エレクトロスウィングの作り方|跳ねる16分と4つ打ちをDTMで両立させる手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
エレクトロスウィングを作りたいが、古い質感とダンスの縦ノリが噛み合わない人へ向けて、ジャンル名の説明ではなく、DAW上で8小節を組む順番に落とします。BPM、ドラム、ベース、コード、メロディ、音色を分けて、書き出して聞ける状態まで進めます。
読み終わったら、まず音を出す、再生する、保存する、短く書き出す、次に確認する一点を決めるところまで進めます。完成度を採点する前に、同じ手順をもう一度再現できるかを見ます。制作中に迷ったら、画面の中で悩み続けず、8小節を書き出して普通の再生環境で聞きます。
制作の軸
エレクトロスウィングは、音色探しより先に8小節の役割を決めます。
- BPMと体感を分けて決める
- キック、ベース、コード、メロディの順に置く
- ジャンルらしい装飾は骨格の後に足す
- 同じ音量で書き出して判断する
この記事が扱う範囲
- 扱うもの
- 4つ打ちの上で16分を跳ねさせるエレクトロスウィング
- 扱わないもの
- 実際の古いレコードのサンプリングと、その権利処理
- 所要時間の目安
- 2小節のループができるまで約30分
- まず鳴らす1音
- キックの4つ打ちと、跳ねた16分のハイハットだけ
DAWはCubaseを想定していますが、手順はどのDAWでも同じです。 記事内のMIDIとデモ音源も、DAWを問わず使えます。
今日やること
8小節だけ作り、保存して、書き出して、次に直す一点を決めます。
- 仮音色でドラム、ベース、コード、メロディを置く
- 4小節目と8小節目に小さな変化を入れる
- 変更前と変更後を別名保存する
- スマホや小さい音量で再生して、次の修正点を一つだけ書く
最初に決めること
ジャンル名ではなく、曲の速度、主役、8小節の到達点を先に決めます。
エレクトロスウィングの作り方で最初に見るのは、音色の名前ではありません。エレクトロスウィングを作りたいが、古い質感とダンスの縦ノリが噛み合わない人にとって必要なのは、今日のDAW画面で何を置けば前に進むかです。
テンポは、110〜130 BPM。踊れる速さに寄せるなら125前後から。この範囲は絶対値ではなく、最初に手を動かすための目安です。曲の狙い、歌の言葉数、ドラムの細かさによって、同じジャンルでもかなり変わります。
最初の8小節では、完成形を狙いすぎません。ドラム、ベース、コード、メロディの4段だけを置き、曲の方向が聞こえるかを確認します。音色探しはその後で十分です。
作曲や編曲の現場でも、すべての音を一度に正解へ持っていくわけではありません。まず骨格を外に出し、聞き返しながら必要な音だけを残します。
BPMと体感を分ける
数値を決めたら、速さの印象がどこから出ているかを分けます。
110〜130 BPM。踊れる速さに寄せるなら125前後から。ただし、BPMの数字だけでジャンルらしさは決まりません。速く聞こえる理由は、ドラムの刻み、ベースの長さ、メロディの音数、コードの切り替わり方に分かれます。
BPMを上げても跳ねは出ません。エレクトロスウィングの跳ねは速さではなく、16分の裏をどれだけ後ろへ置くかで決まります。125のまま、裏の16分を38ミリ秒ずらしてみてください。キックは4つ打ちのまま動かしません。
テンポを変える前に、跳ねの量を変えてみてください。同じ125でも、跳ねを30%から50%へ動かすと別のジャンルに聞こえます。テンポより先に触るのはこちらです。
古いホーンの音色を探す前に、キックと16分の関係を決めてください。縦のノリと横の跳ねが両立していれば、音色はDAW付属でも成立します。逆に跳ねが無ければ、どんな音色でもただのハウスです。
ドラムの骨格
派手なフィルより、キックとスネアの位置を先に固定します。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
エレクトロスウィングの難所は、4つ打ちの縦ノリと16分の跳ねを同時に持たせるところです。 BPM125で、キックは両方とも4つ打ちのまま。変えたのは16分の位置だけです。
