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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTMで音をわざとこもらせる方法

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。担当作品と外部での確認先

音をわざとこもらせたい時に使うのは、ローパスフィルターです。高い音だけを削って、低い音を通すエフェクトです。壁の向こうの音、古いラジオ、遠くで鳴る音、サビ前の溜め。くぐもった音のほとんどは、これ1つが出発点になります。

削る深さは、数字ではなく「何を残すか」で決めます。シャリシャリした成分が消えたら軽いこもり。言葉の輪郭がぼやけたら壁越し。言葉が聞き取れなくなったら水の中。この3段階を物差しにして、つまみの意味、場面別の組み合わせ、サビで開く手順、失敗しやすい点の順に進めます。

ミックスで勝手にこもってしまった音を直したい場合は、目的が逆です。そちらは音がこもる・濁る時の直し方を読んでください。

先に見ること

こもらせる道具はローパスフィルター。深さは「何を残すか」で決めます。

  • 高い音を削るほど、壁の向こう・遠く・古い機械の音に聞こえる
  • つまみはカットオフ(どこから削るか)、レゾナンス(境目の強調)、スロープ(削る急さ)の3つ
  • 電話・ラジオ風は低い音も削る。壁越しは響きごと削る
  • 削ると小さく聞こえる。音量はフィルターではなくフェーダーで補う

こもった音の正体は高い音の不足

布も壁も距離も、高い音から先に奪っていきます。

耳が「こもった」と感じるのは、音の中の高い成分が足りない時です。シンバルのシャリッとした響き、歌のサ行やタ行の息の音、ギターの弦のきらめき。こうした細かい成分は、高い帯域にあります。帯域とは、音の高さの範囲のことです。

現実の世界でも、高い成分ほど途中で失われやすい性質があります。壁やドアは、低い音は通しても高い音は通しにくい。隣の部屋の音楽がベースの「ドンドン」だけ聞こえるのはこのためです。布団をかぶった時や、水に潜った時も、音は同じ方向に変わります。

だから高い音を削ると、耳は「何かに隔てられている」と受け取ります。ローパスは「低い音(ロー)を通す(パス)」という意味です。EQの画面ではハイカットと呼ばれることもあります。名前は違っても、高い音を削る働きは同じです。

反対に、低い音を削るとスカスカになるだけで、こもりにはなりません。わざとこもらせる時に触るのは、高い側です。

ローパスの3つのつまみ

名前を覚えるより、回した時に何が変わるかを押さえます。

カットオフ:どこから削るか

カットオフは、削り始める高さです。右いっぱいに回すと何も削られません。左へ回すほど低いところまで削られ、音が暗くこもっていきます。こもらせる作業の大半は、このつまみ1つで決まります。

レゾナンス:境目を強調するか

レゾナンスは、カットオフ付近を持ち上げるつまみです。上げると、境目に「ミャー」「ピー」という癖のある鳴きが付きます。ただこもらせたいだけなら、0のままで構いません。シンセのような動きを狙う時だけ、少し上げます。

スロープ:どれだけ急に削るか

スロープは、カットオフより上をどれだけ急に削るかです。「12dB/oct」のように書かれ、1オクターブ上がるごとに12dB下がる、という意味です。dB(デシベル)は音の大きさの単位で、6dB下がると波の振れ幅がおよそ半分です。数字が小さいほどなだらかで自然に、大きいほど仕切りを立てたようにばっさり切れます。

自然に遠ざけたいならなだらかなもの、電話や古いラジオのように「帯域が切り取られている」感じを出したいなら急なもの、と選ぶと迷いません。

EQのハイカット、ハイシェルフとの使い分け

専用のフィルターがなくても、EQで同じことができます。EQの一番高いバンドを「カット」の形にすれば、それがローパスです。

もう1つの選択肢がハイシェルフです。ある高さより上を、全部同じ量だけ下げる形です。削り取るのではなく、薄くします。高い成分が少し残るので、言葉や輪郭を保ったまま、ほんのり暗くできます。場面として隔てたいならカット、少し奥へ下げたいだけならシェルフ、と使い分けます。

Cubaseの場合、Steinberg公式のプラグインリファレンスによると、EQの「Frequency 2」は一番高い8番のバンドで、Cut 6・12・24・48・96(1オクターブあたりのdB)のカットフィルターを選べます。「DualFilter」は、Positionを負の値にするとローパスとして働き、Resonanceを上げると鳴きが付くと説明されています。付属するプラグインはCubaseのグレードによって違うので、手元のプラグイン一覧で確かめてから使ってください。

どこまで削ると「こもった」に聞こえるか

数字を決めてから回すと、たいてい削りすぎます。

「何Hzにすればこもる」という正解はありません。元の音が明るいか暗いか、曲の中で何が一緒に鳴っているかで、同じ数字でも聞こえ方が変わるからです。

決め方は、カットオフを右いっぱい、つまり何も削っていない位置から、曲を再生しながらゆっくり左へ回すことです。聞こえ方は、おおむね次の3段階で変わります。

1段階目は、シャリシャリが消えたところです。ハイハットの細かさや歌の息の成分が引っ込み、少し昔の録音のような落ち着いた音になります。「なんとなくこもった感じ」が欲しいなら、ここで止めます。

