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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTM最初の1曲はどんなジャンルがいいか

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

1曲目のジャンル選びで迷っているなら、答えは意外と近くにあります。あなたがこれまでの人生で一番たくさん聞いてきた音楽。それが、一番作りやすいジャンルです。理由は単純で、聞き込んだジャンルは完成形が頭の中ですでに鳴っているからです。地図を持って歩くのと、地図なしで歩くのくらいの差が出ます。

とはいえ、ジャンルによって「入り口の形」が違うのも事実です。歌ものは構成を組む力が要り、ダンス系は短いループから始められ、BGM系はメロディの重圧が軽い。この違いを知った上で選べば、迷いはほぼ消えます。選び方と、決めた後に最初にやることまで順番に見ていきます。

先に見ること

1曲目のジャンルは、才能ではなく「聞いてきた量」で選びます。

  • 一番たくさん聞いてきたジャンルが一番作りやすい
  • 歌もの=構成力が要る/ダンス系=ループから入れる/BGM系=メロディの主張が少なく気楽
  • 決めずに作り始めると、ゴールがぼやけて完成しない
  • 1曲目のジャンルに、その後の音楽人生は縛られない

一番聞いてきたジャンルが作りやすい

頭の中に完成形が鳴っているかどうかが、作業速度を決めます。

曲作りは、判断の連続です。次のコードはどっちか。ドラムはもっと強くていいか。この音は要らないんじゃないか。

1曲の中で、こうした小さな判断を何百回も下します。そのとき判断の物差しになるのが、これまで聞いてきた音楽の記憶です。

何百曲、何千曲と聞いてきたジャンルなら、「このジャンルの曲はだいたいこう進む」「この場面ではこういう音が鳴る」という感覚が、意識しなくても体に入っています。

だから打ち込んだ音がイメージとずれた瞬間に、ずれたと気づけます。気づければ直せます。これが、頭の中に完成形が鳴っている状態です。

逆に、ほとんど聞いたことのないジャンルを「作りやすいらしいから」という理由で選ぶと、正解のイメージがないまま音を置くことになります。

何を置いても合っているのか間違っているのか判断できず、1つ音を置くたびに検索して手が止まります。作りやすいはずのジャンルが、その人にとっては一番作りにくいジャンルになるのです。

だから、上手い下手や流行を基準にする必要はありません。

通学や通勤でずっと聞いていた音楽、カラオケで歌ってきた曲、作業中に流しっぱなしにしているプレイリスト。その中心にあるジャンルが、あなたの1曲目の候補です。

ジャンル別・入りやすさの違い

同じ「1曲」でも、ジャンルごとに最初のハードルの場所が違います。

ジャンル系統入りやすさ最初のハードルこんな人に向く
歌もの
(J-POP・ロックなど)
構成を組む力が要るAメロ、Bメロ、サビの流れと歌メロを両方設計する必要がある普段から歌の入った曲ばかり聞いていて、鼻歌がよく出る人
ダンス系
(EDM・ハウスなど)
ループから始めやすい同じ4小節の繰り返しから抜け出す展開作りビートやノリで音楽を聞いていて、まず音を鳴らして楽しみたい人
BGM系
(ピアノ曲・ゲーム音楽風など)
メロディの主張が少なく入りやすい「これで完成」という基準を自分で決めること歌より雰囲気で音楽を聞いていて、映像やゲームに音を付けたい人

