DTMリミックスの始め方|元曲を壊さず役割を変える

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
リミックスは、すでにある曲の素材を借りて、自分のアレンジで組み替える作り方です。メロディをゼロから考えなくてよいので、DTM初心者がアレンジの練習をするには相性の良い入口です。
ただし、素材の扱いにはルールがあります。どこから素材を手に入れるか、テンポとキーをどう合わせるか、元曲のどこまで変えてよいか。この3つが分かると、初めてのリミックスでも迷わず手を動かせます。順番に見ていきます。
先に見ること
リミックスは、元曲の主役を残したまま、周りの役割を組み替える練習です。
- 素材は利用条件が明記された場所から手に入れる
- 先にテンポ、次にキーを合わせる
- 元曲の聞かせどころは消さない
- 変える場所は一つずつ試す
リミックスとは何か
元曲の素材を活かして、周りの役割を入れ替えます。
リミックスとは、すでにある曲の音源を素材として使い、別のアレンジに作り替えることです。歌やメロディといった主役はそのまま活かし、ドラム、ベース、コード、音色といった周りの役割を組み替えます。
ボーカル曲を踊れるダンス版にしたり、テンポを落として静かな版にしたりするのが典型です。
カバーとの違いは、音源そのものを使うかどうかです。
カバーは元曲を自分の演奏や歌で再現し直します。リミックスは、元曲のボーカルトラックなどの音声ファイル自体を借りて、その周りを自分で作ります。
素材は、ステムやアカペラという形で配られます。
ステムは、ドラムだけ、ベースだけのようにパートごとに分かれた音声ファイルのことです。アカペラは、歌だけを取り出したファイルを指します。
この2つの言葉は素材を探す時に必ず出てくるので、先に覚えておくと探しやすくなります。
DAWでの作業は、借りたアカペラをトラックに貼り、その周りに自分のドラムやコードを置いていく流れになります。ゼロから作る曲と違い、貼った瞬間から曲の中心が鳴っている状態で始められます。
初心者の練習になる理由
メロディを考えず、アレンジだけに集中できます。
作曲でつまずく人の多くは、メロディ、コード、リズムを同時に自分で決めようとして止まります。
リミックスでは、いちばん重いメロディがすでに用意されています。残る仕事はアレンジだけなので、考えることが一気に減ります。
もう一つの利点は、答え合わせができることです。元曲と自分の版を並べて聞けば、ドラムを変えると曲がどう変わるか、コードを差し替えると歌がどう聞こえるかを、自分の耳で比べられます。
ゼロから作った曲では、この比較相手がいません。
制作の現場では、リファレンスと呼ばれるお手本の曲を、どんな楽器を使うか、どこで密度が上がるか、どこで休むかを決める材料として使います。
リミックスなら、元曲そのものがこのリファレンスになります。お手本と自分の作業が同じプロジェクトの中に並ぶので、判断の練習として密度が高いのです。
だからこそ、リミックスは完成品を狙う前の練習台として向いています。1本仕上げるたびに、アレンジで使える引き出しが具体的に増えます。
素材の入手とライセンス
条件が書かれた素材だけを使います。
最初の壁は、素材をどこから手に入れるかです。ここで一番やってはいけないのは、市販曲や配信曲から勝手に音を抜き出して使うことです。
今はAIで歌だけを分離できる道具もありますが、分離できることと使ってよいことは別です。許可のない使用は権利侵害になります。
安全な入口の一つ目は、公式リミックス企画です。アーティストやレーベルがステムやアカペラを配布し、リミックス作品を募集する企画のことです。
応募規約に使い方の条件が明記されているので、初心者でも迷いません。音質の良い素材が揃うのも利点です。
二つ目は、リミックス用に公開されたフリー素材です。配布ページには、商用利用の可否、クレジット表記の要否、公開してよい範囲といった条件が書かれています。
ダウンロードの前にこの条件を読むことを習慣にします。
三つ目は、自分の過去曲や、許可をもらった知人の曲です。権利の心配がまったくないので、練習にはいちばん気楽です。
歌を録ったことがなくても、自分で打ち込んだメロディを素材にすれば同じ練習ができます。