2段階目は、言葉の輪郭がぼやけたところです。歌詞は追えるものの、子音がにじみます。壁越し、隣の部屋、遠くのスピーカーはこの段階です。

3段階目は、言葉が聞き取れなくなったところです。音程とリズムだけが残り、水の中や、布団をかぶったような音になります。

言葉をどこまで残すかには、電話という手がかりがあります。ITU-T(国際電気通信連合の標準化部門)の勧告P.310では、従来の電話の帯域を300〜3400Hzとしています。この範囲だけを通す電話でも、会話は成り立ちます。歌詞を聞かせたい場面なら、3kHz台より下まで一気に削り込まなければ言葉は残る、という見当がつきます。

回していて「ちょうどいい」と思った位置から、少しだけ戻すのがコツです。耳はすぐに慣れて、こもった音を普通の音だと感じ始めます。一度バイパス(エフェクトを一時的に切る操作)して元の音と比べ、差がはっきり分かれば十分です。

場面別のレシピ

ローパスだけで足りない場面は、何を足すかで差が出ます。

壁越し・隣の部屋

ローパスで2段階目まで削り、音量を下げ、短い残響を足します。3つそろって初めて「向こうの部屋で鳴っている」に聞こえます。

コツは挿す順番です。隣の部屋の音は、その部屋の響きごと壁を通ってきます。だからリバーブを先に、ローパスをその後ろに挿します。逆の順番だと、こもった音の周りに明るい響きが付き、壁のこちら側で鳴っているような不思議な音になります。

響きは短めにします。長いと狭い部屋らしさが消えます。響きの種類と長さの選び方はリバーブの基本にまとめています。

ラジオ・電話

高い音だけでなく、低い音も削ります。両側を削って真ん中だけを残す形を、バンドパスと呼びます。EQなら、一番低いバンドをローカット、一番高いバンドをハイカットにするだけです。

電話は、先ほどの300〜3400Hzがそのまま目安になります。ラジオは電話より少し広めに残すと、2つの区別が付きます。電話の範囲で作ってから、ローカットとハイカットを上下に少しずつ広げ、言葉がはっきり聞こえた位置で止めてください。

さらに歪み系のエフェクトを薄くかけると、小さなスピーカーで鳴っている雰囲気が出ます。歪ませると低い音と高い音のバランスも変わるので、歪みを足した後に、もう一度フィルターの位置を聞き直してください。

電話も古いラジオも、スピーカーは1つです。左右の広がりも狭めて、中央に寄せると、ぐっとそれらしくなります。

水の中

ローパスを3段階目まで深くかけ、スロープは急なものにします。言葉が聞き取れないくらいで、ちょうどいい深さです。

そこへ暗めで長い残響を少し足すと、水に包まれた感じが出ます。響きが明るいままでは水の中に聞こえないので、ここでもローパスはリバーブの後ろに挿します。

遠くで鳴っている

遠さを作る主役は、こもりより音量です。先にフェーダーを下げ、それでも近く感じる分だけ、ハイシェルフやなだらかなローパスで高い成分を薄くします。1段階目の手前、ほんのり暗い程度で十分です。

ここで深く削ると、遠いのではなく「隔てられている」音になります。遠くと壁越しは、削る量で分けてください。

イントロだけこもらせて、サビで開く

伴奏にローパスをかけ、イントロやサビ前では閉じておき、サビの頭で開きます。開いた瞬間に高い音がいっせいに戻るので、音量を上げなくても曲がぱっと明るく広がります。

かける場所は、ドラムや歌を除いた伴奏だけをグループ(まとめ用のトラック)に集めて、そこに1つ挿すのが扱いやすい方法です。キックと歌はくっきりしたまま、伴奏だけが閉じた状態を作れます。

どこで閉じてどこで開くかは、好きな曲を聞いて確かめるのが早道です。制作の現場では、参考曲(リファレンス)を、どこで密度が上がり、どこで休むかを決める材料として使っています。こもりの演出も同じです。参考曲の「閉じている区間」と「開く瞬間」を聞き取り、自分の曲の構成に当てはめます。

場面別の早見表

迷ったら、作りたい場面の行だけ見れば足ります。

場面削る側深さの目安一緒にやること挿す順番
壁越し・隣の部屋高い側言葉がぼやける音量を下げる、短い残響リバーブ→ローパス
ラジオ・電話低い側と高い側言葉は残す薄い歪み、左右を狭めるEQ(バンドパス)→歪み→聞き直し
水の中高い側(急なスロープ)言葉が消える暗く長い残響リバーブ→ローパス
遠くで鳴っている高い側を薄くほんのり暗い先にフェーダーを下げるフェーダー→シェルフ
サビ前の溜め高い側好みで深くサビ頭で開くオートメーション伴奏のグループに1つ