ハウスやディスコに聞こえます。整っていますが、古い時代の匂いがしません。
キックは1つも動かしていないのに、急にスウィングの空気になります。縦ノリを壊さずに横の跳ねを足せるのがこのジャンルの作り方です。
条件:BPM 125/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
跳ねを強くしすぎると、4つ打ちのキックと喧嘩して足が止まります。 まず30%前後から試し、キックは絶対に動かさないでください。
ドラムは、キックは4つ打ちで固定。跳ねはハイハットとシェイカーで作る。スネアは2拍目と4拍目。最初の段階では、細かいフィルや装飾よりも、どこで体が前に進むかを決めます。
4つ打ちの上で16分を跳ねさせる。縦のノリと横の跳ねを同時に持たせるのがこのジャンルの肝。このグルーヴの方向を決めずにハットやパーカッションを増やすと、音は多いのに曲が進まない状態になります。
8小節なら、1〜4小節は4つ打ちと跳ねだけ、5〜8小節でホーンの短いフレーズを足します。フレーズは同じ形を繰り返してください。毎回変えると、跳ねの気持ちよさが埋もれます。
ハイハットは裏の粒を弱くしてください。跳ねさせたうえで強さもそろえると、裏が主張しすぎて4つ打ちと喧嘩します。弱くずらす、が組み合わせです。
ベースの置き方
低音は大きさではなく、長さと場所で整理します。
ベースは、ウォーキングベースの動きをシンセベースで。ルートを鳴らし続けず、次のコードへ歩かせる。低音は曲の重さを作りますが、長く鳴らしすぎるとキックやコードの低域を隠します。
ベースを大きくすると、跳ねが重くなって足が止まります。このジャンルのベースは歩く役です。大きくするより、音を短く切って前へ進ませてください。
ベースはウォーキングの形で8小節を作り、次のコードへ向かって歩かせます。同じ音を伸ばし続けると、跳ねているのに前へ進まない伴奏になります。
書き出したら、キックを消して聞いてみてください。残った音だけで前へ進む感じがあれば成功です。キックが無いと止まるなら、跳ねが足りていません。
コードの組み方
難しいコードより、メロディが乗る場所を作ります。
コードは、スウィング時代の I-VI-II-V を土台にし、7thを基本の色にする。コード進行は知識を見せる場所ではなく、メロディと展開を支える場所です。
テンションコードや借用和音を使う場合も、名前を覚えることが目的ではありません。音の色が変わる場所を耳で確認し、必要な場所だけに置きます。
レッスンでは、理論を説明する前にコードの響きを鳴らして、明るい、暗い、浮く、戻る、という体感を確認することがあります。進行を丸暗記するより、耳で違いを聞けるほうが制作に使いやすいからです。
8小節では、同じ進行を2回繰り返しても構いません。2回目だけ上物を変えたり、最後のコードを少し変えたりすると、曲が次へ進む感じを作れます。
メロディとフック
覚えやすい形を先に作り、細かい装飾は後から足します。
メロディは、クラリネットやトランペットの短いフレーズを繰り返す。長く吹かせない。ジャンルらしさを出そうとして音数を増やす前に、何度も出せる短い形を作ります。
サビや主題になる場所では、最初の1音が重要です。高い音にするのか、短い反復にするのか、長く伸ばすのかを決めると、伴奏の置き方も決まります。
メロディが弱い時は、音程を増やすよりリズムを見ます。同じ音でも、入る位置や伸ばす長さが変わるだけで、かなり印象が変わります。
歌ものの場合は、言葉が自然に入るかを必ず確認します。インストの場合も、リードが歌える形になっているかを口でなぞると判断しやすくなります。
音色の選び方
プリセット探しより、曲の役割で音を選びます。
音色は、古い質感のホーン、ブラシ、アップライトベース、4つ打ちキック、レコードノイズを出発点にします。見るのは音色の数ではなく、前に出る音、支える音、空間を作る音を分けることです。
プリセットを探し始めると、制作が止まりやすくなります。まず仮音色でコードとリズムを置き、曲の形が見えた後で差し替えます。
商業音楽の制作でも、最初から最終音色だけで進むとは限りません。仮のピアノ、仮のドラム、仮のベースで構成を見てから、必要な質感へ寄せていきます。
