ポストロックの作り方|静かな場所と爆発をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ポストロックを作りたいが、最初から音を足してしまい盛り上がる場所が作れない人へ向けて、ジャンル名の説明ではなく、DAW上で8小節を組む順番に落とします。BPM、ドラム、ベース、コード、メロディ、音色を分けて、書き出して聞ける状態まで進めます。
読み終わったら、まず音を出す、再生する、保存する、短く書き出す、次に確認する一点を決めるところまで進めます。完成度を採点する前に、同じ手順をもう一度再現できるかを見ます。制作中に迷ったら、画面の中で悩み続けず、8小節を書き出して普通の再生環境で聞きます。
制作の軸
ポストロックは、音色探しより先に8小節の役割を決めます。
- BPMと体感を分けて決める
- キック、ベース、コード、メロディの順に置く
- ジャンルらしい装飾は骨格の後に足す
- 同じ音量で書き出して判断する
この記事が扱う範囲
- 扱うもの
- 静かな場所と開ける場所の作り分け。打ち込みでのポストロック
- 扱わないもの
- ギターの実演奏・機材レビュー・エフェクターの機種選び
- 所要時間の目安
- 静と爆発の2場面ができるまで約45分
- まず鳴らす1音
- キック2発と4分のハイハットだけ。物足りないくらいで正解
DAWはCubaseを想定していますが、手順はどのDAWでも同じです。 記事内のMIDIとデモ音源も、DAWを問わず使えます。
今日やること
8小節だけ作り、保存して、書き出して、次に直す一点を決めます。
- 仮音色でドラム、ベース、コード、メロディを置く
- 4小節目と8小節目に小さな変化を入れる
- 変更前と変更後を別名保存する
- スマホや小さい音量で再生して、次の修正点を一つだけ書く
最初に決めること
ジャンル名ではなく、曲の速度、主役、8小節の到達点を先に決めます。
ポストロックの作り方で最初に見るのは、音色の名前ではありません。ポストロックを作りたいが、最初から音を足してしまい盛り上がる場所が作れない人にとって必要なのは、今日のDAW画面で何を置けば前に進むかです。
テンポは、曲中で変わる前提。静かな場所は80〜100、開ける場所は130前後。この範囲は絶対値ではなく、最初に手を動かすための目安です。曲の狙い、歌の言葉数、ドラムの細かさによって、同じジャンルでもかなり変わります。
最初の8小節では、完成形を狙いすぎません。ドラム、ベース、コード、メロディの4段だけを置き、曲の方向が聞こえるかを確認します。音色探しはその後で十分です。
作曲や編曲の現場でも、すべての音を一度に正解へ持っていくわけではありません。まず骨格を外に出し、聞き返しながら必要な音だけを残します。
BPMと体感を分ける
数値を決めたら、速さの印象がどこから出ているかを分けます。
曲中で変わる前提。静かな場所は80〜100、開ける場所は130前後。ただし、BPMの数字だけでジャンルらしさは決まりません。速く聞こえる理由は、ドラムの刻み、ベースの長さ、メロディの音数、コードの切り替わり方に分かれます。
BPMは曲中で変わって構いません。ポストロックの起伏は速さではなく、音数の差で作ります。同じテンポのまま、打点を12から48へ増やすだけで景色が変わります。
テンポを変える前に、前半をどこまで薄くできるか試してください。薄くするほど後半が効きます。テンポで盛り上げようとすると、たいてい後半で行き場が無くなります。
ギターのエフェクトを選ぶ前に、静かな場所の音数を決めてください。ディレイをどれだけ重ねても、最初から音数が多ければ開ける場所が残りません。
ドラムの骨格
派手なフィルより、キックとスネアの位置を先に固定します。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したドラムです。市販の音源や実際の楽曲の音ではありません。パターンの違いだけを聞いてください。
ポストロックは、盛り上がりを音の増やし方で作ります。 BPM100で、同じ曲の「静かな場所」と「開ける場所」を並べました。打点の数は12打と48打(4倍)です。
物足りないくらいで正解です。ここを薄くできるかどうかで、後半の効きが決まります。
同じテンポなのに、景色が変わります。音を大きくしたのではなく、数を増やしただけです。
条件:BPM 100/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
よくある失敗は、最初から②で作り始めることです。 そうすると開ける場所が残りません。①をどれだけ我慢できるかがこのジャンルの勝負どころです。
ドラムは、前半は最小限に抑え、開ける場所でシンバルとタムを一気に増やす。最初の段階では、細かいフィルや装飾よりも、どこで体が前に進むかを決めます。
ノリよりも、音量と密度の変化で聞かせる。このグルーヴの方向を決めずにハットやパーカッションを増やすと、音は多いのに曲が進まない状態になります。
