のしかたは2通りあります。
- ひとつはルーラーの上を直接ドラッグして範囲を塗る方法。
- もうひとつは、曲の全パートを選択してから、選択範囲にロケーターを合わせる機能(トランスポート系のメニューにあります)を使う方法です。
後者なら囲み忘れが起きません。
範囲を決めるときの注意は2つです。
- まず、左ロケーターは曲の頭、つまり1小節目に置きます。
- 次に、右ロケーターは最後の音の位置ちょうどではなく、その1〜2小節うしろに置きます。
リバーブやディレイの余韻は最後の音より後まで鳴っているので、音の終わりぴったりで囲むと余韻がぶつ切りになります。
書き出した曲の最後が不自然に切れていたら、原因はほぼこれです。
オーディオミックスダウンの手順
実行前に見るのは、名前、保存先、形式の3つだけです。
1. ファイルメニューから開く。ファイルメニューの中の書き出しに、オーディオミックスダウンがあります。開くと設定画面が出ますが、項目の多さにひるむ必要はありません。初心者が触るのは3か所だけです。
2. ファイル名と保存先を決める。名前は「曲名_日付」のように、後から見て分かる形にします。保存先は、その曲のプロジェクトフォルダの中に書き出し用のフォルダを作って指定するのがおすすめです。
プロジェクトと書き出したファイルが同じ場所にまとまっていれば、どの版の音がどのプロジェクトから出たのか、後から迷いません。デスクトップに直接出すと、数曲分の書き出しが混ざった時点で行方不明になります。
3. ファイル形式を選ぶ。WAVかMP3かをここで選びます。使い分けは次のセクションで説明します。サンプリングレートやビット数の欄は、最初はプロジェクトと同じ設定のままで問題ありません。
4. 実行する。書き出しボタンを押すと処理が始まります。処理中に再生音が聞こえなくても異常ではありません。
終わったら、保存先のフォルダを開いてファイルがあるか、その場で確かめてください。
WAVとMP3の使い分け
残す用と送る用。役割が違うだけで、優劣の話ではありません。
| 項目 | WAV | MP3 |
|---|---|---|
| 音のデータ | 圧縮せず全部残す | 耳につきにくい細部を削って軽くする |
| ファイルの重さ | 重い(MP3の数倍以上) | 軽い。メールやLINEで送りやすい |
| 向いている用途 | 手元の保存、次の作業の素材、配信への提出 | 人に聞いてもらう共有、スマホでの持ち歩き |
| 後からの変換 | WAVからMP3は作れる | MP3からWAVにしても音は戻らない |
WAVは音のデータをそのまま記録する無圧縮の形式で、MP3は聞こえ方への影響が小さい部分を削ってファイルを軽くした圧縮形式です。
だから原則はシンプルで、自分の手元に残す正本はWAV、人に送るコピーはMP3、と役割で分けます。
順番も決まります。先にWAVで書き出しておけば、MP3は後からいつでも作れます。
逆に、MP3しか残っていない曲をWAVに変換しても、削られた情報は戻りません。迷ったらWAV、が安全側の答えです。
無音・音が小さい時の典型原因
書き出し直す前に、原因を1つずつ切り分けます。
無音だった場合。最初に見るのはロケーターです。音の入っていない場所を囲んでいないか、左右のロケーターが逆になっていないかを確かめます。
範囲が正しければ、次はトラックの状態です。ミュートの消し忘れ、どこかのトラックのソロが入ったまま、というのが定番で、ソロが1本でも点いていると他の全トラックは書き出しに入りません。
実行前に、頭から一度再生して、聞こえているものがそのまま書き出される、という状態を確認してから実行する癖をつけると、この種の事故はほぼ消えます。
音が小さかった場合。まず、ミキサーの一番右にあるマスターフェーダー(全体の音量)が下がっていないかを見ます。
ここが標準位置なのに小さいなら、ミックス全体の音量がもともと控えめなだけで、故障でも失敗でもありません。
市販の曲は、最後に音圧を整える処理(マスタリング)を経てあの大きさになっています。作りかけの段階で市販曲と並べて小さいのは普通のことです。
音が割れていた場合。逆に、バリバリとひずんで聞こえるなら、マスターのメーターが赤く振り切れています。
この場合は全トラックの音量を少しずつ下げるか、マスターに余裕を作ってから書き出し直します。小さい分には後から上げられますが、割れた音は直せません。
音量バランスの整え方はDTM音量バランスの取り方で詳しく扱っています。
書き出したら外で聞く
Cubaseの外で聞いて初めて分かることがあります。
書き出したファイルは、制作に使ったヘッドホンだけでなく、スマホのスピーカーやいつものイヤホンでも聞いてください。
制作環境では良く聞こえていたのに、スマホでは低音が消えてスカスカに聞こえる、ボーカルだけ飛び出して聞こえる、ということが本当に起きます。
聞く人の大半はスマホやイヤホンで聞くので、そこでの聞こえ方は作った環境での聞こえ方と同じくらい重要です。
おすすめは、書き出しを日付つきの名前で残していくことです。
同じ曲の書き出しが並ぶと、1週間前の自分の音と今日の音を聞き比べられます。上達は制作中には自覚しにくいですが、並んだファイルは正直です。
外で聞いて直したい場所が見つかったら、プロジェクトに戻って直し、また書き出す。この往復が制作の基本のリズムになります。
そして書き出しまで通せるようになったら、次はその中身を育てる番です。コードから完成までの流れは、下の制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
WAVとMP3のどちらで書き出せばいいですか
手元に残す用はWAV、人に送る用はMP3と分けます。迷ったらWAVで書き出しておけば、後からMP3を作れます。逆はできません。
書き出したファイルが無音でした
ロケーターが音のない場所を囲んでいるか、範囲が逆転しているケースが多いです。次に、トラックのミュートやソロの消し忘れを確認して、もう一度書き出します。
書き出した曲が市販の曲より音が小さいのは失敗ですか
失敗ではありません。市販の曲は最後に音圧を上げる処理(マスタリング)を経ています。作りかけの段階では小さめが普通で、音が割れていないことのほうが大切です。
曲の最後の余韻が切れてしまいます
右ロケーターを最後の音の位置ちょうどに置くと、リバーブなどの余韻が途中で切れます。曲の終わりから1〜2小節うしろまで範囲を伸ばして書き出し直してください。
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