音色を変えたら、必ず音量も見直します。派手な音は大きく聞こえやすいため、良くなったのか大きくなっただけなのかを分けて判断します。
8小節の制作マップ
短い範囲で完成の入口を作り、次の展開へ渡します。
最初の8小節は、完成品ではなく制作の地図です。1小節目で土台を見せ、3小節目で少し変化し、7〜8小節目で次のセクションへ渡します。
A案として、1〜4小節は基本パターン、5〜8小節はドラムか上物を一つ増やします。B案として、1〜4小節は少なめ、5〜8小節でメロディを少し上げます。
この時点でミックスを作り込みすぎる必要はありません。音量バランスだけ整え、各パートの役割が聞こえるかを確認します。
制作で重視しているのは、頭の中のイメージを聞ける形に出すことです。8小節でよいので外に出すと、直す場所が具体的になります。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | 4つ打ちと跳ねた16分だけ。縦と横が両立しているかを確認する |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | ホーンの短いフレーズを入れる。4小節に1回、同じ形で |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | ドラムを抜いて生っぽくするブレイクを8小節。戻すときに全部戻す |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | イントロ16・アウトロ16を薄く。全体3〜4分 |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
9〜12小節目で2拍目と4拍目の裏にオープンハットが入り、13〜14小節目でキックが消えます。4つ打ちが戻ってきたときの跳ねが、最初より強く聞こえます。
条件:BPM 125/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
崩れやすい場所
ジャンルらしさを足すほど、曲の芯が消えることがあります。
このジャンルで崩れやすいのは、跳ねを強くしすぎるとキックの4つ打ちと喧嘩して、かえって足が止まることです。ジャンル名に寄せるほど、音色や装飾に意識が行き、曲の骨格が弱くなることがあります。
対策は、ドラム、ベース、コード、メロディを一度ミュートしながら聞くことです。どれか一つを消した時に曲が急に弱くなるなら、そのパートが支えすぎています。
また、同じ場所を長時間触り続けると、判断が鈍ります。15分ごとに書き出して聞き、次に直す一点だけを決めると、作業が散らかりにくくなります。
生徒の制作でも、うまくいかない原因はセンスより工程の混線であることが多いです。いま直しているのがリズムなのか、音色なのか、構成なのかを分けるだけで進みます。
ミックス前の確認
音圧を上げる前に、役割が聞こえるかを確認します。
ミックスでは、最初から音圧を狙いません。まず音量、左右、低域のぶつかり、主役の聞こえ方を見ます。
4つ打ちのキックを消しても、残りの音だけで前へ進む感じがあるか。この確認が終わる前にEQやコンプレッサーを深く触ると、原因が見えにくくなります。
EQはソロで決めきらず、全体再生中に動かします。特に中域はメロディ、コード、ギター、シンセが奪い合いやすいため、単体で良い音より全体で必要な音を優先します。
最後に、同じ音量で変更前と変更後を書き出して聞きます。大きい音は良く聞こえるため、音量差をそろえないと判断を間違えます。
完成へ進める基準
完璧さではなく、次の工程へ渡せるかで判断します。
8小節ができたら、完成度ではなく次へ渡せる状態かを見ます。ドラム、ベース、コード、メロディの役割が聞こえ、次のセクションへ進む理由があれば十分です。
次は16小節、32小節、ワンコーラスへ広げます。広げる時は新しい音を増やすだけでなく、音を抜く場所も作ります。抜く場所があるから、サビやクライマックスが強く聞こえます。
制作ログには、今日のテンポ、使ったコード、残した音色、次に直す一点を書きます。長い反省より、再開できるメモのほうが役に立ちます。