8小節なら、1〜4小節はキックとハイハットだけ、5〜8小節でギターを1本だけ足します。まだ歪ませません。歪みは最後に取っておく道具です。
静かな場所ほど、ベロシティを揃えないでください。音数が少ないぶん、1打ずつの強さの違いがそのまま聞こえます。均一だと、静かではなく無機質になります。
ベースの置き方
低音は大きさではなく、長さと場所で整理します。
ベースは、同じ音を長く伸ばす。ギターが動くぶん、土台は動かさない。低音は曲の重さを作りますが、長く鳴らしすぎるとキックやコードの低域を隠します。
ベースを大きくすると、開けた場所で伸びしろが無くなります。前半は物足りないくらいで置いてください。後半で上げるためのぶんを、先に使わないことです。
ベースは同じ音を長く伸ばして8小節を作ります。ギターが動くぶん、土台は動かしません。両方が動くと、どちらも聞こえなくなります。
書き出したら、前半だけを聞いてください。物足りないと感じるなら正解です。前半だけで満足できてしまうなら、後半の爆発が効きません。
コードの組み方
難しいコードより、メロディが乗る場所を作ります。
コードは、4小節の繰り返しを土台にし、転調ではなく積み上げで変化を出す。コード進行は知識を見せる場所ではなく、メロディと展開を支える場所です。
テンションコードや借用和音を使う場合も、名前を覚えることが目的ではありません。音の色が変わる場所を耳で確認し、必要な場所だけに置きます。
レッスンでは、理論を説明する前にコードの響きを鳴らして、明るい、暗い、浮く、戻る、という体感を確認することがあります。進行を丸暗記するより、耳で違いを聞けるほうが制作に使いやすいからです。
8小節では、同じ進行を2回繰り返しても構いません。2回目だけ上物を変えたり、最後のコードを少し変えたりすると、曲が次へ進む感じを作れます。
メロディとフック
覚えやすい形を先に作り、細かい装飾は後から足します。
メロディは、歌が無い前提。ギターのフレーズを主役に置く。ジャンルらしさを出そうとして音数を増やす前に、何度も出せる短い形を作ります。
サビや主題になる場所では、最初の1音が重要です。高い音にするのか、短い反復にするのか、長く伸ばすのかを決めると、伴奏の置き方も決まります。
メロディが弱い時は、音程を増やすよりリズムを見ます。同じ音でも、入る位置や伸ばす長さが変わるだけで、かなり印象が変わります。
歌ものの場合は、言葉が自然に入るかを必ず確認します。インストの場合も、リードが歌える形になっているかを口でなぞると判断しやすくなります。
音色の選び方
プリセット探しより、曲の役割で音を選びます。
音色は、ディレイの効いたギター、トレモロ、クリーンとファズの2本、タムを出発点にします。見るのは音色の数ではなく、前に出る音、支える音、空間を作る音を分けることです。
プリセットを探し始めると、制作が止まりやすくなります。まず仮音色でコードとリズムを置き、曲の形が見えた後で差し替えます。
商業音楽の制作でも、最初から最終音色だけで進むとは限りません。仮のピアノ、仮のドラム、仮のベースで構成を見てから、必要な質感へ寄せていきます。
音色を変えたら、必ず音量も見直します。派手な音は大きく聞こえやすいため、良くなったのか大きくなっただけなのかを分けて判断します。
8小節の制作マップ
短い範囲で完成の入口を作り、次の展開へ渡します。
最初の8小節は、完成品ではなく制作の地図です。1小節目で土台を見せ、3小節目で少し変化し、7〜8小節目で次のセクションへ渡します。
A案として、1〜4小節は基本パターン、5〜8小節はドラムか上物を一つ増やします。B案として、1〜4小節は少なめ、5〜8小節でメロディを少し上げます。
この時点でミックスを作り込みすぎる必要はありません。音量バランスだけ整え、各パートの役割が聞こえるかを確認します。
制作で重視しているのは、頭の中のイメージを聞ける形に出すことです。8小節でよいので外に出すと、直す場所が具体的になります。
| 段階 | 長さ | やること | このジャンルでの具体 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 8小節 | 骨格だけを置く | キック2発と4分のハイハットだけ。物足りないくらいで正解 |
| 2周目 | 16小節 | 抜き差しで変化を作る | ギターを1本足す。まだ歪ませない |
| 展開 | 32小節 | 場面を足す | 開ける場所へ。16小節かけて音数を増やし、32小節目で最大にする |
| フル尺 | 64小節〜 | 曲として通す | 静→中→爆発→余韻。5〜8分。余韻を削らないこと |
長さや小節数はあくまで目安です。大事なのは順番で、 8小節が気持ちよく回らないうちに長さを足さないこと。 伸ばしてから直すより、8小節に戻って直すほうが早く終わります。
