鍵盤が弾けなくてもDTMはできるか|マウス入力から始める方法

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ピアノを習ったことがない。両手どころか、片手のメロディも怪しい。それでもDTMで曲は作れるのか。
作れます。DAWにはピアノロールという打ち込み画面があり、マウスで音を1つずつ置いていけば、演奏の技術がなくても伴奏もメロディも完成します。
鍵盤が弾けないことは、作曲を始められない理由にはなりません。
ピアノロールの基本操作、弾けない人ほど効く入力のコツ、ステップ入力という中間の方法、そして鍵盤の練習はそもそも必要なのか。順番に整理します。
先に見ること
マウスのピアノロール入力だけで、曲は最後まで作れます。
- 基本操作は置く・伸ばす・消すの3つだけ
- コードは同じ形をコピーして上下に動かす
- ドラムは口で歌ってから置く
- 鍵盤の練習は作曲には不要、あると速い程度
マウス入力だけで曲は作れる
演奏は技術、打ち込みは配置。別の作業です。
ピアノロールは、縦が音の高さ、横が時間になった方眼紙のような画面です。マス目をクリックすると音符が置かれ、再生するとその通りに鳴ります。
どのDAWにも標準で付いている、打ち込みの中心になる機能です。
楽器の演奏は、正しい音を正しいタイミングでリアルタイムに出す技術です。一方でピアノロールへの打ち込みは、音を1つずつ配置する作業です。
テンポについていく必要も、ミスを恐れる必要もありません。置いた音は何度でも動かせて、聞き直せます。
演奏が苦手な人にとって、これは大きな味方です。
実際、ボカロ曲やダンスミュージックの世界では、マウスの打ち込みを中心に制作するスタイルが広く定着しています。
鍵盤が弾けるかどうかと、良い曲が作れるかどうかは、別の話です。
レッスンでも、見ているのは鍵盤で弾けるかではなく、頭の中のフレーズを外へ出せるかです。
出す手段は演奏でも、鼻歌でも、マウスでも構いません。マウスは一番ハードルの低い、立派な出口の1つです。
ピアノロールの基本操作は3つ
置く、伸ばす、消す。これだけで全部入力できます。
1つ目は「置く」です。鉛筆ツールでマス目をクリックすると、ノートと呼ばれる音の四角が置かれます。縦の位置が音の高さ、横の位置が鳴るタイミングです。
2つ目は「伸ばす」です。ノートの右端をつまんでドラッグすると、音の長さが変わります。短く切れば歯切れよく、長く伸ばせばゆったり聞こえます。
3つ目は「消す」です。いらないノートを選んで削除するだけです。置き直しに何のコストもかからないので、迷ったら置いて、聞いて、消して構いません。
この3つで、理屈の上ではどんなフレーズでも入力できます。
しかもピアノロールにはグリッドという吸着機能があり、置いた音はマス目にぴったりそろいます。リズムが崩れないという点では、生の演奏より正確です。
慣れてきたら、コピーと貼り付けも覚えます。4小節ぶんのノートをまとめて選んでコピーすれば、次の4小節が数秒で埋まります。
打ち込みの曲は繰り返しの部分が多いので、実際にゼロから置く量は思っているよりずっと少なくて済みます。
最初の練習には、知っている曲の出だしが向いています。たとえばキラキラ星なら、ドドソソララソ。
1音ずつ置いて再生し、鳴った音が頭の中の歌と合っているか確かめます。これがそのまま、打ち込みの基本動作の練習になります。
3つの入力方法の比較
弾ける必要があるのは、一番下の1つだけです。
| 入力方法 | 必要な技術 | 向いている場面 | 弱点 |
|---|---|---|---|
| マウス(ピアノロール) | クリックとドラッグだけ | ドラム、コード、細かい修正 | 1音ずつなので時間がかかる |
| ステップ入力 | 音を1つずつ押せればよい | メロディを順に入れていく時 | タイミングの表情は後で調整 |
| リアルタイム入力 | 演奏の技術 | 弾いたニュアンスを残したい時 | 弾けないと使えない |
弾けない人向けの入力のコツ
コードは形で、ドラムは口で考えます。
コード入力のコツは、同じ形の平行移動です。Cコードはド、ミ、ソの3音です。
