初めて曲を公開する前の確認|DTM初心者向けチェック

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
曲はできた。書き出しも済んだ。
それなのに、公開ボタンの手前で何日も止まってしまう。理由を聞くと、音の仕上がりよりも、タイトルはこれでいいのか、どこに出せばいいのか、素材を使ったけど大丈夫なのか、という音以外の不安が並びます。
ここでは音の最終確認は済んでいる前提で、その先にある準備だけを扱います。名前を決める、場所を選ぶ、権利を確かめる、そして出す。
確認は4つで足ります。順番に片づけていきましょう。
先に見ること
公開前の確認は、名前、場所、権利、心構えの4つです。
- タイトルは読める言葉で、ファイル名は曲名と版が分かる形に
- 公開先は最初の1か所を決めて、そこに慣れる
- 使った無料素材の利用条件を配布元で確かめる
- 1作目は代表作ではなく通過点として出す
タイトルとファイル名を決める
曲の名前は、聞く前に見られる唯一の情報です。
公開ページで、聞く人が音より先に目にするのはタイトルです。凝った名前を付ける必要はありませんが、2つだけ条件があります。
読めること、そして後から自分で探せることです。記号だらけの名前や「無題」「新曲デモ」のような仮の名前は、感想をもらう時に呼んでもらえず、数か月後には自分でもどの曲か分からなくなります。
曲の中の言葉、作った時の気分、情景。どこから取ってもよいので、声に出して読める名前を1つ決めてください。
ファイル名はタイトルとは別の役割を持ちます。こちらは管理用なので、曲名に加えて、どの版かが分かる情報を入れます。
たとえば曲名のあとに日付や版数を付ける形です。「完成」「本当の完成」「これが最終」のような名前を重ねていくと、アップロードする時にどれが公開用か選べなくなります。
修正するたびに日付や番号を新しくする、という自分ルールを1つ決めるだけで、この迷いは消えます。
あわせて、公開する版のファイルがどのフォルダにあるかも確認しておきます。書き出し直したのに古いファイルをアップロードした、という事故は、名前と置き場所の整理だけで防げます。
公開先の選び方|音声SNSか動画サイトか
全部に出す必要はありません。最初の1か所を決めます。
公開先は大きく分けて、音声ファイルをそのまま投稿できる音楽系の音声SNSと、映像を付けて投稿する動画サイトがあります。それぞれのサービスの細かい仕様は変わっていくものなので、ここではタイプごとの向き不向きで考えます。
音声SNSの良さは、音だけで完結することです。画像や映像を用意する手間がなく、音楽を作る人や聞きたい人が集まっているので、初投稿の心理的なハードルが低めです。
一方、動画サイトは利用者の数が桁違いに多く、ジャケット代わりの静止画1枚を付けるだけでも投稿の形になります。歌詞を画面に載せたり、後で動画作品に育てたりする道も開けます。
迷ったら、自分が普段いる場所に出すのが一番です。普段から動画サイトで音楽を聞いているなら、そこでの見え方を自分がよく知っています。
大事なのは、最初から複数に同時展開しないことです。投稿の手順、説明文の書き方、反応の見方は場所ごとに違います。
1か所で一連の流れに慣れてから広げるほうが、2作目以降が楽になります。
公開先タイプの比較
向き不向きで選びます。正解は1つではありません。
| 公開先のタイプ | 向いている人 | 公開前に準備するもの |
|---|---|---|
| 音楽系の音声SNS | 音だけで聞いてほしい人、制作仲間とつながりたい人 | 音源ファイルとタイトル、短い説明文 |
| 動画サイト | 広く聞かれる可能性を残したい人、歌詞や映像も見せたい人 | 音源に加えて静止画や簡単な映像 |
| 普段のSNSアカウント | まず知り合いに聞いてほしい人 | 投稿できる形式への変換と、聞きどころを添える一言 |
無料素材とサンプルのライセンス確認
無料で使えることと、自由に公開できることは別の話です。
ドラムのループ、効果音、無料配布の音源、ジャケットに使う写真。1曲の中には、自分以外の誰かが作った素材が入っていることがよくあります。
無料でダウンロードできた素材でも、使い方の条件は配布した人が決めています。この条件がライセンスです。
ダウンロードできたことと、作品に入れて公開してよいことは、別の許可だと考えてください。
確認する場所は、素材の配布元ページにある利用規約やライセンスの記載です。見るポイントは3つあります。
