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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTM書き出し前チェック|音源を外で聞ける形にする

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作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

DAWの中では良い感じに鳴っていたのに、書き出したファイルを聞いたら曲の頭が欠けていた。最後の響きがぶつ切りだった。

サビで音がバリバリ割れていた。書き出しの失敗は、だいたいこの3つのどれかです。

どれも耳の良し悪しではなく、確認の抜けで起きます。逆に言えば、見る場所を決めておけば防げるということです。

書き出し範囲、音量、ファイル形式、別環境での聞き直し。この順番でチェックの仕方を見ていきます。

先に見ること

書き出しのチェックは、範囲、音量、形式、別環境の4点で足ります。

  • 範囲の終点は、余韻が消え切る位置まで伸ばす
  • 一番大きい場面でマスターのメーターを見る
  • 保管はWAV、確認用の持ち出しはMP3
  • スマホとイヤホンで聞き直してから人に渡す

書き出し範囲|頭の余白と余韻の切れ

失敗の半分は、範囲の指定だけで防げます。

多くのDAWでは、書き出される範囲はロケーターなどの範囲指定で決まります。再生ボタンで聞いている範囲と、書き出しの範囲は別物です。

ここが最初の落とし穴で、途中の4小節だけをループ再生していた設定のまま書き出すと、その4小節だけのファイルができあがります。

範囲の始点は、曲の1音目のほんの少し手前に置きます。1音目の真上ぴったりに設定して問題ないことも多いのですが、少し手前から始めておけば、頭が欠ける事故を確実に避けられます。

ただし手前に取りすぎると、再生してから音が出るまでの無音が長い、間延びしたファイルになります。余白は短く、が目安です。

終点はもっと注意が必要です。ピアノロール上の最後の音符が終わる位置で範囲を切ると、リバーブ(残響を作るエフェクト)やディレイ(やまびこのように音を繰り返すエフェクト)の余韻が途中で断ち切られます。

最後の和音がフワッと消えていくはずの曲が、プツッと終わる。聞いた人が一番違和感を持つ場所です。

範囲の終点は、最後の音符の位置ではなく、スピーカーから響きが完全に消える位置まで、数小節うしろへ伸ばしてください。どこまで響いているか分からなければ、長めに取って書き出し、後で無音部分を確認すれば十分です。

音量のチェック|割れてから戻すことはできない

書き出す前に、一番大きい場面のメーターを見ます。

デジタルの音には、これ以上大きくできないという天井があります。天井を超えた部分は波形の頭が切り取られ、バリッとした歪みになります。

これがクリップです。レッスンでは録音の時、大きく録ることより割れずに残すことを先に見るように伝えています。

赤く割れた音は後から戻せないからです。この判断は書き出しでも同じで、割れたファイルは、再生する機器を変えても割れたままです。

確認する場所は、全トラックの音が最後に集まるマスターのメーターです。曲の中で一番音が大きい場面、たいていはラストのサビや全楽器が鳴る場面を再生しながら、メーターが天井に当たっていないかを見ます。

多くのDAWには、天井に当たった時に点灯して残るクリップ表示があります。一度点いたら、静かな場面だけ見ても意味がないので、必ず大きい場面で確認します。

当たっていたら、マスターのフェーダーを下げるのではなく、まず各トラックの音量バランスを見直すのが基本です。特定の音だけ飛び抜けて大きいことが多いからです。

全体的に大きいなら、マスター側で全体を数dB下げて余裕を作ります。書き出し後の音が小さい気がしても、割れているよりずっと安全です。

音量感の整え方は音量バランスの取り方で扱っています。

WAVとMP3の使い分け

どちらが良いかではなく、用途で分けます。

書き出しの形式で迷ったら、覚えることは2つだけです。WAVは音のデータを圧縮せずそのまま入れる形式で、音質の劣化がない代わりにファイルが大きい。

MP3は人の耳に聞こえにくい成分を削って小さくする形式で、扱いやすい代わりに一度削った成分は戻せない。この関係だけ押さえれば、使い分けは自然に決まります。

自分の手元に残す原本、コンテストや案件への提出、後でCDや配信に使うかもしれない完成版。これらはWAVです。

一方、スマホに転送して通勤中に聞き返す、友人にメッセージアプリで送って感想をもらう。この用途ならMP3で十分ですし、ファイルが小さいぶん送りやすくなります。

大事なのは順番です。WAVの原本さえ残っていれば、MP3はいつでも何度でも作り直せます。

逆にMP3しか残っていない状態からWAVに変換しても、削られた成分は復活しません。器が変わるだけです。

だから、書き出しはまずWAV、配る用が必要ならそこからMP3、と覚えてください。なお、曲のプロジェクトファイルと書き出したファイルは同じ曲のフォルダにまとめておくと、後からどの版が最新か迷いません。