歌もの・ダンス系・BGM系の中身

表の3行を、もう少し具体的に見ていきます。

歌ものは、多くの人にとって一番聞き慣れた形です。その意味では有力な候補ですが、作る側に回ると要求が増えます。

Aメロで抑えて、サビで盛り上げるという場面の設計と、その上に乗る歌のメロディ。この2つを同時に組み立てる構成力が要るからです。

ただし聞いてきた量が多い人には、その構成自体が体に入っているので、ハードルの高さは相殺されます。歌もの育ちなら、遠回りせず歌ものでいくのが結局早いです。

ダンス系は、作り始めの気持ちよさで頭一つ抜けています。キックを4つ置いて、ベースとシンセのフレーズを重ねれば、4小節のループがすぐに「それっぽく」鳴ります。

DAWの操作を覚える段階と曲作りの段階を、同じ画面の中で同時に進められるのが強みです。難所は後から来ます。

ループはできたのに、そこからどう展開させて1曲にするかで止まりやすい。音を足す場面と抜く場面を作ることが、ダンス系の本当の練習になります。

BGM系は、精神的に一番気楽です。歌ものやダンス系では、メロディやフレーズが曲の主役として前に立ちますが、BGM系は雰囲気が主役です。

ピアノとパッド(持続音のシンセ)でコードをゆったり鳴らすだけでも、聞ける音になります。「メロディが思いつかない」という初心者最大の壁を、ほぼ迂回できるのです。

代わりに、盛り上がりの頂点がない分、どこで完成と呼ぶかを自分で決める必要があります。先に「2分でループする曲にする」のように長さを決めておくと迷いません。

3系統に共通して言えるのは、どれを選んでも土台はコードとリズムだという点です。

ジャンルで変わるのは素材の音色と組み立ての順序で、根っこの工程は同じです。だからこそ、工程の得意不得意より、聞いてきた量で選んで構いません。

決めずに作り始めるとどうなるか

ジャンルが決まっていない曲は、完成の判定ができません。

「ジャンルなんて決めずに、自由に作ればいいのでは」と思うかもしれません。実際、自由に作ること自体は悪くありません。

問題は、初心者が自由に作ると、ゴールがぼやけることです。

ジャンルとは、言い換えれば「完成形の輪郭」です。歌ものを作ると決めれば、サビまで作れたかが進み具合の物差しになります。

ダンス系なら、ループが展開して戻ってくるか。BGM系なら、決めた長さを雰囲気が持続するか。輪郭があるから、今どこまで来ていて、あと何が足りないかが測れます。

輪郭がないまま作ると、この物差しが存在しません。8小節できても、それが完成に近いのか遠いのか判定できない。

判定できないから、音色を延々と差し替えたり、同じ4小節を無限に磨いたりして、時間だけが過ぎます。

レッスンで使っている判断メモにも「8小節なのか、90秒なのか、フルコーラスなのかが見えないまま細部を触ると、作業は増えても曲は進みにくい」というものがあります。ジャンルを決めることは、この「見えないまま」を最初に潰す作業なのです。

完璧に決める必要はありません。「歌もの寄り」「ダンス系寄り」くらいの粗い決め方で十分です。

輪郭が1本引かれるだけで、途中の判断は見違えるほど速くなります。

1曲目のジャンルに縛られなくていい

最初の1曲は進路決定ではなく、工程の練習台です。

ジャンル選びが重く感じるのは、「最初に選んだジャンルが自分の専門になる」と思ってしまうからです。そんなことはありません。

1曲目のジャンルは、あなたの音楽性を決めるものではなく、制作の工程を一周するための練習台です。

1曲目で経験するのは、コードを置く、リズムを組む、展開を作る、書き出して聞く、という流れそのものです。この流れは、どのジャンルで練習しても全部持ち越せます。

歌ものでコードと構成を覚えた人は、その耳でダンス系のループも組めます。ダンス系でリズムの気持ちよさを覚えた人は、歌もののドラムで手が止まりません。

無駄になる経験が1つもないのです。

むしろ危険なのは、「一生もののジャンルを選ばなければ」と考えて、選ぶ段階で何週間も止まることです。作曲の実力は、選んでいる時間ではなく、作っている時間にしか伸びません。

2曲目で別のジャンルに乗り換えるのは、まったく普通のことですし、複数のジャンルを触った経験は後で必ず混ざり合って、あなたにしか作れない音になります。

だから1曲目は、気負わずに「今の自分が一番よく知っている音楽」で始めてください。それが最短ルートであり、同時に、いつでも方向転換できる身軽なスタートでもあります。

ジャンルを決めたら次にやること

最初の作業は打ち込みではなく、お手本を1曲選ぶことです。

ジャンルが決まったら、DAWを開く前に1つだけやることがあります。そのジャンルの中から、お手本にする曲を1曲だけ選ぶことです。

制作の現場ではリファレンスと呼びます。「こんな感じの曲にしたい」という頭の中のイメージを、耳で確認できる形にしておくのです。

リファレンスは、真似して同じ曲を作るためのものではありません。レッスンで使っている判断メモに「リファレンスは真似るためだけではなく、どんな楽器を使うか、どこで密度が上がるか、どこで休むかを決める材料になる」というものがあります。

お手本の曲を聞きながら、鳴っている楽器を数える。音が増える場所と減る場所を探す。

それだけで、自分の曲に何トラック用意すればいいか、どこで変化を付ければいいかの設計図が手に入ります。

設計図ができたら、あとは短く作り始めるだけです。

  • 歌もの寄りなら、シンプルなコードを4小節置いて鼻歌を乗せる。
  • ダンス系寄りなら、キックとベースで4小節のループを組む。
  • BGM系寄りなら、ピアノとパッドでコードをゆったり鳴らす。

どの入り口から入っても、4小節を鳴らして保存するところまで進めば、1曲目は始まっています。

その先の、4小節を8小節に広げ、展開を付けて、書き出して完成させるまでの流れは、無料の制作工程マップに1枚でまとめてあります。ジャンルが決まった今が、工程全体を眺めるちょうどいいタイミングです。

よくある疑問

好きなジャンルと聞いてきた量が多いジャンルが違う場合は?

1曲目は、聞いてきた量が多いほうを選びます。憧れのジャンルは、聞き込みが足りないと完成形のイメージが頭の中で鳴らず、判断のたびに止まります。2曲目以降で挑戦すれば十分です。

流行っているジャンルを選んだほうが有利ですか?

1曲目に限っては関係ありません。最初の目的は聞かれることより完成させることです。流行のジャンルでも、自分がよく知らなければ作業は進みにくくなります。

作っている途中でジャンルを変えたくなったら?

変えて構いませんが、今のプロジェクトは消さずに保存し、新しいプロジェクトで始めてください。途中の曲を別ジャンルへ作り替えると、どちらのゴールにも近づかないことが多いためです。

自分が何のジャンルを聞いているのか分かりません

ジャンル名を当てる必要はありません。よく聞く曲を数曲並べて、歌があるか、テンポが速いか、どんな楽器が鳴っているかの共通点を見ます。その共通点が、あなたの作る1曲目の設計図になります。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

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ジャンルが決まったら、実際に音を置く工程へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。