1つ目は商用利用の可否。収益化や販売につながる使い方を許しているかです。
2つ目はクレジット表記。作者名の記載を条件にしている素材があります。
3つ目は再配布の禁止。曲に混ぜて使うのは良くても、素材をそのままの形で配ることは禁止、という条件が一般的です。
確認したら、素材名、配布元のページ、確認した日付を曲のフォルダにメモしておきます。数年後にその曲が伸びた時、どの素材を使ったか思い出せる状態にしておくためです。
もし配布元のページが見つからず条件が確認できないなら、その素材は外して、条件のはっきりした素材か自分で作った音に差し替えるのが安全です。素材選びの基本はサンプルパックの使い方でも扱っています。
完璧を待たない|1作目は通過点
直せる場所がなくなったら、それが公開の合図です。
準備が全部そろっても、最後に残るのが「まだ出来が足りない気がする」という迷いです。この迷いには終わりがありません。
耳は制作のあいだに育つので、作り終えるころには、作り始めた時より粗が見えるようになっています。完璧に聞こえる日を待つと、その日は来ないまま曲だけが古くなります。
レッスンでは、90秒のワンコーラスを完成の代わりではなく通過点として扱います。フルコーラスへ広げる前に、入口、展開、盛り上がり、終わり方を小さく確かめる場所、という考え方です。
初公開もこれと同じ位置づけで構いません。1作目はあなたの代表作ではなく、公開して、聞かれて、次を作るという循環の入口です。
公開の基準は、良い曲になったかどうかではなく、今の自分に直せる場所が残っているかどうかで判断します。具体的に直せる点が思いつくなら直す。
思いつかないなら、それが今の実力での完成なので、出す。残った漠然とした違和感は、次の曲で挑む課題としてメモに残せば、無駄になりません。
公開後の反応との向き合い方
数字の見方を先に決めておくと、続けやすくなります。
公開した直後は、再生数を何度も見に行きたくなります。そして初公開の再生数は、たいてい想像よりずっと少ないです。
これは曲の質の評価ではありません。まだ誰もあなたのことを知らない、というだけの話です。
聞かれる数は、曲を重ねて存在が知られていく中で後からついてきます。
だから、1作目で見るものを数字以外に決めておきます。おすすめは2つです。
1つは、届いた感想の中身。どの部分に触れてもらえたかは、あなたの曲の伝わっている場所を教えてくれます。
もう1つは、公開までの一連の作業を自分が最後までやり切れたという事実です。作って、書き出して、名前を付けて、世に出す。
この一周を経験した人と、していない人の差は大きいです。
厳しい言葉が届くこともあります。具体的な指摘なら、次の曲で試す価値があるかだけを考えて、採用するか置いておくかを自分で選びます。
中身のない言葉なら、読み流して構いません。反応がどうであれ、次の1曲に取りかかることが一番の対処になります。
DTMは楽器と同じで、触る時間で慣れていくものです。公開もその練習の一部にしてしまいましょう。
2曲目からの作り方の流れは、下の制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
どこまで作り込んだら公開していいですか
今の自分に直せる場所が思いつかなくなったら、そこが公開のタイミングです。あと少しの違和感が残っていても、それは次の曲で直す課題として持ち越して構いません。1作目は代表作ではなく通過点です。
公開先はどこを選べばいいですか
音だけで聞いてほしいなら音楽系の音声SNS、画像1枚でも映像を付けられるなら動画サイトが候補です。最初は1か所に絞り、投稿から反応の確認までの流れに慣れてから広げるほうが続けやすくなります。
無料素材やサンプルを使った曲も公開できますか
配布元が決めた利用条件の範囲内なら公開できます。商用利用の可否、クレジット表記の要否、素材そのままの再配布の禁止。この3点を配布元のページで確認し、確認した日付とページの控えを残しておくと安心です。
公開したのに反応がほとんどありません
初公開ではそれが普通です。聞かれる数は曲の良し悪しよりも、まだ誰もあなたを知らないことの結果です。数字は2作目3作目と重ねながら見るものとして、届いた感想は次の曲の材料に使ってください。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
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