チップチューンの作り方|矩形波と三角波で8bit風の曲をDTMで組む手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。担当作品と外部での確認先
チップチューンとは、1980年代の家庭用ゲーム機のように、少ない音色と少ない同時発音数で作る音楽です。
矩形波(四角い波形で、硬く明るい音)のメロディ、三角波(丸くこもった音)のベース、ノイズ(ザーという砂のような音)のドラム。使える音はほぼこれだけです。
音が少ないぶん、どの音をどこに置き、どう動かすかが、そのまま曲の出来になります。
BPMを決め、音色を4つに絞り、アルペジオでコードを代用し、表情を付けて8小節にする。手順を順番に説明します。
先に見ること
先に決めるのは、音色の種類ではなく、4つの音にそれぞれ何を担当させるかです。
- BPMは140〜180が目安。まず150で
- 矩形波2つ、三角波1つ、ノイズ1つ。同時に鳴らすのはこの4つまで
- コードは同時に鳴らさず、高速アルペジオで代用する
- 表情はビブラートとデューティ比の切り替えで付ける
チップチューンとは何か
音を減らした結果ではなく、減った音で組む方法そのものがジャンルです。
チップチューンとは、ゲーム機や古いパソコンの音源チップが出す音で作る音楽のことです。8bit風、ピコピコ音と呼ばれる音は、ここから来ています。
1980年代の家庭用ゲーム機の音源は、同時に鳴らせる音の数がとても少なく、矩形波2系統、三角波1系統、ノイズ1系統といった構成が代表的でした。ピアノのように和音を鳴らすことも、楽器を何本も重ねることもできません。
当時の作り手は、この制限の中で曲を聞かせる方法を編み出しました。コードは同時に鳴らせないので、音を高速で切り替えて和音に聞かせる。ベースは三角波で丸く、ドラムはノイズで、メロディは矩形波で歌わせる。この工夫の集まりがチップチューンの型です。
いまのDAWには制限がありません。だから、制限を自分で決めるところから始まります。音源チップを再現する道具が無くても、矩形波と三角波とノイズが出るシンセがあれば、置き方と動かし方で8bit風に聞こえます。
ゲームの場面に合わせて曲を作る話はゲーム音楽の始め方に、戦闘曲の高揚感は戦闘BGMの記事にあります。ここで扱うのは、その手前にある音の組み方です。
BPMの目安
速めが基本。音が少ないので、動きで埋めます。
140〜180あたりが目安です。まず150に設定してください。
音色が4つしかない曲は、ゆっくり鳴らすと隙間が目立ちます。速く回すと、矩形波の短い音が並んで隙間が詰まり、少ない音でも前へ進みます。180を超えると、高速アルペジオとメロディの細かい音が区別しにくくなります。120を下回ると、1音ずつの素っ気なさが前に出て、8bit風というより素朴なシンセの曲になります。
決める基準はメロディの16分音符です。矩形波で16分を4つ並べた時、1音ずつ聞き分けられる速さに合わせます。団子になるなら下げ、間延びするなら上げます。
テンポを変えるのは、4つの音の担当が決まってからにしてください。先に速さを探すと、速さで隙間を埋めようとして、音の担当が曖昧になります。
近いジャンルとの違い
同じシンセの曲でも、音の数と音色の作り方で分かれます。
| ジャンル | BPMの目安 | 見分けるところ |
|---|---|---|
| この記事(チップチューン) | 140〜180 | 矩形波・三角波・ノイズの4音だけ。コードは高速アルペジオ |
| ゲーム戦闘BGM | 160(記事の例) | ループの継ぎ目と高揚感が主役。音色は自由 |
| ボカロ風ハイテンポ曲 | 160〜190 | 歌が主役。音を重ねて厚くする |
| エレクトロポップ | 100〜128 | 太いシンセと歌メロ。和音をそのまま鳴らす |
| シンセウェーブ | 80〜115 | 80年代の厚いシンセ。遅く、残響が深い |
| ゲーム音楽の始め方 | — | 場面に合わせて作る考え方。音色の制限は無い |
速さの範囲は重なります。迷った時は音の数で判断してください。和音を同時に鳴らし、音を重ねて厚くしているなら隣のジャンル、4音に絞って動きで聞かせているならこの記事の側です。
音色を4つに絞る
矩形波2つ、三角波1つ、ノイズ1つ。担当を先に決めます。
DAWでトラックを4つ作ります。矩形波のシンセを2つ、三角波のシンセを1つ、ノイズのシンセを1つです。それぞれ単音でしか鳴らさない設定にします。
担当は次のとおりです。矩形波1はメロディ。矩形波2は対旋律(メロディに寄り添う第2のメロディ)か、コードを代用するアルペジオ。三角波はベース。ノイズはドラムです。