非公開の練習だから何を使ってもよい、とは考えないほうが安全です。条件が書かれた素材だけを使うと最初に決めておけば、公開したくなった時にそのまま出せます。
素材の入手先を比べる
迷ったら公式企画かフリー素材から始めます。
| 入手先 | 特徴 | 注意すること |
|---|---|---|
| 公式リミックス企画 | ステムが揃い条件も明記 | 応募規約と公開範囲を読む |
| フリー素材・公開アカペラ | 今日から手軽に始められる | 商用可否とクレジット表記を確認 |
| 自分の曲・知人の曲 | 権利の心配がない | 知人の曲は許可を言葉で確認 |
| 市販曲からの抜き出し | 使わない | 許可のない使用は権利侵害になる |
テンポとキーを合わせる
先にテンポ、次にキー。伴奏側を素材へ寄せます。
素材を貼ってまず起きるのが、テンポのずれです。元曲のBPMと自分のプロジェクトのBPMが違うと、歌とドラムが小節の途中からずれていきます。
配布ページにBPMが書かれていることが多いので、最初にそれを調べ、プロジェクトのテンポを同じ数字に設定します。これがいちばん簡単で、素材の音も劣化しません。
どうしても違うテンポでやりたい場合は、タイムストレッチを使います。音の高さを変えずに長さだけを伸び縮みさせる機能で、主要なDAWには標準で入っています。
ただし元のテンポから大きく動かすほど、声は不自然になりやすくなります。まずは元のテンポに近い範囲で試します。
次がキーです。アカペラのキーと自分のコードのキーが合っていないと、伴奏が全部きれいでも、ずっと外れた響きになります。
素材にキーの表記があればそれを確認し、自分のコードをそのキーの中で作るのが確実です。表記がなければ、素材に合わせてピアノで単音を弾き、しっくり来る音を探して見当をつけます。
ピッチシフトで素材側のキーを動かす方法もありますが、動かすほど声質が変わります。テンポもキーも、加工するのは素材ではなく自分の伴奏側、と覚えておくと音の劣化を避けられます。
元曲を壊さない範囲の決め方
主役が聞こえているかを判断の軸にします。
リミックスでどこまで変えてよいか、初心者は迷います。判断の軸は一つです。
元曲のいちばんの聞かせどころが、自分の版でも聞こえているか。サビのメロディが主役の曲なら、そこが埋もれたり切り刻まれたりしていなければ、周りはドラムもベースもコードも全部入れ替えて構いません。
レッスンでは、EQやコンプに手を伸ばす前に、フェーダーで主役と支えを分ける順番を勧めています。全部を大きくするのではなく、主役以外を少し下げる考え方です。
リミックスの場合、主役は借りてきた歌です。自分が作った伴奏ほどかわいく思えて上げたくなりますが、歌より前に出た時点で、元曲の良さは崩れ始めています。
作業は一つずつ変えて聞くのが近道です。まずドラムだけ入れ替えて元曲と聞き比べる。次にベース、その次にコード。
全部を同時に変えると、良くなったのか悪くなったのかの原因が分からなくなります。一つ変えるごとに再生して、歌がまだ主役でいるかを確認します。
企画によっては、原曲の雰囲気を残すことが条件に入っている場合もあります。規約の範囲と、主役が聞こえる範囲。この2つの中で遊ぶのがリミックスです。
1本仕上げたら、書き出して元曲と通しで聞き比べてください。
ここで得たアレンジの判断は、そのまま自分の曲作りに持ち帰れます。次は素材を借りずに、1曲を最初から最後まで作る工程に進みましょう。
よくある疑問
リミックスとカバーはどう違いますか
カバーは元曲を自分の演奏や歌で再現し直すものです。リミックスは元曲の音源そのもの、たとえばアカペラやステムを素材として使い、周りのアレンジを組み替えます。
リミックスの素材はどこで手に入れますか
公式リミックス企画、リミックス用に公開されたフリー素材、自分や知人の曲が安全です。利用条件が書かれていない素材は使わないようにします。
動画サイトの曲から音を抜いて練習してもいいですか
権利の面で問題になりやすいため避けます。非公開の練習であっても、条件が明記された素材だけを使う習慣にしておくと安全です。
テンポとキーはどちらから合わせますか
先にテンポ、次にキーです。素材側を加工するより、自分の伴奏側を素材に合わせるほうが、声の音質を保てます。
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