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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTMのフィードバックの受け方|直す場所を一つに絞る

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

勇気を出して友達に曲を聞かせたら、返ってきたのは「いいじゃん」の一言。うれしいけれど、何の参考にもならない。

逆に、掲示板やSNSに投稿したら、思ったより厳しい言葉が並んで、DAWを開く気力ごと持っていかれた。他人の感想は、もらい方と受け取り方を知らないまま浴びると、役に立たないか、痛いだけのどちらかになりがちです。

でも、自分の耳には限界があります。作った本人には決して聞こえない聞こえ方を教えてくれるのは、他人だけです。

誰に聞かせるか、どう質問するか、返ってきた言葉をどう選別するか。フィードバックを曲の改善につなげる手順を、順番に整理します。

先に見ること

感想は「もらう前の質問」と「もらった後の選別」で価値が決まります。

  • 音楽をやらない友人は、リスナー代表として貴重な聞き手になる
  • 「どうだった?」ではなく「どこで飽きた?」と聞く
  • 感想は全部採用しない。共通点だけを直す一点に絞る
  • 否定的な言葉は曲への情報であって、自分への評価ではない

誰に聞いてもらうか

音楽仲間と素人、役割がまったく違います。

フィードバックをもらう相手は、大きく2種類に分かれます。1つはDTM仲間や楽器経験者。

もう1つは、音楽をまったくやらない友人や家族です。そして初心者が過小評価しがちなのは後者の方です。

音楽をやらない人は、コードもミックスも語れません。その代わり、飽きたら正直に飽きた顔をします。

あなたの曲をいつか聞いてくれるリスナーのほとんどは音楽を作らない人なので、その反応は本番のデータそのものです。サビで体が揺れたか、途中でスマホに目が落ちたか。

言葉より先に、聞いている間の様子が答えをくれます。

一方、DTM仲間の感想は「キックが弱い」「サビ前に間がほしい」のように、直す手段まで届く言葉で返ってきます。SNSや制作コミュニティで曲を交換する相手が1人いるだけで、この種のフィードバックは手に入ります。

理想は両方に聞いてもらうことですが、順番を付けるなら、まず音楽をやらない人に1回。曲が届くかどうかの大枠は、素人の反応の方が正確だからです。

質問の仕方で答えの質が変わる

「どうだった?」は、褒め言葉製造機です。

曲を聞かせて「どうだった?」と聞くと、ほぼ全員が「いいと思う」と答えます。嘘ではなく、気づかいです。

作った本人を目の前にして、正直な粗探しをできる人はほとんどいません。役に立つ答えがほしいなら、正直に答えても失礼にならない形の質問を、こちらが用意する必要があります。

使いやすいのは次のような質問です。「どこで飽きた?」は、退屈な場面の位置を教えてくれます。

飽きたことを前提にした聞き方なので、相手は罪悪感なく「2回目の同じところかな」と言えます。「サビがどこか分かった?」は、曲の山が伝わっているかの確認です。

「もう1回聞きたいと思う?」は、総合点を遠回しに聞ける質問で、返事までの間の長さも情報になります。

逆に、「ミックスどう?」「コード進行変じゃない?」のような専門用語の質問を素人にぶつけるのはやめましょう。相手は答えられず、気まずさだけが残ります。

相手が答えられる言葉で聞く。フィードバックの質は、実は曲を渡す前の質問設計でほぼ決まっています。

質問と引き出せる情報の対応表

聞きたいことから逆算して質問を選びます。

質問引き出せる情報向いている相手
どこで飽きた?退屈な場面の位置音楽をやらない友人
サビがどこか分かった?曲の山が伝わっているか音楽をやらない友人
もう1回聞きたい?総合的な満足度誰でも
歌詞(メロディ)は聞き取れた?主役が埋もれていないか誰でも
音で気になったところは?ミックスや音色の具体的な課題DTM仲間・楽器経験者

感想を直す場所に翻訳する

素人の言葉には、技術用語の中身が入っています。

もらった感想は、そのままではDAWの操作につながりません。素人の言葉を制作の言葉に翻訳する工程が要ります。

たとえば「歌がよく聞こえなかった」は、ボーカルの音量か、伴奏の厚みの問題です。レッスンでは、EQやコンプに手を出す前にフェーダーで主役と支えを分ける、という順番を判断基準にします。