| トラック | 波形 | 担当 |
|---|---|---|
| 1 | 矩形波 | メロディ |
| 2 | 矩形波 | 対旋律かアルペジオ |
| 3 | 三角波 | ベース(とキック) |
| 4 | ノイズ | ハイハットとスネア |
4つの音は、同じ瞬間に1音ずつしか鳴らせません。矩形波1で和音を押さえない、矩形波2でメロディと同時に別の音を2つ重ねない。この縛りを守ると、何も足していないのに8bit風に聞こえ始めます。
縛りの効果は、4音すべてに役割があるところに出ます。音が少ないので、1つでも休むと空白がはっきり聞こえます。逆に言えば、1つの音が動くだけで曲が変わります。この性質を、以降の節で順に使います。
音を重ねたくなった時は、別のトラックを足すのではなく、矩形波2の担当を切り替えます。前半はアルペジオ、サビで対旋律に戻る。4つで足りないと感じる場面の多くは、担当の切り替えで解決します。
矩形波と三角波をDAWで作る
多くのDAWに付属するシンセには、オシレーター(音の元になる波形を出す部分)に矩形波と三角波とノイズがあります。Cubaseでも、付属のシンセで波形を選ぶだけで出せます。ソフトシンセの基本的な見方はソフトシンセとはにまとめています。
設定で外すものが4つあります。フィルターは全開にして掛けない。ユニゾン(同じ音を複数重ねて太くする機能)は切る。リバーブやディレイなどの空間系は、付属のものも切る。ベロシティで音量が変わる設定は切り、音量は一定にする。足すのではなく、付属シンセの機能を切っていくと8bit風に近づきます。
矩形波のシンセでは、パルス幅(Pulse Width)という名前のつまみがデューティ比です。50%・25%・12.5%あたりに固定して使います。連続で動かすとアナログシンセ風になるので、8bit風を狙うなら段階的に切り替えます。
ノイズは、シンセのオシレーターにNoiseがあればそれを使います。無ければ、矩形波をとても低い音にして減衰を極端に短くしても、それらしい打点になります。
自分で打ち込んだ音は、どこで公開しても権利の問題は起きません。ただし、実在するゲームのメロディをそのまま打ち込んで公開すると、作曲者の権利に関わります。音色の作り方を真似るのは自由、曲を真似るのは別の話です。ここに書いたのは制作の現場での目安で、法律の判断ではありません。配信や販売が絡む段階では権利元か詳しい人に確認してください。
コードは高速アルペジオで代用する
同時に鳴らせないなら、順番に鳴らして和音に聞かせます。
アルペジオとは、和音の音を同時ではなく1音ずつ順に鳴らすことです。チップチューンでは、これをとても速く回して、和音が鳴っているように聞かせます。
矩形波2で試してください。1小節を16分音符で16マスに分け、1マスをさらに2つに割った32分音符で、Am(ラ・ド・ミ)の3音を順に回し続けます。ラ、ド、ミ、ラ、ド、ミ。1小節で32個の音が並びます。
速く回すほど、1つの和音として聞こえます。16分まで遅くすると、和音ではなく分散和音(伴奏の動き)として聞こえ、メロディと張り合い始めます。コードとして聞かせたいなら32分より速く、伴奏の動きとして聞かせたいなら16分。この違いを、自分で両方打ち込んで聞き比べてみてください。
進行は4小節で1まわりにします。Am、F、C、Gを1小節ずつ。小節が変わる時に3音をそのまま次の和音に置き換えます。音域は、メロディより下、ベースより上に収めます。メロディと同じ高さで回すと、メロディが埋もれます。
音量は、メロディより小さくします。高速アルペジオは音の数が多いので、同じ音量だとメロディより目立ちます。矩形波1と矩形波2を同時に鳴らし、メロディが前に出るところまで矩形波2を下げてください。
この速いアルペジオは、実機では、音源に音の高さを次々と書き換えることで鳴らしていました。DAWなら打ち込むだけです。アルペジエーター(自動でアルペジオを作る機能)が付いたシンセなら、速さを32分に設定すれば同じことができます。
ベースは三角波で丸く
倍音が少ないので、輪郭ではなく土台として置きます。
三角波は、倍音(音を明るく聞かせる上の成分)が少なく、丸くこもった音です。8bit風のベースは、この丸さをそのまま使います。歪ませたり、フィルターで輪郭を付けたりしません。
置き方は8分音符です。奇数のマス(1・3・5・7・9・11・13・15番)にコードのルートを置きます。1番と9番は低いラ、3番と11番は1オクターブ上のラ、というように、オクターブを交互に跳ねさせます。これだけで、三角波の素っ気なさが前へ進む動きに変わります。
