ドリームポップの作り方|浮かぶギターと歌をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ドリームポップは、歪みで押すのではなく、揺れと残響で霧を作る音楽です。
ギターは重なりますが、壁にはなりません。輪郭がぼやけたまま、和音の色だけが残ります。
そして歌は、その霧の中に半分埋まっています。埋まっていても消えていない。ここが守れているかどうかで、ジャンルが決まります。
BPMを決め、ギターを左右に分け、コードを長く伸ばし、リバーブを送る相手を選ぶ。8小節までの手順を順番に説明します。
先に見ること
先に決めるのは、リバーブの深さではなく、歌が通る隙間の広さです。
- BPMは80〜110が目安。まず95で
- ギターは左右に2本。コピーせず2回入れる
- コードは4小節に1つ。急いで動かさない
- リバーブはキックとベースに送らない
シューゲイザーとの違い
歪みの壁か、コーラスの霧か。歌の扱いが分かれ目です。
どちらもギターが何本も重なり、輪郭がぼやけている音楽です。並べて聞くと近く感じます。それでも作り方はかなり違います。
シューゲイザーは歪みで壁を作ります。ギターを潰し、音圧で塗りつぶし、歌はその壁の後ろへ引っ込みます。歌詞が聞こえないのは狙いどおりです。
ドリームポップの霧は、コーラスとリバーブで作ります。コーラスは、同じ音をわずかにずらして重ね、揺らす装置です。歪みは軽く、和音の形が残る程度に留めます。
歌は埋もれますが、消えません。霧の濃さは、歌の輪郭が半分残るところで止めます。言葉が全部聞き取れると乾いて聞こえ、全部消えると別のジャンルになります。
重ねる本数も違います。壁を作るなら同じフレーズを何本も積みますが、霧なら左右に2本で足ります。厚みは本数ではなく、揺れの量で作ります。
壁の側の作り方が知りたい場合はシューゲイザーの作り方を見てください。歪みの積み方が逆向きに書いてあります。
BPMの目安
歩く速さ。走らせるとコーラスの揺れが追いつきません。
80〜110あたりが目安です。まず95に設定してください。
歩く速さから少し遅い程度の範囲です。速くすると、コーラスの揺れとリバーブの尻尾が次の音に追いつかれ、霧が晴れて普通のバンドの音に戻ります。
遅いほうへ振る時は、ドラムの刻みを8分のままにしてください。テンポを下げたぶんを16分で埋めると、隙間が音でふさがって同じことになります。
速さを決める基準は歌です。歌詞を普通に読む速さで言葉が乗るかを確かめます。詰まるなら下げ、間延びするなら上げます。テンポは歌に合わせ、印象は霧の濃さで作ります。
近いジャンルとの違い
似た音が多いので、歌とギターの扱いで見分けます。
| ジャンル | BPMの目安 | 見分けるところ |
|---|---|---|
| この記事(ドリームポップ) | 80〜110 | コーラスとリバーブで霧を作る。歌は半分埋まるが残る |
| シューゲイザー | 90〜140 | 歪みで壁を作る。歌は壁の後ろへ引っ込む |
| ポストロック | 70〜140 | 歌を置かない曲も多い。長い起伏で聞かせる |
| アンビエント | 速さを決めないことも多い | ドラムと拍を置かない。和音の持続だけで作る |
| シティポップ | 90〜115 | 速さは近いが輪郭をはっきり出す。コードが細かく動く |
数字の範囲は重なります。迷った時は歌の聞こえ方で判断してください。歌詞が半分だけ聞き取れる濃さに落ち着いていれば、この記事の側です。
ギターを左右に2回入れる
コピーして振るのではなく、別々に入れます。
この作業がこのジャンルで一番効きます。
1本のギターを録って(または打ち込んで)、それを複製して左右に振る方法があります。これはドリームポップには向きません。同じ波形が左右に並ぶので、真ん中で打ち消し合い、厚くしたはずが細くなります。
やることは単純です。同じコード進行を2回、別々に入れます。1本目を左へ、2本目を右へ。
2本の違いは3つで作ります。1つ、和音の積み方を変える。左は低いほうの3音、右は高いほうの3音。2つ、打点をそろえない。片方を数ミリ秒だけ後ろへ置く。3つ、強さを変える。片方を少し弱く入れる。