上の表の2周目のやり方(抜き差しで変化を作る)を音にしました。 2本とも16小節・同じ音量で、前半8小節は1音も違いません。 変えたのは9小節目から先だけです。
8小節を過ぎたあたりから、耳が先を予測してしまいます。手は動いているのに曲が進んでいない状態です。
このジャンルだけ逆で、抜くのではなく開けています。9小節目からスネアと16分が入り、13〜14小節目でオープンハットが重なって、15小節目で静かに戻ります。
条件:BPM 100/16小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。2本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
崩れやすい場所
ジャンルらしさを足すほど、曲の芯が消えることがあります。
このジャンルで崩れやすいのは、最初から音数を多くすると、あとで開ける場所が残らないことです。ジャンル名に寄せるほど、音色や装飾に意識が行き、曲の骨格が弱くなることがあります。
対策は、ドラム、ベース、コード、メロディを一度ミュートしながら聞くことです。どれか一つを消した時に曲が急に弱くなるなら、そのパートが支えすぎています。
また、同じ場所を長時間触り続けると、判断が鈍ります。15分ごとに書き出して聞き、次に直す一点だけを決めると、作業が散らかりにくくなります。
生徒の制作でも、うまくいかない原因はセンスより工程の混線であることが多いです。いま直しているのがリズムなのか、音色なのか、構成なのかを分けるだけで進みます。
ミックス前の確認
音圧を上げる前に、役割が聞こえるかを確認します。
ミックスでは、最初から音圧を狙いません。まず音量、左右、低域のぶつかり、主役の聞こえ方を見ます。
前半をどれだけ薄くできているか。薄いほど後半が効く。この確認が終わる前にEQやコンプレッサーを深く触ると、原因が見えにくくなります。
EQはソロで決めきらず、全体再生中に動かします。特に中域はメロディ、コード、ギター、シンセが奪い合いやすいため、単体で良い音より全体で必要な音を優先します。
最後に、同じ音量で変更前と変更後を書き出して聞きます。大きい音は良く聞こえるため、音量差をそろえないと判断を間違えます。
完成へ進める基準
完璧さではなく、次の工程へ渡せるかで判断します。
8小節ができたら、完成度ではなく次へ渡せる状態かを見ます。ドラム、ベース、コード、メロディの役割が聞こえ、次のセクションへ進む理由があれば十分です。
次は16小節、32小節、ワンコーラスへ広げます。広げる時は新しい音を増やすだけでなく、音を抜く場所も作ります。抜く場所があるから、サビやクライマックスが強く聞こえます。
制作ログには、今日のテンポ、使ったコード、残した音色、次に直す一点を書きます。長い反省より、再開できるメモのほうが役に立ちます。
検索に戻る場合も、ジャンル名だけではなく、キック、ベース、コード、メロディ、ミックスのどこで止まったのかを言葉にします。検索語が具体的になるほど、次に読む記事も選びやすくなります。
ポストロックの制作レシピ表
表は丸暗記ではなく、8小節を作る時の確認順として使います。
| 項目 | 最初に置くもの | 注意点 |
|---|---|---|
| BPM | 曲中で変わる前提。静かな場所は80〜100、開ける場所は130前後 | 数字は固定ではなく、体感と音数で調整する |
| ドラム | 前半は最小限に抑え、開ける場所でシンバルとタムを一気に増やす | フィルより骨格を先に置く |
| ベース | 同じ音を長く伸ばす。ギターが動くぶん、土台は動かさない | 低音は長さと場所を決める |
| コード | 4小節の繰り返しを土台にし、転調ではなく積み上げで変化を出す | 難しさよりメロディの居場所を優先する |
| メロディ | 歌が無い前提。ギターのフレーズを主役に置く | 短いフックを作って反復できる形にする |
| 音色 | ディレイの効いたギター、トレモロ、クリーンとファズの2本、タム | 前に出る音、支える音、空間の音を分ける |
よくある疑問
初心者はどこから作ればいいですか
音色探しではなく、BPM、ドラム、ベース、コード、メロディの順で8小節だけ作るのがおすすめです。
ジャンルらしさは何で決まりますか
BPMだけでは決まりません。ドラムの置き方、ベースの長さ、コードの色、メロディの音数、音色の役割が合わさって決まります。
ミックスはいつ始めますか
8小節の骨格が聞こえてから始めます。最初は音量と低域の整理だけで十分です。
記事通りに作れば同じジャンルになりますか
記事の数値は固定値ではなく出発点です。作りたい曲の速度、歌、音色に合わせて調整してください。
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記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。