検索に戻る場合も、ジャンル名だけではなく、キック、ベース、コード、メロディ、ミックスのどこで止まったのかを言葉にします。検索語が具体的になるほど、次に読む記事も選びやすくなります。
エレクトロスウィングの制作レシピ表
表は丸暗記ではなく、8小節を作る時の確認順として使います。
| 項目 | 最初に置くもの | 注意点 |
|---|---|---|
| BPM | 110〜130 BPM。踊れる速さに寄せるなら125前後から | 数字は固定ではなく、体感と音数で調整する |
| ドラム | キックは4つ打ちで固定。跳ねはハイハットとシェイカーで作る。スネアは2拍目と4拍目 | フィルより骨格を先に置く |
| ベース | ウォーキングベースの動きをシンセベースで。ルートを鳴らし続けず、次のコードへ歩かせる | 低音は長さと場所を決める |
| コード | スウィング時代の I-VI-II-V を土台にし、7thを基本の色にする | 難しさよりメロディの居場所を優先する |
| メロディ | クラリネットやトランペットの短いフレーズを繰り返す。長く吹かせない | 短いフックを作って反復できる形にする |
| 音色 | 古い質感のホーン、ブラシ、アップライトベース、4つ打ちキック、レコードノイズ | 前に出る音、支える音、空間の音を分ける |
古い録音を使う前に
曲の権利が切れていても、録音の権利は別に残ります。
このジャンルでいちばん誤解が多いところです。1920〜30年代の曲を下敷きにするので、「もう著作権は切れているから自由に使える」と考えてしまう。ところが、切れているのは曲そのものの権利であって、その曲を演奏して録音したものには別の権利が残っています。復刻された盤も、動画サイトに上がっている音も、扱いは同じです。
では何ができるかというと、曲を借りて演奏は自分でやることです。楽曲としての権利が切れている曲なら、メロディや進行を下敷きにして、音は自分で置き直せます。管楽器の音源を並べ、リズムを跳ねさせ、上から4つ打ちを重ねる。このジャンルの気持ちよさは古い録音のノイズではなく、跳ねと4つ打ちのぶつかり方から出ています。
古い時代の質感が欲しいだけなら、フィルターで帯域を狭め、軽く歪ませ、針音を足せば近づきます。この加工は自分の音源に対して自由にかけられます。
なお、その曲の権利が本当に切れているかどうかは、作曲者や国によって変わります。配信やCDにする段階では、必ず権利元か詳しい人に確認してください。ここは目安を書いた場所であって、確認の代わりにはなりません。
| 素材の出どころ | 公開できるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 自分で演奏・打ち込みし直す | 問題なく公開できる | 曲を借りて音は自分で置く |
| 購入したブラス・ドラム素材 | 曲に混ぜての発表は原則できる | 素材のままの再配布は不可 |
| フリー配布の針音・ノイズ | 利用条件しだい | 質感は加工でかなり作れる |
| 当時の録音・その復刻音源 | 許諾なしでは公開できない | 曲が古くても録音の権利は別 |
ここに書いたのは制作の現場で使っている目安で、法律の判断ではありません。 配信やCD、ビートの販売などお金や公開が絡む段階では、権利元か詳しい人に確認してください。
よくある疑問
初心者はどこから作ればいいですか
音色探しではなく、BPM、ドラム、ベース、コード、メロディの順で8小節だけ作るのがおすすめです。
ジャンルらしさは何で決まりますか
BPMだけでは決まりません。ドラムの置き方、ベースの長さ、コードの色、メロディの音数、音色の役割が合わさって決まります。
ミックスはいつ始めますか
8小節の骨格が聞こえてから始めます。最初は音量と低域の整理だけで十分です。
記事通りに作れば同じジャンルになりますか
記事の数値は固定値ではなく出発点です。作りたい曲の速度、歌、音色に合わせて調整してください。
次に進む記事
ジャンルの方向が見えたら、止まっている工程に近い記事へ進みます。
記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。