打ち込みの場合も同じです。1本目のMIDIをコピーしたら、音の高さと打点と強さを触って別のフレーズにしてください。コピーしたまま置くのは、複製して振るのと変わりません。
コーラスは2本それぞれに掛けます。掛かり方が少しずつ違うことで、左右の揺れがずれて、真ん中に霧が生まれます。1つのコーラスにまとめて通すと、左右が同じ形で揺れるので幅が出ません。
歪みは軽めです。和音を鳴らして、どの音が入っているか分かる程度で止めます。分からなくなったら壁の側へ入っています。
コードを4小節伸ばす
進行を動かすほど、霧は晴れます。
コードは4小節に1つです。4つのコードで16小節が埋まります。
長く伸ばすのは、残響を溜めるためです。コードが変わるたびに、前の和音の残響と今の和音がぶつかります。4小節あれば、前の残響が薄くなってから次へ移れます。
進行は複雑にしません。明るさがはっきり決まらない響きを混ぜると、伸ばしている間の色が変わって聞こえます。m7(マイナーセブンス)やadd9のように、3音に1音足した形が扱いやすいです。
長い4小節を退屈にしない方法が1つあります。判断メモに、同じメロディや音を繰り返しても下のコードが変わると聞こえ方が変わる、反復と変化を同時に作れるので耳に残るフックになりやすい、というものがあります。
これをそのまま使います。歌やギターの短いフレーズは変えずに置いたまま、4小節ごとにコードだけを変えます。同じ音が、明るい和音の上では届くように、暗い和音の上では沈むように聞こえます。フレーズを書き換える必要はありません。
ベースはコードのルートを伸ばすだけで足ります。動かすのは4小節に1回、和音が変わる場所だけです。
ドラムは強く打たない
拍を伝える最小限で足ります。
ドラムの役目は、盛り上げることではなく、拍がどこにあるかを伝えることです。
パターンは8分のままで構いません。キックは1拍目と3拍目、スネアは2拍目と4拍目、ハイハットは8分。ここまでは普通です。
違うのは強さです。ベロシティ、つまり強弱の数値を、いつも使っている値より全体的に下げます。スネアを強く叩くと、そこだけ霧の上に飛び出して、バンドの録音のように聞こえます。
音色も軽いほうを選びます。スネアは太く鳴るものより、乾いて短いもの。シンバルは1曲に数回。タムやフィルは、8小節の終わりに1回入れるかどうかです。
キックは短く切ります。伸びるキックは、この後のベースと重なって下を曇らせます。
ただし、強弱を全部同じにしないでください。8分のハイハットで、拍の上を少し強く、裏を弱くするだけで機械の刻みから離れます。下げるのは全体の音量で、揺れは残します。
低音にはリバーブをかけない
送る相手を選ぶと、霧と濁りが分かれます。
リバーブを深く掛けたのに、広くならずに曇っただけになることがあります。原因はたいてい送る相手です。
リバーブはセンドで1つ作ってください。センドとは、各トラックから同じ効果へ音を分けて送るしくみです。掛かり具合はトラックごとの送り量で決めます。
送るのはギター、パッド、歌です。キックとベースは送りません。低い音の残響は、次の音の立ち上がりを埋めて輪郭を奪います。霧ではなく濁りになります。
どうしても低音にも空間が欲しい時は、リバーブの返りにハイパスフィルターを掛けて、低い成分だけ残響から削ります。送るか送らないかで悩む前に、こちらで足ります。
確認の手順は1つです。ベースとキックだけを鳴らして、輪郭がはっきりしているかを聞きます。ぼやけているなら、どこかから低音が残響へ流れています。深さの決め方そのものはリバーブが多すぎる時の直し方にもまとめています。
ディレイも同じ考え方です。ギターと歌に薄く、低音には掛けません。
歌は埋もれても消さない
フェーダーを先に決めて、後から霧を足します。
このジャンルの歌は前に出ていません。それでも消えていません。両方を満たせるかどうかは、作業の順番で決まります。
判断メモに、歌ものではドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作る、コードやパッドを気持ちよく上げすぎると主役が奥に下がりやすい、というものがあります。ここが出発点です。