この3音をまとめて選択してコピーし、上下に動かすと、団子の形はほぼそのまま別のコードになります。Cキーの曲なら、白鍵にあたる音に収まるよう1音だけ微調整すれば大きく外れません。
1音ずつゼロから考え直すより、ずっと速くて確実です。
ピアノロールでは、コードが「形」として目に見えます。
鍵盤の上では指の形を体で覚える必要がありますが、画面の上なら見比べるだけで済みます。これは弾けない人にとって、むしろ有利な点です。
ドラムのコツは、置く前に口で歌うことです。ドン、タン、ドド、タン。
口で言えるリズムができたら、ドンをキック、タンをスネア、ツツツをハイハットのマス目に置き換えるだけです。譜面やパターン名から入るより、この順番のほうが止まりません。
メロディも同じで、歌えるものは打てます。鼻歌をスマホに録って、上がったか下がったか、伸びたか切れたかを聞き取りながらピアノロールに写します。
音程が多少ずれていても、形が残っていれば手がかりとして十分です。口や鼻歌を経由するこのやり方は、鍵盤が弾けない人の遠回りではなく、フレーズを外へ出す正規のルートです。
ステップ入力という選択肢
弾けなくても、押すことはできます。
マウスとリアルタイム演奏の中間に、ステップ入力という方法があります。鍵盤で音を1つ押すと、その音符がカーソル位置に置かれて、自動で次の位置へ進む仕組みです。
Cubaseをはじめ、主要なDAWに搭載されています。
ポイントは、リズムに合わせて弾く必要がないことです。「この音」と1つずつ押していくだけなので、演奏はできなくても音の場所は分かる、という人に向いています。
和音も、押さえた形のまま一度に入力できます。
MIDIキーボードを持っていなくても、DAWによっては画面上の鍵盤やパソコンのキーボードで代用できます。マウスで1音ずつ置くのがまどろっこしくなってきたら、試す価値があります。
使い分けの目安はこうです。ドラムや細かい修正はマウス、音の並びが頭にあるメロディはステップ入力。
どちらもリズムはグリッドが支えてくれるので、演奏の正確さは要求されません。
まずマウスだけで1曲分を経験し、遅いと感じた工程にだけステップ入力を足す、という順で試すと道具に振り回されません。
鍵盤を練習する必要はあるか
作曲には不要。あると速い、という距離感です。
結論はシンプルです。作曲のためだけなら、鍵盤の練習は必要ありません。
曲の良し悪しを決めるのは、メロディ、コード、リズムの組み立てであって、指が動くかどうかではありません。マウスとステップ入力があれば、入力の手段は足りています。
ただし、あると速いのも事実です。思いついたフレーズを鍵盤でポロポロと探すほうが、マウスで1音ずつ試すより短時間で済む場面はあります。
片手で、ゆっくりで、コードを押さえられる程度でも、制作の道具としては十分に実用になります。
だから、もし練習するなら「弾けるようになってから作曲する」ではなく、曲作りと並行して少しずつ、で十分です。鍵盤の上達を作曲の入場条件にしてしまうと、始まる日が来ません。
今日マウスで4小節置くことのほうが、鍵盤練習1か月より曲に近づきます。
入力の手段が決まったら、次はその音をどの順番で組み立てて1曲にするかです。全体の流れは、下の制作工程マップにまとめています。
よくある疑問
鍵盤がまったく弾けなくても作曲できますか
できます。ピアノロールにマウスで音を1つずつ置けば、演奏の技術がなくても打ち込みは完成します。曲の質を決めるのは演奏ではなく、メロディやコードの組み立てです。
マウス入力は遅くないですか
1音ずつ置くので演奏より時間はかかります。ただ、コピーと貼り付け、コードの形の平行移動を使えば実用的な速さになります。修正のしやすさではマウスが勝ります。
MIDIキーボードは買わなくていいですか
打ち込みだけなら、なくても曲は作れます。頭の中のフレーズを外へ出す道具として欲しくなった時に検討すれば十分です。
鍵盤の練習はしたほうがいいですか
作曲のためだけなら必須ではありません。片手でゆっくり押さえられる程度でも入力は速くなるので、やるなら曲作りと並行して少しずつで十分です。
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