ベースは短く切ります。1マスか2マスの長さで、次の音との間に隙間を残します。伸ばすと、丸い音が下にたまって、アルペジオとメロディの動きが聞こえにくくなります。
音の高さは低すぎないところに置きます。三角波は倍音が少ないので、低くしすぎると小さなスピーカーで聞こえなくなります。1オクターブ上げても低音として成り立つ高さを探してください。
三角波は1つしかありません。次の節でキックを三角波で作るなら、キックが鳴る瞬間だけベースを休ませます。この休みが、実機のチップチューンのベースによくある「キックの瞬間に抜ける」感じを作ります。
ドラムはノイズと短い三角波で作る
音色は1つ。長さと音量の差だけで3種類に聞かせます。
ノイズのトラックで、ハイハットとスネアを作ります。音色は同じノイズで、長さと音量だけを変えます。ハイハットは1マスより短く、小さく。スネアは2マスほどの長さで、大きく。これだけで別の楽器に聞こえます。
置き方は4つ打ちに近い骨格で足ります。ハイハットは奇数のマス全部(8分)。スネアは5番と13番。ノイズは1つしかないので、5番と13番ではハイハットを置かず、スネアだけを鳴らします。
キックは2通りあります。1つは、ノイズを低く短くしてキックの代わりにする方法。ノイズの高さを変えられるシンセなら、最も低い設定で1マスの半分くらいの長さにします。この場合もハイハットと同じ瞬間には鳴らせないので、1番と9番はキックだけです。
もう1つは、三角波で作る方法です。三角波を高い音から低い音へ一瞬で落とすと、丸いキックになります。ピッチエンベロープ(音の高さを時間で動かす設定)で、立ち上がりの高さをすぐに下げるだけです。この場合、1番と9番でベースを休ませます。
最初はノイズだけで組んでください。三角波のキックは、ベースを休ませる手間が増えます。ノイズの3種類で8小節が回ってから、キックを三角波に差し替えて、どちらが曲に合うか聞き比べてみてください。
| 楽器 | 音色 | 置く場所 | 長さ・音量 |
|---|---|---|---|
| ハイハット | ノイズ | 奇数のマス(5・13を除く) | 1マス未満・小さく |
| スネア | ノイズ | 5・13 | 2マス・大きく |
| キック | 低いノイズ、または三角波 | 1・9 | 半マス・大きく |
エンベロープとデューティ比で表情を付ける
音色を増やさずに歌わせる方法が3つあります。
矩形波のメロディは、そのまま打ち込むと平板です。ここで音色を足すのではなく、1つの矩形波の中で動かします。
1つ目はエンベロープ(音の立ち上がりと減衰の形)です。立ち上がりはゼロにして、減衰を短くすると、はじくような音になります。伸ばす音は減衰をゆっくりに、刻む音は短く。同じ矩形波でも、長い音と短い音で別の表情になります。
2つ目はデューティ比(矩形波の、波形が上にいる時間の割合)です。50%は太く中が空いたような音、25%は明るく鼻にかかった音、12.5%は細く硬い音になります。メロディは1つの値で固定せず、フレーズごとに切り替えます。Aメロは25%、サビは50%というように、歌手が声の出し方を変えるのと同じ使い方です。
3つ目はビブラート(音の高さの細かい揺れ)です。長く伸ばす音にだけ、少し遅れて揺れを始めます。鳴った瞬間から揺れると機械的に、少し遅れて揺れると歌っているように聞こえます。短い音には掛けません。
もう1つ、矩形波2が空いている場面で使える手があります。矩形波1のメロディを、矩形波2で1マス遅れ、小さい音量でもう一度鳴らします。これがチップチューンの疑似エコーで、残響を足さずに奥行きが出ます。アルペジオを休ませる小節で試してみてください。
強弱の付け方はベロシティの基本にもまとめています。ただし、実機の矩形波は音量の段階が粗いので、細かい強弱より、音の長さとデューティ比の切り替えのほうが8bit風に聞こえます。
8小節から16小節へ
足すのではなく、担当を入れ替えます。
4小節のコード進行にメロディを乗せ、2回くり返して8小節にします。この時点では、矩形波2はアルペジオのままで、何も足しません。4音だけで8小節が聞き続けられるなら、担当の配分は合格です。
16小節へ伸ばす時の変化は2つだけです。1つ、9小節目から矩形波2をアルペジオから対旋律に切り替える。メロディの3度下(ドに対してラ、のように2つ下の音)を同じリズムでなぞります。コードが消えるぶん、ベースのオクターブ跳ねがコードを支えます。