手順はこうです。1つ、ギターとパッドを一度下げ、ドラムと歌だけで音量を決める。2つ、ギターとパッドを戻す。この時に歌の音量は触りません。3つ、歌にリバーブをセンドで足す。
深さの目安は、歌詞の半分が聞き取れる状態です。全部聞き取れるなら浅く、何も分からないなら深すぎます。
歌を目立たせたくなった時に音量を上げると、霧から飛び出します。代わりに、同じ歌をもう1回録って左右へ薄く広げてください。真ん中の音量は変わらないのに、輪郭だけがはっきりします。
それでも埋もれる時は、上げる前にギターの中域を少し削ります。歌と同じ高さで一番ぶつかっているのは、たいていギターです。
最初の8小節の手順
歌の居場所を先に、霧を後に。順番に意味があります。
| 順番 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | BPMを設定 | まず95。歌詞が乗る速さで決める |
| 2 | コードを4小節1つで置く | 4つで16小節。3音に1音足した形で |
| 3 | ベースをルートで伸ばす | 動かすのは和音が変わる場所だけ |
| 4 | ドラムを弱く置く | 8分のまま、ベロシティを下げて |
| 5 | ドラムと歌で音量を決める | ギターとパッドは一度下げる |
| 6 | ギターを左へ1本 | 低いほうの3音で |
| 7 | ギターを右へ1本 | 高いほうの3音で。コピーしない |
| 8 | コーラスを2本に別々に | 掛かり方をそろえない |
| 9 | リバーブを送る | ギター、パッド、歌だけ |
| 10 | 8小節で書き出す | 歌詞が半分聞こえるかで判定 |
5番を後ろに回さないでください。ギターとパッドを鳴らしたまま歌の音量を決めると、霧に負けないところまで上げてしまいます。そこからリバーブを足すと、歌だけが前で鳴っている曲になります。
書き出して確かめる
小さい音量で、歌が残っているかを見ます。
8小節を書き出して、小さい音量で聞きます。見るのは3つです。
1つ目、歌が残っているか。音量を下げると、最初に消えるのは霧の中の歌です。消えるなら、ギターの中域を削ります。
2つ目、下がはっきりしているか。キックとベースの輪郭が曇っているなら、リバーブの送りがどこかで低音を拾っています。
3つ目、左右に幅があるか。片方の耳をふさいで聞き、両側でギターの中身が違っていれば、2本が別々に入っています。同じに聞こえるなら、コピーしたままです。
今日やることは1つに絞ります。同じコード進行のギターを、左と右に2回入れる。コーラスもリバーブも、まだ掛けなくて構いません。コピーではない2本が並んだ時点で、このジャンルの霧の土台はできています。曲として仕上げる残りの流れは、制作工程マップで確認してください。
よくある疑問
シューゲイザーとの違いは何ですか
霧の作り方と歌の扱いです。シューゲイザーは歪みで壁を作り、歌は壁の後ろへ引っ込みます。ドリームポップはコーラスとリバーブで霧を作り、歌は半分埋まっても輪郭が残ります。歪みは和音の形が分かる程度に留めます。
BPMはいくつにすればいいですか
80〜110が目安で、まず95です。速くするとコーラスの揺れとリバーブの尻尾が次の音に追いつかれ、霧が晴れます。決める基準は歌で、歌詞が普通に読める速さで乗るかを見ます。
ギターは何本重ねればいいですか
左右に2本で足ります。大事なのは本数ではなく、1本をコピーして左右に振らないことです。和音の積み方、打点、強さを変えて2回入れると、真ん中に幅が出ます。
リバーブはどこまで深くしていいですか
歌詞の半分が聞き取れるところまでです。掛ける前にドラムと歌だけで音量を決め、後から送ります。キックとベースには送りません。
音が全体にぼやけて曇ってしまいます
低音が残響へ流れています。リバーブはセンドで1つにまとめ、送るのはギター、パッド、歌だけにしてください。返りにハイパスフィルターを掛けて低い成分を削る方法もあります。
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記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
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