少しずつクリアにする手順

線の書き方は別の記事に任せ、ここでは「どう開くか」を決めます。

オートメーションは、つまみの動きを時間に沿って記録しておく機能です。線の出し方や書き方そのものはオートメーションの基本で説明しています。ここでは、フィルターを開く時に決めることを順番に並べます。書き始める前に、プロジェクトを別名で保存しておくと、気に入らなかった時にすぐ戻れます。

1. 閉じた位置と開いた位置を先に決める。閉じた位置は、前の節の3段階から選びます。開いた位置は右いっぱい、つまりフィルターが効いていない状態です。

2. 開く長さを決める。サビの頭で一気に開くと、扉を開けたような切り替わりになります。2小節や4小節かけてゆっくり開くと、霧が晴れていくような盛り上がりになります。

3. 線を書いて、開き方を耳で直す。同じ直線で書いても、つまみの割り当て方はプラグインごとに違うため、前半か後半のどちらかで急に開いたように聞こえることがあります。再生して、変化が偏っていると感じた側に点を足し、カーブをなだらかに直してください。

4. レゾナンスは開く前に決めておく。動かしながら量を変えると、鳴きの位置と強さが同時に変わり、耳に付きやすくなります。

5. 開き切った後の点も書く。開いたまま次の場面へ進むのか、また閉じるのかを決めておきます。次のイントロや間奏で閉じ直すなら、その位置にも点を置きます。

こもらせた時の3つの失敗

どれも、フィルター以外のつまみで直すのが近道です。

小さく聞こえて、フィルターで戻してしまう

高い成分を削ると、その分だけ音量が下がり、耳にも小さく聞こえます。ここでフィルターを開けて戻そうとすると、せっかくのこもりが消えてしまいます。

音量はフェーダーで扱う、と割り切ってください。ミックスでは、EQやコンプを触る前にフェーダーで主役と支えを分ける、という順番を判断の軸にしています。こもらせた音は、多くの場合「支え」の側です。質感はフィルターで決め、どれくらい聞こえるかはフェーダーで決めます。フェーダーを上げても埋もれるなら、同じ高さで鳴っている別の楽器を下げてください。

低い音だけが残って重くなる

高い側を削ると、残った低い側が相対的に目立ちます。ベースやキックとぶつかって、曲の下のほうがもたつくことがあります。

こもらせたのが低音楽器以外なら、ローカットも一緒に使ってください。こもりの質感は高い側で作り、低い側はベースに譲ります。

レゾナンスの鳴きが耳に刺さる

レゾナンスを上げたまま閉じたり開いたりすると、境目の鳴きが「ピーッ」と目立ち、ところどころで音量が跳ね上がります。

こもらせるのが目的なら、レゾナンスは0から始めます。上げるなら、閉じた状態と開いた状態の両方を再生して、どちらでも耳が痛くならない量で止めます。

今日はこれだけ試す

場面を選ぶ前に、自分の曲で3段階の位置を知っておきます。

今日やることは1つです。手元の曲の伴奏1本にローパスを挿し、カットオフを右いっぱいからゆっくり回して、3段階がそれぞれどの位置で来るかを聞いてください。

位置をメモしておけば、壁越しでも電話でもサビ前の溜めでも、その位置から始められます。最後に一度書き出して、スマートフォンのスピーカーでも聞いてみてください。小さなスピーカーでも「こもった」と分かれば、狙いは伝わっています。

こもらせる演出が、曲作りのどの段階で登場するのかは、制作工程マップで前後の作業と一緒に確認できます。

よくある疑問

EQとフィルターのプラグイン、どちらを使えばいいですか

ずっと同じこもり方でよいなら、EQで十分です。サビ前で閉じてサビで開くなど、途中で動かすなら、つまみ1つで削る位置を動かせるフィルターのプラグインのほうが、オートメーションを書きやすくなります。

ボーカルだけをこもらせることはできますか

できます。歌のトラックにだけローパスを挿します。歌詞を聞かせたい場面なら言葉の輪郭が残る深さで止め、電話の声のようにしたいなら、低い側もローカットで削ってください。

シンセのフィルターと、エフェクトのローパスは何が違いますか

シンセのフィルターは、音源の中で音が鳴る前に削ります。弾いた音ごとに、エンベロープで削り方を時間で変えることもできます。エフェクトのローパスは、鳴った後の音を削るので、録音した歌やドラムにも使えます。曲の演出としてこもらせるなら、エフェクトのほうが手軽です。

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次に進む記事

こもらせ方が分かったら、動かし方と組み合わせる響きを確認します。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。

読んだあとに

この1本から、90秒の曲を書き出すところまで

楽器が弾けなくても、Cubaseで90秒の歌ものを完成させる。このサイトは、音出し → コード → ドラム → 鼻歌 → 90秒 の順に進む制作ノートです。今読んだ記事がどの工程にあたるかは、トップページで確かめられます。

書いている人:古賀 稔宏(作曲・編曲家)/担当作品と外部での確認先

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