2つ、13小節目から16小節目まで、メロディのデューティ比を切り替える。25%で来ていたなら50%へ。音の数は1つも増えていないのに、場面が変わったように聞こえます。17小節目でアルペジオと元のデューティ比に戻すと、頭に戻った感じがはっきり出ます。
上に音を足したくなったら、ノイズのトラックを見直してください。ハイハットを16分にする、スネアの前に短いノイズを1つ足す。4音の枠の中で動かせる場所は、まだ残っています。
展開の考え方は8小節ループの次へ進む方法にもまとめています。音が多くなりすぎた時の戻し方はアレンジがごちゃごちゃする時の直し方を見てください。チップチューンは、最初から4音と決めることで、その問題を先に避けています。
最初の8小節の手順
担当、ベース、ドラム、アルペジオ、メロディ、表情の順です。
| 順番 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | BPMを設定 | まず150。担当が決まるまで触らない |
| 2 | トラックを4つ作る | 矩形波2・三角波1・ノイズ1。すべて単音 |
| 3 | コード進行を決める | Am・F・C・Gを1小節ずつ |
| 4 | 三角波でベースを置く | 奇数のマスにルート。オクターブを交互に。短く切る |
| 5 | ノイズでドラムを置く | ハイハットは奇数のマス、スネアは5・13、キックは1・9 |
| 6 | 矩形波2でアルペジオを回す | 32分で3音を順に。メロディより小さく |
| 7 | 矩形波1でメロディを置く | アルペジオより上の高さ。16分を混ぜる |
| 8 | デューティ比とビブラートを付ける | 伸ばす音にだけ、遅れて揺れる |
| 9 | 2回くり返して8小節に | まだ何も足さない |
| 10 | 8小節で書き出す | 小さい音量で4音が1つずつ聞き分けられるか |
7番を6番より先にやらないでください。アルペジオの前にメロディを置くと、メロディが和音の高さを占領して、アルペジオの置き場所が無くなります。土台から上へ、の順番です。
書き出して確かめる
小さい音量と、矩形波2だけ。見るのは3つです。
8小節を書き出して、小さい音量で聞きます。
1つ目、4音が1つずつ聞き分けられるか。メロディ、アルペジオ、ベース、ドラムのどれかが聞こえないなら、音域が重なっています。アルペジオはメロディより下、ベースより上に戻してください。
2つ目、矩形波2だけを鳴らして、コードが聞こえるか。Am、F、C、Gの変わり目が分からないなら、アルペジオが遅すぎるか、小節の頭で3音を置き換え忘れています。
3つ目、メロディが歌って聞こえるか。平板なら、伸ばす音にビブラートが掛かっていないか、デューティ比が全部同じです。
今日やることは1つに絞ります。矩形波2で、Amの3音を32分で1小節回す。メロディもベースもドラムも、まだ入れなくて構いません。この1小節が和音に聞こえた時点で、チップチューンの核はできています。曲として仕上げる残りの流れは、制作工程マップで確認してください。
よくある疑問
4つより多く音を使ってはいけませんか
縛りは自分で決めたものなので、増やしても構いません。ただし、増やすほど8bit風から離れます。5つ目を足す前に、矩形波2の担当を切り替えることで足りないかを試してください。足すなら、矩形波を1つだけ増やすのが、音の印象を崩しにくい順番です。
リバーブは掛けてもいいですか
実機の音には残響がありません。奥行きが欲しい時は、矩形波2で1マス遅れの小さいメロディを鳴らす疑似エコーで代用します。曲全体を現代風に仕上げる意図があるなら、ミックスの最後に薄く掛けるのは構いません。音色を作る段階では切っておきます。
実機の音源チップを再現する音源は必要ですか
無くても作れます。8bit風に聞こえるかどうかは、音色の精度より、4音の縛りとアルペジオの使い方で決まります。付属のシンセで組んだ8小節がそれらしく聞こえてから、音色の精度を上げる道具を探しても遅くありません。
ボカロ曲やゲームBGMにチップチューンの音を混ぜたいです
その場合は4音の縛りを外し、矩形波のメロディや高速アルペジオを、普通のアレンジの1パートとして使います。縛りを守った曲とは別物になりますが、矩形波の硬さと高速アルペジオは、厚いアレンジの中でもチップチューンの気配を出します。
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記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ
UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。