この感想をもらったら、まず疑うのはフェーダーのバランスで、細かい処理はその後です。

「なんか単調だった」は、リズムに翻訳できることが多い感想です。コードや音色よりも、リズムが変わらないことが曲を平坦に聞こえさせている場合が多いからです。

同じドラムパターンが何小節続いているかを数えるところから確認します。「途中で何の曲か分からなくなった」なら、メロディの主役が場面ごとに入れ替わりすぎていないかを見ます。

翻訳に慣れないうちは、感想と一緒に場所を特定しておくと迷いません。感想をもらう時に「それ何秒くらいのところ?」と一言添えるだけで、抽象的な印象が、プロジェクト上の具体的な位置に変わります。

全部取り入れない。一点への絞り方

全員の意見を足すと、誰の心にも残らない曲になります。

3人に聞かせれば、3通りの感想が返ってきます。イントロが長い、イントロが良い、ベースが大きい、低音が気持ちいい。

全部を採用しようとすると修正が矛盾し、角を全部削った、引っかかりのない曲ができあがります。フィードバックは多数決の投票用紙ではなく、判断の材料です。

決めるのは自分です。

絞り方の軸は2つあります。1つ目は共通点です。

別々の人が、示し合わせていないのに同じ場面に引っかかったなら、そこはほぼ確実に直す価値があります。1人だけの指摘は、その人の好みの可能性を残して保留にします。

2つ目は、自分の狙いとの照合です。サビを口ずさんでほしくて作った曲なら、「サビが覚えられない」という感想は最優先で拾い、「イントロが地味」は後回しでいい。

曲の狙いに刺さる指摘だけを拾って、直す場所を一点に決めます。一点だけなら修正は数十分で終わり、直した版をまた同じ人に聞かせて「前と比べてどう?」と確認する、次のフィードバックの機会まで作れます。

否定的な感想で折れないために

言葉が刺さった時ほど、切り分けが要ります。

準備をしても、否定的な言葉はやはり刺さります。そこで折れないために、先に区別しておいてほしいことが1つあります。

感想が評価しているのは、あなたが数日かけて作った音源という作業の結果であって、あなたの人格でも、音楽を続ける資格でもありません。曲は直せます。

直せるものへの指摘は、傷ではなく材料です。

商業音楽の制作は、そもそも修正の指摘を受けて直すことが仕事の一部です。一発で通ることの方が珍しく、直しの往復を重ねて完成に近づけていきます。

趣味の曲でそれをやらない理由はありません。指摘をもらって直した曲は、もらう前の曲より確実に強くなっています。

それでもきつい言葉に当たった時は、機械的に処理してください。具体的で再現できる指摘だけをメモに残し、「センスがない」のような直しようのない言葉はその場で捨てる。

拾うのは1つだけ。そして忘れないでほしいのは、いちばん成長が止まる状態は、酷評されることではなく、誰にも聞かせず自分の耳だけで作り続けることだという事実です。

もらった一点を直したら、また書き出して、次の1人に聞かせる。この往復が回り始めると、曲は1人で作っていた頃より速く良くなります。

その往復を工程のどこに組み込むか、音出しからフルコーラス完成までの全体像で確かめたい人は、下の制作工程マップをどうぞ。

よくある疑問

周りに音楽をやっている人がいません

問題ありません。あなたの曲をいつか聞くのは、ほとんどが音楽をやらない人です。家族や友人に聞いてもらい、どこで飽きたか、サビが分かったかだけ教えてもらってください。それだけで直す場所を決める材料になります。

「いいと思うよ」しか返ってきません

質問が「どうだった?」のままだと、気をつかった褒め言葉しか返ってきません。「どこで飽きた?」「もう1回聞きたい?」のように、正直に答えても失礼にならない形で聞き直してください。答えの質は質問の形で決まります。

人によって言うことが違います

普通のことなので、多数決や全員対応はしないでください。複数の人が同じ場所に引っかかっていないかだけを見ます。共通点があればそこが直す一点です。共通点がなければ、それぞれの好みの差なので保留で構いません。

厳しい感想をもらって作る気がなくなりました

感想は曲という作業結果への情報で、あなた自身の評価ではありません。まず具体的な指摘を1つだけ拾い、残りは今回は使わないと決めて閉じてください。いちばん怖いのは厳しい感想ではなく、誰にも聞かせずに耳の情報が増えないことです。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。