書き出し前後のチェック一覧

書き出すたびに、上から順に見ます。

タイミングチェックすることずれていた時の直し方
書き出す前範囲の始点が1音目の少し手前にあるか範囲指定を曲頭に合わせ直す
書き出す前終点が余韻の消える位置まであるか終点を数小節うしろへ伸ばす
書き出す前一番大きい場面でマスターが割れていないか大きすぎるトラックを下げて余裕を作る
書き出す前形式が用途に合っているか原本はWAV、配布用はそこからMP3を作る
書き出した後頭と終わりを実際に再生して聞く欠けや切れがあれば範囲を直して再書き出し
書き出した後スマホやイヤホンでも聞いてみる気づいた違和感を一つ選んで次の修正にする

別環境で聞く|スマホ、イヤホン、車

制作した環境の外で聞くと、隠れていた問題が出てきます。

書き出したファイルは、作った時と同じヘッドホンで聞くだけでは確認になりません。制作中の耳は、その環境の音の癖に慣れきっているからです。

曲を聞く人はあなたのヘッドホンでは聞きません。だから、わざと違う環境に持ち出します。

いちばん手軽で効果が大きいのがスマホのスピーカーです。小さいスピーカーは低い音をほとんど再生できないので、ベースやキックの低音に頼って成立していた曲は、スカスカに聞こえます。

ここでメロディと歌がちゃんと前に出て聞こえるなら、曲の芯は通っています。逆に何の曲か分からなくなるなら、低音以外の支えを見直すサインです。

次に、普段音楽を聞いているイヤホン。細かいノイズ、口の開閉音、打ち込みの機械的な粗など、スピーカーでは流れてしまう細部が耳のすぐそばで聞こえます。

そして車があるなら車内も貴重です。低音が強調されやすい環境なので、低音の量が多すぎないかの判断に向きます。

全部そろえる必要はありません。スマホとイヤホンの2つだけでも、制作環境だけでは見えなかった直す場所が具体的になります。

気づいたことを全部直そうとせず、一番気になった一点をメモして、次の作業に持ち帰ってください。

DAW内と聞こえが違う時に見る場所

条件をそろえて比べると、原因の場所が絞れます。

書き出したら音が変わった気がする。よくある相談ですが、原因の切り分けは簡単です。

ポイントは、比べる条件を1つずつそろえることです。

最初に、DAWで再生した音と書き出しファイルを、同じヘッドホン、同じくらいの音量で聞き比べます。ここで同じに聞こえるなら、書き出し自体は成功しています。

違って聞こえた原因は、聞いた機器やアプリ、再生音量の側にあります。人の耳は、同じ音でも再生音量が上がるだけで低音と高音が豊かに聞こえる性質があるため、音量の差だけで別物に感じることは珍しくありません。

また、配信サービスや再生アプリによっては音量が自動調整されることがあり、アップロード後に印象が変わる一因になります。

同じ条件で比べてもはっきり違うなら、書き出しの側を見ます。疑う順番は、範囲指定のずれ、MP3など圧縮形式による変化、書き出し設定の音質項目、の順です。

特にMP3で比べていたなら、まずWAVで書き出して同じ比較をしてください。それで差が消えるなら、犯人は圧縮です。

一つずつ条件をそろえて比べる。トラブルの切り分けはどこでもこの考え方で進められます。

ここまで確認できたファイルは、外に出せる音源です。この先の、タイトルの付け方や公開先の選び方は初めて曲を公開する前の確認で扱っています。

よくある疑問

書き出したファイルの最後が急に切れてしまいます

書き出し範囲が最後の音の位置ぴったりで終わっている可能性が高いです。リバーブやディレイの余韻は音符が終わった後も鳴り続けるため、範囲の終点を余韻が消え切る位置まで数小節うしろへ伸ばして書き出し直してください。

WAVとMP3のどちらで書き出せばいいですか

両方書き出して使い分けます。WAVは音を圧縮しない形式なので保管用と提出用の原本に、MP3はファイルが小さいのでスマホへの転送や人に聞いてもらう確認用に向きます。原本を残しておけばMP3は何度でも作り直せます。

音が割れているかどうかはどこで確認しますか

書き出す前に、曲の一番大きい場面を再生しながらマスターのメーターを見ます。天井に当たった印が点くなら割れています。書き出した後にも、サビなど音が集まる場所をヘッドホンで聞き、バリッとした歪みがないか耳でも確かめます。

書き出した音がDAWの中で聞いた時と違って聞こえます

最初に、DAWで聞いた時と同じヘッドホンで書き出しファイルを再生して比べます。それでも違うなら書き出しの範囲や設定を、同じに聞こえるなら再生した機器やアプリの側の差を疑います。比べる環境をそろえるのが切り分けの第一歩です。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。